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閑話24・短編まとめ11
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活動報告にアップしている短編まとめその11です。
文字数の関係で近況ボードには投げていないものになります。
少し加筆したりしております。
『お嬢様の来訪』(学園編お付き合い後)
『雪の降る日に待つ人』(お嬢様10歳くらいの頃)
『話すべき言葉などはない』(フィリップ王子とマクシミリアンのある日の会話)
----------------------------------------
『お嬢様の来訪』
使用人寮でのんびりと、休日の微睡みを貪っている時。
部屋の扉がカチャリ、と音を立て開いた。
誰だ……? ジョアンナか。ジョアンナしかいないな。
この部屋の鍵を持っているのはジョアンナとお嬢様だけだ。
不埒な輩だった場合は犬が警告を発してくれるので、身内しかいない。
そんなことを思いながら無視を決め込もうと私は枕を抱いて上掛けの中で背中を丸めた。
ちなみに本日のお嬢様は街へミルカ王女と行くそうだ。
私はミルカ王女に邪魔者扱いされてしまったので、お二人の影に護衛の犬だけ仕込んで……要は不貞寝を決め込んでいるわけだ。
ベッドに誰かが近づいてくる。誰か……? いや、この香りはお嬢様の? 何故だ。
お出かけされたのではなかったのか……!?
小さな気配はさらに近くへときて、上掛けをめくり私の寝台へ侵入してきた。
「……マクシミリアン」
お嬢様の囁くような声がしたと思うと、背中にぎゅうっとしがみつく気配がした。
背中に柔らかな体の感触が伝わり私の心臓は大きく跳ねた。
……一体何が起きてるんだ。
「えへへ、無防備なマクシミリアン……! レア、レアだわ! 可愛い!」
ぐりぐりと背中に顔を押しつけられる。
「マクシミリアンの匂い……! ああ、好き……!」
すはすはと、お嬢様が息を吸い込む気配がして私は赤面した。
昨日風呂には入ったが、寝汗をかいているかもしれない。男の匂いをそんなに無遠慮に嗅がれては困る。
「マクシミリアン、マクシミリアン」
名前を小声で呼びながら、お嬢様は幸せそうなため息を漏らす。
「大好き……」
「えっと……お嬢様」
「ひゃあ!!」
たまらずお嬢様の方に体を向けると、彼女は小さく悲鳴を上げた。
「起きてたの……?」
お嬢様は銀色の睫毛を伏せながら恥ずかしそうに頬を染める。いつものことながらお可愛らしいな……。
「いけませんよ、お嬢様。男の部屋になんか来て……」
「マクシミリアンのお部屋は整理整頓されてて綺麗よ。恥ずかしいことなんてないじゃない」
ぷくり、と頬を膨らませて彼女は言うが、そういう問題ではない。
「しかも男の寝床に潜り込むなんて……」
「マクシミリアンは、恋人……でしょう? 問題ないわよね?」
顔を赤くしてお嬢様は首を傾げる。色々問題大ありだ。我慢がきかなくなったらどうするんだ……!
お嬢様は時折私に忍耐を強いる時がある。恐らく意識は全くしていないのだろうが。
「……お出かけは?」
「中止になってしまったの。ミルカ様、ご用事ができてしまったんですって」
そう言いながらお嬢様は今度は正面から抱きついて、私の胸に幸せそうに頬をすり寄せた。
「ふふ、休日の無防備なマクシミリアンなんてレア中のレアでいいわね。髪が少し乱れてて、服装もいつもよりラフで、すごくすごく素敵ね。少し寝ぼけたお顔もとてもいいわ」
「……お嬢様は、小悪魔ですか」
そんなものを見られても、恥ずかしいだけだ。
ぎゅっと彼女の頬を抓ると、お嬢様は不満そうな顔で可愛くこちらを睨む。
そんな彼女を抱きしめると先ほどまでは自分からこちらにちょっかいを出していたのに、彼女は途端に慌てだした。
「恥ずかしいから、離して!」
「……先ほどはお嬢様が抱きついていたでしょうに」
「わ……わたくしからはいいの!!」
……お嬢様は、やっぱり小悪魔ですね。
----------------------------------------
『雪の降る日に待つ人』
しんしんと雪が降っている。それは広いシュラット侯爵家の庭を覆い隠し、一面を白銀に染めた。
わたくしは庭の片隅に作った畑のことが心配になったけれど、シートを被せて火の魔石をいくつか埋めているから多分大丈夫なはず。うん。
待ち人はまだ、帰ってこない。
馬車での移動は雪だと大変だろうから……想定よりも時間がかかっているのかもしれない。
わたくしが待っているのは、マクシミリアン・セルバンデス。将来わたくしの執事になる人。
ルミナティ魔法学園の冬休み期間で、彼が帰ってくるのを待ち構えているのだ。
彼が居ない間の生活はどこか寂しくて、空虚で。わたくしは指折り、彼が帰る日までの残り日数を数える毎日だった。
(大丈夫かしら。事故になんて遭ってない?)
落ち着かずに部屋をうろうろとするわたくしを、ジョアンナがなんだか生温かい目で観察している。
だって楽しみにしていたのだもの……!
そうこうしていると邸の前に馬車が着いた音がして。わたくしは、慌てて玄関まで走った。
後ろからジョアンナの『お嬢様、はしたないですよ!』なんて声が聞こえてきた気もするけれど、気にしてなんていられない。
玄関に着くと、黒いコートの上に積もった雪を払いながらマクシミリアンが扉を開けたところだった。
彼はわたくしを見て一瞬驚いたように目を丸くした後に、優しく微笑んでくれる。
「おかえりなさい。マクシミリアン」
「ただいま戻りました、お嬢様」
すっかり湿っているのであろう水分を含んで重そうな手袋を取った彼の手は冷たそうで。
「冷たそうね……!」
わたくしは思わずその手を握った。わっ……冷たい! 思った通りよ!
こちらの手は子供体温だから、あったかいはずよ。
にぎにぎ、ぎゅっぎゅとマクシミリアンの手を握ったり離したり……まだ、冷たいわね。
口を寄せて、ハーッと何度か息を吹きかけて手で挟んで一生懸命擦る。
……少しは暖かくなったかしら?
ちらり、とマクシミリアンの方を伺うと彼のお顔は真っ赤になっていた。
……十分暖まったのかしら?
----------------------------------------
『話すべき言葉などはない』
なんの因果か、俺フィリップ・ブラバンドはビアンカの執事マクシミリアンと二人きりでいる。
正直、居心地が悪い。どうしてこうなったかというと、カフェテリアでお茶を飲んでいたらビアンカをミルカ王女が『女同士の秘密の話』とか言いながらどこかへ引っ張っていってしまったからだ。
そして男たち……つまり俺とマクシミリアンがその場には残されてしまった。
……こいつと一体なんの話をすればいいんだ。
いや、人の家の侍従なんだし、別に話をする必要もないのか?
ノエルがいてくれればな。だけどあいつはゾフィー嬢と今日はデートらしいから。くそっ、なんて羨ましいんだ。俺もビアンカとデートがしたい。
二人で街を手を繋いで歩き、服を選んでやったりしてだな。さりげなく彼女の唇を奪ったりしたいんだ、俺は。ビアンカは抱きしめるといい香りがするんだろうな……。
そんなことを考えながら頬を染めていると、マクシミリアンに底冷えする目でじっと見つめられていた。
「……なんだ、マクシミリアン」
「いえ……不埒なことを考えている気配がしたものですから。お嬢様を勝手に妄想のネタにしないで頂きたい」
「……妄想でなく、主人の娘に実際に手出ししているお前には一番言われたくない」
影からの報告ではこいつはビアンカとその……口づけなんかもだな……くそっ。絶対にこいつ、影につけられているのに気づいているだろう! 俺に見せつけたいのだな!
俺が苛立ちながらヤツを睨むと、マクシミリアンは否定もせず……勝ち誇ったようにニヤリと笑った。
……絶対に、ビアンカは奪ってやるからな……!!
文字数の関係で近況ボードには投げていないものになります。
少し加筆したりしております。
『お嬢様の来訪』(学園編お付き合い後)
『雪の降る日に待つ人』(お嬢様10歳くらいの頃)
『話すべき言葉などはない』(フィリップ王子とマクシミリアンのある日の会話)
----------------------------------------
『お嬢様の来訪』
使用人寮でのんびりと、休日の微睡みを貪っている時。
部屋の扉がカチャリ、と音を立て開いた。
誰だ……? ジョアンナか。ジョアンナしかいないな。
この部屋の鍵を持っているのはジョアンナとお嬢様だけだ。
不埒な輩だった場合は犬が警告を発してくれるので、身内しかいない。
そんなことを思いながら無視を決め込もうと私は枕を抱いて上掛けの中で背中を丸めた。
ちなみに本日のお嬢様は街へミルカ王女と行くそうだ。
私はミルカ王女に邪魔者扱いされてしまったので、お二人の影に護衛の犬だけ仕込んで……要は不貞寝を決め込んでいるわけだ。
ベッドに誰かが近づいてくる。誰か……? いや、この香りはお嬢様の? 何故だ。
お出かけされたのではなかったのか……!?
小さな気配はさらに近くへときて、上掛けをめくり私の寝台へ侵入してきた。
「……マクシミリアン」
お嬢様の囁くような声がしたと思うと、背中にぎゅうっとしがみつく気配がした。
背中に柔らかな体の感触が伝わり私の心臓は大きく跳ねた。
……一体何が起きてるんだ。
「えへへ、無防備なマクシミリアン……! レア、レアだわ! 可愛い!」
ぐりぐりと背中に顔を押しつけられる。
「マクシミリアンの匂い……! ああ、好き……!」
すはすはと、お嬢様が息を吸い込む気配がして私は赤面した。
昨日風呂には入ったが、寝汗をかいているかもしれない。男の匂いをそんなに無遠慮に嗅がれては困る。
「マクシミリアン、マクシミリアン」
名前を小声で呼びながら、お嬢様は幸せそうなため息を漏らす。
「大好き……」
「えっと……お嬢様」
「ひゃあ!!」
たまらずお嬢様の方に体を向けると、彼女は小さく悲鳴を上げた。
「起きてたの……?」
お嬢様は銀色の睫毛を伏せながら恥ずかしそうに頬を染める。いつものことながらお可愛らしいな……。
「いけませんよ、お嬢様。男の部屋になんか来て……」
「マクシミリアンのお部屋は整理整頓されてて綺麗よ。恥ずかしいことなんてないじゃない」
ぷくり、と頬を膨らませて彼女は言うが、そういう問題ではない。
「しかも男の寝床に潜り込むなんて……」
「マクシミリアンは、恋人……でしょう? 問題ないわよね?」
顔を赤くしてお嬢様は首を傾げる。色々問題大ありだ。我慢がきかなくなったらどうするんだ……!
お嬢様は時折私に忍耐を強いる時がある。恐らく意識は全くしていないのだろうが。
「……お出かけは?」
「中止になってしまったの。ミルカ様、ご用事ができてしまったんですって」
そう言いながらお嬢様は今度は正面から抱きついて、私の胸に幸せそうに頬をすり寄せた。
「ふふ、休日の無防備なマクシミリアンなんてレア中のレアでいいわね。髪が少し乱れてて、服装もいつもよりラフで、すごくすごく素敵ね。少し寝ぼけたお顔もとてもいいわ」
「……お嬢様は、小悪魔ですか」
そんなものを見られても、恥ずかしいだけだ。
ぎゅっと彼女の頬を抓ると、お嬢様は不満そうな顔で可愛くこちらを睨む。
そんな彼女を抱きしめると先ほどまでは自分からこちらにちょっかいを出していたのに、彼女は途端に慌てだした。
「恥ずかしいから、離して!」
「……先ほどはお嬢様が抱きついていたでしょうに」
「わ……わたくしからはいいの!!」
……お嬢様は、やっぱり小悪魔ですね。
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『雪の降る日に待つ人』
しんしんと雪が降っている。それは広いシュラット侯爵家の庭を覆い隠し、一面を白銀に染めた。
わたくしは庭の片隅に作った畑のことが心配になったけれど、シートを被せて火の魔石をいくつか埋めているから多分大丈夫なはず。うん。
待ち人はまだ、帰ってこない。
馬車での移動は雪だと大変だろうから……想定よりも時間がかかっているのかもしれない。
わたくしが待っているのは、マクシミリアン・セルバンデス。将来わたくしの執事になる人。
ルミナティ魔法学園の冬休み期間で、彼が帰ってくるのを待ち構えているのだ。
彼が居ない間の生活はどこか寂しくて、空虚で。わたくしは指折り、彼が帰る日までの残り日数を数える毎日だった。
(大丈夫かしら。事故になんて遭ってない?)
落ち着かずに部屋をうろうろとするわたくしを、ジョアンナがなんだか生温かい目で観察している。
だって楽しみにしていたのだもの……!
そうこうしていると邸の前に馬車が着いた音がして。わたくしは、慌てて玄関まで走った。
後ろからジョアンナの『お嬢様、はしたないですよ!』なんて声が聞こえてきた気もするけれど、気にしてなんていられない。
玄関に着くと、黒いコートの上に積もった雪を払いながらマクシミリアンが扉を開けたところだった。
彼はわたくしを見て一瞬驚いたように目を丸くした後に、優しく微笑んでくれる。
「おかえりなさい。マクシミリアン」
「ただいま戻りました、お嬢様」
すっかり湿っているのであろう水分を含んで重そうな手袋を取った彼の手は冷たそうで。
「冷たそうね……!」
わたくしは思わずその手を握った。わっ……冷たい! 思った通りよ!
こちらの手は子供体温だから、あったかいはずよ。
にぎにぎ、ぎゅっぎゅとマクシミリアンの手を握ったり離したり……まだ、冷たいわね。
口を寄せて、ハーッと何度か息を吹きかけて手で挟んで一生懸命擦る。
……少しは暖かくなったかしら?
ちらり、とマクシミリアンの方を伺うと彼のお顔は真っ赤になっていた。
……十分暖まったのかしら?
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『話すべき言葉などはない』
なんの因果か、俺フィリップ・ブラバンドはビアンカの執事マクシミリアンと二人きりでいる。
正直、居心地が悪い。どうしてこうなったかというと、カフェテリアでお茶を飲んでいたらビアンカをミルカ王女が『女同士の秘密の話』とか言いながらどこかへ引っ張っていってしまったからだ。
そして男たち……つまり俺とマクシミリアンがその場には残されてしまった。
……こいつと一体なんの話をすればいいんだ。
いや、人の家の侍従なんだし、別に話をする必要もないのか?
ノエルがいてくれればな。だけどあいつはゾフィー嬢と今日はデートらしいから。くそっ、なんて羨ましいんだ。俺もビアンカとデートがしたい。
二人で街を手を繋いで歩き、服を選んでやったりしてだな。さりげなく彼女の唇を奪ったりしたいんだ、俺は。ビアンカは抱きしめるといい香りがするんだろうな……。
そんなことを考えながら頬を染めていると、マクシミリアンに底冷えする目でじっと見つめられていた。
「……なんだ、マクシミリアン」
「いえ……不埒なことを考えている気配がしたものですから。お嬢様を勝手に妄想のネタにしないで頂きたい」
「……妄想でなく、主人の娘に実際に手出ししているお前には一番言われたくない」
影からの報告ではこいつはビアンカとその……口づけなんかもだな……くそっ。絶対にこいつ、影につけられているのに気づいているだろう! 俺に見せつけたいのだな!
俺が苛立ちながらヤツを睨むと、マクシミリアンは否定もせず……勝ち誇ったようにニヤリと笑った。
……絶対に、ビアンカは奪ってやるからな……!!
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