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令嬢13歳・騎士祭の決着
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「ノエル様って本当にすごいのですわね」
ノエル様の決勝進出に感動したわたくしは、興奮しながらフィリップ王子に話しかけた。
すると彼は自分が褒められたかのような得意げな顔で嬉しそうに笑う。……フィリップ王子って本当に、ノエル様のことが大好きよね。
親友、っていいなと二人の関係を見ていると思ってしまう。女友達ができたことすら直近のことであるわたくしにとっては、とても憧れてしまう関係というか。
……ミルカ王女やゾフィー様、マリア様がいずれわたくしのことをそう思ってくださるといいのだけど。
ベルリナ様とも仲良くなりたいけど……。そう思いながら彼女の方を伺い見るとばちりと目が合ってしまった。
「なにかしら、ビアンカ。御用があるなら言いなさい」
「い……いえ、別に……」
ツン! とした調子で言われてしまい、わたくしは愛想笑いで誤魔化した。……仲良く、なれるかなぁ。
「今までの相手は格下だった。だから怪我を負っても消耗が少ない短期決戦に持ち込み勝利できたんだ。だが……ノエル相手に対し長期戦に持ち込めるような実力が近い相手の場合は……」
フィリップ王子そう言うとは憂うような表情になる。
決勝の相手は騎士の拝命をもう受けている三年のアイン様だ。
ノエル様の不得意な魔法も得意だというし、どうにも手強そうな相手なのよね。
「……長期戦だと怪我の影響が心配ですわね」
「本当に……あの怪我さえなければな」
フィリップ王子とわたくしは深いため息をついた。
リュオンがしでかしたことを今さらどうにもできないのだけれど……。
「……ノエル様が、無理をしなければいいのですけど」
ゾフィー様がぽつりと言う。それはわたくしも心配なのよね。
王宮からの治癒師が派遣されるとはいえ、無理をすれば怪我の悪化が今後に響くようなことになりかねない。
でもゾフィー様との婚約もかかってらっしゃるしなぁ……頑張りすぎて仕方ない理由が、ノエル様にはあるのだ。
アリーナに二人の騎士が現れ、会場は熱気に包まれる。
決勝戦が、始まるのだ。
ノエル様はその端正なお顔に穏やかな笑みを浮かべていて怪我をしているようには一見見えない。だけど……右足のトラウザーズの下にはあの白い包帯が巻かれているのだ。
ノエル様の対戦相手のアイン様は肩までの銀髪を靡かせた優しい顔立ちの美丈夫だ。この世界って本当に美形が多いわね。
客席からはノエル様とアイン様に歓声が飛んでいる……主に令嬢たちの黄色い声が。二人とも美形だものね、応援に熱が入る気持ちはすごくわかる。
『こっちむいて♡』とか書いた団扇を持って応援したら楽しそうだなぁ……なんて思ってしまうのは前世の業ですね。
「とうとう始まってしまいますのね……どうしましょう……!」
「ゾフィーさん落ち着いて……!」
ソワソワするゾフィー様の頭をマリア様が落ち着かせようと優しく撫でる。
色々な要因が絡み合っているからゾフィー様の心中はわたくしとは比較にならないくらい、穏やかじゃないだろうなぁ……。
「両者、前へ!」
審判を務める教師の声が上がる。ああ……とうとう始まってしまうんだ。
お二人はアリーナの中央に進み出て礼を取る。そしてすらりと剣を抜いた。
「決勝戦、始め!!!」
試合開始の合図と共に二人が剣を構えた。
ノエル様はリュオンの時と同じようにレイピアを左手で縦に構え、アイン様の様子を伺っている。
アイン様はいかにも騎士が持つといった感じの長剣を、肩に担ぐような構えで持ちじりじり距離を縮め……地面を軽く蹴ってノエル様の方へと疾った。
二人の距離が一気に縮まる。
アイン様がノエル様に向かって隙のない動作で剣を薙ぎ払う。それをノエル様はレイピアで軽く弾き返した。
しかしノエル様が返すように突きを入れる前にアイン様の追撃が入り、二人の刃は激しいしのぎを削る。
ノエル様は力で剣を弾き返し素早く突きを入れた。アイン様はそれを躱しその勢いを利用して鋭い斬撃を放つ。
アイン様の振るう剣戟には速さがあり、なおかつ重いのだろう。受けるノエル様の体が僅かに傾ぎ体を支えようと右足を踏ん張った時……彼の顔が歪むのが見えた。
やっぱり、怪我の具合は思わしくないんだ。
マクシミリアンの手を思わず強く握ってしまう。うう、緊張で手汗をすごくかいてそうね。今はそれを気にしている余裕はないのだけれど……。
「ノエル様……!!」
ゾフィー様が立ち上がり切羽詰まった声でノエル様の名前を呼んだ。
二人は激しい打ち合いを繰り返しているけれど、どちらも決定打には至らない。
二人の実力は伯仲している。いや……怪我をしていなければ、ノエル様の方が勝っていたのかもしれない。
ノエル様の表情はどんどん苦痛に満ちたものになり、だけど彼は一歩も引かず剣を振るう手を弛めなかった。
「……血が……!!」
ゾフィー様の声にハッとなってノエル様の右足を見ると、トラウザーズが真っ赤に染まっていた。傷口が開いてしまったんだわ……!
「ノエルもういい、止めろ……!!」
フィリップ王子が悲愴な声を上げる。
「ノエル様のバカ……!無理はしないと約束しましたのに!!」
ゾフィー様も涙を流しながらノエル様に向かって叫ぶ。
だけどノエル様は、脂汗を垂らし歯を食いしばりながらも剣を振るい続けた。
アイン様が後ろに飛んでノエル様から距離を取る。そしてなにか魔法の詠唱を始めたようだった。
させまいとノエル様が走ろうとするけれど……痛みに顔を顰め体が大きく傾いでしまう。
その隙を、アイン様が見逃してくれるはずがなかった。
彼の放った風の魔法の衝撃がノエル様の胸を打ち……勝負は決したのだった。
ノエル様の決勝進出に感動したわたくしは、興奮しながらフィリップ王子に話しかけた。
すると彼は自分が褒められたかのような得意げな顔で嬉しそうに笑う。……フィリップ王子って本当に、ノエル様のことが大好きよね。
親友、っていいなと二人の関係を見ていると思ってしまう。女友達ができたことすら直近のことであるわたくしにとっては、とても憧れてしまう関係というか。
……ミルカ王女やゾフィー様、マリア様がいずれわたくしのことをそう思ってくださるといいのだけど。
ベルリナ様とも仲良くなりたいけど……。そう思いながら彼女の方を伺い見るとばちりと目が合ってしまった。
「なにかしら、ビアンカ。御用があるなら言いなさい」
「い……いえ、別に……」
ツン! とした調子で言われてしまい、わたくしは愛想笑いで誤魔化した。……仲良く、なれるかなぁ。
「今までの相手は格下だった。だから怪我を負っても消耗が少ない短期決戦に持ち込み勝利できたんだ。だが……ノエル相手に対し長期戦に持ち込めるような実力が近い相手の場合は……」
フィリップ王子そう言うとは憂うような表情になる。
決勝の相手は騎士の拝命をもう受けている三年のアイン様だ。
ノエル様の不得意な魔法も得意だというし、どうにも手強そうな相手なのよね。
「……長期戦だと怪我の影響が心配ですわね」
「本当に……あの怪我さえなければな」
フィリップ王子とわたくしは深いため息をついた。
リュオンがしでかしたことを今さらどうにもできないのだけれど……。
「……ノエル様が、無理をしなければいいのですけど」
ゾフィー様がぽつりと言う。それはわたくしも心配なのよね。
王宮からの治癒師が派遣されるとはいえ、無理をすれば怪我の悪化が今後に響くようなことになりかねない。
でもゾフィー様との婚約もかかってらっしゃるしなぁ……頑張りすぎて仕方ない理由が、ノエル様にはあるのだ。
アリーナに二人の騎士が現れ、会場は熱気に包まれる。
決勝戦が、始まるのだ。
ノエル様はその端正なお顔に穏やかな笑みを浮かべていて怪我をしているようには一見見えない。だけど……右足のトラウザーズの下にはあの白い包帯が巻かれているのだ。
ノエル様の対戦相手のアイン様は肩までの銀髪を靡かせた優しい顔立ちの美丈夫だ。この世界って本当に美形が多いわね。
客席からはノエル様とアイン様に歓声が飛んでいる……主に令嬢たちの黄色い声が。二人とも美形だものね、応援に熱が入る気持ちはすごくわかる。
『こっちむいて♡』とか書いた団扇を持って応援したら楽しそうだなぁ……なんて思ってしまうのは前世の業ですね。
「とうとう始まってしまいますのね……どうしましょう……!」
「ゾフィーさん落ち着いて……!」
ソワソワするゾフィー様の頭をマリア様が落ち着かせようと優しく撫でる。
色々な要因が絡み合っているからゾフィー様の心中はわたくしとは比較にならないくらい、穏やかじゃないだろうなぁ……。
「両者、前へ!」
審判を務める教師の声が上がる。ああ……とうとう始まってしまうんだ。
お二人はアリーナの中央に進み出て礼を取る。そしてすらりと剣を抜いた。
「決勝戦、始め!!!」
試合開始の合図と共に二人が剣を構えた。
ノエル様はリュオンの時と同じようにレイピアを左手で縦に構え、アイン様の様子を伺っている。
アイン様はいかにも騎士が持つといった感じの長剣を、肩に担ぐような構えで持ちじりじり距離を縮め……地面を軽く蹴ってノエル様の方へと疾った。
二人の距離が一気に縮まる。
アイン様がノエル様に向かって隙のない動作で剣を薙ぎ払う。それをノエル様はレイピアで軽く弾き返した。
しかしノエル様が返すように突きを入れる前にアイン様の追撃が入り、二人の刃は激しいしのぎを削る。
ノエル様は力で剣を弾き返し素早く突きを入れた。アイン様はそれを躱しその勢いを利用して鋭い斬撃を放つ。
アイン様の振るう剣戟には速さがあり、なおかつ重いのだろう。受けるノエル様の体が僅かに傾ぎ体を支えようと右足を踏ん張った時……彼の顔が歪むのが見えた。
やっぱり、怪我の具合は思わしくないんだ。
マクシミリアンの手を思わず強く握ってしまう。うう、緊張で手汗をすごくかいてそうね。今はそれを気にしている余裕はないのだけれど……。
「ノエル様……!!」
ゾフィー様が立ち上がり切羽詰まった声でノエル様の名前を呼んだ。
二人は激しい打ち合いを繰り返しているけれど、どちらも決定打には至らない。
二人の実力は伯仲している。いや……怪我をしていなければ、ノエル様の方が勝っていたのかもしれない。
ノエル様の表情はどんどん苦痛に満ちたものになり、だけど彼は一歩も引かず剣を振るう手を弛めなかった。
「……血が……!!」
ゾフィー様の声にハッとなってノエル様の右足を見ると、トラウザーズが真っ赤に染まっていた。傷口が開いてしまったんだわ……!
「ノエルもういい、止めろ……!!」
フィリップ王子が悲愴な声を上げる。
「ノエル様のバカ……!無理はしないと約束しましたのに!!」
ゾフィー様も涙を流しながらノエル様に向かって叫ぶ。
だけどノエル様は、脂汗を垂らし歯を食いしばりながらも剣を振るい続けた。
アイン様が後ろに飛んでノエル様から距離を取る。そしてなにか魔法の詠唱を始めたようだった。
させまいとノエル様が走ろうとするけれど……痛みに顔を顰め体が大きく傾いでしまう。
その隙を、アイン様が見逃してくれるはずがなかった。
彼の放った風の魔法の衝撃がノエル様の胸を打ち……勝負は決したのだった。
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