上 下
153 / 222

令嬢13歳・ノエル様とそのライバル?

しおりを挟む
 ノエル様はリュオンの手を捻り上げたまま――ミルカ王女と、シュミナ嬢と、そしてわたくしとを見比べて。
 ――訳が分からないという顔で首を傾げた。
 ノエル様のシュミナ嬢を見る目には明らかな嫌悪が含まれている。
 けれど、ミルカ王女の手前どうしていいのか、そんな困った表情だった。
 ……そりゃ、そうですよね。ゾフィー様にとても酷い事をしたものね、シュミナ嬢は。
 そしてそれを未だ謝罪していない。
 監禁の危機だからそれどころでは……なんて事はされた方には関係無いしなぁ……。
 ノエル様はわたくしを何度見かして『ん……ビ……?? いや、男だな? 誰だ?』と小声で呟いた。
 衣装合わせの時にノエル様には『男装』姿は見せた事があるのだけれど、今は髪飾りで『性転換』している状態なので体格の差などが引っかかり彼は『ビアンカ』だと断定出来ないのだろう。
 ノエル様。混乱させてごめんなさい……いずれ事情は話します!

「ノエル・ダウストリア!! いい加減に離せ!! お前には関係ない事だ!!」

 リュオンがノエル様の手を解こうと身を捩るけれど、ビクともしない。
 ノエル様の方がリュオンよりもかなり細身に見えるのになぁ……日々の訓練の成果ってすごい。

「ヴィゴ様……!」

 図書室の扉が開きマクシミリアンが慌ただしくこちらへと駆け寄って来た。
 『犬』越しで情報を得た後に急いで来てくれたのだろう。
 黒い髪が少し乱れて、息も上がっており、いつもよりも隙がある雰囲気がなんだか色っぽい。好き。うちの執事で彼氏がとてもかっこいいです。
 そんな場合じゃないのは分かっているのだけど……うん。
 ……図書室で真面目に勉強をしていた生徒達は興味津々だったり迷惑そうだったり……様々な顔でこちらを見ている。
 本当に申し訳ないやら居た堪れないやらな気持ちになってしまう。

「……大丈夫ですか?」
「平気だよ。マクシミリアン」

 わたくしは彼に微笑むと、心配いらないというように手を振ってみせる。
 だけどマクシミリアンはこちらに歩み寄ると、わたくしの頬を両手で挟んでじっと覗き込んだ。

「……本当に、無事ですか? お坊ちゃま」
「……無事だって言ってるでしょ?」

 マクシミリアンは安心したように息を吐くと、頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
 彼の手で撫でられるとつい安心してしまって、思わずいつもの癖でぎゅーっと抱きつきそうになってしまったけれど……。
 公衆の面前……以前に、今のわたくしの外見は『男』なのよね。
 ……止めておこう。

「マクシミリアンが一緒にいるって事はシュラット侯爵家の縁者かな? ビアンカ嬢に似てる訳だね」

 ノエル様は得心がいったように頷いた。

「……シュラット侯爵家の縁者……?」

 リュオンは苦々しい顔をして、また舌打ちをする。
 ノエル様はそのリュオンの腕を少し乱暴に付き飛ばすようにして離した。

「リュオン・パルフィ子爵家子息。相手を見てケンカを売った方がいいんじゃないの? 君がいくらエイデン様のお気に入りでも、シュラット侯爵家の縁者を傷つけたとあっては庇っては貰えないと思うよ?」
「黙れ、ノエル・ダウストリア。痛い目に遭いたいのか?」
「俺に訓練で一度も勝てない癖に、相変わらず態度だけはでかいね」

 ノエル様はなんだかリュオンには敵意剥き出しだ。
 しかしなんとなく、この二人の関係が見えてきた気がする。
 ノエル様は代々近衛騎士を輩出するダウストリア家のご子息……つまりフィリップ王子の側近候補だ。
 そしてこのリュオンは王家の血筋が流れる筆頭公爵家、カーウェル家に仕える者。
 カーウェル家は王国で二番目の権勢を誇っており、エイデン様も第5位の王位継承権を持っている。
 この二人は……2大派閥の次世代の騎士筆頭として鎬を削る者同士なのだろう。
 ちなみに我がシュラット侯爵家は公爵家でないのにも関わらず父様の手腕により、実質的にはこの国で四指に入る権力を持っている。
 なのでエイデン様もおいそれとは手を出せないのだ……父様、本当にありがとう。
 お兄様もやり手のようだし、シュラット侯爵家は安泰です。

「騎士祭で決着をつけてやる。その首を洗って待っていろ」
「リュオンの腕で決勝まで残れるの? まぁ、ゾフィーに俺のかっこいいところを見せられるいい機会だし、二度と立ち上がれないくらいに叩きのめしてやるよ」

 ノエル様、さりげなく惚気たわね。
 ゲーム内でもヒロインの為にノエル様が噛ませ犬キャラと騎士祭で戦うみたいなイベントがあった気がする。
 もしかしてあの噛ませ犬キャラって、リュオンだったのかしら。
 ちなみに騎士祭は学園祭と同時開催の腕に自信がある生徒達がトーナメント形式で戦う催しだ。
 自分の想い人が出場する令嬢達にとっては盛り上がるイベントでもあり、これを機会に想いを伝える男女も多いらしい。
 ゲームの成長を遂げ決勝を勝ち抜いたノエル様が微笑みながらヒロインを抱きしめるスチル、すごく良かったなぁ。
 ……ノエル様がお勝ちになった後のゾフィー様とのやり取り、こっそり覗き見しちゃダメかしら。
 ノエル様の事だからきっとすごく素敵な事を言ってくれるんだろうな。

「ノエル・ダウストリア、覚えていろよ……!」

 そう言ってリュオンは鼻息荒く去って行った。
 なんだか嵐みたいな人だったな……。
 ……カーウェル家の子飼いって他にも学園に居るのかな。
 マクシミリアンに後で調べて貰おう。

「ノエル~騎士祭、私も応援に行くわ」
「ミルカ王女、是非いらして下さい。必ず勝利するよ、可愛いゾフィーの為に」

 ミルカ王女がなんだか楽しそうに言い、ノエル様はまた惚気る。
 ゾフィー様の事が可愛くて仕方ないみたいね。ご婚約はいつなのかしら……!

 今日は勉強どころじゃなくなったので、ひとまず解散という事になった。
 ノエル様はミルカ王女にシュミナ・パピヨンと何故いたのか聞きたげな顔をしていたけど、シュミナ嬢がなんだか大人しいのを見て複雑な顔をした後に黙り込んだ。
 シュミナ嬢が元気そうだった事には安心したけれどエイデン様の束縛が強くなっているのだなという事を実感してしまう。
 ヤンデレの思考パターンなんて分からないし……どう気を付けてあげればいいんだろうなぁ。
しおりを挟む
感想 204

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処刑された王女は隣国に転生して聖女となる

空飛ぶひよこ
恋愛
旧題:魔女として処刑された王女は、隣国に転生し聖女となる 生まれ持った「癒し」の力を、民の為に惜しみなく使って来た王女アシュリナ。 しかし、その人気を妬む腹違いの兄ルイスに疎まれ、彼が連れてきたアシュリナと同じ「癒し」の力を持つ聖女ユーリアの謀略により、魔女のレッテルを貼られ処刑されてしまう。 同じ力を持ったまま、隣国にディアナという名で転生した彼女は、6歳の頃に全てを思い出す。 「ーーこの力を、誰にも知られてはいけない」 しかし、森で倒れている王子を見過ごせずに、力を使って助けたことにより、ディアナの人生は一変する。 「どうか、この国で聖女になってくれませんか。貴女の力が必要なんです」 これは、理不尽に生涯を終わらされた一人の少女が、生まれ変わって幸福を掴む物語。

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。 この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。 執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め...... 剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。 本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。 小説家になろう様でも掲載中です。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...