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令嬢13歳・夏休暇とパラディスコ

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「マクシミリアン、話があるの」

わたくしはそう言いながら、寮の自室で彼に椅子を勧めた。
すると彼は怪訝そうな顔をしながらも、その椅子に座ってくれる。
ジョアンナが何か面白そうな事をお始めですね?なんて期待する顔をしながらも、動きは洗練されたメイドとしてのそれで、わたくし達の前にお茶やお菓子を置いた後優美な動作で壁際に控えた。

話とは他でもない夏休暇のパラディスコ行きの事だ。
以前メイカ王子に誘われた時には断ったけれど……。
ミルカ王女に誘われてしまっては、断る理由がわたくしには無い……というか。
正直めちゃくちゃ、行きたいのだ。お友達と夏の旅行なんて、前世でもした事がないのよ!

「お嬢様、真面目なお話ですか?」
「そう、真面目なお話なの」

じっと彼の目を見つめると……彼は首を傾げて。

「私と駆け落ちして下さる気になって下さった……とか?」

なんていきなり爆弾をぶち込んで来た。
ち……違う!そこまで真面目な話じゃない!!

「それはまだ早いわ!」

思わず真っ赤な顔で立ち上がり、マクシミリアンを指差してしまう。
うう……淑女の態度じゃないのは分かっているんだけど、マクシミリアンがいきなり変な事を言うから…!!
するとマクシミリアンはわたくしの指差す手を取って……。

「では、お待ちしましょう」

とうっそりと笑って言いながら、わたくしの手の甲に長く口付けた。
そして金魚のように真っ赤になってはくはくと口を動かす事しか出来ないわたくしに、その美しい黒い瞳を細めて悪戯っぽい視線を投げてくる。
あああ……上目遣いずるいです……!
わたくしは勢いよく彼の手を振り払って、再び椅子に着席した。

「夏休暇の事なのだけれど……。ミルカ王女に、パラディスコ王国へ遊びに来ないかって……お誘いされていて」
「却下です」

即答だった。うう……そう来るとは思ったけど……。
マクシミリアンの協力が無ければ、きっと過保護な父様も反対する。
ここは正念場なのだ……!

「あちらでお嬢様が意中の方と出会う可能性があるのに、私が賛成すると思いますか?それにあのメイカ王子も一緒でしょう?」

長い足を見せつけるように組んで、椅子の肘掛に肘を置き頬杖を付きながらマクシミリアンが言う。
彼は最近、プライベートな会話の時は所作に地が出るというか……その仕草も素敵過ぎて内心ドキドキしてしまう。
このままでは心臓が持たなくなりそうだから止めて……!

「メイカ王子とは違うルートで行くそうだし、あちらでも会わないようにミルカ王女が調整して下さるそうなの。男性と出会うような……パーティなんかにも行かないわ」

じっ……とマクシミリアンが懐疑心を含んだ視線でわたくしを見つめるけれど、ここで目を逸らす訳にはいかない。

「初めて出来た女の子のお友達との旅行なの。わたくし、どうしても行きたいの……」

手を前で組んで、甘えるような声音と視線で言うとマクシミリアンの頬に赤みが差した。
も……もう一声かな……!!

「お願いを聞いて貰うのだから……その。マクシミリアンがして欲しい事、1個だけ、わたくしもお願いを聞くわ。あの……南国へ駆け落ちは今は無理だけど」

そう言った瞬間、マクシミリアンの漆黒の瞳が大きく見開かれ食い入るようにわたくしの顔を見るので、それが怖くてわたくしは発言を後悔してしまう。
この目は……鮫、そう鮫の獲物を捕らえる目だ!!

「なんでも、ですか?」

マクシミリアンが椅子から立ち上がるとこちらへ近付いて来る。
黒髪黒目で黒ずくめの彼がそうやって獲物を狙うみたいにゆっくり美麗な動作で近付いて来ると……野生の黒豹にでも狙われている気分になる。
うう……鮫も黒豹も肉食獣ですね……!
彼はのしかかるようにわたくしの座っている椅子の肘掛に両手を付くと、腕の檻でわたくしを閉じ込めてしまった。

「やらしい事は無しで……!!」
「ふふ……そんな事はお願いしませんよ?」

言いながらマクシミリアンはふっ、と顔を近づけてわたくしの耳に息を吹きかけた。
すでに雰囲気がアウトよマクシミリアン。わたくしの心の中の審判がレッドカードを出す。
最近のマクシミリアンは、わたくしには刺激が強すぎます!

「……では、お嬢様からキスをして下さい」
「キスはやらしいと思うわ!」

言われた言葉に思わず目を剥いて反論する。
ジョアンナが控えている壁の方を見ると、彼女は冷静な顔を一見しているけれど口の端は引き攣って笑いを堪えているのが分かる。
キスくらいだし面白そうだから様子を見ておこう、という彼女の心がありありと読みとれる。
ジョアンナ覚えてなさい……!!
ちなみに、『駆け落ち』というワードが会話で最初に飛び出した時のジョアンナの反応は『まぁ……マックスならやると思ってたんで』というものであった。

「……キス……したら、パラディスコに行っていい?」

涙目でわたくしが言うと、マクシミリアンは鷹揚に頷いた。
うう……背に腹は代えられぬ……!
わたくしは覚悟を決めて目の前にあるマクシミリアンの頬を両手で挟んだ。

(う……うわぁ……本当に綺麗な顔……。ええええ……キス、キスしなきゃなのよね??)

マクシミリアンの顔を見つめながら、真っ白になってしまう。
キスってどうするんですかね???思わず綺麗なお顔を両手で挟んでしまったものの、見つめているだけで精一杯でどうしていいのか分からない。

(ええい!女は度胸よ!!)

気合を入れたわたくしはマクシミリアンに顔を近づけ……。

……ちょん、とその鼻先に、唇を落とした。

「……鼻でございますか?」

呆気に取られたようにマクシミリアンが呟く。

「……ごめんなさい。これ以上は、ドキドキしすぎて死んじゃうから……」

思わず涙を端に浮かべ縋るような目になりながら言うと、彼は頬を染め熱の篭った視線をわたくしの視線に絡ませた。
……そんな色っぽい目で見ないで……!!わたくしもう瀕死なの!!

「そういうお顔は、ずるいですね……。可愛いお顔に免じて、パラディスコ行きの件、旦那様にご相談致しますね。きっとお許しも出るでしょう」

マクシミリアンはそう言いながら、楽しそうにわたくしの額に唇を落とした。
最近本当に!主従関係が!おかしな具合になってる気がするんですよね!
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