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もののけ執事とお座敷少女18

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「いただきます!」
「足りなければ、おかわりもありますから」

 かぶのスープに箸を付ける私に、にこにことしながら佐助君が言う。
 根津ちゃんも無表情だけれど、どこかそわそわしながら食卓に着いている。きっと、お腹が空いているのだろう。
 フーフーと息を吹きかけ少し冷ましてからスープを口に含むと、ほっと肩の力が抜けるような、優しい味を舌に感じた。
 さっぱりとした塩味、豚肉から滲み出るコク。アクセントのために生姜が入っているらしく、爽やかな香りが鼻腔を抜ける。かぶはよく煮えていて、噛む力を加えるまでもなくほろりと口中で解けていく。葉はシャキシャキとした食感を残しており、茎の柔らかさとのコントラストが楽しめた。人参もちょうど火が通っている。

「はー……美味しい」

 思わずそんなつぶやきを漏らすと、佐助君が「それはよかったです!」と言って嬉しそうに笑った。
 根津ちゃんは表情を動かさないままで、夢中でスープとご飯をかき込んでいる。食べ物で頬を膨らませているその様子は、お食事中のハムスターみたいだ。

「佐助君も夜音さんもすごいなぁ。美味しいものを、ちゃちゃっと作れて」

 自分の美味しくもまずくもない料理の味を思い出し、私は少し遠い目になる。東京に住んでいた頃は外食することも多かったから、なかなか上達しなかったんだよね……
 毎日こんなに美味しいものばかり食べていたら、自炊をした時しょんぼりとした気持ちになるんだろうな。

「芽衣様、料理は経験です。今度一緒にお料理をしましょう!」
「わぁ、本当? 嬉しいな!」
「ふふ。僕も嬉しいです!」

 口の端に米粒をつけてくふふと笑う佐助君と見ていると、心がじわりと温かくなる。
 その時、根津ちゃんが佐助君の側に行くと彼の着物をちょいちょいと引っ張った。

「佐助」
「なんです、根津」
「ん……」

 ずいとお茶碗を差し出され、佐助君は目を丸くする。そして「ああ、おかわりですか」とつぶやき、お米をよそうべく台所へと向かった。兄と妹のやり取りみたいで、なんだか見ていて微笑ましい。
 その時――

「……!」

 根津ちゃんが、座敷ちゃんが寝ている部屋に目をやった。私もつられて目をやると……
 襖が数センチ開いていて、そこから覗くなんだか申し訳なさげな顔が一つ。座敷ちゃんが……起きたのだ。

「座敷ちゃん、体調はどう?」

 声をかけつつ襖を開けると、座敷ちゃんは潤む瞳でこちらを見つめた。

「――ごめんなさい!」

 そして謝罪とともに畳に額を擦りつけるようにして、勢いよく頭を下げる。突然土下座を披露されてしまった私は、どうしていいのかわからずに目を瞠ったまま固まってしまった。
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