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公爵騎士様の事情聴取2
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「落ち着いたか」
グラッツェル公爵閣下に声をかけられ、私はこくりと頷く。ちらりと彼の方を見ると綺麗な黒曜石の瞳と視線が合って、少しばかり気恥ずかしくなる。
「……泣いたりして、申し訳ありません」
「いや。こちらこそ……君に対する認識に間違いがあるのかもしれないな」
グラッツェル公爵閣下は、そう言うと思案顔になる。
「君が……どんなふうに教会で過ごしていたか。聞かせてもらえないだろうか」
「話せることと、話せないことがございます。例えば、教会の内情で口外禁止とされている事項の話なんてものはできません」
教会の内情に関する話には、いくつか口外禁止のものがある。裏金で採用された教会派偽聖女たちばかりがひしめていること……に関しては、特に強く口止めをされている。
「単純に私がどんな生活をしていたかに関してはお話できますが、その真偽に関しては保証できません。あくまで私の主観ですし、それを証明することが私には不可能ですから」
私は嘘偽りなく、話せる範囲のことを話すつもりだ。けれどそれを信じるかは……公爵閣下次第になる。
「話せる範囲の、話だけでいい。途中で質問をさせてもらうかもしれないが、答えられる範囲で答えてくれ」
「わかりました、閣下」
私が頷くと、グラッツェル公爵閣下はこほんと咳払いをした。そして、ちらりとこちらを見る。
「……その閣下というのはやめろ。堅苦しいのでスヴァンテでいい」
「え……」
『グラッツェル公爵閣下』なんていう長ったらしい呼び方は舌がもつれそうだったから助かるけれど……。平民の私が閣下のお名前を読んでいいものなのだろうか。
「えっと」
「名前で呼んだからといって、処罰をするようなことはしない」
私の不安を感じ取ったのか、公爵閣下はそう付け加える。
「では、スヴァンテ様とお呼びさせていただきます」
少しの間考えてから、私はお名前で呼ばせていただくことにした。
「ああ、それと」
グラッツェル公爵閣下……もといスヴァンテ様は、こちらをまっすぐに見る。
「先ほどは助けてくれてありがとう。君は命の恩人だ」
そして生真面目な性格が滲む声音で言ってから、こちらに頭を下げた。
「あの、頭を上げてください。お話、お話をしましょう」
慌てながら私が言うと、スヴァンテ様は頭を上げる。そして自身にも淹れていたお茶を一口飲んでから、口を開いた。
「では、君のことを聞かせてくれ」
「……はい」
私は、スヴァンテ様に話した。
奇跡を起こせるという噂を聞きつけた教会に、子供の頃に無理やり連れていかれたこと。そんな教会のために奇跡の力を利用されるのは業腹だったので、力の出し惜しみをしていたこと。大神様とは明確な意思の疎通ができること。教会では貴族が重用されていて、平民である私の存在は軽んじられていたこと。
そして……教会での私の扱いのこと。
「は……? 週に一回銅貨三枚?」
私のお給金の額を聞いて、スヴァンテ様は目を丸くした。
「はい、それが私のお給金でした」
「待て待て、規定では金貨二十枚のはずだ。前に話をする機会があった際に、司祭殿からはそう聞いている。銅貨三枚など、子供の駄賃ではないか」
……その規定のことは知らなかったな。皆、そんなにもらってたのかと私は苦笑いをしてしまう。
「それは、貴族出身の聖女のみに適用される規定なのではないでしょうか」
「君は……生活が苦しくて、令息たちに体を売っていたのか?」
スヴァンテ様はそう言うと、眉間に皺を寄せながらこちらを見た。その表情には憐れみとか心配とか、そんな善意の感情が表れている。しかしそれは的外れなんだよなぁ。
グラッツェル公爵閣下に声をかけられ、私はこくりと頷く。ちらりと彼の方を見ると綺麗な黒曜石の瞳と視線が合って、少しばかり気恥ずかしくなる。
「……泣いたりして、申し訳ありません」
「いや。こちらこそ……君に対する認識に間違いがあるのかもしれないな」
グラッツェル公爵閣下は、そう言うと思案顔になる。
「君が……どんなふうに教会で過ごしていたか。聞かせてもらえないだろうか」
「話せることと、話せないことがございます。例えば、教会の内情で口外禁止とされている事項の話なんてものはできません」
教会の内情に関する話には、いくつか口外禁止のものがある。裏金で採用された教会派偽聖女たちばかりがひしめていること……に関しては、特に強く口止めをされている。
「単純に私がどんな生活をしていたかに関してはお話できますが、その真偽に関しては保証できません。あくまで私の主観ですし、それを証明することが私には不可能ですから」
私は嘘偽りなく、話せる範囲のことを話すつもりだ。けれどそれを信じるかは……公爵閣下次第になる。
「話せる範囲の、話だけでいい。途中で質問をさせてもらうかもしれないが、答えられる範囲で答えてくれ」
「わかりました、閣下」
私が頷くと、グラッツェル公爵閣下はこほんと咳払いをした。そして、ちらりとこちらを見る。
「……その閣下というのはやめろ。堅苦しいのでスヴァンテでいい」
「え……」
『グラッツェル公爵閣下』なんていう長ったらしい呼び方は舌がもつれそうだったから助かるけれど……。平民の私が閣下のお名前を読んでいいものなのだろうか。
「えっと」
「名前で呼んだからといって、処罰をするようなことはしない」
私の不安を感じ取ったのか、公爵閣下はそう付け加える。
「では、スヴァンテ様とお呼びさせていただきます」
少しの間考えてから、私はお名前で呼ばせていただくことにした。
「ああ、それと」
グラッツェル公爵閣下……もといスヴァンテ様は、こちらをまっすぐに見る。
「先ほどは助けてくれてありがとう。君は命の恩人だ」
そして生真面目な性格が滲む声音で言ってから、こちらに頭を下げた。
「あの、頭を上げてください。お話、お話をしましょう」
慌てながら私が言うと、スヴァンテ様は頭を上げる。そして自身にも淹れていたお茶を一口飲んでから、口を開いた。
「では、君のことを聞かせてくれ」
「……はい」
私は、スヴァンテ様に話した。
奇跡を起こせるという噂を聞きつけた教会に、子供の頃に無理やり連れていかれたこと。そんな教会のために奇跡の力を利用されるのは業腹だったので、力の出し惜しみをしていたこと。大神様とは明確な意思の疎通ができること。教会では貴族が重用されていて、平民である私の存在は軽んじられていたこと。
そして……教会での私の扱いのこと。
「は……? 週に一回銅貨三枚?」
私のお給金の額を聞いて、スヴァンテ様は目を丸くした。
「はい、それが私のお給金でした」
「待て待て、規定では金貨二十枚のはずだ。前に話をする機会があった際に、司祭殿からはそう聞いている。銅貨三枚など、子供の駄賃ではないか」
……その規定のことは知らなかったな。皆、そんなにもらってたのかと私は苦笑いをしてしまう。
「それは、貴族出身の聖女のみに適用される規定なのではないでしょうか」
「君は……生活が苦しくて、令息たちに体を売っていたのか?」
スヴァンテ様はそう言うと、眉間に皺を寄せながらこちらを見た。その表情には憐れみとか心配とか、そんな善意の感情が表れている。しかしそれは的外れなんだよなぁ。
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