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閑話20・短編まとめ7

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活動報告にちょこちょこ上げている短編のまとめその7です。
今回はミーニャ王子のお騒がせ妹君ベルーティカ王女のその後と、
マクシミリアンとビアンカの朝のイチャイチャ。

『パン屋の朝は早い』(ベルーティカ王女のその後1)
『犬と職人』(ベルーティカ王女のその後2)
『おはようとおやすみと』(13歳、お付き合い後)

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『パン屋の朝は早い』

 毎朝、目が覚めると体の節々が少し痛い。
 慣れない固いベッドのせいね……なんて思いながら身を起こし、カーテンを開くと外はまだ薄い暗がりの中で、空を見ると朝が近づき淡い色になった月が見えていた。

 私、ベルーティカが働くパン屋の朝は、早い。

 そろそろ準備をしなければ。
 私はそう思いながらベッドサイドのテーブルに置いているお世話になっているパン屋『森のめぐみ』から頂いたお仕着せに袖を通した。
 何故『森のめぐみ』なんだろう……畑じゃないのね。
 そう思いながらもなんとなく人のネーミングセンスにケチを付けるようで聞くことができない。
 お仕着せはジョアンナさんのメイド服に似た、黒のスカートに白にエプロンという仕様のものだ。ただしスカートは結構短い。庶民向けってすごいわね、確かに動きやすいんだけど。

 パン屋の人々は、とても親切だ。
 一から十まで丁寧に仕事を教えてくれて、上手にできると嬉しそうに笑ってくれる。
 私の仕事は主に力仕事で、現在パン作りには関わっていないのだけど。
 これは仕方ない、だって私の方が人間の男よりも数倍は力持ちなんだから。
 獣人のこの丈夫な体が役に立つのなら、それを使うのは当たり前だ。

 パン屋に向かった私は丁寧に手を洗うと誰もいない広い厨房へ入り壁に貼ってあるリストを確認した。
 この『森のめぐみ』は店頭販売だけではく、各家庭への配達や、貴族の家への納品もしているため毎日作るパンの量が多い。
 食パン1斤で小麦200g……今日の販売予定は100斤。
 他のパンの材料のことも考えると……。
 そんなことを考えつつ私は倉庫へと向かう。

「よいしょっ」

 小麦が20㎏単位で入っている袋を2つ積み重ね両腕で抱えて厨房へ行き、机の上にとりあえず積んで。
 魔石式の冷蔵庫の中身を確認すると菓子パンに使う牛乳やバターの在庫が少し足りない気がしたので、後で買い足しに行こうとメモをする。
 するとおかみさんのメリンダさんや他の従業員の方々が眠そうな顔で出勤してきた。

「ベルちゃんおはよう。助かるわー」

 メリンダさんが机の上の小麦粉を見ると、にこにこと笑った。
 メリンダさんは長い黒髪を後ろでまとめた、セクシーな未亡人である。
 ……多分狙っている従業員も多い。

「メリンダさん、材料が少し足りないんで後で買いに行ってきます。ついでに配達もして来ようと思うんですけど。午前中って何件あります?」
「午前は20件ね。お願いできるかしら?」
「わかりました、じゃあパンが焼けたら配達の準備をしますね」

 私の主な仕事は、実はパンの配達だ。
 この国では獣人が珍しいらしく、そんな獣人の私が大量のパンが入った箱を抱え王都中を走り回る光景は何故かこの国の人々に注目されてしまった。

「マスコットキャラクターってヤツよね。うちの名前もどんどん売れて助かるわぁ」

 メリンダさんや他の従業員の方々もとても嬉しそうだし、役に立っているのなら私も嬉しい。

 私はベルーティカ。ライラック国の王女であり、現在は『森のめぐみ』のマスコットキャラクター……らしい。

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『犬と職人』

 パン屋での仕事が終わり。
 私はセラのお店から少し離れた家の屋根の上で、働く彼をこっそりと見つめていた。
 セラに沢山の迷惑をかけてしまったのでもうべったりしない、を私は心掛けているのだ。
 私が近づかない間にセラに好きな人ができて……なんてことも考えはしてしまうんだけど。
 だからって四六時中べたべたして、好きになってもらえるわけじゃないのは前回のことでわかってるし。
 もう間違いは犯したくない。これ以上、嫌われたくない。
 そんなことを考えながらため息をついた時。

「ベル、その上にいるんだろ?」

 下の方から、セラの声がした。
 嘘、なんで!? なんでバレたの!?
 セラには、庶民と同じように私に接するようにお願いしている。
 だから今は気軽な口調で『ベル』と呼んでくれるのだ。

「どうしてバレたの……」
「いや、君の執事がこの建物の上を心配そうに眺めてたから」

 セラにそう言われて下を見ると、私の執事……白猫の獣人のアレスが申し訳なさそうに頭を下げていた。
 むむむ……アレスったら!

「別に会いに来るなとは言ってないんだから、降りてこいよ」

 そう言ってセラはにかっと快活に笑う。
 うう……会ったり話したりすると執着が増すのよ……人の気も知らないで!
 私は仕方なく建物の屋根からひらりと飛び降りた。

「ちょっ……ベル!?」

 セラ、なんで、なんでこっちに走って来るの!?
 もしかして受け止めようとしてる!?
 獣人だったらこれくらい華麗に着地出来るのに!!

「ひゃっ……!!」

 私は色気のない声を上げて、セラの……上に乗っかっていた。

「ちょっと、セラ!! 受け止めなくていいの! 私は獣人だから、あの二倍くらいの高さでも死なないから!」
「……あ……そうか……」

 照れ笑いをするセラを見ているとぎゅうっと胸の奥が締め付けられて。
 抱きつきたい衝動に駆られたけれど、私は必死に我慢した。

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『おはようとおやすみと』

「おはようございます、お嬢様」

 わたくしの朝は、マクシミリアンの声で始まる。
 朝の光の中無理やり体を起こして、ふにゃふにゃと寝ぼけながらマクシミリアンの方を見ると、毎朝のことなのに彼は楽しそうな顔でこちらに手を広げている。
 わたくしはその腕にぽふりと飛び込んで、マクシミリアンにそのまま抱きしめられた。
 そして、その温かさが心地よくてマクシミリアンの腕の中でうとうととしてしまう。

「お嬢様、眠ってはいけませんよ」
「マクシミリアン、ねむいの……」

 眠ってはいけない、と言うくせにマクシミリアンが優しく頭を撫でてくれるから、わたくしの意識はとろりと溶けてしまいそうになる。

 マクシミリアンとの『おはようとおやすみのハグ』は子供の時からの習慣だ。
 7歳になる直前からだから、もう6年と少しの間、毎日やっている。
 始めは慣れなくて緊張したのだけど慣れてからは躊躇なくハグされるようになってしまい……。
 今考えると幼い頃からマクシミリアンに少しずつ慣らされていたんじゃないか、とも思う。

「お嬢様、起きてください」

 マクシミリアンの腕の中で夢の世界へ旅立とうとしていたわたくしに、彼は優しい声をかけながら頬に何度かキスをした。

 ――わたくし、よだれとか、垂らしてない!?

 はっとそれに思い当たり、わたくしの意識は一気に覚醒した。
 よだれを垂らした顔にキスなんて、させられない!!
 一応乙女なんだから!

「マクシミリアン、起きた。起きたわ!」

 わたくしがそう言って身を離そうとすると、マクシミリアンは少し残念そうな顔をした。
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