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とある公爵令嬢の独り言1
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わたくしはアングスティア。公爵家の出で、一ヶ月前に聖女となり教会に住まうことになった。
教会には、一人だけ平民がいる。
その平民の名は、ニカナ。『手から水を出すくらいの聖なる力がある』聖女らしい。
銀色の髪と青い瞳を持つ呑気そうな顔をしている女は、教会の庭の一角に自分の菜園を勝手に作っている。平民のやることは、本当によくわからない。
今日もニカナは庭の隅っこで、土いじりに励んでいるようだ。
「大神様、大神様。今日はなにを植えましょうかねぇ」
などという、独り言を言いながら。
誰にも相手をされないから妄想上の大神様と話をしているのでしょうけれど……正直とても不気味だ。
昔は大神様と話ができる聖女がいた、なんて文献も残ってはいるけれど。
奇跡の力を『使える』わたくしにだって、大神様の声は聞こえない。だからそれは、聖女の名声を高めるための嘘だと私は思っている。信仰を集めるためにはそういう逸話のようなものは大事だものね。
──あの女は、気が触れているのだろう。
教会は、神聖な場所だ。そんな場所に、あの不気味な平民が存在することを私は許せずにいた。
なので「わたくしがいるのだから、あれはもういらないでしょう」と、彼女を放逐することを司祭たちに提案したのだ。
「私もこの教会に、平民がいることはおかしいと思っていたのだ」
「聖女アングスティアがいるのだ。聖女ニカナはお役御免でいいだろう」
「聖女ニカナには品性が欠けている。やはり平民は教会に置くべきではないのだ」
「ちょろちょろと水を出すくらいに力しかないしな」
「いつも独り言ばかりで、不気味な女だ。教会にはふさわしくない」
そんな賛同意見がいくつも耳に届き、わたくしは満足感を覚えてながら頷いた。だけど……。
「しかし、あれは本物で……それを外に出してしまうのは」
司祭の一人から、ぽつりと零れたその言葉。それを聞いて、わたくしは目をつり上げた。
「わたくしがいるでしょう」
手を一振りすれば黒い雷が迸り、大理石の床を砕く。すると、司祭たちは大きくどよめいた。
「いや、その。そうだな。すまない」
『ニカナは本物だ』と発言した司祭は慌てながらわたくしから目を逸らし、なにやら言い訳じみた言葉と謝罪を口にする。
──教会には『偽物』がひしめいている。それは、教会派の貴族たちには常識だ。
だけどわたくしは、『偽物』たちと違ってちゃんと奇跡の行使ができている。
しかも、あの女のようなちょろちょろと水を出すようなものではない。
「……では聖女ニカナは放逐する、ということでいいな」
「しかし、理由はどうする?」
「あの女は変わった女ではあるが、大神様の教義には一切触れてはいないぞ?」
司祭たちの話し合いは、なかなか進まない。わたくしは痺れを切らし、また口を開いた。
「そんなの、令息たちに身を売ったとか適当にでっち上げればよいでしょう? 実際に……そんな聖女たちは多いのだから。あの女もそんな聖女たちの一人だった、ということで処理をしてしまえばいい」
わたくしはそんなことをするつもりはないけれど、令息たちと肉体関係を持つ聖女は多い。そしてふだんならば、それは見逃されている。
それが『たまたま』ニカナだけ見逃されなかった……ということにしても、不自然ではない。
「では……そうしよう」
「そうだな」
しばしの沈黙のあとに司祭たちも頷き、ニカナの放逐の手はずは整っていく。
そして、一週間後。元聖女となったニカナは……。王都から三時間ほど離れた、山中にある山小屋へと放逐されたのだった。
教会には、一人だけ平民がいる。
その平民の名は、ニカナ。『手から水を出すくらいの聖なる力がある』聖女らしい。
銀色の髪と青い瞳を持つ呑気そうな顔をしている女は、教会の庭の一角に自分の菜園を勝手に作っている。平民のやることは、本当によくわからない。
今日もニカナは庭の隅っこで、土いじりに励んでいるようだ。
「大神様、大神様。今日はなにを植えましょうかねぇ」
などという、独り言を言いながら。
誰にも相手をされないから妄想上の大神様と話をしているのでしょうけれど……正直とても不気味だ。
昔は大神様と話ができる聖女がいた、なんて文献も残ってはいるけれど。
奇跡の力を『使える』わたくしにだって、大神様の声は聞こえない。だからそれは、聖女の名声を高めるための嘘だと私は思っている。信仰を集めるためにはそういう逸話のようなものは大事だものね。
──あの女は、気が触れているのだろう。
教会は、神聖な場所だ。そんな場所に、あの不気味な平民が存在することを私は許せずにいた。
なので「わたくしがいるのだから、あれはもういらないでしょう」と、彼女を放逐することを司祭たちに提案したのだ。
「私もこの教会に、平民がいることはおかしいと思っていたのだ」
「聖女アングスティアがいるのだ。聖女ニカナはお役御免でいいだろう」
「聖女ニカナには品性が欠けている。やはり平民は教会に置くべきではないのだ」
「ちょろちょろと水を出すくらいに力しかないしな」
「いつも独り言ばかりで、不気味な女だ。教会にはふさわしくない」
そんな賛同意見がいくつも耳に届き、わたくしは満足感を覚えてながら頷いた。だけど……。
「しかし、あれは本物で……それを外に出してしまうのは」
司祭の一人から、ぽつりと零れたその言葉。それを聞いて、わたくしは目をつり上げた。
「わたくしがいるでしょう」
手を一振りすれば黒い雷が迸り、大理石の床を砕く。すると、司祭たちは大きくどよめいた。
「いや、その。そうだな。すまない」
『ニカナは本物だ』と発言した司祭は慌てながらわたくしから目を逸らし、なにやら言い訳じみた言葉と謝罪を口にする。
──教会には『偽物』がひしめいている。それは、教会派の貴族たちには常識だ。
だけどわたくしは、『偽物』たちと違ってちゃんと奇跡の行使ができている。
しかも、あの女のようなちょろちょろと水を出すようなものではない。
「……では聖女ニカナは放逐する、ということでいいな」
「しかし、理由はどうする?」
「あの女は変わった女ではあるが、大神様の教義には一切触れてはいないぞ?」
司祭たちの話し合いは、なかなか進まない。わたくしは痺れを切らし、また口を開いた。
「そんなの、令息たちに身を売ったとか適当にでっち上げればよいでしょう? 実際に……そんな聖女たちは多いのだから。あの女もそんな聖女たちの一人だった、ということで処理をしてしまえばいい」
わたくしはそんなことをするつもりはないけれど、令息たちと肉体関係を持つ聖女は多い。そしてふだんならば、それは見逃されている。
それが『たまたま』ニカナだけ見逃されなかった……ということにしても、不自然ではない。
「では……そうしよう」
「そうだな」
しばしの沈黙のあとに司祭たちも頷き、ニカナの放逐の手はずは整っていく。
そして、一週間後。元聖女となったニカナは……。王都から三時間ほど離れた、山中にある山小屋へと放逐されたのだった。
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