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執事見習いの嬉しい誤算(マクシミリアン視点)
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13歳になる年。私…マクシミリアン・セルバンデスの魔法学園入学が決まった。
最初は入学すら、する気は無かった。勿論お嬢様のお側にずっと仕える為だ。
しかし旦那様にそれは却下された。
「お前の人生の事も考えなさい。うちの娘の為に全てを捧げる事まではしなくていいんだ」
優しい声で、しかし諭すように旦那様が言う。
……旦那様の言いたい事は分かる。
男爵家の三男と言う微妙な身分の自分が、将来執事以外の職で身を立てようと思い立つ機会があったとして。
魔法学園を卒業しているか否かは大きな違いとなる。
良い職場に就けるかどうかの確率が、雲泥の差になってしまう……旦那様がそれを危惧しているのだ。
――――今のところ、私はお嬢様の側仕えしかする気はないのだが。
ただ、例えば万が一、あの王子にお嬢様が嫁ぐ事になった場合…。
彼は私をお嬢様の側から排除しようとするだろう。
その際にお嬢様を近くで見守る為に王宮魔法師として王宮に潜り込む……いや、就職をする為には魔法学園の卒業は必須項目だったように思う。
王宮魔法師として勤められる実力だけなら現状でもあると自負しているし……とある『手段』を使えばどうとでもなるのだが一生秘匿したい『手段』なので学園は確かに卒業した方がいいだろう。
「では、執事のお仕事は続けながら、こちらから通うと言う事で……」
「それも却下だ。マクシミリアン。こちらで費用は出すからちゃんと寮に入りなさい」
そう言って旦那様は、青い目を厳しく光らせ、私を見つめた。
「ですが旦那様それでは…!お嬢様のお側に居る事が……」
私はお嬢様を守る為に旦那様に雇われたのに。
それに学園へはここから通えない距離では無いのだから、完全に無駄な出費だ。
「勉学の機会は貴重なものなのだから、集中出来る環境で頑張りなさい。……お前の事は2人目の息子のようなものだと思っている。何があってもちゃんとした道へ進めるようにしてやりたいんだよ」
旦那様の言葉に、私はぐっと息を詰まらせた。
そこまで、旦那様が私の事を思って下さっていたなんて。
良い雇い主だとは思っていたが……私が思っている以上の情を掛けてくれていたのだ。
私は、感情が高ぶり目に涙が浮かびそうになるのを必死で堪えた。
「……分かりました。ちゃんと勉学を修めて参ります」
「ああ。ちゃんと励み、卒業したらまたビアンカを守ってくれ。そうだ、長期休暇の時以外は戻って来なくていいからな?」
旦那様はそう言って、悪戯っぽく笑う。
せめて毎週末は邸に…と思っていた私の考えは見抜かれており、打ち砕かれた。
そして実際入学し、毎週末戻る余裕なんて無い事を思い知らされた。
……入学当初から魔力量が多く制御に長けていた私は教師に気に入られ、一般生徒と比べて膨大な量の課題を押し付けられたのだ。
とにかく、旦那様にここまで目を掛けて貰えていたのは、本当に嬉しい誤算だ。
そしてもう一つ嬉しい誤算が。
「マクシミリアン……もう行っちゃうの?」
「明日で冬休暇は終わりですので…」
邸に帰る度に、お嬢様が私の後ろを追いかけ、ついて回り、私が学園に帰る頃には涙目になり縋ってくるようになったのだ。
ああ、お嬢様の私への依存度がここまで上がっていたなんて。なんて喜ばしい事だろう。
全力で甘やかした甲斐があったと云うものだ……!
じっくり時間をかけて……彼女が気付いた頃にはもう、私抜きでは生きられないようにしよう。
……依存心からお嬢様のお気持ちが徐々にでも恋心に移行してくれれば更に万々歳なのだが。
私はにやけそうになる顔を必死で抑えた。
「お嬢様。夏には、また戻りますので」
「夏……」
お嬢様がしょんぼりと地面に目を落とす。
ああ、抱きしめて差し上げたいけれど時間がもう無いのだ。
「さ、アルフォンス様にもご挨拶をしに行きましょう」
アルフォンス様……坊ちゃまとは、学園へ通ううちに学友と呼べる仲となった。
これも私にとっては大きな収穫だった。
お嬢様の事に関しては理性を失う事も多い彼だが、それさえ無ければ本当に理知的で、温和で、頭の回転も早く尊敬出来る人物なのだ。
それが学園で共に過ごしているうちに良く分かった。
『僕と天使の血は……どうして繋がっているんだろう。いや、僕は金髪だし血が本当は繋がっていない可能性も…』
なんてたまに呟きさえしなければ、本当に好人物なのに。
アルフォンス様、病で亡くなられた奥様は金髪でしたよね?お顔も明らかに肖像画の奥様と瓜二つですよね?
残念ながら血は繋がっていると思うのです。
部屋にお嬢様を連れて行くと、彼は顔をくしゃくしゃにして泣き出した。
そんな顔を見たら学園のアルフォンスファンクラブの面々が泣きますよ……。
「天使ちゃん!僕は……僕は。もうビアンカと離れたくない!学園も辞める!」
そう言ってお嬢様を離さないアルフォンス様を引きずって馬車に放り込む作業は、長期休暇ごとの私の仕事となった。
生きていると、嬉しい誤算も沢山ある。
私は近頃それを、身に染みて感じている。
最初は入学すら、する気は無かった。勿論お嬢様のお側にずっと仕える為だ。
しかし旦那様にそれは却下された。
「お前の人生の事も考えなさい。うちの娘の為に全てを捧げる事まではしなくていいんだ」
優しい声で、しかし諭すように旦那様が言う。
……旦那様の言いたい事は分かる。
男爵家の三男と言う微妙な身分の自分が、将来執事以外の職で身を立てようと思い立つ機会があったとして。
魔法学園を卒業しているか否かは大きな違いとなる。
良い職場に就けるかどうかの確率が、雲泥の差になってしまう……旦那様がそれを危惧しているのだ。
――――今のところ、私はお嬢様の側仕えしかする気はないのだが。
ただ、例えば万が一、あの王子にお嬢様が嫁ぐ事になった場合…。
彼は私をお嬢様の側から排除しようとするだろう。
その際にお嬢様を近くで見守る為に王宮魔法師として王宮に潜り込む……いや、就職をする為には魔法学園の卒業は必須項目だったように思う。
王宮魔法師として勤められる実力だけなら現状でもあると自負しているし……とある『手段』を使えばどうとでもなるのだが一生秘匿したい『手段』なので学園は確かに卒業した方がいいだろう。
「では、執事のお仕事は続けながら、こちらから通うと言う事で……」
「それも却下だ。マクシミリアン。こちらで費用は出すからちゃんと寮に入りなさい」
そう言って旦那様は、青い目を厳しく光らせ、私を見つめた。
「ですが旦那様それでは…!お嬢様のお側に居る事が……」
私はお嬢様を守る為に旦那様に雇われたのに。
それに学園へはここから通えない距離では無いのだから、完全に無駄な出費だ。
「勉学の機会は貴重なものなのだから、集中出来る環境で頑張りなさい。……お前の事は2人目の息子のようなものだと思っている。何があってもちゃんとした道へ進めるようにしてやりたいんだよ」
旦那様の言葉に、私はぐっと息を詰まらせた。
そこまで、旦那様が私の事を思って下さっていたなんて。
良い雇い主だとは思っていたが……私が思っている以上の情を掛けてくれていたのだ。
私は、感情が高ぶり目に涙が浮かびそうになるのを必死で堪えた。
「……分かりました。ちゃんと勉学を修めて参ります」
「ああ。ちゃんと励み、卒業したらまたビアンカを守ってくれ。そうだ、長期休暇の時以外は戻って来なくていいからな?」
旦那様はそう言って、悪戯っぽく笑う。
せめて毎週末は邸に…と思っていた私の考えは見抜かれており、打ち砕かれた。
そして実際入学し、毎週末戻る余裕なんて無い事を思い知らされた。
……入学当初から魔力量が多く制御に長けていた私は教師に気に入られ、一般生徒と比べて膨大な量の課題を押し付けられたのだ。
とにかく、旦那様にここまで目を掛けて貰えていたのは、本当に嬉しい誤算だ。
そしてもう一つ嬉しい誤算が。
「マクシミリアン……もう行っちゃうの?」
「明日で冬休暇は終わりですので…」
邸に帰る度に、お嬢様が私の後ろを追いかけ、ついて回り、私が学園に帰る頃には涙目になり縋ってくるようになったのだ。
ああ、お嬢様の私への依存度がここまで上がっていたなんて。なんて喜ばしい事だろう。
全力で甘やかした甲斐があったと云うものだ……!
じっくり時間をかけて……彼女が気付いた頃にはもう、私抜きでは生きられないようにしよう。
……依存心からお嬢様のお気持ちが徐々にでも恋心に移行してくれれば更に万々歳なのだが。
私はにやけそうになる顔を必死で抑えた。
「お嬢様。夏には、また戻りますので」
「夏……」
お嬢様がしょんぼりと地面に目を落とす。
ああ、抱きしめて差し上げたいけれど時間がもう無いのだ。
「さ、アルフォンス様にもご挨拶をしに行きましょう」
アルフォンス様……坊ちゃまとは、学園へ通ううちに学友と呼べる仲となった。
これも私にとっては大きな収穫だった。
お嬢様の事に関しては理性を失う事も多い彼だが、それさえ無ければ本当に理知的で、温和で、頭の回転も早く尊敬出来る人物なのだ。
それが学園で共に過ごしているうちに良く分かった。
『僕と天使の血は……どうして繋がっているんだろう。いや、僕は金髪だし血が本当は繋がっていない可能性も…』
なんてたまに呟きさえしなければ、本当に好人物なのに。
アルフォンス様、病で亡くなられた奥様は金髪でしたよね?お顔も明らかに肖像画の奥様と瓜二つですよね?
残念ながら血は繋がっていると思うのです。
部屋にお嬢様を連れて行くと、彼は顔をくしゃくしゃにして泣き出した。
そんな顔を見たら学園のアルフォンスファンクラブの面々が泣きますよ……。
「天使ちゃん!僕は……僕は。もうビアンカと離れたくない!学園も辞める!」
そう言ってお嬢様を離さないアルフォンス様を引きずって馬車に放り込む作業は、長期休暇ごとの私の仕事となった。
生きていると、嬉しい誤算も沢山ある。
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