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転生王子と婚約披露パーティー3
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王宮に着くと、可愛らしいティアたんの手を取って俺は馬車を降りた。
彼女は馴れ馴れしくされるのが嫌いなようなので、もう手をぎゅっと握ったりするようなミスはしない。手のひらに乗せられた彼女の手の指先に、親指を添えるようにして触れるだけ。実に節度のある接触だ。これならティアラ嬢を怒らせることもないだろう。
そのままそっと会場までエスコートしていると、ティアラ嬢からちらちらと窺うような視線が向けられた。
「……どうかした?」
「いえ、その。なんでも……」
ティアラ嬢は少しもじもじとしたあとに、黙りこくってしまった。
彼女と長い時間しゃべると『ティアたん可愛い』とかそんなボロを出してしまいそうだったので、俺は少し首をかしげるだけで彼女が濁した言葉の追求をしなかった。
今夜は当たり障りなく、ティアラ嬢の機嫌をこれ以上損ねないことだけを考えよう。
……なんか後ろからついてきてるブリッツが『青春ですなぁ』とかつぶやいてるが。
お前、年齢三つしか変わらんだろう! そしてティアラたんからまったく好かれていないこの現状のどこが青春なんだ。あっ、片想いも青春ですよねとかそういうことか!?
控室で果実水を飲みながら一息ついたあとに、定時になったので俺とティアラ嬢は会場へと向かった。……ちなみに控室では二人とも終始無言だった。空気の重さで死ぬかと思ったぞ。俺はともかくティアラたんまで、どうしてこんなに空気が重いんだ。
……そんなに俺といるのが嫌なのかな。
「婚約者同士仲睦まじいことを、来客たちに示さないといけないな」
廊下を歩きながら、俺は彼女に言った。
そうしないと自分の娘を側室にでもとねじ込んでこようとする貴族が増えるだろう。
ティアラ嬢は俺のことが嫌いかもしれないが、俺はこれから仲を深めていきたいのだ。
そのためにも邪魔者はできるだけいない方がいい。
具体的にどうやって仲を深めていけばいいのかは、非常に悩ましいところだが……
「そう、ですね」
俺の言葉を聞いてティアラ嬢は硬い表情になる。その表情がどんな感情から生じるものなのか……それを読もうと彼女を見つめるとあからさまに目をそらされてしまった。
うう、心に細かいダメージが降り積もっていくな。
会場に足を踏み入れると、たくさんの来賓の目が俺たちに向けられた。
ティアラ嬢が緊張したように背筋を震わせる。今日、主に値踏みをされているのは彼女だ。緊張して当たり前だろう。
「俺がいるから、安心して」
前を見たままこっそり囁くとティアラ嬢は返事の代わりにか、俺の手をきゅっと握った。
彼女は馴れ馴れしくされるのが嫌いなようなので、もう手をぎゅっと握ったりするようなミスはしない。手のひらに乗せられた彼女の手の指先に、親指を添えるようにして触れるだけ。実に節度のある接触だ。これならティアラ嬢を怒らせることもないだろう。
そのままそっと会場までエスコートしていると、ティアラ嬢からちらちらと窺うような視線が向けられた。
「……どうかした?」
「いえ、その。なんでも……」
ティアラ嬢は少しもじもじとしたあとに、黙りこくってしまった。
彼女と長い時間しゃべると『ティアたん可愛い』とかそんなボロを出してしまいそうだったので、俺は少し首をかしげるだけで彼女が濁した言葉の追求をしなかった。
今夜は当たり障りなく、ティアラ嬢の機嫌をこれ以上損ねないことだけを考えよう。
……なんか後ろからついてきてるブリッツが『青春ですなぁ』とかつぶやいてるが。
お前、年齢三つしか変わらんだろう! そしてティアラたんからまったく好かれていないこの現状のどこが青春なんだ。あっ、片想いも青春ですよねとかそういうことか!?
控室で果実水を飲みながら一息ついたあとに、定時になったので俺とティアラ嬢は会場へと向かった。……ちなみに控室では二人とも終始無言だった。空気の重さで死ぬかと思ったぞ。俺はともかくティアラたんまで、どうしてこんなに空気が重いんだ。
……そんなに俺といるのが嫌なのかな。
「婚約者同士仲睦まじいことを、来客たちに示さないといけないな」
廊下を歩きながら、俺は彼女に言った。
そうしないと自分の娘を側室にでもとねじ込んでこようとする貴族が増えるだろう。
ティアラ嬢は俺のことが嫌いかもしれないが、俺はこれから仲を深めていきたいのだ。
そのためにも邪魔者はできるだけいない方がいい。
具体的にどうやって仲を深めていけばいいのかは、非常に悩ましいところだが……
「そう、ですね」
俺の言葉を聞いてティアラ嬢は硬い表情になる。その表情がどんな感情から生じるものなのか……それを読もうと彼女を見つめるとあからさまに目をそらされてしまった。
うう、心に細かいダメージが降り積もっていくな。
会場に足を踏み入れると、たくさんの来賓の目が俺たちに向けられた。
ティアラ嬢が緊張したように背筋を震わせる。今日、主に値踏みをされているのは彼女だ。緊張して当たり前だろう。
「俺がいるから、安心して」
前を見たままこっそり囁くとティアラ嬢は返事の代わりにか、俺の手をきゅっと握った。
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