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閑話25・メイカの学園祭(メイカ視点)
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僕はメイカ。パラディスコ王国の王子をしている。
今日は学園祭なのだけれど……双子の妹に一緒に学園祭は回らないからと僕は言い含められているんだ。
理由は明白。ミルカはビアンカ嬢に僕を近づけたくないのだ。僕も一緒に回りたかったなぁ、なんて不満な気持ちは山のようにある。
ビアンカ嬢と僕だってお近づきになりたいんだ。
だけど妹に逆らうと怖いからね。そして妹に逆らうとハウンドも怖い。
あの従兄は結構容赦なく僕のことを殴るからなぁ。
ミラ嬢とサヴィーナ嬢の二人と付き合っていた時。『メイカ。お前歯ァ食いしばれや』とハウンドに頬を殴られた。
二股を知った二人のご令嬢からのご依頼だったらしいけど……王子の顔を容赦なく殴るってどうなの、ハウンド!? ミルカも爆笑しながら見てるばかりだったしさ。
しかもミルカはべったり警護する癖に僕のことは結構放置なんだよね。『フラフラどっかに勝手に行くメイカがわりーッス』ってハウンドは言うけど。君がミルカにべったりで僕に興味がないだけだよね!?
僕一応、パラディスコの王太子なんだよ。後継者だよ、後継者! 存在の扱いが軽くないかな。
……誰か僕を敬愛してくれる人はいないのかな。
自然に深いため息が漏れてしまう。
ミルカはハウンドに加え、最近はとっても恐ろしい『犬』を配下につけたようだ。アレを味方につけるなんてミルカが益々恐ろしい女になってしまうね。
あんな恐ろしい妹を『可愛い可愛い』と言うハウンドの目は腐ってるんじゃないだろうか。僕はハウンドは一度医者に見せた方がいいんじゃないかって思っている。
――言ったらまた殴られそうだから言わないけど。
ハウンドのことも昔は、尊敬してたんだけどな。素敵な従兄殿だと思っていたのに。
「やぁメイカ王子。何をしているの?」
爽やかに声をかけられ振り返ると、そこには同じクラスのエイデン・カーウェル公爵家令息が立っていた。
……相変わらずうさん臭い笑顔だなぁ。
エイデンの側にはしばらく前には僕にも付きまとっていた、シュミナ・パピヨンがいた。けれどその表情はなんだか冴えないね。
「ミルカについてくるなって言われたから。寂しく一人で学園祭を回ってるんだよ」
「君の妹君はビアンカ嬢にご執心みたいだからね。君みたいなのは近づけたくないんだろうね」
エイデンは楽しそうにクスクスと笑う。
……君みたいなの、って酷いなぁ。最近は女性関係も控えめなのに。
「エイデンはデート? 羨ましいね。独り身の僕としては目の毒だなぁ」
僕もデートがしたいなぁ。できれば、ビアンカ嬢と。
そんなことを思いながらシュミナ・パピヨンに目をやるとそっと後ろに隠された。……大丈夫だよエイデン、取りはしないから。
「可愛いシュミナを見ちゃだめ。減っちゃうからね」
エイデンは冗談っぽく言うけれど目が笑っていない。この男は怖いんだよなぁ。
僕にストーカーをした挙句背後から刺そうとした令嬢の、どろんとした目にエイデンの目は似ている。しかももっと彼女の闇を濃縮した感じだ。
……シュミナ・パピヨンも、大変だね。
「大丈夫。僕ね、案外人のものには興味がないから」
「へぇ。教師と不倫してるっていうのは……」
余計なことを言おうとするエイデンの口を僕は慌てて手で塞いだ。さすがにそれは知られると外聞が悪い。なんでエイデンは知ってるのかな!!
……というかミルカとハウンドに知られたら絶対に殴られる。あの二人に一斉に殴られたら、僕は死んでしまう。僕はゴリラみたいなミルカと違って繊細なんだよ!!
僕はほら、インドア系だから。おうちでまったりが一番好きなんだ。
ミルカみたいに剣術に武術にと駆けずり回るヤツの気持ちはまったくわからない。……一応双子なんだけどなぁ。
「それは一カ月前に終わった話だから!!」
そう、綺麗な女教師とのひと時の恋はもう終わっているのだ。
あれはいい思い出だ。割り切った後腐れのない楽しい関係だったしね。
「ふーん、そうなんだ。相変わらず君の軽薄な恋は回転が早いんだね」
エイデンは口元を覆った僕の手をゆっくりと取ると、楽しそうに笑った。
軽薄だなんて失礼だな。まぁ、間違ってはいないんだけどさ。
「エイデンは相変わらず一途そうだね」
彼の背中に隠されたシュミナ・パピヨンに目を向ける。
うん、一途はいいことだと思うよ。彼の愛が異常に重いのは置いておいて。
「ふふ、そうなんだ。僕は一人の女性に尽くしたいタイプだから」
「……エイデンの愛は重そうだなぁ」
思わず口から本音を漏らすと、エイデンのオレンジ色の瞳がすっと細められた。
怖い!! 叩きつけられるような殺気を感じる!! 僕の周囲にはどうして穏健派がいないのかな。
ミルカの『犬』も滅茶苦茶怖いしさぁ……もうやだなぁ。僕は癒されたいよ……。
「そういえば君のところの伯爵が、ビアンカ嬢のクラスで接客をしてたよ」
「サイトーサンが? 彼、そういうの好きだからねぇ。僕、ちょっと行ってくるよ」
口実も得たしエイデンに手を振って僕は彼から離れた。
怖いものには近づかないのが一番だよ……。エイデンのことは嫌いじゃないんだけどね。女の趣味とかちょっと闇が深いのとか、色々思うところはあるけど僕は彼を友人だと思ってるんだ。
ふと窓の外を見ると騎士祭がある演習場の方へ向かうビアンカ嬢一行が目に入った。ビアンカ嬢の頭にはウサギの耳、ミルカは……栗鼠かなあれは。そして例の怖い従僕には狼の耳と尻尾が付いている。
仮装喫茶をするって言ってたもんなぁ……なんて思いながらそれを眺めていると。
従僕が、スッとこちらに視線を向けた。
冷えた目に射抜かれ思わず背筋が粟立つ。なんなの、ビアンカ嬢を視界に収めることすら許されないの!? というかあの『犬』どうやって僕に気づいたんだろう。怖いなぁ。
「あれ、メイカ王子。来てくれたの?」
ビアンカ嬢のクラスでサイトーサンの人好きのする笑顔に迎えられた時。
僕はようやく人心地つくことができたのだった。
サイトーサン、君は僕の唯一の癒しかもしれない。
今日は学園祭なのだけれど……双子の妹に一緒に学園祭は回らないからと僕は言い含められているんだ。
理由は明白。ミルカはビアンカ嬢に僕を近づけたくないのだ。僕も一緒に回りたかったなぁ、なんて不満な気持ちは山のようにある。
ビアンカ嬢と僕だってお近づきになりたいんだ。
だけど妹に逆らうと怖いからね。そして妹に逆らうとハウンドも怖い。
あの従兄は結構容赦なく僕のことを殴るからなぁ。
ミラ嬢とサヴィーナ嬢の二人と付き合っていた時。『メイカ。お前歯ァ食いしばれや』とハウンドに頬を殴られた。
二股を知った二人のご令嬢からのご依頼だったらしいけど……王子の顔を容赦なく殴るってどうなの、ハウンド!? ミルカも爆笑しながら見てるばかりだったしさ。
しかもミルカはべったり警護する癖に僕のことは結構放置なんだよね。『フラフラどっかに勝手に行くメイカがわりーッス』ってハウンドは言うけど。君がミルカにべったりで僕に興味がないだけだよね!?
僕一応、パラディスコの王太子なんだよ。後継者だよ、後継者! 存在の扱いが軽くないかな。
……誰か僕を敬愛してくれる人はいないのかな。
自然に深いため息が漏れてしまう。
ミルカはハウンドに加え、最近はとっても恐ろしい『犬』を配下につけたようだ。アレを味方につけるなんてミルカが益々恐ろしい女になってしまうね。
あんな恐ろしい妹を『可愛い可愛い』と言うハウンドの目は腐ってるんじゃないだろうか。僕はハウンドは一度医者に見せた方がいいんじゃないかって思っている。
――言ったらまた殴られそうだから言わないけど。
ハウンドのことも昔は、尊敬してたんだけどな。素敵な従兄殿だと思っていたのに。
「やぁメイカ王子。何をしているの?」
爽やかに声をかけられ振り返ると、そこには同じクラスのエイデン・カーウェル公爵家令息が立っていた。
……相変わらずうさん臭い笑顔だなぁ。
エイデンの側にはしばらく前には僕にも付きまとっていた、シュミナ・パピヨンがいた。けれどその表情はなんだか冴えないね。
「ミルカについてくるなって言われたから。寂しく一人で学園祭を回ってるんだよ」
「君の妹君はビアンカ嬢にご執心みたいだからね。君みたいなのは近づけたくないんだろうね」
エイデンは楽しそうにクスクスと笑う。
……君みたいなの、って酷いなぁ。最近は女性関係も控えめなのに。
「エイデンはデート? 羨ましいね。独り身の僕としては目の毒だなぁ」
僕もデートがしたいなぁ。できれば、ビアンカ嬢と。
そんなことを思いながらシュミナ・パピヨンに目をやるとそっと後ろに隠された。……大丈夫だよエイデン、取りはしないから。
「可愛いシュミナを見ちゃだめ。減っちゃうからね」
エイデンは冗談っぽく言うけれど目が笑っていない。この男は怖いんだよなぁ。
僕にストーカーをした挙句背後から刺そうとした令嬢の、どろんとした目にエイデンの目は似ている。しかももっと彼女の闇を濃縮した感じだ。
……シュミナ・パピヨンも、大変だね。
「大丈夫。僕ね、案外人のものには興味がないから」
「へぇ。教師と不倫してるっていうのは……」
余計なことを言おうとするエイデンの口を僕は慌てて手で塞いだ。さすがにそれは知られると外聞が悪い。なんでエイデンは知ってるのかな!!
……というかミルカとハウンドに知られたら絶対に殴られる。あの二人に一斉に殴られたら、僕は死んでしまう。僕はゴリラみたいなミルカと違って繊細なんだよ!!
僕はほら、インドア系だから。おうちでまったりが一番好きなんだ。
ミルカみたいに剣術に武術にと駆けずり回るヤツの気持ちはまったくわからない。……一応双子なんだけどなぁ。
「それは一カ月前に終わった話だから!!」
そう、綺麗な女教師とのひと時の恋はもう終わっているのだ。
あれはいい思い出だ。割り切った後腐れのない楽しい関係だったしね。
「ふーん、そうなんだ。相変わらず君の軽薄な恋は回転が早いんだね」
エイデンは口元を覆った僕の手をゆっくりと取ると、楽しそうに笑った。
軽薄だなんて失礼だな。まぁ、間違ってはいないんだけどさ。
「エイデンは相変わらず一途そうだね」
彼の背中に隠されたシュミナ・パピヨンに目を向ける。
うん、一途はいいことだと思うよ。彼の愛が異常に重いのは置いておいて。
「ふふ、そうなんだ。僕は一人の女性に尽くしたいタイプだから」
「……エイデンの愛は重そうだなぁ」
思わず口から本音を漏らすと、エイデンのオレンジ色の瞳がすっと細められた。
怖い!! 叩きつけられるような殺気を感じる!! 僕の周囲にはどうして穏健派がいないのかな。
ミルカの『犬』も滅茶苦茶怖いしさぁ……もうやだなぁ。僕は癒されたいよ……。
「そういえば君のところの伯爵が、ビアンカ嬢のクラスで接客をしてたよ」
「サイトーサンが? 彼、そういうの好きだからねぇ。僕、ちょっと行ってくるよ」
口実も得たしエイデンに手を振って僕は彼から離れた。
怖いものには近づかないのが一番だよ……。エイデンのことは嫌いじゃないんだけどね。女の趣味とかちょっと闇が深いのとか、色々思うところはあるけど僕は彼を友人だと思ってるんだ。
ふと窓の外を見ると騎士祭がある演習場の方へ向かうビアンカ嬢一行が目に入った。ビアンカ嬢の頭にはウサギの耳、ミルカは……栗鼠かなあれは。そして例の怖い従僕には狼の耳と尻尾が付いている。
仮装喫茶をするって言ってたもんなぁ……なんて思いながらそれを眺めていると。
従僕が、スッとこちらに視線を向けた。
冷えた目に射抜かれ思わず背筋が粟立つ。なんなの、ビアンカ嬢を視界に収めることすら許されないの!? というかあの『犬』どうやって僕に気づいたんだろう。怖いなぁ。
「あれ、メイカ王子。来てくれたの?」
ビアンカ嬢のクラスでサイトーサンの人好きのする笑顔に迎えられた時。
僕はようやく人心地つくことができたのだった。
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