上 下
4 / 36

祖母の家、そして怪奇な現象1

しおりを挟む
 あの少女は、白昼夢だったのだろうか。それともーー真昼の幽霊か。
 そんな恐ろしい考えに身を震わせているうちに、電車は湯田中駅へと停車した。
 あの子のことは気になるけれど、考えていても仕方がない。というか考えたくない、怖くて死にそうになる。怖がりにあの現象は本当に酷だ。私は恐怖を打ち払うように頭をぶるぶると振ってから、駅のホームへと降り立った。
 湯田中駅には線路を挟んで駅舎が二つ存在する。片方は昭和のはじめに建てられた古いもので今は駅舎としては使われておらず、展示施設になっている。たしか登録有形文化財にも指定されていたはずだ。
 そのレトロで愛らしい外観を少し眺めてから、新駅舎の改札から駅の外に出る。
 改札を出ると、東京とは違う広くて大きな空が広がっていた。
 そうか、高い建物がないんだ。……そんなことを思いながら、私は周囲を見渡した。
 秋の暖かな日差しと遠くに山が見える和やかな景色は、電車での恐怖を少しだけ溶かしてくれる。

「うん、夢。夢だよね」

 まだ少女のことに及びそうだった思考を強制的に打ち切って、私は足を踏み出した。
 祖母の家までは徒歩で十八分。少し遠いけれど、タクシーを使うほどの距離かというと微妙なところだ。
 スマホで時間を確認すると、時刻は十五時を少し回ったくらいだった。まずは家に荷物を置いて、買い物に向かおうかな。祖母の家から十分くらいの距離に、小さな商店があったはずだ。
 引っ越しの荷物は明後日届く。それまでは、置きっぱなしになっている祖母の家財道具を使って過ごすつもりである。だいぶ型が古いものだけれど、一通りの家具家電はあったと思う。
 自分の荷物が着いてからは……それらはどうしようかな。祖母の形見ということもあり、捨てるのは忍びないので庭の倉庫に入れておくのもありかもしれない。

「よし」

 しっかりと荷物を抱えて、私は祖母の家へと向かった。
 ……祖母から受け継いだのだから、もう『私の家』と表現するべきなんだろうけど。まだ、そんな気にはならないのだ。
 記憶を辿りつつ歩くと、記憶の通りの風景が広がっていく。それは郷愁を心に湧き立たせた。歩きはじめてしばらくは、その感覚を楽しんでいたのだけれど……
 ……待って。
 祖母の家までの道のりってこんなに坂だったっけ!?
 昔は若さで気にならなかったのだろう祖母の家へと至る坂は、アラサー女にはすっかりこたえるものとなっていた。
 ぜはぜはと息を切らせながら必死に歩くと、他の家から離れた場所にぽつんと建った平屋の古民家が見えてくる。その昔と変わらぬ佇まいを見て、私はほっと安堵の息を吐いた。
 人が居ないと家はあっという間に荒れると聞く。だから家に着いたら、庭なども含めた大掃除だと覚悟をしていた。だけど……
 祖母の家の庭木は綺麗に整えられて雑草はなく、落ち葉なども綺麗に掃き清められているように見える。もしかして、近所の人が手入れをしてくれてる? そうならお礼を言わないといけないけれど……他の家とは結構離れているのに、わざわざそんなことをする人がいるのだろうか。
 首を傾げながら格子戸になっている玄関に行き、レトロなデザインの鍵を鍵穴に挿し込み捻る。するとカチャンと解錠される音がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

今、夫と私の浮気相手の二人に侵されている

ヘロディア
恋愛
浮気がバレた主人公。 夫の提案で、主人公、夫、浮気相手の三人で面会することとなる。 そこで主人公は男同士の自分の取り合いを目の当たりにし、最後に男たちが選んだのは、先に主人公を絶頂に導いたものの勝ち、という道だった。 主人公は絶望的な状況で喘ぎ始め…

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

おしっこ我慢が趣味の彼女と、女子の尿意が見えるようになった僕。

赤髪命
青春
~ある日目が覚めると、なぜか周りの女子に黄色い尻尾のようなものが見えるようになっていた~ 高校一年生の小林雄太は、ある日突然女子の尿意が見えるようになった。 (特にその尿意に干渉できるわけでもないし、そんなに意味を感じないな……) そう考えていた雄太だったが、クラスのアイドル的存在の鈴木彩音が実はおしっこを我慢することが趣味だと知り……?

作ろう! 女の子だけの町 ~未来の技術で少女に生まれ変わり、女の子達と楽園暮らし~

白井よもぎ
キャラ文芸
地元の企業に勤める会社員・安藤優也は、林の中で瀕死の未来人と遭遇した。 その未来人は絶滅の危機に瀕した未来を変える為、タイムマシンで現代にやってきたと言う。 しかし時間跳躍の事故により、彼は瀕死の重傷を負ってしまっていた。 自分の命が助からないと悟った未来人は、その場に居合わせた優也に、使命と未来の技術が全て詰まったロボットを託して息絶える。 奇しくも、人類の未来を委ねられた優也。 だが、優也は少女をこよなく愛する変態だった。 未来の技術を手に入れた優也は、その技術を用いて自らを少女へと生まれ変わらせ、不幸な環境で苦しんでいる少女達を勧誘しながら、女の子だけの楽園を作る。

処理中です...