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シュミナとエイデン(シュミナ視点)
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(……ビアンカが、私を庇ってくれた)
エイデンの隣を歩きながら、私は先ほどの出来事について考えていた。
(私は彼女に酷いことをしてばかりだったのに……どうしてあんなに、私に優しくできるんだろう)
エイデンから様々な人々との関係を断たれつつある今、ヴィゴは私にとって貴重な外の世界との接点だ。
そして……大事な友達だ。彼はそう思ってくれているのかは、わからないけど。
ビアンカが彼との細い糸を断たずに繋いだままでいてくれて私はとてもホッとした。
今ヴィゴに会えなくなり一人になってしまったら……そう考えただけで不安だったから。
ヴィゴだけじゃない。
サイトーサンだって口では冷たいことばかり言うけれど、いつも私の話を辛抱強く聞いてくれる。
手を差し伸べてくれるあの人達みたいに。私も強く、優しくなれたらいいのに。
「シュミナ、上の空だね」
エイデンに声をかけられ、私はハッと我に返った。
いけない。彼の前で上の空になるなんて……更なる束縛のきっかけを与えてしまいかねない。
横を向くと彼のオレンジ色の瞳が、どろりとした色を湛えこちらを見つめていた。
この目を見るたびに、監禁へのカウントダウンのことを考え私は恐怖に駆られてしまう。
――だけど。
私も怖がってばかりいないで、ちゃんとエイデンと向き合わないといけないんだ。
乙女ゲームの中でだってエイデンルートは、エイデンと向き合わずしてハッピーエンドは迎えられなかったんだから。
乙女ゲームじゃなくて『現実』の私が彼と向き合う強さを振り絞るのは大変だ。
でも、やらなければ……バッドエンドなんて私はごめんだ。
「ビアンカ・シュラットのことを考えていたの?……あれは本当に、嫌な女だ」
エイデンは言いながら私の頬を長い指でするりと撫でた。
その冷たい指の感触に内心身震いしながら、私はエイデンと目を合わせた。
「エイデン、そんなことを言わないで」
私がそう言うとエイデンは不快そうに鼻を鳴らす。
彼の機嫌を損ねることは正直怖かったけれど、同調してビアンカの悪口を言う気には、とてもなれなかった。
「シュミナ、最近の君はおかしいよ。前のように自分の感情を前に出して、僕に我儘を言ってくれればいいのに」
そう言いながらエイデンは私の耳元へ唇を寄せた。
「……前のようにビアンカ・シュラットを、殺してって言ってよ。僕が必ず叶えてあげるから」
彼の言葉に、ぞくりと背筋に悪寒が走った。
違う……あれは、あれは、ここがゲームの世界だと思っていたからで。
今はそんなこと、欠片も望んではいない。
「エイデン、止めて。お願い……っ」
恐怖心に押し出されるように涙がせり上がり、雫が頬を転がり落ちる。
そんな私をエイデンは楽しそうな、だけどどこかつまらなそうな表情で見つめていたけれど……。
「……シュミナ」
名前を囁きながら私の頬に手を当て、そっと顔を近づけて……その美しい唇を私のものと重ねた。
初めてされたことに動揺し、私はエイデンの顔を驚愕の表情で見つめてしまう。
私の表情を見て、エイデンはとても楽しそうに笑った後に、真剣な面差しになった。
「シュミナは、僕から離れようとしているの……?」
そう訊ねるエイデンの表情は、無機質で、冷たくて。
……でもどこか、悲しそうだった。
エイデンは『管理したい』タイプのヤンデレだ。
私の努力をしようとしている行為自体が……彼の言う『離れる』に当たるのだろう。
「ねぇ、エイデン。聞いて欲しいの」
私は覚悟を決め、彼に視線を向けた。
「私、今ね。色々と頑張っているの。エイデンは何もできなくて、貴方に頼ることしかできない私じゃないと、嫌いになる?……頑張っている私は、エイデンは嫌い?」
私の言葉に、エイデンは明らかに困惑した顔になる。
それもそうだろう。今までのシュミナ・パピヨンは、馬鹿で、愚かで。エイデンに『助けて』と喚き散らし、彼に共依存の喜びを抱かせるような女だったのだから。
でも私は……ヴィゴやサイトーサンと出会ったから。変わるんだ。
「エイデン。私は……変わろうとしている私を受け入れてくれる貴方と、共にいたいの」
「……シュミナ……」
エイデンは苦しそうに顔を歪めながら、私の両手を握った。
「シュミナ。僕は……僕だけの籠の鳥になってくれる君がいい。僕が世界の何からでも君を守るから。君が望むなら……王妃にだってしてあげる。だから君の世界を、僕だけにして」
彼の言葉に、私は愕然とした。王妃にだってする……?
王位継承権第五位のエイデンがその言葉を口にするなんて。それは恐ろしい行為をして王位を簒奪するということに他ならない。
「エイデン、お願い止めて!! そんな恐ろしいことを言わないで……!!」
「シュミナこそ、僕から離れないでよ……!!」
エイデンは悲痛な声音で叫ぶと、私の体を強く抱きしめた。
……ああ、どうやったら。
私は彼に今の私を認めさせることが、できるんだろう。
エイデンの隣を歩きながら、私は先ほどの出来事について考えていた。
(私は彼女に酷いことをしてばかりだったのに……どうしてあんなに、私に優しくできるんだろう)
エイデンから様々な人々との関係を断たれつつある今、ヴィゴは私にとって貴重な外の世界との接点だ。
そして……大事な友達だ。彼はそう思ってくれているのかは、わからないけど。
ビアンカが彼との細い糸を断たずに繋いだままでいてくれて私はとてもホッとした。
今ヴィゴに会えなくなり一人になってしまったら……そう考えただけで不安だったから。
ヴィゴだけじゃない。
サイトーサンだって口では冷たいことばかり言うけれど、いつも私の話を辛抱強く聞いてくれる。
手を差し伸べてくれるあの人達みたいに。私も強く、優しくなれたらいいのに。
「シュミナ、上の空だね」
エイデンに声をかけられ、私はハッと我に返った。
いけない。彼の前で上の空になるなんて……更なる束縛のきっかけを与えてしまいかねない。
横を向くと彼のオレンジ色の瞳が、どろりとした色を湛えこちらを見つめていた。
この目を見るたびに、監禁へのカウントダウンのことを考え私は恐怖に駆られてしまう。
――だけど。
私も怖がってばかりいないで、ちゃんとエイデンと向き合わないといけないんだ。
乙女ゲームの中でだってエイデンルートは、エイデンと向き合わずしてハッピーエンドは迎えられなかったんだから。
乙女ゲームじゃなくて『現実』の私が彼と向き合う強さを振り絞るのは大変だ。
でも、やらなければ……バッドエンドなんて私はごめんだ。
「ビアンカ・シュラットのことを考えていたの?……あれは本当に、嫌な女だ」
エイデンは言いながら私の頬を長い指でするりと撫でた。
その冷たい指の感触に内心身震いしながら、私はエイデンと目を合わせた。
「エイデン、そんなことを言わないで」
私がそう言うとエイデンは不快そうに鼻を鳴らす。
彼の機嫌を損ねることは正直怖かったけれど、同調してビアンカの悪口を言う気には、とてもなれなかった。
「シュミナ、最近の君はおかしいよ。前のように自分の感情を前に出して、僕に我儘を言ってくれればいいのに」
そう言いながらエイデンは私の耳元へ唇を寄せた。
「……前のようにビアンカ・シュラットを、殺してって言ってよ。僕が必ず叶えてあげるから」
彼の言葉に、ぞくりと背筋に悪寒が走った。
違う……あれは、あれは、ここがゲームの世界だと思っていたからで。
今はそんなこと、欠片も望んではいない。
「エイデン、止めて。お願い……っ」
恐怖心に押し出されるように涙がせり上がり、雫が頬を転がり落ちる。
そんな私をエイデンは楽しそうな、だけどどこかつまらなそうな表情で見つめていたけれど……。
「……シュミナ」
名前を囁きながら私の頬に手を当て、そっと顔を近づけて……その美しい唇を私のものと重ねた。
初めてされたことに動揺し、私はエイデンの顔を驚愕の表情で見つめてしまう。
私の表情を見て、エイデンはとても楽しそうに笑った後に、真剣な面差しになった。
「シュミナは、僕から離れようとしているの……?」
そう訊ねるエイデンの表情は、無機質で、冷たくて。
……でもどこか、悲しそうだった。
エイデンは『管理したい』タイプのヤンデレだ。
私の努力をしようとしている行為自体が……彼の言う『離れる』に当たるのだろう。
「ねぇ、エイデン。聞いて欲しいの」
私は覚悟を決め、彼に視線を向けた。
「私、今ね。色々と頑張っているの。エイデンは何もできなくて、貴方に頼ることしかできない私じゃないと、嫌いになる?……頑張っている私は、エイデンは嫌い?」
私の言葉に、エイデンは明らかに困惑した顔になる。
それもそうだろう。今までのシュミナ・パピヨンは、馬鹿で、愚かで。エイデンに『助けて』と喚き散らし、彼に共依存の喜びを抱かせるような女だったのだから。
でも私は……ヴィゴやサイトーサンと出会ったから。変わるんだ。
「エイデン。私は……変わろうとしている私を受け入れてくれる貴方と、共にいたいの」
「……シュミナ……」
エイデンは苦しそうに顔を歪めながら、私の両手を握った。
「シュミナ。僕は……僕だけの籠の鳥になってくれる君がいい。僕が世界の何からでも君を守るから。君が望むなら……王妃にだってしてあげる。だから君の世界を、僕だけにして」
彼の言葉に、私は愕然とした。王妃にだってする……?
王位継承権第五位のエイデンがその言葉を口にするなんて。それは恐ろしい行為をして王位を簒奪するということに他ならない。
「エイデン、お願い止めて!! そんな恐ろしいことを言わないで……!!」
「シュミナこそ、僕から離れないでよ……!!」
エイデンは悲痛な声音で叫ぶと、私の体を強く抱きしめた。
……ああ、どうやったら。
私は彼に今の私を認めさせることが、できるんだろう。
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