上 下
42 / 222

令嬢13歳・天国の雫

しおりを挟む
今日のわたくしは浮かれていた。
だって…今日はミルカ王女に図書室で本を見ながらパラディスコ王国の事を教えて頂く約束をした日なのだ!
ああ…ワクワクする。何を教えて貰おう。
我が家の蔵書にはパラディスコ王国に関する詳しい本が無かったので、新しい知識を得られる事への期待に胸が膨らむ。
ミルカ王女との待ち合わせの時間までに、パラディスコ王国に関する本を選別しようとわたくしとマクシミリアンは図書室へ向かった。

図書室へ入ると、紙の匂いがふわりと漂っていて胸に吸い込むと心が落ち着く。
テスト期間がまだ先だからか、図書室を利用している人は少なく席に着いている生徒はまばらだ。
珍しい蔵書が多い良い図書室なのに勿体ないわ…。
…だけど学園は勉学よりも婚活の場と捉えている方々も多いし、仕方ないのかな、うん。
わたくしも彼氏作りを頑張りたいけど、全く出来る気がしない。
身分的な意味で駆け落ちに向いてる学園の下位貴族の令息はシュミナ嬢の味方も多いし…。
わたくしはすっかり、彼らの敵なのだ。
どうしてそんなにコロリとシュミナ嬢に騙されるのかしら?って思うけれど。
上位貴族に虐げられる美少女を守る俺達、っていう構図に酔っているんだと思う。恐らく。
実際虐げられている美少女はわたくしなんですけどね。
しかもわたくしが虐めをしている現場なんて貴方達見た事無いでしょう?
わたくし、シュミナ嬢には自主的に近付いた事なんて無いし…そこの所ちゃんと考えて欲しい。
その代わり彼女の無礼な態度に憤る令嬢方や、集団で大きい顔をし『病弱で可憐な』侯爵家令嬢を貶める下位貴族に苦々しい思いを抱いている上位貴族の令息方にはわたくしの味方が多い…らしいんだけど。
『病弱で可憐』の部分は、入学式の時のお姫様抱っこが後を引いてるんだろうなぁ…。
すっかり遠巻きに見られてしまっているわたくしには体感的としては良く分からないし、変に担ぎ上げられても困るので彼、彼女らと関わろうとも思わない。
ぼっちは嫌だけど取り巻きみたいなものが出来て、シュミナ嬢を懲らしめましょうよ!みたいな話の中心人物にされるのはもっと嫌なのだ。

そんな気分が暗くなる事は、今日は忘れよう……。

「マクシミリアン!この本なんてどうかしら?」

書架を巡って、パラディスコの歴史、パラディスコの農耕、パラディスコの地理と3大火山…そんなタイトルの本数冊を手元に確保しマクシミリアンに見せると、彼はしばしタイトルを見て地理の本を指差した。

「初回から色々なお話をするのは王女様も大変だと思いますので。取り合えずはジャンルを絞った方が良いかと…。まずは地理からお伺いするのはどうでしょう?」

確かにそうね。色々訊きたいけれど王女を何時間も拘束するなんて失礼な事は出来ないし…。

「ありがとうマクシミリアン。この本にするわね」

にこりと笑って彼を見ると、彼も柔和に微笑み返してくれた。
席も確保したしあとはミルカ王女を待つだけ。待ち合わせの時間は少しずつ近付いて来ている。

「ビアンカ嬢~お待たせ」

ふわふわとした口調のミルカ王女の声がしたので浮き立った気持ちでそちらを見ると、彼女は一人の青年を連れていた。

「メイカもビアンカ嬢に会いたいって言うから、連れて来ちゃった。私の双子の兄なの」

――――攻略対象、その4。

その少年を目にした瞬間。そんな言葉が浮かんで、意外な展開に頭が一瞬真っ白になる。

メイカ・グラシアス……パラディスコ王国第一王子。
赤く背中まである髪、日に焼けた肌、澄んだ緑色の瞳。彫りの深いエキゾチックな顔立ち…。
女好きで常に誰かと浮名を流しているけれど、心の底からは誰の事も愛した事がない移り気な南国の王子様だ。
妹と同じく、制服を着崩して刺青が彫られたその逞しい胸板をチラリと見せるゲームのお色気担当でもある。
メイカ王子のルートは、ヒロインが移り気な彼の気持ちをその無垢な様で捉えて翻弄し、彼が初めて感じる独占欲や愛という感情を与え…最終的にヒロインはパラディスコ王国の王妃に…と言う話である。
メイカ王子ルートでのビアンカも勿論最後は酷い目に遭うのだけど…彼はビアンカのバッドエンドに直接的な関わりがない。
というのも…。

ミルカ王女。ミルカ・グラシアスは彼の双子の妹……そして『ヒロインのサポートキャラ』。

ビアンカに手を下すのは、彼女だからだ。
大切な親友であるヒロインを虐め、婚約者が居るのにも関わらず兄への醜い恋慕を滲ませる侯爵家令嬢…ビアンカが、ヒロインの暗殺を企てている事に諜報により気付くミルカ王女。
親友を殺される前にと、ミルカ王女はビアンカに…『天国の雫』という王家秘伝の体内に残らない毒を飲ませ毒殺してしまう。
『あら、どうしたの~?心臓が弱かったのかしら。可哀想』ミルカ王女はそう言って、死んだビアンカを見て無邪気に微笑むのだ…。


……ヒロインのサポートキャラは、悪役令嬢のお友達になってくれますか?


第4の攻略対象の事よりも死亡フラグよりも。
……先にそっちの方が気になってしまったわたくしは、女友達に余程飢えているのだろう。
しおりを挟む
感想 204

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処刑された王女は隣国に転生して聖女となる

空飛ぶひよこ
恋愛
旧題:魔女として処刑された王女は、隣国に転生し聖女となる 生まれ持った「癒し」の力を、民の為に惜しみなく使って来た王女アシュリナ。 しかし、その人気を妬む腹違いの兄ルイスに疎まれ、彼が連れてきたアシュリナと同じ「癒し」の力を持つ聖女ユーリアの謀略により、魔女のレッテルを貼られ処刑されてしまう。 同じ力を持ったまま、隣国にディアナという名で転生した彼女は、6歳の頃に全てを思い出す。 「ーーこの力を、誰にも知られてはいけない」 しかし、森で倒れている王子を見過ごせずに、力を使って助けたことにより、ディアナの人生は一変する。 「どうか、この国で聖女になってくれませんか。貴女の力が必要なんです」 これは、理不尽に生涯を終わらされた一人の少女が、生まれ変わって幸福を掴む物語。

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。 この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。 執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め...... 剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。 本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。 小説家になろう様でも掲載中です。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...