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転生王子と侍従の企み
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婚約披露パーティーから帰ってから、俺はずっと考えていた。
――ティアラ嬢と婚約破棄をした方が、いいのではないかと。
「さよなら、はじめての恋」
「なに気持ち悪いことを言ってるんですか」
窓の外を見ながら死んだ目でつぶやく俺に、ブリッツが胡乱げな目を向けた。
そんな目を向けるがな。お前が妙な真似をしなければピナの誤解も生まれず、パーティー会場でティアたんにぶたれる羽目にもならなかったんだろうが!
……そうは思うものの。結局のところ俺がティアラ嬢に嫌われていることが、すべての原因なんだよな。
「婚約破棄を申し出ようと思う。ティアラ嬢をこれ以上俺に縛りつけるのは、可哀想だ」
「王子、本気で言ってます?」
「本気だが」
「ふむ」
ブリッツは少し考える様子を見せた。そしてしばらくしてから、口を開く。
「ティアラ様を婚約者から下ろそうとする動きは、もうすでにはじまっています」
「……だろうな」
パーティー会場でのティアラ嬢の振る舞いを見た貴族たちはここぞとばかりに、自分の娘の方が婚約者に相応しいと父上に売り込みをはじめている。ティアラ嬢は王族に、晴れの場で恥をかかせたのだ。父上も別の令嬢を婚約者とすることに心が動いているに違いない。
俺が積極的に動かなければティアラ嬢との婚約は破棄され、別の令嬢が俺の婚約者に収まるのだろう。
「このまま放置していても婚約は破棄されるでしょうし、それをお待ちになっては?」
「ティアラ嬢の有責による婚約破棄には、したくないんだ」
ティアラ嬢の有責による王家との婚約破棄となれば。王族に非礼を働いた娘、その挙げ句に婚約破棄をされた娘と、彼女はそう後ろ指を指されながら一生を過ごすこととなる。俺はそれだけは避けたい。
「だから先に婚約破棄を申し出て、俺の有責での婚約破棄ということにしたいんだ」
「……王子に過失はないでしょうに」
ブリッツは眉を顰めた。そう、俺に過失はない……と思う。なぜか嫌われているだけで。
……なんだか泣きたくなってきたな。
「俺の過失は百人の愛妾がいるでも、マゾ豚野郎でも、好きにでっち上げればいい。ティアラ嬢に責があると思われなければ、なんでもいいよ」
とにかく俺は、ティアラ嬢に極力瑕疵がつかないようにして俺から逃してやりたい。
それが俺にできる、ティアラ嬢への最後の誠意だ。
「ふーむ」
ブリッツはまたなにかを考える様子を見せる。……ろくなことを考えていないといいのだが。
「ティアラ様と二人で、婚約破棄のお話をされてはいかがですか? 陛下と公爵には話を通さず、他のどなたにも秘密にして、王子とティアラ様だけで」
「……?」
俺は首を傾げながらブリッツを見つめた。その表情は、どこか楽しそうだ。
「公爵や父上を通さねば、婚約破棄はできないが?」
「バカですねぇ、通してしまうと『本当』の婚約破棄になってしまうじゃないですか。婚約破棄についての話を持ち出せば、もしかするとティアラ様の隠した本音が聞けるかもと言ってるんです。これは駆け引きです」
……バカって言いやがった。毎度のことながらコイツは不敬だ。
しかし、ティアラ嬢の隠した本音?
「ティアラ嬢が『本当は愛しているから別れないで』と俺にすがるとでも?」
「可能性はあるでしょう。素直に婚約破棄に応じるようなら、そのまま陛下と公爵に話を持っていけばいいじゃないですか」
「うー……」
ティアラ嬢の隠した本音。そんなものが本当にあるなら、聞いてみたい。
……だけどそんなものがあるとは、俺には思えない。
『婚約破棄がしたい』
『はい、わかりました。さようなら』
そんな未来しか、見えないんだよなぁ……
――ティアラ嬢と婚約破棄をした方が、いいのではないかと。
「さよなら、はじめての恋」
「なに気持ち悪いことを言ってるんですか」
窓の外を見ながら死んだ目でつぶやく俺に、ブリッツが胡乱げな目を向けた。
そんな目を向けるがな。お前が妙な真似をしなければピナの誤解も生まれず、パーティー会場でティアたんにぶたれる羽目にもならなかったんだろうが!
……そうは思うものの。結局のところ俺がティアラ嬢に嫌われていることが、すべての原因なんだよな。
「婚約破棄を申し出ようと思う。ティアラ嬢をこれ以上俺に縛りつけるのは、可哀想だ」
「王子、本気で言ってます?」
「本気だが」
「ふむ」
ブリッツは少し考える様子を見せた。そしてしばらくしてから、口を開く。
「ティアラ様を婚約者から下ろそうとする動きは、もうすでにはじまっています」
「……だろうな」
パーティー会場でのティアラ嬢の振る舞いを見た貴族たちはここぞとばかりに、自分の娘の方が婚約者に相応しいと父上に売り込みをはじめている。ティアラ嬢は王族に、晴れの場で恥をかかせたのだ。父上も別の令嬢を婚約者とすることに心が動いているに違いない。
俺が積極的に動かなければティアラ嬢との婚約は破棄され、別の令嬢が俺の婚約者に収まるのだろう。
「このまま放置していても婚約は破棄されるでしょうし、それをお待ちになっては?」
「ティアラ嬢の有責による婚約破棄には、したくないんだ」
ティアラ嬢の有責による王家との婚約破棄となれば。王族に非礼を働いた娘、その挙げ句に婚約破棄をされた娘と、彼女はそう後ろ指を指されながら一生を過ごすこととなる。俺はそれだけは避けたい。
「だから先に婚約破棄を申し出て、俺の有責での婚約破棄ということにしたいんだ」
「……王子に過失はないでしょうに」
ブリッツは眉を顰めた。そう、俺に過失はない……と思う。なぜか嫌われているだけで。
……なんだか泣きたくなってきたな。
「俺の過失は百人の愛妾がいるでも、マゾ豚野郎でも、好きにでっち上げればいい。ティアラ嬢に責があると思われなければ、なんでもいいよ」
とにかく俺は、ティアラ嬢に極力瑕疵がつかないようにして俺から逃してやりたい。
それが俺にできる、ティアラ嬢への最後の誠意だ。
「ふーむ」
ブリッツはまたなにかを考える様子を見せる。……ろくなことを考えていないといいのだが。
「ティアラ様と二人で、婚約破棄のお話をされてはいかがですか? 陛下と公爵には話を通さず、他のどなたにも秘密にして、王子とティアラ様だけで」
「……?」
俺は首を傾げながらブリッツを見つめた。その表情は、どこか楽しそうだ。
「公爵や父上を通さねば、婚約破棄はできないが?」
「バカですねぇ、通してしまうと『本当』の婚約破棄になってしまうじゃないですか。婚約破棄についての話を持ち出せば、もしかするとティアラ様の隠した本音が聞けるかもと言ってるんです。これは駆け引きです」
……バカって言いやがった。毎度のことながらコイツは不敬だ。
しかし、ティアラ嬢の隠した本音?
「ティアラ嬢が『本当は愛しているから別れないで』と俺にすがるとでも?」
「可能性はあるでしょう。素直に婚約破棄に応じるようなら、そのまま陛下と公爵に話を持っていけばいいじゃないですか」
「うー……」
ティアラ嬢の隠した本音。そんなものが本当にあるなら、聞いてみたい。
……だけどそんなものがあるとは、俺には思えない。
『婚約破棄がしたい』
『はい、わかりました。さようなら』
そんな未来しか、見えないんだよなぁ……
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