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もののけ執事とお座敷少女13

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 カレーを食べ終えていい時間になったけれど、座敷ちゃんが起きる気配はない。
 夜音さんは襖を少し開けて彼女の姿を確認すると、「よく寝ていますね」と安堵含みの声音で言った。

「そういえば、座敷ちゃんのご飯はなにを用意したんですか?」
「ああ、湯豆腐ですよ」

 胃に負担がかからず、時間が経っても味が変わらないものだ。座敷ちゃんがいつ起きるか、わからないものね。夜音さんは本当に気が利く人だ。

「早く……食べられるといいですね」

 つぶやいて寝室の襖に視線を向ける。すると夜音さんも頷いた。
 ところで、今日の私はどこで寝ようかな。押入れにはまだ布団はあるけれど、座敷ちゃんの隣に布団を敷いたりゴソゴソすると寝ているところを起こしてしまうかもしれないし。
 荷物にブランケットとかあったかな……段ボールをちょっと確認しよう。
 そんなことを思いながら部屋の隅に置いていた段ボールを漁ると、厚めのブランケットがちゃんと入っていた。良かった、ひとまずこれで寝ることができそうだ。

「芽衣様は、今日はこちらの部屋で寝るのですか?」
「あ、はい。そのつもりです」
「ふむ。少しお待ちください」

 夜音さんは黒狐の姿になるとぴょんと天袋に入っていく。もしかして、防寒具でも持ってきてくれるのかな。
 夜音さんはしばらくすると……口に一匹のもっちりとした子狸を咥えて戻って来た。ど、どうして狸なんですか!
 畳の上にぺっと吐き出すように下ろされた子狸はキョトンとした表情をしている。夜音さんはこの子を、ちゃんと同意を得て連れてきたのだろうか。

「ぶんぶく茶釜という民話を知っていますか」
「あ、はい。知ってます」

 人型に戻った夜音さんに訊ねられ、私は反射的に返事をした。
 人間から隠れるために茶釜に化けた狸が火にかけられてしまい、茶釜から手足が生やした姿から戻れなくなってしまう。それで困っているところを男に助けられ、恩返しにそのユーモラスな姿で大道芸をしたら人気者に……みたいな話だったはず。枝葉はかなり落としてしまっているけれど。

「あの民話の狸のように、これは簡単な生活用品になら化けられます。生き物なのでふつうのものよりも温かいですし、寝具としてご活用ください」
「いやいやいや! 生き物を敷いて寝るわけには……」
「ぼ、僕なら大丈夫です」

 短い足でよちよちとこちらにやって来た子狸が、小さな声で話しかけてくる。
 彼は大きな瞳でじっと私を見つめた後に、ぺこりと小さく頭を下げた。あ、頭の上に葉っぱが載ってる。まるで絵本の狸みたい。

「僕は佐助と申します」
「私は芽衣です」

 礼儀正しく名乗られ慌てて返すと、佐助君は「存じております、芽衣様」と言ってにこりと笑った。
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