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王子と令嬢の初めての日4(ビアンカ視点)
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朝目が覚めると、フィリップ王子は寝台にいなかった。
どうしたのだろうときょろきょろと周囲を見回し寝台から出ようとした時、自分が服を着ていないことに気づく。……昨夜はあのまま寝てしまったものね。
ひとまず昨日脱いだものを着ようかと思ったけれど、それも目につくところには見当たらない。部屋は魔法を使って適温に暖められているので風邪をひくことはないとは思うけれど、裸というのは実に心もとないのだ。……しかもここは人の家、どころか王宮だし……。
どうしようかと考えていると部屋の扉が開きフィリップ王子が顔を出したので、わたくしはほっとして彼に微笑みかけた。
「おはようビアンカ、起きたのだな」
彼は微笑み返しながら扉の向こうにいるらしいメイドから朝食のトレイを受け取りこちらへ歩み寄ってくる。
銀のトレイの上には美味しそうな香りを漂わせるスープと、分厚く切って焼いたベーコン、綺麗な黄色のスクランブルエッグが乗っている。前世のホテルの朝食みたい……なんて思いながらそれを眺めていると、ぐぅ、と小さくお腹が鳴った。
彼はサイドテーブルの上にそれを置くと寝台に座り、ポンポンと自分のお膝の上を叩いた。
……お膝に座れということよね。
フィリップ王子があまりにも嬉しそうなので、昨日はお断りできずお膝の上でご飯を食べた。だけど恥ずかしかったし今日はお断りを……。
「ビアンカ、こちらへ来てくれ」
絶世の美貌に無邪気な笑みを浮かべて彼がわたくしを呼ぶ。
そして今日も……フィリップ王子の素敵な笑顔を前にお断りの言葉を告げることができず、上掛けを体に巻き付けてからお膝の上にそっと腰を下ろしたのだった。
「……重いでしょう、フィリップ様」
「いや、羽根のように軽いぞ? 今朝も可愛いなビアンカ。朝を君と過ごせるなんて本当に嬉しいな」
彼はそう言うと横抱きにわたくしを抱え直しながら、頬に数度キスをした。
金色の瞳が愛おしげにこちらを見つめる。それを見つめ返すと白い頬が淡く薄桃色に染まり、蠱惑的に艶めく紅い唇にそっと唇を塞がれた。
「愛してる、ビアンカ」
唇を離しながら、まだ少し幼い声が嬉しそうにそう囁く。
……フィリップ王子、甘すぎです! 朝から刺激が強すぎるんですけど!
フィリップ王子は微笑み一つで令嬢を卒倒させる傾国の美形であることをもっと自覚した方がいいと思う。顔が真っ赤になり心臓がドクドクと跳ねるのを止められない。
幼い頃から片想いをしていた人に朝からこんなに甘く接してもらえるなんて、夢を見ているわけじゃないわよね。そっと頬を抓るとちゃんと痛みがあって、わたくしは大きく息を吐いて安堵した。
「なにをしているんだ?」
そんなこちらの様子を見てこてりと首を傾げたフィリップ王子の仕草の愛らしさに、また心臓が大きく跳ねる。
「幸せすぎて心臓が持ちそうにありませんわ」
胸を押さえてため息と共にそう呟くと彼は楽しそうに笑い、少し強くわたくしを抱きしめた。
「可愛いことを言ってくれるな。俺も君と一緒で幸せだ」
優しく言われて顔が茹で上がったように真っ赤になる。どうしよう……結婚してこれが毎日続いたら。わたくしの心臓は止まってしまうのかもしれない。
彼も毎日わたくしに構っている時間はないだろうし、要らぬ心配かもしれないけど……。
「どれが食べたい?」
「じゃ……じゃあ卵で」
フィリップ王子はフォークで卵を切り分け、わたくしの口に運ぶ。
それを口に入れるとふわりと柔らかな食感と優しいバターの風味が口中に広がった。
「……美味しい!」
「そうか、よかった。朝食を食べ終わったら一緒に風呂に入ろう。昨日の汗を流したいだろう?」
「お……ふろ……いっしょに?」
フィリップ王子の言葉に、わたくしは思わず固まってしまう。
最後までしていないとはいえ裸は見られているし、恥ずかしいこともされたわけだけど……。羞恥心を拭い去ってしまえるほどの経験はまだ積んでいないのだ。むしろ一晩明けて思い返すと今さら恥ずかしさが蘇るくらいだ。
彼にあんなところを見られ、美しい唇で舐められ、恥ずかしい声も沢山聞かれてしまったのよね……!
「フィリップ様、恥ずかしいから……一人で」
顔が真っ赤になり色々な恥ずかしいがないまぜになった声が思わず漏れてしまう。
「……ダメか?」
けれど捨てられた子犬のように眉を下げられ、悲しそうに言われてしまうと……わたくしは陥落するしかないのだ。
……これが惚れた弱みってやつなのかしら。
「……ダメじゃ、ないですわ」
「嬉しいぞ、ビアンカ」
ぎゅっと抱きこまれ優しいキスをされる。そして心底嬉しそうな顔でふわりと微笑まれた。
……可愛い、どうしよう。こんなにお可愛らしいことばかりされると、もっと好きになってしまう。
「ビアンカ、次はどれを食べる?」
「じゃあ、スープを……」
……この方、こんなに甘やかしだったんだなぁ……。
細心の注意を払って口に入れられたスープを嚥下しながらそんなことを考える。
好きな人に甘やかされるのはとても嬉しい。愛されているのを……実感できるし。過去から追ってくる不安も少しずつ消えていく気がする。
胸にじわっと温かい気持ちが湧き上がり、わたくしはフィリップ王子の胸にぐりぐりと頭を押し当てた。
「……ビアンカ?」
「フィリップ様」
抱きついてすん、と香りを嗅ぐとラベンダーと汗が混じったいい香りがする。この香り、好きだなぁ……ずっと嗅いでいたくなる。
「そんなに甘やかされると、もっと好きになってしまいますわ……」
細くしなやかな腰に手を回してぎゅっと抱きつくと、優しく抱きしめ返された。
「俺なしでは生きていけなくなるくらいに甘やかすから……覚悟しておけ」
耳元で囁かれ、何度もキスをされ。蕩けそうになる気持ちに歯止めがきかない。
……デレたメインヒーロー様の破壊力は、すごいなぁ……。
どうしたのだろうときょろきょろと周囲を見回し寝台から出ようとした時、自分が服を着ていないことに気づく。……昨夜はあのまま寝てしまったものね。
ひとまず昨日脱いだものを着ようかと思ったけれど、それも目につくところには見当たらない。部屋は魔法を使って適温に暖められているので風邪をひくことはないとは思うけれど、裸というのは実に心もとないのだ。……しかもここは人の家、どころか王宮だし……。
どうしようかと考えていると部屋の扉が開きフィリップ王子が顔を出したので、わたくしはほっとして彼に微笑みかけた。
「おはようビアンカ、起きたのだな」
彼は微笑み返しながら扉の向こうにいるらしいメイドから朝食のトレイを受け取りこちらへ歩み寄ってくる。
銀のトレイの上には美味しそうな香りを漂わせるスープと、分厚く切って焼いたベーコン、綺麗な黄色のスクランブルエッグが乗っている。前世のホテルの朝食みたい……なんて思いながらそれを眺めていると、ぐぅ、と小さくお腹が鳴った。
彼はサイドテーブルの上にそれを置くと寝台に座り、ポンポンと自分のお膝の上を叩いた。
……お膝に座れということよね。
フィリップ王子があまりにも嬉しそうなので、昨日はお断りできずお膝の上でご飯を食べた。だけど恥ずかしかったし今日はお断りを……。
「ビアンカ、こちらへ来てくれ」
絶世の美貌に無邪気な笑みを浮かべて彼がわたくしを呼ぶ。
そして今日も……フィリップ王子の素敵な笑顔を前にお断りの言葉を告げることができず、上掛けを体に巻き付けてからお膝の上にそっと腰を下ろしたのだった。
「……重いでしょう、フィリップ様」
「いや、羽根のように軽いぞ? 今朝も可愛いなビアンカ。朝を君と過ごせるなんて本当に嬉しいな」
彼はそう言うと横抱きにわたくしを抱え直しながら、頬に数度キスをした。
金色の瞳が愛おしげにこちらを見つめる。それを見つめ返すと白い頬が淡く薄桃色に染まり、蠱惑的に艶めく紅い唇にそっと唇を塞がれた。
「愛してる、ビアンカ」
唇を離しながら、まだ少し幼い声が嬉しそうにそう囁く。
……フィリップ王子、甘すぎです! 朝から刺激が強すぎるんですけど!
フィリップ王子は微笑み一つで令嬢を卒倒させる傾国の美形であることをもっと自覚した方がいいと思う。顔が真っ赤になり心臓がドクドクと跳ねるのを止められない。
幼い頃から片想いをしていた人に朝からこんなに甘く接してもらえるなんて、夢を見ているわけじゃないわよね。そっと頬を抓るとちゃんと痛みがあって、わたくしは大きく息を吐いて安堵した。
「なにをしているんだ?」
そんなこちらの様子を見てこてりと首を傾げたフィリップ王子の仕草の愛らしさに、また心臓が大きく跳ねる。
「幸せすぎて心臓が持ちそうにありませんわ」
胸を押さえてため息と共にそう呟くと彼は楽しそうに笑い、少し強くわたくしを抱きしめた。
「可愛いことを言ってくれるな。俺も君と一緒で幸せだ」
優しく言われて顔が茹で上がったように真っ赤になる。どうしよう……結婚してこれが毎日続いたら。わたくしの心臓は止まってしまうのかもしれない。
彼も毎日わたくしに構っている時間はないだろうし、要らぬ心配かもしれないけど……。
「どれが食べたい?」
「じゃ……じゃあ卵で」
フィリップ王子はフォークで卵を切り分け、わたくしの口に運ぶ。
それを口に入れるとふわりと柔らかな食感と優しいバターの風味が口中に広がった。
「……美味しい!」
「そうか、よかった。朝食を食べ終わったら一緒に風呂に入ろう。昨日の汗を流したいだろう?」
「お……ふろ……いっしょに?」
フィリップ王子の言葉に、わたくしは思わず固まってしまう。
最後までしていないとはいえ裸は見られているし、恥ずかしいこともされたわけだけど……。羞恥心を拭い去ってしまえるほどの経験はまだ積んでいないのだ。むしろ一晩明けて思い返すと今さら恥ずかしさが蘇るくらいだ。
彼にあんなところを見られ、美しい唇で舐められ、恥ずかしい声も沢山聞かれてしまったのよね……!
「フィリップ様、恥ずかしいから……一人で」
顔が真っ赤になり色々な恥ずかしいがないまぜになった声が思わず漏れてしまう。
「……ダメか?」
けれど捨てられた子犬のように眉を下げられ、悲しそうに言われてしまうと……わたくしは陥落するしかないのだ。
……これが惚れた弱みってやつなのかしら。
「……ダメじゃ、ないですわ」
「嬉しいぞ、ビアンカ」
ぎゅっと抱きこまれ優しいキスをされる。そして心底嬉しそうな顔でふわりと微笑まれた。
……可愛い、どうしよう。こんなにお可愛らしいことばかりされると、もっと好きになってしまう。
「ビアンカ、次はどれを食べる?」
「じゃあ、スープを……」
……この方、こんなに甘やかしだったんだなぁ……。
細心の注意を払って口に入れられたスープを嚥下しながらそんなことを考える。
好きな人に甘やかされるのはとても嬉しい。愛されているのを……実感できるし。過去から追ってくる不安も少しずつ消えていく気がする。
胸にじわっと温かい気持ちが湧き上がり、わたくしはフィリップ王子の胸にぐりぐりと頭を押し当てた。
「……ビアンカ?」
「フィリップ様」
抱きついてすん、と香りを嗅ぐとラベンダーと汗が混じったいい香りがする。この香り、好きだなぁ……ずっと嗅いでいたくなる。
「そんなに甘やかされると、もっと好きになってしまいますわ……」
細くしなやかな腰に手を回してぎゅっと抱きつくと、優しく抱きしめ返された。
「俺なしでは生きていけなくなるくらいに甘やかすから……覚悟しておけ」
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