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追放聖女のプロローグ2
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「……見れば見るほど、色気がなさすぎる。淫婦というのは、本当に教会の虚偽だったのか? しかしなぜ、そんなことになったんだ」
スヴァンテ様はぽつりとつぶやく。
スヴァンテ様、それはケンカを売っているのでしょうか。そうは思ったけれど、私は一応は聖女だった女なので聞き流してあげることにする。
「さぁ。なぜでしょうねぇ」
私がとぼけたように言えば、スヴァンテ様は眉間に深い皺を寄せた。
実のところ、教会を追放された理由に心当たりはある。
教会待望の貴族出身の『本物』の聖女。それが現れて、平民の聖女である私が邪魔になってしまったからだろう。
──聖女とは。大神フェアリース様の神託を賜ることができ、そのお力を借りて奇跡を起こす選ばれし女性のことである。『本来』は、そういうものだ。
教会の上層部には『教会派』と呼ばれる派閥の貴族しかおらず、聖女に選ばれるのも教会派の貴族の子女ばかりだ。そしてその聖女たちは、力がないのにもかかわらず裏金で聖女を名乗ることを許された偽物ばかりなのである。
聖女の身分を一度偽った時点で大神様に嫌われてしまい、どれだけ修行を積んでもその声を聞くことが一生叶わなくなる。当然ながら、奇跡の力も使えない。
そのことを教会の関係者たちは知らないのだから、どれだけの間本物の聖女が教会にいないんだ……と少しばかり呆れてしまう。
大神様の声が聞ける本物の聖女がいれば、その事実はすぐにつまびらかになったはずだもの。それとも、わかっていても裏金が惜しかったのか。
そんなわけで、教会には『聖女もどき』がひしめくばかりになっている。民衆の前で時々起こす奇跡は、すべて手品の類いだ。
本物の奇跡を起こせるなかなか聖女は現れず、現状が漏れれば教会の権威が失墜すると業を煮やした教会は、仕方なく奇跡を起こせるという噂の私を無理やり両親から引き離して引き取った。それが十年前のこと。利用されるのが御免だったので手からぴゅーっと水を出す程度の小さな奇跡だけ起こしてのらりくらりと過ごしていたのだけれど、そんな私に対する教会の評価はいつしか『奇跡というのも、こんなものか』という扱いになっていた。
私は銀色の髪と青い目というこの国ではめずらしい色を持っているけれど、目鼻立ちはとても凡庸である。容姿がよければ小さな奇跡しか起こせないとしても『どこかの貴族のご落胤だ』なんてことにされて、妙な担ぎ出され方をしたかもしれないので平凡な容姿でよかったなぁとしみじみと思う。
ちなみに、私の元の身分は平民で農民の娘である。父と母は数年前に疫病で亡くなっており、私は天涯孤独だ。近くにいれば二人を奇跡で救えたのかもしれないと思うと、悔やんでも悔やみきれない。
とにかく。平々凡々な容姿で小さな奇跡しか起こせない平民の私が、高貴な方々ばかりの教会に居座っているのがよほど業腹だったのだろう。
奇跡を起こせる貴族のご令嬢が見つかってしばらくしてから、私は『貴族の令息たちを夜な夜な部屋に連れ込んでやらしいことに励んでいた』なんていう罪をでっち上げられて、王都から馬で三時間のこの山へと追放されてしまったのである。
その見つかった貴族出身の聖女様も……実のところ『偽物』だ。大神様本人がそう言っているのだから、間違いない。
『あれは私の聖女ではない。……なんらかの力は持っているが、私の力とはほど遠い。心配するな。私の加護の受けているお前には、あれの影響はない』
なんて、大神様が意味深なことを言っていたけれど。私には興味がないことだったので『ふぅん』と聞き流してしまった。
なににしても、『力』を持つ聖女の登場は教会を離れたかった私にしてみれば渡りに船だ。
私は教会の人々の気が変わる前にとそそくさと荷物をまとめて、嬉々としてこの山へやってきたのだった。
『国外追放する!』なんてことにはならなかったのは、私の力に多少の未練があるからだろう。
私はもう彼らに利用されるのはまっぴらなので、要請があっても力を貸すつもりは一切ないのだけれど。
用意されていたのは一軒の山小屋と、最低限の家具だけだった。
教会から解放された私は、奇跡の力を遠慮なく使いながらこの山小屋でのんびりと暮らしていた。
そんな私のところに現れたのが……スヴァンテ様だったのだ。
スヴァンテ様はぽつりとつぶやく。
スヴァンテ様、それはケンカを売っているのでしょうか。そうは思ったけれど、私は一応は聖女だった女なので聞き流してあげることにする。
「さぁ。なぜでしょうねぇ」
私がとぼけたように言えば、スヴァンテ様は眉間に深い皺を寄せた。
実のところ、教会を追放された理由に心当たりはある。
教会待望の貴族出身の『本物』の聖女。それが現れて、平民の聖女である私が邪魔になってしまったからだろう。
──聖女とは。大神フェアリース様の神託を賜ることができ、そのお力を借りて奇跡を起こす選ばれし女性のことである。『本来』は、そういうものだ。
教会の上層部には『教会派』と呼ばれる派閥の貴族しかおらず、聖女に選ばれるのも教会派の貴族の子女ばかりだ。そしてその聖女たちは、力がないのにもかかわらず裏金で聖女を名乗ることを許された偽物ばかりなのである。
聖女の身分を一度偽った時点で大神様に嫌われてしまい、どれだけ修行を積んでもその声を聞くことが一生叶わなくなる。当然ながら、奇跡の力も使えない。
そのことを教会の関係者たちは知らないのだから、どれだけの間本物の聖女が教会にいないんだ……と少しばかり呆れてしまう。
大神様の声が聞ける本物の聖女がいれば、その事実はすぐにつまびらかになったはずだもの。それとも、わかっていても裏金が惜しかったのか。
そんなわけで、教会には『聖女もどき』がひしめくばかりになっている。民衆の前で時々起こす奇跡は、すべて手品の類いだ。
本物の奇跡を起こせるなかなか聖女は現れず、現状が漏れれば教会の権威が失墜すると業を煮やした教会は、仕方なく奇跡を起こせるという噂の私を無理やり両親から引き離して引き取った。それが十年前のこと。利用されるのが御免だったので手からぴゅーっと水を出す程度の小さな奇跡だけ起こしてのらりくらりと過ごしていたのだけれど、そんな私に対する教会の評価はいつしか『奇跡というのも、こんなものか』という扱いになっていた。
私は銀色の髪と青い目というこの国ではめずらしい色を持っているけれど、目鼻立ちはとても凡庸である。容姿がよければ小さな奇跡しか起こせないとしても『どこかの貴族のご落胤だ』なんてことにされて、妙な担ぎ出され方をしたかもしれないので平凡な容姿でよかったなぁとしみじみと思う。
ちなみに、私の元の身分は平民で農民の娘である。父と母は数年前に疫病で亡くなっており、私は天涯孤独だ。近くにいれば二人を奇跡で救えたのかもしれないと思うと、悔やんでも悔やみきれない。
とにかく。平々凡々な容姿で小さな奇跡しか起こせない平民の私が、高貴な方々ばかりの教会に居座っているのがよほど業腹だったのだろう。
奇跡を起こせる貴族のご令嬢が見つかってしばらくしてから、私は『貴族の令息たちを夜な夜な部屋に連れ込んでやらしいことに励んでいた』なんていう罪をでっち上げられて、王都から馬で三時間のこの山へと追放されてしまったのである。
その見つかった貴族出身の聖女様も……実のところ『偽物』だ。大神様本人がそう言っているのだから、間違いない。
『あれは私の聖女ではない。……なんらかの力は持っているが、私の力とはほど遠い。心配するな。私の加護の受けているお前には、あれの影響はない』
なんて、大神様が意味深なことを言っていたけれど。私には興味がないことだったので『ふぅん』と聞き流してしまった。
なににしても、『力』を持つ聖女の登場は教会を離れたかった私にしてみれば渡りに船だ。
私は教会の人々の気が変わる前にとそそくさと荷物をまとめて、嬉々としてこの山へやってきたのだった。
『国外追放する!』なんてことにはならなかったのは、私の力に多少の未練があるからだろう。
私はもう彼らに利用されるのはまっぴらなので、要請があっても力を貸すつもりは一切ないのだけれど。
用意されていたのは一軒の山小屋と、最低限の家具だけだった。
教会から解放された私は、奇跡の力を遠慮なく使いながらこの山小屋でのんびりと暮らしていた。
そんな私のところに現れたのが……スヴァンテ様だったのだ。
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