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令嬢13歳・騎士祭のエンディング
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騎士祭が終わり、わたくしたちはゾフィー様を待っていた。
……皆でノエル様のところに行くのは止めておこうと、暗黙の了解のようにゾフィー様一人をノエル様の元へと送り出したのだ。今彼の心を癒せるのはゾフィー様だけだろうから。
観客席に設置されたテーブル席で皆様とお茶を飲みながらのんびりしていると、マリア様の様子がなんだかソワソワと落ち着かない。もしかして……。
「マリア様。もしかしてアウル先生とお約束をされているのですか?」
初めての学園祭、恋人とお約束をしていてもおかしくないものね。マリア様はわたくしの言葉に少し目を泳がせると、赤くなって小さく頷いた。
「騎士祭が終わったら、二人で学園祭を回ろうと約束してるんです。だけど……」
マリア様はそっと目を伏せる。
ゾフィー様のことが気になるんだろう。……これは難しい問題ね。
「私の風魔法でアウル先生に伝言をお届けしましょうか?」
マクシミリアンがマリア様にそう申し出る。すごいわ、マクシミリアン。さらりと言っているけれど上位魔法じゃない。
「お願いできますか?」
マリア様がぱっと顔を明るくしてマクシミリアンを見ると、彼は優しく微笑んで頷く。
マクシミリアンはマリア様に両手でお椀のような形を作って差し出した。
「ここに、伝言を」
マリア様はマクシミリアンの手に唇を近づけると囁くようにアウル先生への伝言を吹き込む。それが終わるとマクシミリアンの手が緑色の燐光を放ち、その緑の粒子は空へと舞い上がった。
「これで大丈夫です。アウル先生に伝言が今頃届いていると思いますよ」
「ありがとうございます、マクシミリアンさん。いえ、セルバンデス卿」
マリア様がほっとした表情でマクシミリアンにお礼を言う。
「今まで通り、マクシミリアンで」
「わかりました。マクシミリアンさん」
マクシミリアンがふわりと笑うと、マリア様も優しく微笑み返した。
むむむ……羨ましいわ。二人の間になにもないとわかっていても、羨ましいものは羨ましいのだ。
「無詠唱で、上位魔法か……」
フィリップ王子が驚いたようにマクシミリアンを凝視した。そりゃ、驚くわよね。完全なる無詠唱で上位魔法を使えるような人物は魔法先進国であるこの国にも数人しかいないだろう。
するとミルカ王女がふふん! と得意げな顔をしてマクシミリアンの腕に腕を絡めた。
「もうマックスはうちの国のものなのよ。後悔しても遅いんだから!」
「……そうでしたね」
フィリップ王子が『王子』としての顔で悔しそうな顔をする。貴重な人材の流出は国の損失だ。マクシミリアンほどの魔法師ならそれはなおさらだ。フィリップ王子の苦悩は計り知れないものだろう。
……それにしても皆さま、わたくしのマクシミリアンにくっつき過ぎじゃないかしら!?
今日はクラスの令嬢たちにもずっとベタベタされてたし。わたくしもマクシミリアンにくっつきたい、切実に。
そんな想いを込めてじっとりと湿った視線をマクシミリアンに向けると、彼は微笑みを湛えたままこちらへと近づいてきて……。
頬にゆっくりと優しいキスをした。
「……マクシミリアン」
皆様の前なのよ、と言おうとしたけれど。彼はもうセルバンデス卿なのだ。
堂々とわたくしに求愛をしてもいい立場……なのよね。
「ビアンカ嬢。そんな熱のこもった視線で見つめられると、照れますので」
「も……もう!」
真っ赤になってテーブルに突っ伏すと、皆さまから生温かい視線が投げられたような気がした。……気のせいだと、思いたいわ。
「ただいま、皆!」
「ただいま戻りましたわ!」
――よいタイミングでノエル様とゾフィー様が戻ってこられたようだった。
さすがです、さすが空気を読むのに長けているノエル様。帰ってくるタイミングもバッチリです。
「おかえりなさいませ、お二人とも」
顔を上げて二人の方を見ると、ノエル様は泣いたのだろうか……目が少し赤い気がする。というかお二人とも赤いわね。
だけど二人の雰囲気はとても和やかでわたくしはほっと胸をなで下ろした。
しっかりと握られた手が二人の絆を表しているようで、見ているわたくしもなんだか嬉しくなってしまう。
「ノエル、怪我の具合は」
フィリップ王子が立ち上がり、ノエル様に歩み寄る。
「フィリップ様、平気だよ。治癒師も呼んでくれたのでしょう?――ごめんね、貴方の騎士なのに負けてしまって」
「気にするな。敗北は人を強くする。……ただし来年は勝てよ」
笑って言いながらフィリップ王子はノエル様の頭を拳でコツリと軽く叩いた。
「もちろんだよフィリップ様。貴方の騎士は、二度は負けない」
ノエル様もそれに爽やかな笑顔で答える。
――なんて素敵な光景なの。
前世でわたくしがBL好きだったら、喜んだのだろうな。残念ながらわたくし、前世は夢女子寄りのノーマルカップリング推しだったんだけど。
「それと俺たち、婚約しました」
「……しましたの」
こちらに向き直って輝く笑顔で言うノエル様と、照れたように下を向いてしまうゾフィー様の言葉に。
わたくしたちは目を丸くし、次の瞬間二人を祝う言葉が飛び交ったのだった。
……皆でノエル様のところに行くのは止めておこうと、暗黙の了解のようにゾフィー様一人をノエル様の元へと送り出したのだ。今彼の心を癒せるのはゾフィー様だけだろうから。
観客席に設置されたテーブル席で皆様とお茶を飲みながらのんびりしていると、マリア様の様子がなんだかソワソワと落ち着かない。もしかして……。
「マリア様。もしかしてアウル先生とお約束をされているのですか?」
初めての学園祭、恋人とお約束をしていてもおかしくないものね。マリア様はわたくしの言葉に少し目を泳がせると、赤くなって小さく頷いた。
「騎士祭が終わったら、二人で学園祭を回ろうと約束してるんです。だけど……」
マリア様はそっと目を伏せる。
ゾフィー様のことが気になるんだろう。……これは難しい問題ね。
「私の風魔法でアウル先生に伝言をお届けしましょうか?」
マクシミリアンがマリア様にそう申し出る。すごいわ、マクシミリアン。さらりと言っているけれど上位魔法じゃない。
「お願いできますか?」
マリア様がぱっと顔を明るくしてマクシミリアンを見ると、彼は優しく微笑んで頷く。
マクシミリアンはマリア様に両手でお椀のような形を作って差し出した。
「ここに、伝言を」
マリア様はマクシミリアンの手に唇を近づけると囁くようにアウル先生への伝言を吹き込む。それが終わるとマクシミリアンの手が緑色の燐光を放ち、その緑の粒子は空へと舞い上がった。
「これで大丈夫です。アウル先生に伝言が今頃届いていると思いますよ」
「ありがとうございます、マクシミリアンさん。いえ、セルバンデス卿」
マリア様がほっとした表情でマクシミリアンにお礼を言う。
「今まで通り、マクシミリアンで」
「わかりました。マクシミリアンさん」
マクシミリアンがふわりと笑うと、マリア様も優しく微笑み返した。
むむむ……羨ましいわ。二人の間になにもないとわかっていても、羨ましいものは羨ましいのだ。
「無詠唱で、上位魔法か……」
フィリップ王子が驚いたようにマクシミリアンを凝視した。そりゃ、驚くわよね。完全なる無詠唱で上位魔法を使えるような人物は魔法先進国であるこの国にも数人しかいないだろう。
するとミルカ王女がふふん! と得意げな顔をしてマクシミリアンの腕に腕を絡めた。
「もうマックスはうちの国のものなのよ。後悔しても遅いんだから!」
「……そうでしたね」
フィリップ王子が『王子』としての顔で悔しそうな顔をする。貴重な人材の流出は国の損失だ。マクシミリアンほどの魔法師ならそれはなおさらだ。フィリップ王子の苦悩は計り知れないものだろう。
……それにしても皆さま、わたくしのマクシミリアンにくっつき過ぎじゃないかしら!?
今日はクラスの令嬢たちにもずっとベタベタされてたし。わたくしもマクシミリアンにくっつきたい、切実に。
そんな想いを込めてじっとりと湿った視線をマクシミリアンに向けると、彼は微笑みを湛えたままこちらへと近づいてきて……。
頬にゆっくりと優しいキスをした。
「……マクシミリアン」
皆様の前なのよ、と言おうとしたけれど。彼はもうセルバンデス卿なのだ。
堂々とわたくしに求愛をしてもいい立場……なのよね。
「ビアンカ嬢。そんな熱のこもった視線で見つめられると、照れますので」
「も……もう!」
真っ赤になってテーブルに突っ伏すと、皆さまから生温かい視線が投げられたような気がした。……気のせいだと、思いたいわ。
「ただいま、皆!」
「ただいま戻りましたわ!」
――よいタイミングでノエル様とゾフィー様が戻ってこられたようだった。
さすがです、さすが空気を読むのに長けているノエル様。帰ってくるタイミングもバッチリです。
「おかえりなさいませ、お二人とも」
顔を上げて二人の方を見ると、ノエル様は泣いたのだろうか……目が少し赤い気がする。というかお二人とも赤いわね。
だけど二人の雰囲気はとても和やかでわたくしはほっと胸をなで下ろした。
しっかりと握られた手が二人の絆を表しているようで、見ているわたくしもなんだか嬉しくなってしまう。
「ノエル、怪我の具合は」
フィリップ王子が立ち上がり、ノエル様に歩み寄る。
「フィリップ様、平気だよ。治癒師も呼んでくれたのでしょう?――ごめんね、貴方の騎士なのに負けてしまって」
「気にするな。敗北は人を強くする。……ただし来年は勝てよ」
笑って言いながらフィリップ王子はノエル様の頭を拳でコツリと軽く叩いた。
「もちろんだよフィリップ様。貴方の騎士は、二度は負けない」
ノエル様もそれに爽やかな笑顔で答える。
――なんて素敵な光景なの。
前世でわたくしがBL好きだったら、喜んだのだろうな。残念ながらわたくし、前世は夢女子寄りのノーマルカップリング推しだったんだけど。
「それと俺たち、婚約しました」
「……しましたの」
こちらに向き直って輝く笑顔で言うノエル様と、照れたように下を向いてしまうゾフィー様の言葉に。
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