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執事はお嬢様とお出かけする・後(マクシミリアン視点)
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「おじさま、これは?」
「これはねぇ、お嬢さん――」
お嬢様は野菜の苗が売られた数々のテントを飛び回って、楽しそうに店主達と野菜の話をしていた。
今は人の好さそうな老人ににこにこしながら『ニラ』という野菜の話を聞いている。
……私にはただの長く伸びた雑草にしか見えないのだが、野菜らしい。
店主に勧められて匂いを嗅いでみるとなんともいえない癖のある香りがした。
「ニラがこちらにもあるのね!チヂミを食べたくなるわ……」
なんてお嬢様が呟いているから、きっとお嬢様の前世にもあった野菜なのだろう。
お嬢様が言うには……お嬢様の前世の世界と、こちらの世界は、物の名称に共通のものがあったりと認識を共有している部分が多々あるそうだ。
『この世界と前世の世界は互いに干渉しあってたりするのかしら……その結果この世界の乙女ゲーム化があったの……??』なんてお嬢様は言っていたが……その辺りの仕組みはお嬢様にも分からないらしい。
……ところで『乙女ゲーム』ってなんですか?お嬢様。
訊ねてみたらそっと目を逸らされたのできっと答え辛い事なのだろう。
「うう……色々買って帰りたいけど鉢植えを抱えて帰ると不審に思われちゃうわよね……」
「お嬢様、こちらの野菜は種の取り扱いもあるようですよ?」
「まぁ!本当ね!これだったら買って帰れるわ!」
お嬢様は目をキラキラさせて様々な種を購入している。
そんな楽しそうなお嬢様をお側で見ていられるのが……とても嬉しくて、私は幸せだと思った。
繋いでいる手をぎゅっと握るとお嬢様は微笑みつつ『迷子になんてならないわよ?』と言いながら握り返してくれた。
「マクシミリアンは、どんな野菜なら好きかしら?ブロッコリーやニンジンは苦手だったわよね?」
「そうですね……葉物でしたら好きですね。癖のないジャガイモや南瓜のような根菜類も好きです」
……そう、私は基本的に癖のある野菜が好きではない。
だけどお嬢様が手ずから育てるものであれば……何であっても喜んで食べるだろう。
「じゃあ南国に移住したら、葉物を沢山植えましょう?さっき買ったニラも葉物野菜だけど癖が強いから、マクシミリアンは苦手かもしれないわね」
お嬢様は屈託ない微笑みを浮かべながら楽しそうに話す。
――――そのお嬢様が何気なく話した内容に、心臓が止まるかと思った。
「そのお言葉は……お嬢様が私との移住を想定して下さっていると……思ってもいいのでしょうか?」
掠れた声で、お嬢様に尋ねる。
お嬢様の発言は無意識だったらしく、彼女は驚愕に染まった顔で大きく目を見開いて私を見つめたかと思うと……。
「あ……ふぇ?あれっ……!?」
茹で上がったように真っ赤になってパクパクと口を動かし、私の手を振り払って……脱兎のごとく逃げだした。
「お嬢様っ!!?待って下さい!」
銀糸が翻りお嬢様の表情を隠したので彼女が今どんな顔をしているのか分からない。
お嬢様の小さな体は、人混みにぶつかりよろけながらもそれに紛れて遠くなっていった。
この混雑だ、はぐれる事を予期してお嬢様の護衛の為に予め数匹の『犬』をお嬢様の影の中に潜ませている。
だからお嬢様の身の安全は保証されている……『犬』達を排除出来るような手練れは稀にしかいない。
念の為に更に数匹追加でお嬢様の影に『犬』達を飛ばし、1匹の『犬』に先導をさせお嬢様の後を追った。
『犬』は地面を平面的に這いながらお嬢様を追っている、例え気付いた者がいても鳥の影か何かにしか見えないだろう。
しかし……。
――――お嬢様が、無意識に。私との南国での生活を……考えて下さった?
その事実は……私の心を歓喜で震わせた。
早く、早く、早く……お嬢様を捕まえて、どんな表情をしていらっしゃるのかそのお顔を見たい。
私は、無我夢中で足を動かした。
「これはねぇ、お嬢さん――」
お嬢様は野菜の苗が売られた数々のテントを飛び回って、楽しそうに店主達と野菜の話をしていた。
今は人の好さそうな老人ににこにこしながら『ニラ』という野菜の話を聞いている。
……私にはただの長く伸びた雑草にしか見えないのだが、野菜らしい。
店主に勧められて匂いを嗅いでみるとなんともいえない癖のある香りがした。
「ニラがこちらにもあるのね!チヂミを食べたくなるわ……」
なんてお嬢様が呟いているから、きっとお嬢様の前世にもあった野菜なのだろう。
お嬢様が言うには……お嬢様の前世の世界と、こちらの世界は、物の名称に共通のものがあったりと認識を共有している部分が多々あるそうだ。
『この世界と前世の世界は互いに干渉しあってたりするのかしら……その結果この世界の乙女ゲーム化があったの……??』なんてお嬢様は言っていたが……その辺りの仕組みはお嬢様にも分からないらしい。
……ところで『乙女ゲーム』ってなんですか?お嬢様。
訊ねてみたらそっと目を逸らされたのできっと答え辛い事なのだろう。
「うう……色々買って帰りたいけど鉢植えを抱えて帰ると不審に思われちゃうわよね……」
「お嬢様、こちらの野菜は種の取り扱いもあるようですよ?」
「まぁ!本当ね!これだったら買って帰れるわ!」
お嬢様は目をキラキラさせて様々な種を購入している。
そんな楽しそうなお嬢様をお側で見ていられるのが……とても嬉しくて、私は幸せだと思った。
繋いでいる手をぎゅっと握るとお嬢様は微笑みつつ『迷子になんてならないわよ?』と言いながら握り返してくれた。
「マクシミリアンは、どんな野菜なら好きかしら?ブロッコリーやニンジンは苦手だったわよね?」
「そうですね……葉物でしたら好きですね。癖のないジャガイモや南瓜のような根菜類も好きです」
……そう、私は基本的に癖のある野菜が好きではない。
だけどお嬢様が手ずから育てるものであれば……何であっても喜んで食べるだろう。
「じゃあ南国に移住したら、葉物を沢山植えましょう?さっき買ったニラも葉物野菜だけど癖が強いから、マクシミリアンは苦手かもしれないわね」
お嬢様は屈託ない微笑みを浮かべながら楽しそうに話す。
――――そのお嬢様が何気なく話した内容に、心臓が止まるかと思った。
「そのお言葉は……お嬢様が私との移住を想定して下さっていると……思ってもいいのでしょうか?」
掠れた声で、お嬢様に尋ねる。
お嬢様の発言は無意識だったらしく、彼女は驚愕に染まった顔で大きく目を見開いて私を見つめたかと思うと……。
「あ……ふぇ?あれっ……!?」
茹で上がったように真っ赤になってパクパクと口を動かし、私の手を振り払って……脱兎のごとく逃げだした。
「お嬢様っ!!?待って下さい!」
銀糸が翻りお嬢様の表情を隠したので彼女が今どんな顔をしているのか分からない。
お嬢様の小さな体は、人混みにぶつかりよろけながらもそれに紛れて遠くなっていった。
この混雑だ、はぐれる事を予期してお嬢様の護衛の為に予め数匹の『犬』をお嬢様の影の中に潜ませている。
だからお嬢様の身の安全は保証されている……『犬』達を排除出来るような手練れは稀にしかいない。
念の為に更に数匹追加でお嬢様の影に『犬』達を飛ばし、1匹の『犬』に先導をさせお嬢様の後を追った。
『犬』は地面を平面的に這いながらお嬢様を追っている、例え気付いた者がいても鳥の影か何かにしか見えないだろう。
しかし……。
――――お嬢様が、無意識に。私との南国での生活を……考えて下さった?
その事実は……私の心を歓喜で震わせた。
早く、早く、早く……お嬢様を捕まえて、どんな表情をしていらっしゃるのかそのお顔を見たい。
私は、無我夢中で足を動かした。
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