悪役令嬢は南国で自給自足したい

夕日(夕日凪)

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令嬢13歳・ベルーティカ王女がいたところ

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「ミーニャ王子。例のもの、見つかりましたわ」

 わたくしはにこり、と微笑んでミーニャ王子にそう言った。
 彼は一瞬目を見開いたが意図を汲んでくれたらしく、にやり、と綺麗な唇を上げて笑った。

「そうかビアンカ、いい働きだ。後で約束していた礼を払おう」

 フィリップ王子とメイカ王子は不思議そうな顔でこちらを見ている。

「詳細は言えないがビアンカには魔石を色々と調達してもらっていたんだ。フィリップ王子はご存じだろうが我がライラック国近辺では魔石が普及していない。魔法が使えない獣人にとって魔石は気になるものだからな。色気の無い内緒の話だと、言っただろう?」

 ミーニャ王子はそう言いつつ、上品な仕草で紅茶を飲む。
 獣人達は身体能力が人間より高い代わりに、魔力を体内に擁していないので魔法が使えないのだ。
 だから獣人の国……ライラック国とその周辺では魔力がない者でも使える魔法の補助具の開発が盛んだと本で読んだ事がある。
 我が国でも魔石……魔法の力を込めた石が生産されているけれど(魔石はリーベッヘ王国の最大の輸出資源だ)、魔石はあくまで一定量の水を湧き出させたり空気を温めたりなど単純な用途にしか使えない。
 その魔法の補助具はもっと複雑な用途に使えるそうだ……とても高価で一般階級には出回らないらしいけど。
 魔法が使えない獣人がいる事により、その辺りの技術が発達したのだろう。
 ライラック国の魔法事情がとても気になるのでベルーティカ王女の件が落ち着いたらミーニャ王子にお話を聞いてみよう。

 ミーニャ王子はご機嫌なようでその尻尾は、今度は苛立ちではなく喜びで揺れていた。
 ベルーティカ王女が見つかったからホッとしたのだろう。

「魔石……ね。そういう事に、しておこうか。ビアンカ、困った事があったら必ず俺に相談してくれよ」

 フィリップ王子は甘い声音でわたくしの耳元に囁いて、ちゅっと小さく音を立ててそのまま耳にキスをした。
 ひゃ……ひゃああああ!! さ……さらりと勝手にキスしないで!!

「あっ、僕にも遠慮なく相談して? ちゃんといい子にお話聞くからさ」

 メイカ王子もわたくしの手を取って、さわり、と怪しげな手つきで甲を撫でる。
 そして軽く手の甲に口付けてウインクした。うわーんチャラいよー!
 というかもうすでにいい子じゃないんですが!! ミルカ王女に言いつけるわよ!?

「……お二人とも、ありがとうございます」

 恐らく二人は、心配して来てくれたんだろうけど……。
 人目のあるところで怪しげな事をするのは切実に止めて欲しいです。
 いや、人目が無かったらある意味もっと困るわね……!!
 心配自体は、ありがたいんですけどね、本当に。
 お二人が去ってから、わたくしはミーニャ王子に向き直りマクシミリアンに詳細を話すように促した。
 マクシミリアンは音が漏れないように魔法で風の防音壁を張ってからわたくし達に報告書の内容を話し始める。

「ジョアンナ……お嬢様のもう一人の従者なのですが……の部下がベルーティカ王女を見つけたそうです。えっと……お話ししにくい内容なのですが、宜しいですか?」
「ベルーティカのやるあほな事にはいつも困らされているから大抵の事では驚かない。今回は何だ?」

 ミーニャ王子は目を細めて言う。
 ……ベルーティカ王女ってそんなに色々やらかしてるんだ……。

「城下町のとある商人の男性を……『番』だと言って口説いているそうで。その商人の家の近辺に宿も押さえているそうです」
「――!」

 ミーニャ王子の手からカップが落ちて、ガチャリ、と陶器が割れる音を上げた。
 割れた陶器から漏れた紅茶が作る染みが白いテーブルクロスに広がっていく。
 マクシミリアンは素早い動きでミーニャ王子の零した紅茶を拭い、割れたカップと汚れたテーブルクロスを厨房の方へと持って行った。
 ミーニャ王子はまだ動揺しているようで『まさか……こんなところで?』と口元を押さえて呟いている。

「ミーニャ王子……勉強不足で申し訳ないのですが。『つがい』って何ですの?」

 先程ミーニャ王子も口にしていたその言葉が、わたくしは気になってしまった。
 ベルーティカ王女もその『つがい』に関連した事で行方を眩ませたようだし……。
ライラック国の産業や魔法については調べた事があるのである程度知識があるものの、獣人の生態や習慣に関しての知識がわたくしは薄い。
 会話の流れからみて、生態的な話かな……とは思うのだけど。

「獣人が生涯で愛せるのは人生でただ一人だけ。『番』と呼ばれる生涯の伴侶だけなんだ。状況次第で色々な異性を愛せる人間には分かり辛いだろうが……僕達にとって『番』への本能は絶対なんだ」

 ミーニャ王子曰く獣人同士なら出会った瞬間にパズルのピースがはまるように互いを『番』と認識し一瞬で愛し合う関係になる……そうなのだけど。
 人間には『番』を求める本能が無い為、獣人側がその人間を『番』だと認識し伴侶に求めても、すでに恋人や連れ合いがいる、獣人に嫌悪感があるなどの様々な理由で獣人と人間のカップルは成立し辛いらしい。
 愛を拒絶された獣人はショックで死んでしまったり、時には相手を無理矢理攫ってしまう事もあるとか……。人間が相手だと想像を絶する大変さがあるようだ。

「えっと……つまり。ベルーティカ王女にとっての生涯の伴侶が……今ベルーティカ王女が口説いてらっしゃる商人って事ですのね」
「くそ……よりにもよって、ベルーティカの『番』が人間だとは……」

 マクシミリアンが新しい紅茶を二つ手にして戻って来る。
 それを受け取ってわたくしは口に含んだ。

「……報告では……その男、脈はありそうなのか?」
「そこまでは報告には書いてませんね。実際、見に行かれますか?」

 マクシミリアンがそう言うとミーニャ王子は真剣な面持ちでこくりと頷いた。

「わ……わたくしも行く!」

 わたくしがそう言うとマクシミリアンは不服そうな顔をする。
 でもここまで来たら乗り掛かった舟でしょう?

「危険な事があっても、マクシミリアンが守ってくれるわね?」

 機先を制するようにそう言うとマクシミリアンは何か言いかけた言葉を飲み込んで、仕方なさそうに溜め息を吐いた。
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