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もののけ執事とお座敷少女19

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 目の前で年端も行かない少女……の見た目をしたもののけが、許しを乞うように畳にぐりぐりと額を擦りつけている。
 悲壮感溢れる光景に一瞬あっけに取られたけれど、我に返った私は慌てて座敷ちゃんの側に行くと、肩にそっと手を添えた。すると華奢な肩が、怯えたようにびくりと跳ねる。

「座敷ちゃん、私はなにも怒ってないよ。他の誰も怒ったりしていないから。だから顔を上げて?」
「で、でも……」

 座敷ちゃんが顔を上げると、額に畳で擦れた赤い痕がくっきりとついている。どれだけ強い力で、額を擦りつけていたんだろう。その黒の瞳は潤み、肌は青ざめていて痛々しい様子だ。
 手を伸ばして赤くなった額を撫でると、ためらいがちな仕草で彼女はそれを享受する。落ち着くように何度も繰り返して撫でると、長いまつ毛に囲まれた瞳からぽろりと涙が零れた。

『毎日こんな無茶をしていれば、いずれ壊れてしまいますが』

 夜音さんの言葉がふと蘇り、背筋にぞくりと寒気を感じた。
 彼女が『壊れて』しまう。それがどんな状態を示唆するものか、『人』である私には想像がつかないけれど……。きっと、取り返しがつかない状態になってしまうのだろうということだけはわかる。
 ――そんなことには、絶対にさせない。
 想いを胸に、私は口を開いた。

「……座敷ちゃん。私のために倒れるような無茶はしなくていいんだよ」

 しっかりと目を見つめて、座敷ちゃんに想いを伝える。
 そもそも私は、小さな幸せで満足できる性質なのだ。人に無茶をさせてまで大きな利益を享受しようなんてことは、そしてそれが嬉しいとは毛頭思わない。

「でも、でも……」
「お仕事が増えるのは嬉しいけれど、たくさんありすぎても私一人じゃ回せないし。無理せず、すこーしだけお仕事が増えるくらいで本当にじゅうぶんなの」

 言い募ろうとする座敷ちゃんに、辛抱強く言葉を重ねていく。
『大丈夫』、『無理はしないで』、『私は多くものはいらないから』、『座敷ちゃんの体の方が大事』。
 言葉に耳を傾ける座敷ちゃんの表情は、困惑から、安堵含みのものへと少しずつ変わっていく。その表情の変化を見て、私は少しほっとした。

「そうですよ! そもそもここは家賃がかかっていないのですし。あちらの台所からどんどん食材も持ち出しますので、食費もほとんどかからないと思います。座敷わらしが無茶をしなくったって、芽衣様の生活はどうにかなるのです!」

 佐助君も胸を張りつつ、妙に現実味のある言葉を連ねた援護をしてくれる。
 ……どんどん食材を持ち出すって、それは大丈夫なのかな。
 持ち出しすぎて、お祖母ちゃんに怒られないといいんだけれど。
 胸を張る佐助君を見て、座敷ちゃんがくすりと笑う。
 そして――

「……役立たずでも、本当に捨てないの?」

 すがるような目で私を見つめながら、ぽつりとそう言った。
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みんなの感想(6件)

淡雪
2021.07.21 淡雪

ほっこりするお話。狸布団で癒されたい(///ω///)♪ 更新楽しみにしています。

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琴乃葉
2021.01.30 琴乃葉

狐とか妖怪がすっごく好きだから読んでいてとても楽しい!
狸布団で私も寝てみたい

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皇ひびき
2021.01.13 皇ひびき

座敷ちゃん可愛!!
名前つけたげて!?とか思うくらいに愛らしい。そして無理しなくていいんだよ!?とも伝えたい御人ですね。

解除

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