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令嬢13歳・猫と令嬢・後

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「おい、お前」

 中庭で可愛い猫ちゃんと出会った翌日。
 わたくしは学園の廊下で、非常に横柄な男性の声に呼び止められた。
 魔法実技の授業へ行く為に移動中だったわたくしは、一緒に移動中だったノエル様と目を合わせた。
 ベルリナ様の襲来はお話をした日から毎日から週2~3回くらいに減り、シュミナ嬢は一生懸命更生中で取り巻きさん達をけしかける様子なんて無い。王子の件で令嬢達に絡まれる事はあっても令息に絡まれる事は当然無かった。
 王子は近頃毎日のように教室に来て1本ずつ薔薇を手渡しながら口説きに来るけれど、こんなに高圧的な声をかけられる事はない……というかむしろ、甘い。甘すぎるお声なのだ。
 フィリップ王子と想い合っていたら、とてもときめくシチュエーションなんだろうなぁ……。
 ……それにしても声の主は一体誰なんだろう。
 恐る恐る振り返ると、そこには黒いお耳が頭に付いた少年が立っていた。
 ……獣人さんだ、他国の学校の招待で来た方かしら。
 校章だろう、刺繍のエンブレムが付いた黒いブレザーに薄茶色のベストとなんだか前世の学校を彷彿とさせる制服だ。
 素材感なんかはもちろんこちらの方が高級なんだけど……。
 黒い綺麗な髪、金色の縦瞳孔の目はきゅっとつり上がっている。
 頭には黒い猫耳、するりとしなやかな黒い尻尾……。猫の獣人さんなのかしら。
 そのクールな雰囲気はゲーム中のマクシミリアンと少し似ている。

「どちら様でしょう……??」
「ライラック国の第三王子、ミーニャ・フェリクスだ。ちょっと話があるから来い」
「で……でもわたくし今から授業で……」
「……いいから来いと言っている」

 そう言って彼はわたくしに近づくと、ノエル様が止める隙を作らず、わたくしの腰を抱えて走り出した。
 動きが早い!! 獣人の身体能力は人間よりも高いと聞いていたけれど、これは早すぎる!!
 突然の事に呆然としていたノエル様が追いかけてくるけれど、なかなか追いつけない。
 廊下を通る生徒もこの光景を呆然と見送っている。

「……鬱陶しいな」

 彼、ミーニャ王子は舌打ちするとわたくしを抱えたまま……廊下の窓から外に飛んだ。
 こ……ここは3階なんですけどぉおおおお!!!
 ミーニャ王子は窓の側にあった木を足で蹴って勢いを殺してから器用に地面に着地し、わたくしをお姫様抱っこで抱きなおして疾走した。
『犬』は付けて貰っているけれど、流石に他国の王子に対して『わんちゃんやっておしまいなさい!』という訳にもいかない。
 ミーニャ王子はわたくしを抱えたまま校外まで走り出て、跳躍をすると商店らしき建物の屋根の上に飛び乗ってから、ようやくわたくしを下ろした。
 ……というか屋根の上とか怖いんですけど!!

「ミーニャ王子。ご……ご用件は……」

 早く用件を聞き出して、ここから下りたい。
 わたくしが使える魔法は土・水・火で魔法で自力で下りるのは難しいから……『犬』の報告で気付いたマクシミリアンのお迎えを待つしかないのかしら。
 風魔法が使えればふわーっと下りれるのになぁ。
 ミーニャ王子は金色の目でじっとわたくしを見る……縦の瞳孔がきゅっと収縮して少し怖い。
 彼が薄く唇を開くと、小さな白い牙が見えた。

「……お前、昨日僕にキスしたな?」
「し……しておりませんわよ!?」

 突然そう言われ、わたくしは驚愕した。それはきっと人違いだ。
 知らない男性にキスをするなんて破廉恥な行為、した覚えなんてない。
 そもそもマクシミリアンとしかキスなんかした事ないもの!!

「しただろう。獣化した俺に」
「獣化した……って」

 獣人の方々は獣の姿になれると本で読んだけれど……まさか、まさか昨日の……。

「昨日の黒猫ちゃん……?? ですの?」

 わたくしがそう訊くと、彼は真剣な顔で頷いた。

「ご……ごめんなさい。可愛い猫ちゃんだったのでつい……。あの、わたくし普通の猫ちゃんだと思っていたので……不可抗力だと思うのですわ……!!」

 あわあわしながら、弁解をする。
 ああ、どうしよう……他国の王子様にキスをしてしまったなんて……! 無礼にも程があるわよね。
 でもあんなお姿だと王子だなんて分からなかったし……不可抗力よね? ねっ??

「なぁ、お前。他国の王族に無礼を働いてただで済むと思ってる?」
「えーっと……。いっぱいお詫びならしますけど……」

 わたくしがそう言うとミーニャ王子はふん、と馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

「お前の詫びなんて何になる。申し訳ないと思うのなら、僕に手を貸せ」

 ミーニャ王子の言葉にわたくしはこてり、と首を傾げた。
 犯罪以外ならお手伝いするのはやぶさかではないですけど……何かしら。
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