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令嬢13歳・ノエル様とリュオン・前
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騎士祭はトーナメント式で行われ、ノエル様とリュオンは初戦で当たるようだった。
ノエル様はリュオン相手だと危なげなく普段は勝っているようだけれど……エイデン様の言っていたことがやっぱり気になってしまう。
(本当にリュオンに妙なことを命令していないでしょうね……?)
エイデン様の方をチラリと見ると目があって優美に微笑まれた。……笑顔だけはほんと、女神みたいに綺麗な人ね。
人目が無いところあればマクシミリアンに『犬』での警護をお願いするところだけれど、流石にこれだけ人がいたらそれはできない。
だったら……。
わたくしは自分の胸元に光るペンダントを見つめた。ミーニャ王子から頂いた、受けた攻撃を弾くペンダント。幸いわたくしたちの席はアリーナに近く、投げればノエル様まで届くかもしれない。
うん、試合の埒外のことで何か起きた時は……いざとなったらこれを使おう。
わたくしは首からペンダントを外してぎゅっと手に握り込んだ。
ノエル様とリュオンが湧き立つ歓声の中アリーナの中央に進み出た。そして一礼をし剣を抜く。
ノエル様の鎧姿はとても凛々しくて素敵だ。だけど銀の鎧は胸と手足のみを覆うもので、兜のようなものはない。それを見ているとハラハラしてしまう。
模擬剣を使用しているし、頭部への打撃は失格になるから危険は少ないと思いたいけど……!
「では第一試合、始め!!」
審判をしている先生の合図でノエル様とリュオンが向かい合い、互いに剣を構えた。
ノエル様の得物は細身のレイピアで、リュオンの得物はその巨躯に似合った幅広のブロードソードだ。
あれってぶつかり合ったらノエル様の剣が折れてしまわないのかしら……! なんてそんな要らぬ心配をしてしまう。けれど得意だからこそノエル様はあの得物を選んでいるのだから、それに間違いはないんだろう。
リュオンがだらりと両手を垂らした伺うような構えなのに対し、ノエル様は背筋をピンと伸ばして左手で持った細剣を縦に構えている。
細剣だからフェンシングのように切っ先を突き出す構えをするのかと思ったら、そうじゃないのね。
じりっとリュオンが足を前に踏み出し、ノエル様へと歩を進めた。
ノエル様は微動だにせずリュオンを待ち受ける姿勢のようだ。
「……ノエル様……」
ゾフィー様はその美しい紫の瞳を大きく開いて、一心不乱にノエル様を見つめていた。
そんなゾフィー様の片手を、マリア様がしっかりと握りしめている。
「はっ!!」
気合い一閃、リュオンがノエル様へと駆ける。その巨躯の割にリュオンの動きは速い……!
そして腰を捻り回転の動きを加えながら猛烈な勢いでブロードソードを横へと薙ぎ払う。
「ふっ」
ノエル様は軽く息を吐き軸足を支点にし、体を逸らすのみの最小限の動きでそれを躱してしまう。そして鋭い突きをリュオンのがら空きになった胴に放った。
「ぐっ……!」
リュオンはその突きをギリギリのところで右の手甲を使って慌てて防いだ。キィン! と澄んだ甲高い音がし、銀の手甲とレイピアとの間で火花が散る。
ノエル様は容赦せず続けざまに鋭い斬撃を加える。それをリュオンは必死に防いでいるけれど……。
「すごいですわね……」
「うちのノエルはすごいんだ。言っただろう」
わたくしは思わず呟いた。フィリップ王子もとても嬉しそうな表情と声音だ。
ノエル様は……開始の合図の場から、一歩たりとも動かず涼しい顔のままなのだ。対してリュオンは移動を繰り返しながら大振りな動きで斬撃を放ち、躱しがてらに斬り返してくるノエル様の攻撃を防いではいるけれどその様子は余裕のものとは言い難い。
……二人の間には、大きな実力の差がある。それはわたくしのような素人目にも容易く見て取れた。
二人の攻防にワァッ! と場内に歓声が響く。
リュオンが一旦ノエル様から距離を取り、悔し気な表情でまた剣を構えなおした。
彼は負傷したのか、しきりに右手を振って状態を確認しているようだ。息も随分上がっているようだし……長期戦になればなるほど彼の敗色は濃くなっていくだろう。
ただ、実力を大きく上回るノエル様を攻める手がリュオンにはない。わたくしはそう感じた。
「はは、リュオン。いつも言ってるだろう。お前の動きは分かりやすいって」
「黙れ、ダウストリア。俺を仕留められなかったことを後悔するがいい」
ノエル様は息一つ切らさず、普段のように温和な笑みを浮かべながらリュオンに言う。
リュオンはそれに対して大声で吠えるけれど悔しげな本音を隠せていない。
わたくしはドヤ顔でエイデン様の方を見てみるけれど、彼はなんの感情も伺えない涼しい顔である。
……リュオン、貴方期待されていないのね。少し可哀想になるわ……。
「くそっ……!」
リュオンはブツブツと何かを小声で呟いているようだった。あれは……魔法の詠唱!
ノエル様もそれに気づいたようで、少し警戒するかのように剣を縦に構え直す。
リュオンの大きな掌に炎が生まれ、それはノエル様に放たれた。そして炎を放つと同時にリュオンの足が地面を蹴る。
魔法でノエル様の隙を作って、斬りつける気なのね! そんな戦略ノエル様にもバレバレなのだろうけど、問題はノエル様の魔法への対処……。
「ノエル様っ!!」
ゾフィー様が席から立ち上がり、大きく叫んだ。
ノエル様はその場から動かず……レイピアを一閃すると、炎を巻き取るようにして刀身へと纏わりつかせた。細剣はまるで元からそうだったように、燃ゆる刀身と化す。
そして驚愕に歪むリュオンの胸をノエル様の鋭い一撃が突き、勝敗は完全に決した。
……ノエル様はその場から一歩たりとも動かず。リュオンに勝利してしまったのだ。
ノエル様はリュオン相手だと危なげなく普段は勝っているようだけれど……エイデン様の言っていたことがやっぱり気になってしまう。
(本当にリュオンに妙なことを命令していないでしょうね……?)
エイデン様の方をチラリと見ると目があって優美に微笑まれた。……笑顔だけはほんと、女神みたいに綺麗な人ね。
人目が無いところあればマクシミリアンに『犬』での警護をお願いするところだけれど、流石にこれだけ人がいたらそれはできない。
だったら……。
わたくしは自分の胸元に光るペンダントを見つめた。ミーニャ王子から頂いた、受けた攻撃を弾くペンダント。幸いわたくしたちの席はアリーナに近く、投げればノエル様まで届くかもしれない。
うん、試合の埒外のことで何か起きた時は……いざとなったらこれを使おう。
わたくしは首からペンダントを外してぎゅっと手に握り込んだ。
ノエル様とリュオンが湧き立つ歓声の中アリーナの中央に進み出た。そして一礼をし剣を抜く。
ノエル様の鎧姿はとても凛々しくて素敵だ。だけど銀の鎧は胸と手足のみを覆うもので、兜のようなものはない。それを見ているとハラハラしてしまう。
模擬剣を使用しているし、頭部への打撃は失格になるから危険は少ないと思いたいけど……!
「では第一試合、始め!!」
審判をしている先生の合図でノエル様とリュオンが向かい合い、互いに剣を構えた。
ノエル様の得物は細身のレイピアで、リュオンの得物はその巨躯に似合った幅広のブロードソードだ。
あれってぶつかり合ったらノエル様の剣が折れてしまわないのかしら……! なんてそんな要らぬ心配をしてしまう。けれど得意だからこそノエル様はあの得物を選んでいるのだから、それに間違いはないんだろう。
リュオンがだらりと両手を垂らした伺うような構えなのに対し、ノエル様は背筋をピンと伸ばして左手で持った細剣を縦に構えている。
細剣だからフェンシングのように切っ先を突き出す構えをするのかと思ったら、そうじゃないのね。
じりっとリュオンが足を前に踏み出し、ノエル様へと歩を進めた。
ノエル様は微動だにせずリュオンを待ち受ける姿勢のようだ。
「……ノエル様……」
ゾフィー様はその美しい紫の瞳を大きく開いて、一心不乱にノエル様を見つめていた。
そんなゾフィー様の片手を、マリア様がしっかりと握りしめている。
「はっ!!」
気合い一閃、リュオンがノエル様へと駆ける。その巨躯の割にリュオンの動きは速い……!
そして腰を捻り回転の動きを加えながら猛烈な勢いでブロードソードを横へと薙ぎ払う。
「ふっ」
ノエル様は軽く息を吐き軸足を支点にし、体を逸らすのみの最小限の動きでそれを躱してしまう。そして鋭い突きをリュオンのがら空きになった胴に放った。
「ぐっ……!」
リュオンはその突きをギリギリのところで右の手甲を使って慌てて防いだ。キィン! と澄んだ甲高い音がし、銀の手甲とレイピアとの間で火花が散る。
ノエル様は容赦せず続けざまに鋭い斬撃を加える。それをリュオンは必死に防いでいるけれど……。
「すごいですわね……」
「うちのノエルはすごいんだ。言っただろう」
わたくしは思わず呟いた。フィリップ王子もとても嬉しそうな表情と声音だ。
ノエル様は……開始の合図の場から、一歩たりとも動かず涼しい顔のままなのだ。対してリュオンは移動を繰り返しながら大振りな動きで斬撃を放ち、躱しがてらに斬り返してくるノエル様の攻撃を防いではいるけれどその様子は余裕のものとは言い難い。
……二人の間には、大きな実力の差がある。それはわたくしのような素人目にも容易く見て取れた。
二人の攻防にワァッ! と場内に歓声が響く。
リュオンが一旦ノエル様から距離を取り、悔し気な表情でまた剣を構えなおした。
彼は負傷したのか、しきりに右手を振って状態を確認しているようだ。息も随分上がっているようだし……長期戦になればなるほど彼の敗色は濃くなっていくだろう。
ただ、実力を大きく上回るノエル様を攻める手がリュオンにはない。わたくしはそう感じた。
「はは、リュオン。いつも言ってるだろう。お前の動きは分かりやすいって」
「黙れ、ダウストリア。俺を仕留められなかったことを後悔するがいい」
ノエル様は息一つ切らさず、普段のように温和な笑みを浮かべながらリュオンに言う。
リュオンはそれに対して大声で吠えるけれど悔しげな本音を隠せていない。
わたくしはドヤ顔でエイデン様の方を見てみるけれど、彼はなんの感情も伺えない涼しい顔である。
……リュオン、貴方期待されていないのね。少し可哀想になるわ……。
「くそっ……!」
リュオンはブツブツと何かを小声で呟いているようだった。あれは……魔法の詠唱!
ノエル様もそれに気づいたようで、少し警戒するかのように剣を縦に構え直す。
リュオンの大きな掌に炎が生まれ、それはノエル様に放たれた。そして炎を放つと同時にリュオンの足が地面を蹴る。
魔法でノエル様の隙を作って、斬りつける気なのね! そんな戦略ノエル様にもバレバレなのだろうけど、問題はノエル様の魔法への対処……。
「ノエル様っ!!」
ゾフィー様が席から立ち上がり、大きく叫んだ。
ノエル様はその場から動かず……レイピアを一閃すると、炎を巻き取るようにして刀身へと纏わりつかせた。細剣はまるで元からそうだったように、燃ゆる刀身と化す。
そして驚愕に歪むリュオンの胸をノエル様の鋭い一撃が突き、勝敗は完全に決した。
……ノエル様はその場から一歩たりとも動かず。リュオンに勝利してしまったのだ。
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