【R18】追放聖女は山小屋にいる~無愛想系騎士様に実は愛されているってどういうことでしょう!?~

夕日(夕日凪)

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公爵騎士様の事情聴取1

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「あの、今日はお早い……のですね」

 いつもよりもお早いグラッツェル公爵閣下の登場に、私は冷や汗をかく。

「ああ。いつもより早く屋敷を出ることができたから、たまたまな」

 言いながら、グラッツェル公爵閣下は手近な木に馬を繋ぐ。そうしながらも、閣下の視線は畑に釘づけだ。
 馬を繋ぎ終えた彼は、こちらに向かって歩き出す。そんな彼の動きを、私は緊張しながら見守った。

『始末するか』
「始末しちゃダメですからね! 大神様!」

 ぽそりと怖いことを囁かれて、私は思わず天に向けて叫んでしまう。しかしその制止は間に合わず、落雷が明け方の空の上方で光った。畑に気を取られているグラッツェル公爵閣下は、前回と違って明らかに体の反応が遅れている。

「──もうっ!」

 私は駆けて、グラッツェル公爵閣下の体を押し倒す。すると間一髪という感じで、私たちがいた地面に雷が到達した。

「ひっえ」

 雷が地面を叩くその光景を見て、私の顔からは血の気が引く。
 助けるのが間に合ったのは、私がグラッツェル公爵閣下に駆け寄るのを見て大神様が躊躇したからだろう。

「お、大神様!」
『……すまない。先走った』
「先走った、じゃないです!」
『愛しい聖女、怒らないでくれ』
「怒って、ません。ただ。私、嫌なんです。目の前で人が死ぬのを見るのは……」

 ……怖かった。
 自分が雷に当たって死ぬことがじゃなくて、目の前で人が死ぬことが。

 目にどんどん涙が溜まっていく。それはぽたぽたと頬を流れていって、グラッツェル公爵閣下を押し倒したままだったので彼の高そうな騎士服を濡らしていった。

『聖女、本当にすまない。もうしないから』

 大神様は、泣き出した私を慰めようとしているのだろう。温かな光がふわふわと私を取り巻いて、その光に涙が吸い取られていく。
 涙を拭ってくれたのは大神様の光だけではなかった。グラッツェル公爵閣下の手が伸びて、私の頬を撫でるようにして涙をそっと拭いたのだ。

「……あれは、神の雷だったのか。君は大神様に愛されているのだな」

 グラッツェル公爵閣下は、ぽつりと言う。

「そんな君が、令息たちを惑わす淫婦となるとは。なにか深い事情でもあるのか?」

 ショックを受けた状態の私は、グラッツェル公爵閣下の空気の読めない言葉に強く心を揺さぶられてしまった。その結果……。

「わ、わ、わ」
「わ?」
「私は処女ですぅうう! そんなこと、したことなんてないですからぁ!」

 自身が純潔であることを叫びながら、グラッツェル公爵閣下に跨ったままでわんわん泣いてしまったのだ。
 グラッツェル公爵閣下に手を引かれて立ち上がらせられ、背中を優しく擦られながら山小屋に移動する。山小屋に入ってもまだせぐり上げている私を見て、グラッツェル公爵閣下は眉尻を下げた。

「ひっ、う。うう」
「……そろそろ泣き止んでくれないか。女性に泣かれるのは、苦手なんだ」

 グラッツェル公爵閣下はそう言うと、気まずそうに視線を泳がせる。

「えっう。それはそっちの都合です。私の涙腺はまだ泣き足りないと言ってます。ひっ、ぐぅ」

 めちゃくちゃなことを言いながら、私はしゃくりを上げる。グラッツェル公爵閣下はさも困ったという顔をすると、テーブルの上にあった布巾でぐりぐりと私の顔を拭いた。うう、それ。テーブルを拭いたやつ……。
 すんと鼻を鳴らす私の前に、湯気が立つカップが差し出される。私が泣いている間に、グラッツェル公爵閣下がお茶を用意してくれたらしい。淹れ慣れていないのかお茶はとても薄くて、だけど温かなものを飲むと心が少し落ち着いた。
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