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令嬢13歳・ユウ君のお菓子教室・後

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「えーっとまずは白いんげんを一晩水に漬けてから柔らかくなるまで煮るんだけど……。白いんげんを煮ている時間は勿論無いから、もう煮てあるものを使うね」

そう言いながらユウ君は鍋に入った煮上がった白いんげんを持ってきた。
それを魔石式のコンロにかけて煮立たせ、煮詰めて水分を飛ばしてからそこに砂糖を大量に加える。
ふわり、と豆の風味の良い香りが周囲に漂った。

「すごい量を入れるんだな……」
「お菓子に大量の砂糖は付き物ですよ。美味しいものは大体ハイカロリーなんです」
「お嬢様はお腹周りを気にしてらっしゃいますし……心配ですね」

鍋を囲みながら男三人が和気藹々と会話を交わしている。
マクシミリアン、さり気なく乙女の秘密をバラさないで下さる?!

「お腹周り……」

フィリップ王子、こちらをじっと見ないで下さいまし。
多分王子の方がウエストが細いから本当に傷つくの……。

「ビーちゃん。女の子は少しぽっちゃりしてるくらいが可愛いよ?」

ユウ君、悲しみしか生まれない慰めは止めて!!

「また水分が出るから飛ばしながら練り上げていくと白あんの完成だよ」

その後もテキパキとユウ君が練り切りの生地を作っていく。
それを見ながら真剣な顔でマクシミリアンが質問を挟みつつメモを取り、フィリップ王子も横から手を出して生地を練るのを手伝ったりと楽しそうだ。

…………楽しそうだなぁ。

「……皆楽しそうでずるいですわ……」
「ビーちゃんはこれでも飲んで座ってて?」

皆の周囲をウロチョロとしていたらユウ君にオレンジジュースを手渡されソファーに座らされた。
皆はユウ君が用意した色付けのパウダーを生地に混ぜ楽しそうに色々な生地を作っている。
……女の子達が料理をしているのを眺めている男子の気分である。

「わ……わたくしも……」
「お嬢様。もう少しお待ち下さいませね」

マ……マクシミリアンまでっ……!!

「さて、そろそろ成型に入るからビーちゃんもおいで」

ユウ君に呼ばれる頃には、わたくしは不貞腐れてソファーに寝転んでいた。
令嬢らしくない?だって皆楽しそうでずるいんだもん。
それにしても……ユウ君と居ると立ち居振る舞いが『みこと』の方に傾いている気がする……。

「ビーちゃんは待ちくたびれたので動けません」

ぷくっと頬を膨らませて放置された恨みが篭った視線でユウ君を睨むと、ユウ君は苦笑いをしながら近付いてきた。

「ビーちゃん。おいで?」
「ひぇっ!?」

脇の下に手を差し入れられ、ユウ君に軽々と縦に持ち上げられる。
猫や犬の子じゃないのよ……!!

「マクシミリアンといいサイトーサンといいビアンカを気軽に抱えすぎだろう!俺は、やった事ないのに!」
「サイトーサン伯爵、せめてお姫様抱っこで抱えてあげて下さい。お嬢様は淑女なんですよ」

フィリップ王子、マクシミリアン、そもそも淑女はそんなにホイホイと抱えていいものではありませんわ!!
わたくしはそのままユウ君に椅子に座らされて、ふくれっ面のまま色とりどりの生地達と対峙したのだった。

――――――十数分後。

わたくしは上機嫌で生地を捏ねていた。
可愛い動物の形の練り切りが作りたいな~オーソドックスにウサギなんてどうかしら。
なんて上機嫌でウサギを作りつつチラリと横を見ると……フィリップ王子が荘厳な宮殿のような造形物を作っていた。最早職人技以上じゃない……。
……わたくしのウサギさんが非常に貧相に見えるわ……。

「ビーちゃん、可愛いね!上手上手!」

なんてユウ君は褒めてくれるけど……才能のある芸術家の横でウサギを捏ねまわしている虚しさったら……!!
マクシミリアンの方を伺うと彼は和菓子の職人のような手付きで次々と花や木の葉の練り切りを生み出している。なんて精密なの……このまま店頭に並べられそうね。

「……なんだか皆、ずるいですわ」

2人よりもクオリティが何段階も低い手元のウサギを見つめて溜め息を吐くと、ユウ君から頭を優しく撫でられた。

「僕は顔が優しくて、ビーちゃんのウサギ好きだよ?」

ユウ君がそう言ってくれると、そうなのかもしれないと……どう見ても少し不細工なウサギの顔を見ながら少し嬉しい気持ちになった。

これがきっかけでユウ君とフィリップ王子、マクシミリアンは……なんだか仲良くなった。
パラディスコの残りの滞在中に他のお菓子の作り方を学ぶのだと2人共張り切っている。
わたくしだけ置き去りにされた気分で、なんだか納得いかないわ……!
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