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令嬢13歳・わたくしは勢力図に思いを馳せる

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「はぁ……」

 エイデン様の背中も遠く見えなくなり、わたくしの口からは自然と安堵の息が漏れていた。
 ……ただ、安心してばかりもいられないわね。カーウェル公爵家の子息との揉め事なのだもの。
 エイデン様のお母様は先王の娘、そしてお父様は王家の遠縁。エイデン様には濃い王家の血が流れている。
 そしてフィリップ王子のお父様……現王は先王の弟で、王妃は他国の姫だ。
 フィリップ王子よりもエイデン様の方が王家の血が濃い、ということを口実にカーウェル公爵家派は結束を強めている。
 ちなみに我がシュラット侯爵家は、ブラバンド王家派にもカーウェル公爵家派にも属さない中立派である。
 中立派と名が付いたシュラット侯爵家派だ、なんて悪口もきくけれど。
 宰相として王都で手腕を発揮する父様を慕う方、そしてすり寄る方は多いから、父様を中心として自然と大きな塊になってしまうのだろう。

(さて。子供の喧嘩で済ませないと、父様にご迷惑がかかってしまうわね)

 そんなことを考えながら、頭の中に現在の王宮の勢力図を思い描く。
 当然ブラバンド王家派が有利とはいえ、カーウェル公爵家派もかなりの数だ。
 現状だと……ブラバンド王家派とカーウェル公爵家派の動きを静観している、中立派筆頭シュラット侯爵家の娘との揉め事を、カーウェル公爵家はむしろ起こして欲しくないはず。
 父様がブラバンド王家派に傾けば、派閥の勢力図は一気に変わるのだから。
 それにわたくしは遺憾ではあるけれど王子の婚約者候補……フィリップ王子の寵愛ぶりから世間では婚約秒読みとも噂されている。し……しないけど!!
 そのわたくしに手を出すことは、王家との対立を煽ることになるだろう。
 だからエイデン様がわたくしの命を狙う、なんて絶対に表沙汰になることでも起きない限り『ある程度のことは勢力図の維持のために黙殺され』シュラット侯爵家とカーウェル公爵家の家同士の争いにまでは発展しない……と思う。
 だけど……。
 わたくしはちらり、と横目でフィリップ王子を見た。
 先ほどのエイデン様とのやり取りを見ていると、フィリップ王子とエイデン様は完全なる犬猿の仲らしい。
 ……まぁ、それはそうよね。しがらみまみれだもの。

「ビアンカ、エイデン絡みで困ったことがあれば何でもいえ。万難は全て排除してやる」

 フィリップ王子がふんす! と鼻息荒く言うけれど……。
 そう、これがわたくしの一番の危惧。
 王太子の貴方が表立って動くと各派閥にいらぬ刺激を与えかねないのよ!

「お気持ちは、受け取っておきますわ」

 そう言ってフィリップ王子に微笑んでみせると、彼は不満そうな顔で子供のように思いきり頬を膨らませた。
 ベルリナ様はそんなフィリップ王子を見ながらまた驚いた表情をしている……フィリップ王子、もっとかっこいいところをベルリナ様に見せて! 幻滅されないために! 貴方、今すっかり幼馴染モードよ!
 ……まぁ、とにかく。
 シュミナ嬢とエイデン様の動きを注視しつつ、助けを求められたら協力しよう。
 これは乗り掛かった舟なのだ。だけど……。

「パラメーター……かぁ……」
「ぱらめーたー?」

 わたくしが思わず呟くと、ミルカ王女にきょとんとされる。

「な……なんでもありませんわ」

 慌てて誤魔化しつつ、わたくしはこっそりため息をついた。
 ここは現実なのでゲームの進行通りでは無い。
 ただそのまま適用できないとはいえ、ゲーム中の進行はある程度の指針にはなるはずだ。
 ゲームを参考にすると、エイデン様のバッドエンド脱出をするためにはパラメーター上げがかなり必要となってしまう。
 シュミナ嬢にはV字回復の勢いでパラメーターを上げてもらわないといけないわね。
 現在お勉強は頑張っているとはいえ、恐らく致命的なのは『社交』と『気づかい』……つまり人間関係のパラメーターだ。
 色々今までやらかしてしまい、マイナススタートのシュミナ嬢がそれらをこれから上げるとなると……。
 わたくしはそこまで考え、思わず頭を抱えてしまった。
 ゲーム通りじゃないといいわね、本当に。

 ……なんだか疲れてしまったし、頭を休めたいわ。

「……疲れたので、少しだけお散歩をしてきてもいいでしょうか……」

 わたくしがため息をつきながらそう言うと、皆様は一斉にコクコクと頭を振った。
 エイデン様とのやり取りで、わたくしが疲弊してしまったと皆様心配してくださったみたい。
 ミーニャ王子だけが相変わらず、のんびりとお菓子を食べつつ尻尾を振っている。なんというか、猫らしいマイペースさだ。
 こんな時いつもは『俺も行く!』と言うフィリップ王子まで珍しく何も言わずに送り出してくれた。

「お嬢様……」

 わたくしが足を踏み出すと、マクシミリアンがそっと側に寄り添ってくれる。
 その表情には心配と、少しだけの非難がにじみ出ていた。

「マクシミリアン、ごめんなさい。エイデン様にも、シュミナ嬢にも、関わって欲しくなかったでしょう? これからきっと、貴方に沢山心配をかけてしまうわ」

 わたくしがそう言うとマクシミリアンは少し困った顔をした後に、優しく手を繋いでくれた。
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