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令嬢13歳・二人の乙女に捧げる騎士の誓い
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騎士祭が始まるまで少し時間があったのでノエル様の様子を見に行こうとわたくし達は演習場にある控室へと向かった。
演習場は校舎の裏手にある円形になった石造りの闘技場で、さながら小さめのローマのコロッセウムという趣だ。
すでにかなりの人で席が埋まっていて席取りのことが心配になったけれど、フィリップ王子が事前に席を押えているということだった。
ノエル様の集中が切れるようであれば断って欲しい、という前置きをして演習場の入り口にいた係の方に彼を呼んでもらう。
すると少し経ってノエル様がにこにことしながら顔を出した。
ノエル様は青い詰襟の刺繍が豪奢に入った騎士服を身に着けている。騎士服は体のラインがはっきりと出るもので改めてみるとその均整の取れた体躯は十代の子供のものとは思えない。これも日々の鍛錬の賜物なのだろう。
本番は銀の鎧を上に身に着けて戦うそうなのだけどこの凛々しい騎士服姿が隠れてしまうのは少しもったいない気がしてしまう。
ゾフィー様はノエル様の騎士服姿に頬を染めながら『ノエルしゃま! かっこいい!!』と小声で何度も繰り返している。気持ちはすごくわかるわ。
いいなぁ、マクシミリアンも騎士服着てくれないかな。黒とかすごく似合うと思うのだけど。
獣人化薬でケモミミでだと更に色々滾りそう! ああ、狼の騎士様……!
なんて思いながらニヤニヤしながらマクシミリアンの方を見ると、少し困ったように微笑まれてしまった。
……不純な主人でごめんなさいね、マクシミリアン。でも見たいの! 後でおねだりしてみよう。
「皆、来てくれてありがとう!」
ノエル様は柔和に微笑みながらこちらに軽く挨拶をしてから、ゾフィー様の柔らかな両手を優しく握った。
「ゾフィー。来てくれてありがとう」
「ノエルしゃまっ、来ないわけ、ありません、でしょう?」
ノエル様に真っすぐに見つめられゾフィー様はあわあわ焦りながら真っ赤な顔で噛み噛みのお返事をする。なんてお可愛らしいのかしら……! この二人は本当に青春って感じで素敵だ。
ノエル様はマクシミリアンと違って、やらしいことをしてこないのだろうし。うん。ノエル様は爽やかだもの。
「ゾフィー」
ノエル様はゾフィー様を見つめたまま、すっと彼女の前に跪き恭しくその手を取った。
「君の祈りが俺の力だ。俺が勝つ事を祈っていて?」
そう言ってノエル様はゾフィー様の手にそっと口づける。
「ひゃっ、ひゃぁああ!!ゾフィーさんったら羨ましいわ!」
「素敵ね、羨ましい……!!」
マリア様とベルリナ様が頬を赤くして小さく歓声を上げた。
乙女達にとって騎士の誓いは憧れなのだ。わたくしだって憧れるシチュエーションだ。
ミルカ王女はあらあらまぁまぁみたいな仕草でニヤニヤしている……これはちょっと乙女っぽくない。
「ノエル様、一生懸命お祈りしますわ」
ゾフィー様は真っ赤になりながらふっくらとしたピンク色の唇から絞りだすように言葉を紡いだ。
それを聞いたノエル様は嬉しそうに澄んだ茶色の瞳を細めゾフィー様を眩しそうに見つめた後に、立ち上がると彼女の額にキスをした。
「ゾフィー。俺が優勝したら婚約の件、了承してね」
「ノ……ノエル様……!!」
こ……婚約! ふわぁ! プロポーズ!! 素敵!!
思わずテンションが上がってマリア様と手を取り合ってぴょんぴょんしてしまう。
ゾフィー様は顔を更に赤くしてコクコクと数度頷き、ふらふらしながら壁にもたれかかった。
「それと、ビアンカ嬢」
「ふぁ? わたくし!?」
ノエル様に声をかけられることを予期していなかったので思わず間抜けな声が出てしまった。恥ずかしい。
彼はこちらに歩み寄ると、目の前で片膝をついた。
精悍な顔に見上げられじっと見つめられる。なにを言われるのかしら? となんだかソワソワした気持ちになってしまう。
ノエル様はふっと微笑んで口を開いた。
「君を守ると誓いを立てたあの日があったから、俺はここまで頑張れたんだ。今日の勝利をビアンカ嬢にも誓うよ」
誓い……なんのことかしら? と、こてりと首を傾げるとノエル様はおかしそうに笑う。
「あの夏祭りの日、君に立てた誓い。君は覚えていないかもしれないけどね」
そう言われわたくしもノエル様に連れ出された夏祭りの日のことを思い出した。懐かしいわね。
確かにあの日ノエル様は『……もっと強くなって……ビアンカ嬢を必ず守るよ』って言って下さったわ。
「懐かしいですわね。ふふ、勝利を願っておりますわノエル・ダウストリア様」
「月下の姫に勝利を捧げます」
ノエル様はそう言うとわたくしの手を取り微笑んだ。
月下の姫ってなんなの、ノエル様。照れてしまうじゃないの……!
期せずして叶ってしまった憧れのシチュエーションに思わず頬を染めるとマクシミリアンとフィリップ王子がなんだか剣呑な目でこちらを見ていて少し焦った。やましい気持ちは欠片もないわよ! そもそも他人様の彼氏だし!!
「こんなに可愛い乙女二人に誓いを立てたのだから、絶対に勝たなきゃだめね、ノエル」
ミルカ王女が赤い髪をふわりと揺らし腕組みをしながら楽しそうに、だけど少し挑発的に言う。
「勝ちますよ、絶対に!」
ノエル様はそう言って爽やかに笑ってみせたのだった。
演習場は校舎の裏手にある円形になった石造りの闘技場で、さながら小さめのローマのコロッセウムという趣だ。
すでにかなりの人で席が埋まっていて席取りのことが心配になったけれど、フィリップ王子が事前に席を押えているということだった。
ノエル様の集中が切れるようであれば断って欲しい、という前置きをして演習場の入り口にいた係の方に彼を呼んでもらう。
すると少し経ってノエル様がにこにことしながら顔を出した。
ノエル様は青い詰襟の刺繍が豪奢に入った騎士服を身に着けている。騎士服は体のラインがはっきりと出るもので改めてみるとその均整の取れた体躯は十代の子供のものとは思えない。これも日々の鍛錬の賜物なのだろう。
本番は銀の鎧を上に身に着けて戦うそうなのだけどこの凛々しい騎士服姿が隠れてしまうのは少しもったいない気がしてしまう。
ゾフィー様はノエル様の騎士服姿に頬を染めながら『ノエルしゃま! かっこいい!!』と小声で何度も繰り返している。気持ちはすごくわかるわ。
いいなぁ、マクシミリアンも騎士服着てくれないかな。黒とかすごく似合うと思うのだけど。
獣人化薬でケモミミでだと更に色々滾りそう! ああ、狼の騎士様……!
なんて思いながらニヤニヤしながらマクシミリアンの方を見ると、少し困ったように微笑まれてしまった。
……不純な主人でごめんなさいね、マクシミリアン。でも見たいの! 後でおねだりしてみよう。
「皆、来てくれてありがとう!」
ノエル様は柔和に微笑みながらこちらに軽く挨拶をしてから、ゾフィー様の柔らかな両手を優しく握った。
「ゾフィー。来てくれてありがとう」
「ノエルしゃまっ、来ないわけ、ありません、でしょう?」
ノエル様に真っすぐに見つめられゾフィー様はあわあわ焦りながら真っ赤な顔で噛み噛みのお返事をする。なんてお可愛らしいのかしら……! この二人は本当に青春って感じで素敵だ。
ノエル様はマクシミリアンと違って、やらしいことをしてこないのだろうし。うん。ノエル様は爽やかだもの。
「ゾフィー」
ノエル様はゾフィー様を見つめたまま、すっと彼女の前に跪き恭しくその手を取った。
「君の祈りが俺の力だ。俺が勝つ事を祈っていて?」
そう言ってノエル様はゾフィー様の手にそっと口づける。
「ひゃっ、ひゃぁああ!!ゾフィーさんったら羨ましいわ!」
「素敵ね、羨ましい……!!」
マリア様とベルリナ様が頬を赤くして小さく歓声を上げた。
乙女達にとって騎士の誓いは憧れなのだ。わたくしだって憧れるシチュエーションだ。
ミルカ王女はあらあらまぁまぁみたいな仕草でニヤニヤしている……これはちょっと乙女っぽくない。
「ノエル様、一生懸命お祈りしますわ」
ゾフィー様は真っ赤になりながらふっくらとしたピンク色の唇から絞りだすように言葉を紡いだ。
それを聞いたノエル様は嬉しそうに澄んだ茶色の瞳を細めゾフィー様を眩しそうに見つめた後に、立ち上がると彼女の額にキスをした。
「ゾフィー。俺が優勝したら婚約の件、了承してね」
「ノ……ノエル様……!!」
こ……婚約! ふわぁ! プロポーズ!! 素敵!!
思わずテンションが上がってマリア様と手を取り合ってぴょんぴょんしてしまう。
ゾフィー様は顔を更に赤くしてコクコクと数度頷き、ふらふらしながら壁にもたれかかった。
「それと、ビアンカ嬢」
「ふぁ? わたくし!?」
ノエル様に声をかけられることを予期していなかったので思わず間抜けな声が出てしまった。恥ずかしい。
彼はこちらに歩み寄ると、目の前で片膝をついた。
精悍な顔に見上げられじっと見つめられる。なにを言われるのかしら? となんだかソワソワした気持ちになってしまう。
ノエル様はふっと微笑んで口を開いた。
「君を守ると誓いを立てたあの日があったから、俺はここまで頑張れたんだ。今日の勝利をビアンカ嬢にも誓うよ」
誓い……なんのことかしら? と、こてりと首を傾げるとノエル様はおかしそうに笑う。
「あの夏祭りの日、君に立てた誓い。君は覚えていないかもしれないけどね」
そう言われわたくしもノエル様に連れ出された夏祭りの日のことを思い出した。懐かしいわね。
確かにあの日ノエル様は『……もっと強くなって……ビアンカ嬢を必ず守るよ』って言って下さったわ。
「懐かしいですわね。ふふ、勝利を願っておりますわノエル・ダウストリア様」
「月下の姫に勝利を捧げます」
ノエル様はそう言うとわたくしの手を取り微笑んだ。
月下の姫ってなんなの、ノエル様。照れてしまうじゃないの……!
期せずして叶ってしまった憧れのシチュエーションに思わず頬を染めるとマクシミリアンとフィリップ王子がなんだか剣呑な目でこちらを見ていて少し焦った。やましい気持ちは欠片もないわよ! そもそも他人様の彼氏だし!!
「こんなに可愛い乙女二人に誓いを立てたのだから、絶対に勝たなきゃだめね、ノエル」
ミルカ王女が赤い髪をふわりと揺らし腕組みをしながら楽しそうに、だけど少し挑発的に言う。
「勝ちますよ、絶対に!」
ノエル様はそう言って爽やかに笑ってみせたのだった。
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