【R18】転生王子はツンな悪役令嬢に婚約破棄を告げる

夕日(夕日凪)

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転生王子の事情

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 一対の人形のように美しい青年と少女は、庭園に設置されたテーブルに向かい合わせに座っていた。一陣の風が庭園を吹き抜ける。それは青年の豪奢な金色の髪をさらりと揺らした。
 青年が顔を上げると、少女と視線が交わる。
 彼は少しためらう様子を見せた後に――おもむろに口を開いた。

「ティアラ・セイヤーズ。貴女との婚約を……破棄しようと思う」

 凛とした声が空気を揺らした。その声の主はシオン・チェスタトン。御年十六歳になるマシア王国の王太子である。青年の青の眼差しは、憂いに満ちて目の前の少女に向けられていた。
 婚約破棄を告げられた令嬢は屈辱でなのか、ぶるぶると肩を震わせながらシオンを睨みつけた。彼女はティアラ・セイヤーズ公爵令嬢。美しき黒薔薇姫と呼ばれる、麗しきシオンの婚約者である。
 黒い髪に緑の瞳の凛とした面差しの少女は、その瞳を大きく見開き……
 高らかな罵声がその口からは飛び出すとシオンは思っていたのだが。

「シオン王子、どうして……」

 薄桃色の唇からは、小さく可憐なつぶやきだけが零れた。

(――どうしてかって? 俺にもわからん)

 呆然としているティアラを見つめながら、婚約破棄を告げた主であるシオンも内心頭を抱えていた。

(俺は婚約破棄なんて言いたくなかったけど! だけど君が。君が……あまりにツンすぎるから!)


 ☆


 俺のことを、少し話そう。

 俺、シオン・チェスタトンには前世の記憶がある。
 前世の俺は日本という国に住むごく一般的な男子高校生で、まさしく思春期の真っ只中であった。
 反抗期かつ少し遅い中二病患者。右目や右手がすぐに疼く俺を両親はかなり持て余していたと思う。身の内に宿る悪魔(当然いない)と戦いながら震えていたら、けいれん発作と勘違いされ二度ほど病院に連れて行かれそうにもなった。今考えると黒歴史にもほどがある。
 そんな頃に交通事故に遭い、薄れゆく意識の中でこれは死んだなと思っていたら――すべての中二病患者憧れのファンタジーな世界に赤ん坊として転生していたのだ。

 魔法がある、剣がある、ドラゴンがいる。

 そんな世界に俺は大興奮した。
 しかし残念ながら俺が転生したのはさる王国の王子様。竜を倒しに行ったり、騎士として戦ったりというのは下々のやることで、結局この世界でも冒険の旅は絵空事だったのだ。
 俺は唯一許されていた前世には存在しなかった魔法の修練を積み、十五歳になる頃には国一番と言われる使い手になった。
 ――しかし王宮で王太子教育に明け暮れる日々に、魔法なんてものは無用の長物。
 魔法を使って王宮を抜け出し大冒険……なんて根性も俺には無かった。

 自分で考えているよりもずっと、俺は気が小さかったのだ。

 ところで、この今世の俺は前世と違い絶世の美形である。
 前世では中二病を患っていた俺は、女子たちに遠巻きにされていた。
 いつも一人でブツブツ言っている並以下の容姿の男なんて、今考えるとモテようがない。『俺の力が怖いのか……』などと言って強がってはいたが、正直モテたくて仕方がなかった。

 そして現在の俺は、念願のハイスペック顔面なのである。

 結論から言うと、俺はとてもモテた。
 顔につられて寄ってくる女たち。将来の王太子妃にと娘を近づけてくる貴族たち。様々な美しい蝶が俺の周囲を舞っていた。
 しかし俺はそのモテ期をまったく活用できなかったのだ。
 ……女慣れなんてしていかった俺は、ひきつる顔をしながら適当に彼女たちを躱すことしかできなかった。
 みんな、なんだかギラギラしていて正直怖かったし。俺はもっとピュアな恋愛がしたい。

 それで付いたあだ名が『氷の王子』。

 俺のひきつった顔は、どうやらかなりの無表情に見えるらしい。
 ……前世なら喜んだあだ名なんだろうが。前世の十七年、そして今の人生で十五年と人生経験を重ねた俺はもうそのあだ名に喜べるような精神年齢ではなく。

 ――中二病だった頃の俺のことは、棺桶にでも入れて燃やしてくれ。

 今は本気で、そう思っている。
 そんなこんなでなかなかうまく行かない人生に黄昏れていた十六歳の年。
 婚約者との顔合わせがあると、父上に言われた。

 そして俺は……人生ではじめての恋をしたのだ。
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