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ゾフィーとヒロイン・前(ゾフィー視点)

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 唐突な話になってしまいますが。
 私、ゾフィー・カロリーネ子爵家令嬢はビアンカ様のように寮で自分の使用人が作ってくれた朝食を食べるのではなく、毎朝安価な学園の食堂で朝食を食べていますの。
 使用人は学園に連れて来ておりません。身の回りの事は通いの使用人にたまに来てもらって掃除をして頂くくらいでほとんど自分でしております。嫌いじゃありませんしね、生活の細々とした事。
 マクシミリアンさんやジョアンナさんのような美貌の侍従には正直憧れますけど……でも身の丈というものが人間ございますもの。
 学園近くに点在するカフェで朝食を食べる生徒達も多いそうなのですけど、私は断然食堂派ですの。
 だって食堂の朝食は毎日日替わりですのよ。私の学園生活の楽しみの一つなのですわ!

 今日は新学期開始の日で『今朝は何が出るのかしら』なんて思いながら食堂に足を進めておりますと、見覚えのある後ろ姿が目に入りましたの。
 ……あれは、間違いなくノエル様ですわ。姿勢のいい立ち姿が今日も素敵です。ノエル様も朝食を食堂でお食べになるのかしら?
 ノエル様と親しくなったのは夏の日の幻のようなもので、校内で声をかけるなんておこがましいかしら……なんて思ったのだけれど。

「ノ……ノエル様っ!!おはようございます!」
「やぁゾフィー。おはよう、君も今から朝食? 君さえ良ければ一緒に食べよう?」

 勇気を出して声をかけると、ノエル様の方から朝食に誘って下さって……! 私とても感動しましたのよ。
 ああ、大好きですわ、ノエル様!

「はい、是非一緒に食べたいですわ!」
「朝から元気でゾフィーは可愛いね」

 かかかかかか可愛い……??!
 ……ノエル様。乙女にそんな事を言うと勘違いしてしまいますわよ?
 ましてや私、貴方に恋をしているのですから……ノエル様は罪な殿方ですわ。

「……ノエル様は、口がお上手ですわ」

 少し、恨めしげな顔になっていたかもしれません。横目でじとっとノエル様を見ると、彼がふんわりと優しい笑顔でこちらを見つめていたので心臓が早鐘を打ちましたの。
 そんな優しい目をしないで下さいませ、ときめいてしまいます……。

「本当の事しか、俺は言わないから。ゾフィーは可愛いよ」

 ノエル様は重ねて、可愛いと言って下さいましたの。
 でも私……容姿には全く自信がありません。だってぽっちゃりですし、肌にはそばかすも浮いていますし。顔立ちも目だけ大きくて整っているとは思えませんの。
 だからノエル様はからかっていらっしゃるのだわ、なんて思ったのですけど……様子を伺うと彼の表情はあくまで真面目でそんな風には全く見えなくて。
 私、混乱して真っ赤になってしまいました。

「行こうか、ゾフィー」

 そう言ってノエル様が手を差し出してくれたので、反射的に繋いでしまいました。
 夏の間に何度か繋いだ、大きくて剣だこのある少しゴツゴツとしたノエル様の手は頼りがいのある素敵な手です。
 ……いいのかしら、こんなに幸せで。私、勘違いしていいのですかノエル様?
 好きだと言ったら……貴方は応えてくれますか?

 食堂に着くと、厨房からパラディスコでお会いしたサイトーサン伯爵が顔を出してびっくりしました。
 幻かしら? と思って何度も目を擦ったのですが消えなくて……幻じゃないですわね!?

「おはよう! 今日のメニューはチーズオムレツとサラダ、かぼちゃの冷製スープにひまわりの種が入ったベーグルだよ。スープはおかわり自由だけどベーグルは一回だけしかおかわり出来ないから気をつけて?」

 サイトーサン伯爵は私達と目が合うとそう言って綺麗な顔でにこりと笑い朝食のメニューの説明をして下さったのですけど……。
 いやいや、メニューもとっても大事ですけど、どうしてここにいらっしゃるの!?
 ノエル様も横で目を白黒させていらっしゃるので知らなかったみたいですわ。
 混乱する私とノエル様を見て楽しそうに微笑まれる様子を見て、この方案外悪戯好きなのかもしれないわ、なんて思いました。
 彼はエプロンではなく袖がある白いお仕着せのようなものを着ていらっしゃいまして気になって見ていると、『ああこれ、僕の国のエプロンで割烹着っていうんだよ?』と説明して下さいました。
 サイトーサン伯爵は臨時職員としてしばらく学園で働くんですって! 貴族なのに本当に変わってらっしゃるわ。
 頂いたお料理は、今までの食堂の料理と比べものにならないくらい美味しくて……! これは流行ってしまうわ、食堂混雑必至ですわね! サイトーサン伯爵はものすごい美形ですし……。

「席取り合戦に負けないように俺達頑張らないといけないね」

 同じ事を考えていたらしいノエル様にそう言われて、私は勢いよく頷きました。

 食堂から教室へ向かう間もノエル様は手を繋いで下さって……ああ、こんな幸せな時間がずっと続けばいいのにと思ってしまいましたの。

 ……これから起きる事なんて、想像もせずに。
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