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令嬢13歳・後夜祭に至る幕間・前
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騎士祭が終わりノエル様とゾフィー様からの嬉しい報告もあって。わたくしの心はほくほくとした温かい気持ちで満たされていた。
夕方になるまでノエル様を治療する治癒師の方はいらっしゃらないので、医務室でお話をしながら待つのだとノエル様とゾフィー様は去っていった。
手を繋いでにこにこと微笑み合っているお二人はとても仲睦まじげで、本当に素敵だなと思ってしまう。
マリア様も先生とのデートへと行き、その場に残った人々の数はかなり減ってしまってわたくしは一抹の寂しさを覚えてしまった。
……後夜祭までの残り二時間くらいをどう過ごそうかなぁ。
「さて。僕はそろそろお暇しようかな」
ミーニャ王子が大きく伸びをした。その動きに合わせて長い尻尾がピンッと上に立つ。
くっ……可愛い。でも触っちゃダメなのよね。
「色々と面白いものを見せてもらったし、楽しかったぞ」
彼は猫耳をぴるぴると震わせながらわたくしたちを眺め金色の目を細めた。
……ミーニャ王子が言う面白い、ってなんなのだろう。この方は本当に掴みどころがないというかなんというか。
「ミーニャ王子がくださったネックレスのお陰で、ノエル様が大怪我をせず助かりましたわ。ありがとうございます」
わたくしがそうお礼を言うと彼は綺麗な形の唇を上げて笑った。
「妹の一件があるから僕はしばらくこの国に……まぁ、この学園にいるつもりなんだが。礼がしたいと言うなら僕にしっかり尽くせよ、ビアンカ」
ミーニャ王子の言葉にわたくしは目を丸くした。学園祭が終わったらミーニャ王子はライラック国に帰るのかと思っていたわ。
しかもしっかり尽くせって! わたくし彼に家臣認定されてしまったのかしら。
「わたくし貴方の家臣では……」
「そうだな、ビアンカは家臣じゃないな。友としてしっかり尽くせ」
彼はそう言いながら不遜な笑みを浮かべる。
……本当にこの人は。もうこんな彼には慣れてきたからいいといえばいいんだけど。
マクシミリアンが隣で殺気立っているのでわたくしは彼の背中をポンポンと優しく叩いて宥めた。
ミーニャ王子。いつかその可愛らしい猫耳をもふもふするから、覚えてらっしゃい!!
「……ミーニャ王子は獣人だから魔法が使えないのですわよね」
ここは一応『魔法学園』なのだけれど……魔法が使えなくても留学できるのかしら。わたくしは首を傾げて彼を見る。
「特別招待枠でもう留学は決定している。僕は王族だからな。まぁ僕自身が魔法を使えなくても国で使えるような有用な技術が学べる可能性は高いから無駄じゃないだろう」
そう言って彼はニヤリと笑うとその身を翻して去って行った。ミーニャ王子もこの学園で過ごすことになるなんて。なんだか不思議な感じだ。
「ビアンカはこれからどうするのー?」
ミルカ王女が訊ねながら腕に絡みついてくる。そのふわふわとした赤い髪を撫でながらわたくしは思案した。
本音を言うならマクシミリアンとデートがしたいけど。多分無理だろうな……。
チラリとフィリップ王子を見るとお澄まし顔で微笑まれてしまう。うん、無理そうだな。
「……私は失礼するわ」
ベルリナ様が立ち上がり暇を告げる。せっかく一緒に過ごしたのに距離が縮まらなかったのが残念だわ。むしろ距離が広がった気も。また、次の機会……があるといいな。
「えっ、ベルちんも一緒にいようよ~」
ミルカ王女が榛色の瞳をパチパチと瞬かせながら明るく言った。
べ……ベルちん!? お二人はいつそんなに仲良くなったの!?
「ベルちんなんて呼び名、許可した覚えはないわ!」
ベルリナ様が顔を真っ赤にして綺麗な空色の瞳でミルカ王女を睨みつける。
けれどそんな可愛いお顔じゃ怖くない。ベルリナ様はなんというか、小動物可愛いのだ。
「ベルちんがいないと、俺も寂しいッスよ」
ハウンドもニヤニヤとしながらベルリナ様に言う。……もしかしてこの二人、わたくしがいない間になにかベルリナ様に妙なことを……!
その時フィリップ王子が吹きだし、大きな声で笑い出した。
「ベルちん、ってなんなんだよその呼び名は……」
なにかがツボに入ったらしく笑い続けるフィリップ王子を見てベルリナ様の顔がさらに真っ赤になる。ああ、目が泣きそうに潤んでるわ。
「この方々が勝手に付けたのです! 許可した覚えはないのです、フィリップ王子!」
「そうだな、ベルリナ嬢はしっかり者の令嬢だし可愛らしいから。もっと素敵な呼び名がいいんじゃないかな」
「か……かわ……!! かわ!?」
ベルリナ様はフィリップ王子の言葉に焦り、彼女らしくない様子で激しくどもった。フィリップ王子、いいわよ! 攻めてるわね! 無自覚だろうけど!!
「じゃあフィリップ王子が素敵な呼び名を付けてあげればいいじゃない」
ミルカ王女がからかうよう顔で言うと、フィリップ王子はベルリナ様を見つめ考える顔をする。
それをベルリナ様が頬を染めて少し期待を込めた顔で見つめ返す。
だけど……。
「……ベルちんで、いい気もしてきたな」
彼から出たのは、そんな言葉だった。
フィリップ王子……ベルリナ様が明らかにがっかりした顔をしているじゃないですか。
メインヒーロー様なんだからそこはかっこいいことを言ってくださいよ。
ああ、ノエル様だったらきっと素敵な呼び名を付けたのだろうなぁ。ノエル様の素敵彼氏力をフィリップ王子にも分けてあげて……!
「フィリップ王子は……そんなだからダメなのよ」
ミルカ王女も深いため息をつく。
「何故だ。再考した結果悪くないと思っただけじゃないか」
フィリップ王子は訳がわからないという顔をして、こてんと首を傾げた。
夕方になるまでノエル様を治療する治癒師の方はいらっしゃらないので、医務室でお話をしながら待つのだとノエル様とゾフィー様は去っていった。
手を繋いでにこにこと微笑み合っているお二人はとても仲睦まじげで、本当に素敵だなと思ってしまう。
マリア様も先生とのデートへと行き、その場に残った人々の数はかなり減ってしまってわたくしは一抹の寂しさを覚えてしまった。
……後夜祭までの残り二時間くらいをどう過ごそうかなぁ。
「さて。僕はそろそろお暇しようかな」
ミーニャ王子が大きく伸びをした。その動きに合わせて長い尻尾がピンッと上に立つ。
くっ……可愛い。でも触っちゃダメなのよね。
「色々と面白いものを見せてもらったし、楽しかったぞ」
彼は猫耳をぴるぴると震わせながらわたくしたちを眺め金色の目を細めた。
……ミーニャ王子が言う面白い、ってなんなのだろう。この方は本当に掴みどころがないというかなんというか。
「ミーニャ王子がくださったネックレスのお陰で、ノエル様が大怪我をせず助かりましたわ。ありがとうございます」
わたくしがそうお礼を言うと彼は綺麗な形の唇を上げて笑った。
「妹の一件があるから僕はしばらくこの国に……まぁ、この学園にいるつもりなんだが。礼がしたいと言うなら僕にしっかり尽くせよ、ビアンカ」
ミーニャ王子の言葉にわたくしは目を丸くした。学園祭が終わったらミーニャ王子はライラック国に帰るのかと思っていたわ。
しかもしっかり尽くせって! わたくし彼に家臣認定されてしまったのかしら。
「わたくし貴方の家臣では……」
「そうだな、ビアンカは家臣じゃないな。友としてしっかり尽くせ」
彼はそう言いながら不遜な笑みを浮かべる。
……本当にこの人は。もうこんな彼には慣れてきたからいいといえばいいんだけど。
マクシミリアンが隣で殺気立っているのでわたくしは彼の背中をポンポンと優しく叩いて宥めた。
ミーニャ王子。いつかその可愛らしい猫耳をもふもふするから、覚えてらっしゃい!!
「……ミーニャ王子は獣人だから魔法が使えないのですわよね」
ここは一応『魔法学園』なのだけれど……魔法が使えなくても留学できるのかしら。わたくしは首を傾げて彼を見る。
「特別招待枠でもう留学は決定している。僕は王族だからな。まぁ僕自身が魔法を使えなくても国で使えるような有用な技術が学べる可能性は高いから無駄じゃないだろう」
そう言って彼はニヤリと笑うとその身を翻して去って行った。ミーニャ王子もこの学園で過ごすことになるなんて。なんだか不思議な感じだ。
「ビアンカはこれからどうするのー?」
ミルカ王女が訊ねながら腕に絡みついてくる。そのふわふわとした赤い髪を撫でながらわたくしは思案した。
本音を言うならマクシミリアンとデートがしたいけど。多分無理だろうな……。
チラリとフィリップ王子を見るとお澄まし顔で微笑まれてしまう。うん、無理そうだな。
「……私は失礼するわ」
ベルリナ様が立ち上がり暇を告げる。せっかく一緒に過ごしたのに距離が縮まらなかったのが残念だわ。むしろ距離が広がった気も。また、次の機会……があるといいな。
「えっ、ベルちんも一緒にいようよ~」
ミルカ王女が榛色の瞳をパチパチと瞬かせながら明るく言った。
べ……ベルちん!? お二人はいつそんなに仲良くなったの!?
「ベルちんなんて呼び名、許可した覚えはないわ!」
ベルリナ様が顔を真っ赤にして綺麗な空色の瞳でミルカ王女を睨みつける。
けれどそんな可愛いお顔じゃ怖くない。ベルリナ様はなんというか、小動物可愛いのだ。
「ベルちんがいないと、俺も寂しいッスよ」
ハウンドもニヤニヤとしながらベルリナ様に言う。……もしかしてこの二人、わたくしがいない間になにかベルリナ様に妙なことを……!
その時フィリップ王子が吹きだし、大きな声で笑い出した。
「ベルちん、ってなんなんだよその呼び名は……」
なにかがツボに入ったらしく笑い続けるフィリップ王子を見てベルリナ様の顔がさらに真っ赤になる。ああ、目が泣きそうに潤んでるわ。
「この方々が勝手に付けたのです! 許可した覚えはないのです、フィリップ王子!」
「そうだな、ベルリナ嬢はしっかり者の令嬢だし可愛らしいから。もっと素敵な呼び名がいいんじゃないかな」
「か……かわ……!! かわ!?」
ベルリナ様はフィリップ王子の言葉に焦り、彼女らしくない様子で激しくどもった。フィリップ王子、いいわよ! 攻めてるわね! 無自覚だろうけど!!
「じゃあフィリップ王子が素敵な呼び名を付けてあげればいいじゃない」
ミルカ王女がからかうよう顔で言うと、フィリップ王子はベルリナ様を見つめ考える顔をする。
それをベルリナ様が頬を染めて少し期待を込めた顔で見つめ返す。
だけど……。
「……ベルちんで、いい気もしてきたな」
彼から出たのは、そんな言葉だった。
フィリップ王子……ベルリナ様が明らかにがっかりした顔をしているじゃないですか。
メインヒーロー様なんだからそこはかっこいいことを言ってくださいよ。
ああ、ノエル様だったらきっと素敵な呼び名を付けたのだろうなぁ。ノエル様の素敵彼氏力をフィリップ王子にも分けてあげて……!
「フィリップ王子は……そんなだからダメなのよ」
ミルカ王女も深いため息をつく。
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