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令嬢13歳・へこむ執事、慰めるわたくし

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 職員としての打ち合わせがあるらしいユウ君を校舎まで見送る。
 ユウ君は柔らかい笑みを浮かべてこちらに軽く手を振ってから、くるりと校舎の方へ身を翻した。
 流石にモデルをやっていただけあって、一つ一つの所作がとても素敵だなと思ってしまう……うん、キラキラしていますね。
 わたくしも令嬢教育を受けていたので多少は所作に自信がと思っていたのだけれど、大勢の人に見せるための動作はまた違うのだろう。
 ユウ君の姿勢のいい後ろ姿が校舎に消えるのを見届けて、わたくしはマクシミリアンと寮へ戻った。

「お嬢様……」

 寮の部屋に戻った途端にマクシミリアンが切なげな声を漏らしながら後ろから強い力で抱きしめてきて、突然の事に酷く焦った。

「マクシミリアン、どうしたの!?」
「……ずっとお側におりましたのにお嬢様が命に関わるような事で悩んでいる事に気づかず、何年も過ごしてしまって……本当に申し訳ないです」

 そう言ってマクシミリアンは深い溜め息を吐く。
 そんなの……仕方ないのに。だって『王子に国外追放されたり、ノエル様に斬り殺されたり、ミルカ王女に毒殺されたり、貴方がわたくしをボコボコにして娼館に送ったりする可能性があるのでそのフラグを潰すのに協力して下さい』なんて相談されても貴方困ったでしょう? 下手したらわたくしの気が狂ったと思われたかもしれないわ。
 ユウ君のようなイレギュラーな存在(とシュミナ嬢の迂闊な行動)があったからこそ信じてもらえた事だと思うし、それがなければ今でもマクシミリアンには話さなかっただろう。

「マクシミリアン、わたくしが話さなかったのだから気づかなくても仕方がないわ」
「はい……」
「状況が許さなかったというだけで、貴方を信用していないから話さなかったわけではないのよ?」
「……はい」

 抱きしめる力が強くなって、マクシミリアンの声が小さくなってしまう。……これはかなりへこんでるなぁ……。

「お嬢様のお悩みに気づけなかった事もですが……。例え、一つの可能性の話だとしてもお嬢様を私が殺すだなんて……自分が許せないです」

 ――貴方のルートは正確に言うと、ボコボコにして娼館に送るルートなんだけど。
 これだけは一生言わないわ……これ以上へこむ彼なんて見たくない。

「今の貴方は、そんな事はしないでしょう?」
「する訳ありません……!」

 マクシミリアンは返事はするものの抱きしめる腕を解いてくれず、わたくしの肩に顔を埋めてしまう。
 これはどうしたものか……ジョアンナは半休で帰ってしまっているし、このままだと棒立ちのままマクシミリアンに抱きしめられっぱなしになってしまう。

「マクシミリアン、ソファーの方へ行きましょう?」

 できるだけ優しくそう言うとマクシミリアンは素直に拘束を解いてくれて、わたくしが手を引くとソファーの方へ足を進めた。
 わたくしはソファーに先に腰をかけると、ポンポンと膝を叩いた。
 するとマクシミリアンは怪訝そうな顔で首を傾げる。

「膝枕、してあげる。貴方よくわたくしにしてくれるじゃない?」
「おっ……お嬢様……!!」

 マクシミリアンの顔が真っ赤になって、少し後ずさる。
 ……未婚の淑女がする事じゃないと分かってるわよ? でも少しでも慰めてあげたいの。
 何度かわたくしが催促するように膝を叩くと彼は諦めたように恐る恐るという感じでソファーに寝転がるとわたくしの膝に頭を乗せた。彼の頭がお膝に乗せられ、身じろぐ感触がくすぐったい。
 身長が高い彼がソファーに寝転がると、足がかなりはみ出てしまって少し窮屈そうだ。
 綺麗な顔に少し元気なさげな上目遣いで見上げられて母性本能が激しく刺激されてしまい、マクシミリアンがへこんでいるのにわたくしのテンションは一瞬上がってしまって激しく反省をした。

「マクシミリアン、頼りにしてるのよ? これからの悩みは全部……貴方に話すから」

 そう言いながら彼の綺麗な形の額を撫でる。すると彼は気持ちよさそうに目を細めて、わたくしを見つめた。

「お嬢様に……お気を使わせてしまいましたね。情けないです」
「別にいいのよ、そんな事」

 マクシミリアンは……前世のわたくしと同じ18歳なのだし。
 あっち基準だと高校生三年生とか大学一年生よ? へこんだり、余裕がなかったり、落ち込んだりしても仕方ないと思うの。

「絶対に……お嬢様を傷つけるような事はいたしませんから」

 可能性の一つとはいえわたくしを傷つけていたかもしれない。その事実は彼の心に大きな傷を作ってしまったようで……。
 ユウ君への説明のためとはいえ、マクシミリアンの前で『乙女ゲーム』の話をしたのは失敗だった……そう思うと申し訳ない気持ちになる。

「……知らない方が、よかった?」

 わたくしが怖々そう訊ねると。

「いえ……知らない方が、辛いです。今の私はお嬢様を必ず守りますから……信じて下さい」

 マクシミリアンは手を伸ばしてわたくしの頬を撫でながらそう言った。
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