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もののけ執事とお座敷少女2
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人型に戻った夜音さんは、ビニール袋を片手に台所へと行こうとする。しかし立ち止まってこちらを振り返った。
「鍋を作ってきますが、その間は絶対にパソコンに触れないでくださいね」
「えっ、どうしてですか!?」
お鍋ができるまでの間も作業をするか、と思っていた私はギクリとしてしまう。
夜音さんはつかつかとこちらにやって来ると、ぱたりとノートパソコンを閉めてしまった。
「休憩しろと言っているんです。大人しく横にでもなっていてください。というか、一時間に一回は必ず休憩を入れてください。いいですね?」
赤い瞳がギロリとこちらを睨む。少し怖いけれど……
だけど言っていることは完全に、娘の健康を気遣う『お母さん』である。
「……夜音さんって、お母さんみたいですね」
「今、なんと言いました?」
思わずつぶやくと、赤い瞳をつり上げて聞き返された。と、とても怖い!
「なんでもないです!」
私は震え上がりながら首を何度も横に振る。夜音さんはため息一つを残すと、今度こそ台所に去って行った。
「はー……怖かった」
「狐はちょっと愛想がないよね、お姉ちゃん」
「座敷ちゃん!?」
いつの間にか座敷ちゃんが隣に座り、座卓に頬杖をついていた。本当に、神出鬼没な子だなぁ。
「でも、優しい人ですよね。たぶん」
「そうだね、お鍋も作ってくれるし。なにを作ってくるのかな。楽しみだね」
座敷ちゃんは、自分も鍋を食べる気らしい。彼女はうきうきとしながら、鼻歌を歌っている。
「そうだ、座敷ちゃん。座敷ちゃんのおかげで、仕事が増えた……んだよね?」
「うん、そうだよ」
「そっか。ありがとう」
「どういたしまして。少しはお役立てた?」
私のお礼を受け取り涼しげに言うと、座敷ちゃんはにこりと笑った。やっぱりあれは、彼女の力で正解だったんだなぁ。
「めちゃくちゃ助かった! 拝んでおきます」
「ふふ、それは嬉しいなぁ。拝んで拝んで!」
手を合わせて『ありがとうございます』と心の中でつぶやく。座敷ちゃんは嬉しそうに笑うと、私の頭を優しく撫でた。
「……座敷ちゃん?」
「人はやっぱり愛いね。うん、とても愛い」
そう言う彼女の表情は、とても大人びている。
「愛い……?」
『愛い』とは、主に目下の人間を『愛らしい』と褒める時の言葉だ。
私よりもずいぶんと年下に見える座敷ちゃんがそれを使うのは……本来ならば不自然なのだけれど。
座敷ちゃんは、見た目通りの年齢ではないんだろうなぁ。だって彼女は『もののけ』だ。
頭を撫でられ続けながら過ごしていると、カラリと襖が開く音がした。
「なぜ芽衣様は撫でられているのですか?」
呆れた顔の夜音さんが、取皿や鍋敷きを座卓に置いていく。
座敷ちゃんが来ることも見越していたのか、お皿は三人分あった。今日は、夜音さんも食べるんだな。
「愛でていたの。人は愛いね」
「芽衣様は一応、神のご一族なのですが……」
「でも可愛い。狐もそう思うよね?」
「それはノーコメントとさせてください」
ここで夜音さんに『可愛い』と言われてもどう反応していいのかわからなかったので、『ノーコメント』で良かったな。
「夜音さん。お手伝いします」
「結構です。大人しく座っていてください」
ツンとしてそっけなく言ってから、夜音さんはまた台所に向かう。
「狐はおっかないねぇ」
座敷ちゃんはそう言って、くすくすと笑った。
「鍋を作ってきますが、その間は絶対にパソコンに触れないでくださいね」
「えっ、どうしてですか!?」
お鍋ができるまでの間も作業をするか、と思っていた私はギクリとしてしまう。
夜音さんはつかつかとこちらにやって来ると、ぱたりとノートパソコンを閉めてしまった。
「休憩しろと言っているんです。大人しく横にでもなっていてください。というか、一時間に一回は必ず休憩を入れてください。いいですね?」
赤い瞳がギロリとこちらを睨む。少し怖いけれど……
だけど言っていることは完全に、娘の健康を気遣う『お母さん』である。
「……夜音さんって、お母さんみたいですね」
「今、なんと言いました?」
思わずつぶやくと、赤い瞳をつり上げて聞き返された。と、とても怖い!
「なんでもないです!」
私は震え上がりながら首を何度も横に振る。夜音さんはため息一つを残すと、今度こそ台所に去って行った。
「はー……怖かった」
「狐はちょっと愛想がないよね、お姉ちゃん」
「座敷ちゃん!?」
いつの間にか座敷ちゃんが隣に座り、座卓に頬杖をついていた。本当に、神出鬼没な子だなぁ。
「でも、優しい人ですよね。たぶん」
「そうだね、お鍋も作ってくれるし。なにを作ってくるのかな。楽しみだね」
座敷ちゃんは、自分も鍋を食べる気らしい。彼女はうきうきとしながら、鼻歌を歌っている。
「そうだ、座敷ちゃん。座敷ちゃんのおかげで、仕事が増えた……んだよね?」
「うん、そうだよ」
「そっか。ありがとう」
「どういたしまして。少しはお役立てた?」
私のお礼を受け取り涼しげに言うと、座敷ちゃんはにこりと笑った。やっぱりあれは、彼女の力で正解だったんだなぁ。
「めちゃくちゃ助かった! 拝んでおきます」
「ふふ、それは嬉しいなぁ。拝んで拝んで!」
手を合わせて『ありがとうございます』と心の中でつぶやく。座敷ちゃんは嬉しそうに笑うと、私の頭を優しく撫でた。
「……座敷ちゃん?」
「人はやっぱり愛いね。うん、とても愛い」
そう言う彼女の表情は、とても大人びている。
「愛い……?」
『愛い』とは、主に目下の人間を『愛らしい』と褒める時の言葉だ。
私よりもずいぶんと年下に見える座敷ちゃんがそれを使うのは……本来ならば不自然なのだけれど。
座敷ちゃんは、見た目通りの年齢ではないんだろうなぁ。だって彼女は『もののけ』だ。
頭を撫でられ続けながら過ごしていると、カラリと襖が開く音がした。
「なぜ芽衣様は撫でられているのですか?」
呆れた顔の夜音さんが、取皿や鍋敷きを座卓に置いていく。
座敷ちゃんが来ることも見越していたのか、お皿は三人分あった。今日は、夜音さんも食べるんだな。
「愛でていたの。人は愛いね」
「芽衣様は一応、神のご一族なのですが……」
「でも可愛い。狐もそう思うよね?」
「それはノーコメントとさせてください」
ここで夜音さんに『可愛い』と言われてもどう反応していいのかわからなかったので、『ノーコメント』で良かったな。
「夜音さん。お手伝いします」
「結構です。大人しく座っていてください」
ツンとしてそっけなく言ってから、夜音さんはまた台所に向かう。
「狐はおっかないねぇ」
座敷ちゃんはそう言って、くすくすと笑った。
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