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閑話21・短編まとめ8

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活動報告などにちょこちょこ上げている短編のまとめその8です。
時系列は全て学園編でお付き合い後。『寝る』話が多いですね。

『怖い夢を見た日には』ビアンカside(お嬢様がみた怖い夢のお話)
『怖い夢を見た日には』マクシミリアンside(怖い夢をみたお嬢様と執事の話)
『マクシミリアンと添い寝』(寮のお部屋での一幕)
『あるリセマラヒロインの憂鬱』
(今のシュミナとは中身が違う完全なパラレル。世界のシステムも違います)

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『怖い夢を見た日には』ビアンカside

 夢を見た。

 わたくしは、ゲーム通りの悪役令嬢のビアンカ・シュラットで。
 マクシミリアンから憎々しげな表情で睨まれながら、シュミナを傷つけようとしたことを罵られている。
 ああ……これはゲームのクライマックスだ。
 夢の中でそんなことをぼんやりと思った。
 『今』のマクシミリアンが絶対にわたくしに向けない冷たい目を向けられて、心が軋むようで……悲鳴を上げたかったのに。
 わたくしの口は別の言葉を紡いだ。

『その女が悪いんじゃない! わたくしの犬に、色目なんて使って!』

 (マクシミリアン、そんな目で見ないで)

 悪役令嬢の台詞を叫びながら、『今』のわたくしが彼に届かない声で叫ぶ。

『私は、お前のものなどではない』

 マクシミリアンに底冷えする声音で言い放たれ、心が、またギシリと音を立てて軋む。

 (いや、いやなのマクシミリアン!)

 わたくしの前から、マクシミリアンが去って行く。
 何度叫んでも、彼の背中にわたくしの声は届かなくて。

 (行かないで!!)

 ひと際大きく夢の中のわたくしが叫んだ瞬間。

 朝の光の中……目が覚めて。涙が溢れていることに気づいた。
 涙が耳に入らないように気をつけながら身を起こして、手でぐしぐしと濡れた頬を拭う。
 ああ……なんて嫌な夢。
 もしかすると、現実だったかもしれない、そんな夢。

「お嬢様、おはようございます」

 マクシミリアンが部屋に入ってきて、寝起きが悪いわたくしがもう起きていることに少し驚いた顔をする。朝はジョアンナかマクシミリアンが必ず起こしにくるのだ。
 ぼんやりと、マクシミリアンの顔を見つめる。
 ……このマクシミリアンは、わたくしが知っているマクシミリアンなのかしら……?

「お嬢様……泣いているのですか?」

 彼はわたくしの顔を見ると慌てたように駆け寄るとわたくしの頬を両手でふわりと包み、優しく額にキスをする。

「……こわい……夢をみたの」

 涙が、嗚咽が、止まらなくてどうしていいのかわからない。
 マクシミリアンは困惑したような顔をして、心配そうに首を傾げた。

「お嬢様。泣かないでください……私まで悲しくなります」

 そう言って彼が優しく抱きしめてくれるから。
 ああ、わたくしのマクシミリアンなんだ、という安堵感で胸が満ちていった。

「マクシミリアン、愛してるの。どこにも……行かないで」

 感情の波に翻弄されながらうわ言のようにそんな言葉が口から零れる。
 彼の胸に縋りついて、わたくしはまた嗚咽を漏らした。
 マクシミリアンは少し驚いた顔をした後に。

「愛しています、どこにも行きませんよ」

 と優しく囁いてくれた。

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『怖い夢を見た日には』マクシミリアンside

 いつもの時間にお嬢様を起こしに寮の部屋へと向かうと、寝起きがあまりよろしくないお嬢様が珍しくすでに寝台の上に身を起こしていた。
 しかし……その様子がなにかおかしい。
 銀色の睫毛に縁取られた湖面の色の瞳からはとめどなく雫が溢れ、お嬢様はしゃくりを上げながら頬を伝うその涙を拭っている。
 一体どうされたのか……!
 私は心配になり早足で駆けつけお嬢様の頬を両手で包むと、安心させようと額にできるだけ優しくキスをする。

「……こわい……夢をみたの」

 お嬢様がか細い声でそう言う。そしてまたぽろり、と頬に透明な雫が伝った。

「お嬢様。泣かないでください……私まで悲しくなります」

 か細い体に腕を回し抱きしめると、お嬢様は私の腕の中で体を震わせながらしばらく嗚咽を上げていた。
 ……どんな怖い夢を見たのだろう。私に、お気持ちは癒せるのだろうか。
 そんなことを考えながらお嬢様の背中を撫でさすり、ハンカチを取り出して時折涙を拭ってさしあげる。

「マクシミリアン、愛してるの。どこにも……行かないで」

 お嬢様はか細い声でそう私に懇願し、また小さく声を上げて泣く。
 その言葉に……私は驚き、そして不謹慎にも嬉しい気持ちになってしまった。
 お嬢様が、私を愛している。それはなんて……甘美な響きなのだろう。

「愛しています、どこにも行きませんよ」

 お嬢様のお耳にそっと囁くとお嬢様は安心したように少しだけ微笑んだ。

 その日のお嬢様は大変嬉しいことなのだが……授業を休み一日中私にべったりだった。
 今もソファーに腰をかけた私の上に向い合せに座り、ぎゅうぎゅうとその身を寄せながら抱きつき胸に頬をすり寄せている。
 ……可愛い。
 いや、しかしお嬢様は私が男だと忘れていないか!?
 それとも私は忍耐力を試されているのだろうか……。

「マクシミリアン、大好き。わたくし悪い子にならないから。嫌いにならないでね……」

 そう言いながらお嬢様は私の頬に柔らかな唇を押し当て、頬を染めて潤んだ目で見つめてくる。
 ……お嬢様、今貴女は私の男としての自制心を試す非常に悪い子ですよ? 自覚がないのが本当に困る。

 ……お嬢様の悲しみの原因になった夢の詳しい内容をお聞きしたいのだが。

 今の私は、それどころではない。

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『マクシミリアンと添い寝』

陽光差す寮の部屋の長椅子で読書をしているうちに、わたくしの意識は少しずつ部屋の暖かさに蕩け、本格的に寝入ってしまったようだった。
目が覚めるとソファーが妙に温かい。
嗅ぎ慣れた香りがする。これは……マクシミリアンのミントの香水の香り。
そして頭をゆるりゆるりと、優しく撫でられているような。
顔を上げると、ぼんやりした視界にマクシミリアンのお顔が映った。

「……マクシミリアン、美人……」

思わずそう呟くと奇麗な顔で照れたように微笑まれて、わたくしも思わずにへら、と笑ってしまう。
ふわりと優しく抱きしめられてその温かさに安心し再び寝入ろうとして、わたくしは違和感に気づいた。
……マクシミリアンに、わたくし抱きしめられてる?どうして?
無理やり意識を覚醒させて現状を確認する。
――マクシミリアンの上で、わたくし寝てるわね。

「マクシミリアン!!!」
「なんですか、お嬢様」
「どうしてわたくし、貴方の上で寝ているのかしら?」
「お嬢様が長椅子の上ですっかり寝入ってらっしゃったので、お風邪を召されたらよくないと思いまして……温めておりました」

言いながらマクシミリアンはわたくしの脇の下に手を入れ、ずりずりとわたくしの体を上の方へと移動させる。
眼前に迫るマクシミリアンのお顔に、わたくしは動揺してしまった。
……こんな奇麗な顔、見慣れようがない!
というか。

「その理屈がよく分からないわ!毛布を掛けてくれればいいでしょう!?」
「毛布よりも人肌の方が温かいですよ?」

そう言いながらマクシミリアンはわたくしをぎゅうっと抱きしめる。
確かにあったかい……あったかいんだけど……!

「マクシ……」
「……お嬢様、私との添い寝は嫌ですか?」

跳ねのけようとしたらしゅん、と拗ねたような顔をされてしまいわたくしは思わず、首を横に振ってしまい内心『しまった!』と思うけれどもう遅い。
うっとりと彼に微笑まれ、逆らえずに抱きしめられたまま午後を過ごす事になったのだった。
ウトウトとし、たまに目を覚ますとマクシミリアンの寝顔が目に入るのが本当に心臓に悪かったけど……。

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『あるリセマラヒロインの憂鬱』

 私は、この世界のヒロインだ。
 頭がおかしいと思われるだろうけど、これは紛れもない真実なのだ。
 この世界は私が前世で嗜んでいた『胡蝶の恋』という乙女ゲームのものらしい。
 そして私がそのヒロインのシュミナ・パピヨンに転生したのだと知った時、戸惑いつつも喜んだ。
 ブラック企業に勤めていたOLである私を癒してくれたあのゲームのヒロインになったんだから、そりゃあ嬉しい。きっとこれは過労死した私への神様からの贈り物……ボーナスステージだ。
 そんなボーナスステージの一周目は、フィリップ王子と結ばれた。
 それは幸福感で胸がいっぱいになる、とてもいい人生だった。
 そしてその人生は優しい子供と可愛い孫達に囲まれ穏やかに終わりを迎えたはずだった。
 けれど目を開けると私は二周目のこの世界に生まれ変わっていた。
 ――すごい、ボーナスステージが続くのか。
 私は喜び勇んで今度は悪役令嬢の執事であるマクシミリアンの攻略に勤しんだ。
 ……そして彼の攻略は、上手くいった……と思っていた。
 だけどゲームでいうエンディング後の世界で、私と彼はあっさりとお別れしてしまった。
 『シュミナは悪くない』と彼は気まずそうに笑いながら言う。
 じゃあどうして、ヒロインである私が彼に振られてしまったんだろう。
 二周目の人生は政略結婚をし、そしてそれなりに幸せに生きた。
 そして三周目のボーナスステージ。
 攻略を失敗してしまった、マクシミリアンの攻略に私はまた勤しむ。
 だけど形は少し違えど彼と『別れる』という結末は同じ。
 そして四周目、五周目。結末はやっぱり変わらない。
 六周目の人生で流石に気づいた。
 ――ああ、あの人は別の人をいつも見ている、と。
 マクシミリアンはいつも、悪役令嬢を目で追っていた。
 思い返せば、どの人生でも。

 攻略できないキャラなんて、聞いてないわ。

 もうリセマラはしたくない。攻略対象に振り回されるのは十分よ。
 そう思った私は、地味だけど癒される隣の席の男の子に声をかけたのだった。
 この人生が最良であり、終わりでありますように。
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