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祖母の家、そして怪奇な現象4

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 家に着いた私は扉を確認してみたけれど、張り紙の位置は微動だにしていない。
 ……誰かのメモ書きが増えていたりしないかな、と少し期待してたんだけどなぁ。

「よし」

 気合いを入れて引き戸を開けて、台所に食材を持っていく。
 ひとまずお米は流しの下にある物入れに入れ、お肉は小さなツードアの冷蔵庫に……入れようとしたけれど、コンセントが抜けている。そりゃあ、そうかと思いながらプラグを挿すと『ブン……』と冷蔵庫が動き出す微かな音がした。ちゃんと動いてね、お願い。私の荷物が来るまでの約二日は、この冷蔵庫が頼りなのだ。
 買った野菜はキャベツ、玉ねぎ、人参、じゃがいも。それと安かったので白菜を買った。葉物が被ったなぁ……なんて後から思ったけれど、まぁいいか。
 調味料も適所にしまい、私は大きく伸びをした。

「さて……」

 立派な木の食器棚から急須と湯呑を取り出す。流しには祖母の使いかけの食器用洗剤がまだ置いてあった。一年前以上前の使い差しは大丈夫なのだろうかと不安に思いつつも、それを使って軽く洗う。
 そして側面に大きな花柄がプリントされたホーローのケトルも洗ってから、水を淹れてコンロにかけた。ひとまず、お茶を飲んで一息つきたかったのだ。
 ……必要なものを整理して、明日また買い物に行かないとな。
 そんなことを考えながら、私は台所に目を向けた。
 ここも、祖母が生きていた時のままの風景そのままだ。
 ただそこに……祖母だけがいない。
 そのことに一抹の寂しさを覚えながら、茶葉の入った急須にお湯を注いで湯呑と一緒に座卓のある部屋へと持っていく。座椅子に座って温かなお茶を飲んでいるうちに、心が少しずつ緩むのを感じた。
 お茶請けにしようと、電車で開けたお菓子の残りをバッグから取り出して座卓に広げる。キラキラと輝くそれを眺めていると電車での出来事の記憶が蘇り……背筋が少し震えた。

 ダメだ、あのことはもう考えるな。

 オレンジ果汁を固めたものなのだろうか。濃い橙色のものを一つ摘み上げて口に入れる。
 爽やかな香りの甘味をもくもくと咀嚼しながら、私はぼんやりと思考を遊ばせた。

 ーー一体、誰が家を管理してくれているのかとか。
 ーー欠けた大口案件分の収入をどう補うかとか。

 真面目に考えなければいけないことはいろいろある。だけど……今は少しだけ休みたかった。
 お行儀悪く、ごろりと畳に横になる。するとすぐに心地よい睡魔が訪れた。

 新しい生活は、上手くいくといいな。
 そして少しでいいから……心を慰めてくれるような、いいことがあると嬉しい。

 現実と眠りの世界の合間を漂っている時。誰かが私の頭を撫でた気がした。

『上手くいくよ。ここには私もーーもいる』

 そう囁いた優しい声は、電車で出会った少女の声によく似ていた。
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