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多分脱・我儘令嬢をしたわたくしは王子様と出会う・中

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本日は晴天なり。やって来ました、登城の日です。
今日の服装は袖がパフスリーブになっているピンクのシフォンドレス。頭には白の薔薇の髪飾り…この前のドレスよりはだいぶ子供っぽい。
ジョアンナに『今日は、無邪気な子供に見えるお洋服がいい!』とお願いしたのだ。
賢い子、と言う先入観を服装で少しでも和らげたい…そんな無駄な抵抗である。
しかしこう言う子供っぽさを意識したドレスも似合うわね。流石美少女。イエスロリータノータッチ臭が強まった気がする…知らない人には付いていかないようにしよう。

「マクシミリアン、どう?」
「とてもお似合いですお嬢様!花の妖精のようにお美しい!」

鏡の前で姿を確認するわたくしを微笑ましそうに見ていたマクシミリアンに訊ねると間髪入れずに返事が返ってくる。うちの邸の男性陣は、本当に褒め言葉を惜しまない。父様とお兄様の褒め言葉には慣れたのだけど、マクシミリアンの褒め言葉には未だに慣れない。

「恥ずかしいわ…」

顔を赤くしてスカートを両手できゅっと握り込みもじもじすると、ハッとした顔のマクシミリアンが近づいて来て、わたくしの目の前に跪いた。そしてわたくしの両肩に手を乗せると、こつん、と優しく額と額を合わせてきた。その目はとても真剣だ。

「そのような可愛いお顔は他の方には見せないで下さいね。悪い人に連れて行かれてしまいます」

目を合わせてそう言われる。
お鼻とお鼻がくっつく距離…!どこに視線を向けていいのか分からず、彼の薄い綺麗な唇に目を向けたが、やがてそれも耐えられなくなった。
恥ずかしくなって、マクシミリアンの胸にぎゅっと抱きつき顔を隠すと、ポンポン、と安心させるように背中を叩かれた。

「悪い人になんか、ついて行かないわ。ほんとよ?」

マクシミリアンの白いシャツに額を押し付けながら言うと、彼が笑った気配がして、髪を手で優しく梳かれる。その心地良さに思わず機嫌のいい猫のように目を細めた。今なら喉も鳴らせそう。

「はーい。そろそろお出かけの時間ですよー」

ジョアンナにマクシミリアンから引き剥がされる。ああ…ちょっと残念。
身だしなみの最終確認をしマクシミリアンと馬車に乗り込む。お出かけする事はあまりないので、馬車に乗るだけでなんだかワクワクする。
マクシミリアンとわたくしは向かい合わせで席に座った。
お城に着いたら父様と合流して、王妃様の元へ向かう事になっている。

馬車に乗っている間に、フィリップ王子について知っている情報の再確認をしよう。
そう思ってゲームの情報をうんうんと思い起した。

フィリップ・ブラバンド第一王子。この国の継承権第一位の王族。そう、彼は王太子なのだ。
濃い色の金の髪と金色の目。凛々しく彫りの深い顔立ちは理知的な輝きを放っている。
性格は一見温厚だけれど、少し…と言うかだいぶ腹黒い。幼い頃から権謀術数が飛び交う環境で育った為、周囲をよく観察し、自分の利にならない者は容赦なく切り捨てて行く人間になったのだ。笑顔の下では何を考えてるんですか?と言う感じのキャラだ。
その孤高の王子の心を癒すのが我らがヒロインである。
彼は初めて自分から興味を持った彼女に執着し、ただでさえ鬱陶しいと思っていた婚約者…ビアンカには見向きもしなくなるのだ。
推しでは無かったけれど、彼のルートもちゃんとクリアした。なんならスチル回収の為に3周した。
最初は他の人間と同じだと冷静にヒロインを見ていた王子が、彼女の無邪気さや予想外の行動にほだされ心を開いていき、恋に落ちる…。
『俺の側で生きて欲しい』
と好感度MAXになった王子が言うシーンには胸がとても熱くなった。メインヒーローはなんだかんだで素敵なのです。

白亜の壁が聳え立つ王宮にたどり着くと、わたくしは思わず感嘆の声を上げた。
うちの邸も大きいのだけれど、流石に王宮は段違いだ。
我が侯爵家の領地は王都から離れた辺境にあるのだけれど、宰相である父様が王宮に通い詰める為、王都に邸を建てて住んでいる。そこが今のわたくし達の住居だ。
現在領地は父様の弟…わたくしにとっての叔父が管理しており、お兄様が成人したらお兄様が領地経営を引き継き叔父はその補佐に回る予定だ。
目の前のお城を見上げる。
優美、と言うよりも武骨な雰囲気の王宮からは乙女ゲームらしからぬ感じがする…クリエイターさんの趣味かしら?
そんな事を思いながら門兵に近づき、名前と要件を言いながら王妃様からの招待状を手渡した。
わたくしの顔を見た門兵は一瞬ふにゃっと孫を見たかのように相好を崩したが、すぐに公務を思い出し気を引き締めたようだった。
門兵が確認をした招待状を返しながらどうぞ、と中に通してくれる。

「シュラット侯爵の執務室までの案内をご用意しますので、少しお待ち下さい」

と、少し待つように言われたけれど。

「公務のお手伝いで何度か足を運んだ事がありますので。私がこのままお連れします」

マクシミリアンがそう言って貴婦人のエスコートをするように、わたくしの手を引き歩き始めた。

初めて歩くお城にテンションが上がりわくわく周囲をきょろきょろ見ながら歩いていると、通りすがる女官や騎士の方々からなんだか温かい目で見られてハッと我に返った。
わたくしは中身は大人なんだから、!しっかりしなきゃ!

「こちらですお嬢様」

とマクシミリアンに言われ案内された大きな扉を、コンコン、と2回ノックする。
中から父様の許可の声が聞こえたのでゆっくりと扉を開けた。

「父様!」

部屋に入ってにっこり笑って見せると、執務机で書類を睨みしかつめらしい顔をしていた父様が破顔した。

「ビアンカ!可愛い僕の娘!」

椅子から立ち上がった父様にハグをすると、父様の口から『娘可愛い…もうお家に帰りたい…』と言う情けない声が漏れた。父様仕事は大事よ?
父様のお手伝いをしている優しそうな文官の男性が、執務机にどさりと20cmくらいの高さになった書類を追加した。優しそうな見た目に反して容赦がない。
父様はすっかりチベットスナギツネのような顔になっている。

「父様、王妃様の所に連れて行って下さいませ」
「…では、案内しよう。お嬢さんお手をどうぞ?」

父様が、キリリと表情を引き締め、優美な仕草でわたくしに手を差し出した。今度は父様のエスコートね!なんて素敵なの!
勿論後ろにはマクシミリアンが付き従っている。両手に花だわ!

父様にエスコートされて辿り着いたのは美しい色とりどりの薔薇の咲き乱れる庭園だった。
その一角にお茶会の準備がされていて、一人の女性がそこで優美にお茶を飲んでいる。
女性は胸元が大きく空いた紫紺のドレスを身に纏い、籐の椅子にゆったりと深く腰を掛けている。その肉感的な体は凄まじい色気を醸し出していた。目尻が垂れ下がった大きな目、ぽってりと厚みのある唇。緩く垂らした豪奢な金髪は美しく波打っている。

(…王妃様だ…!)

庭園の美しさに息を飲み、その後に目に入った女性の美しさに息を飲む。これは、絵画の中の光景なのだろうか。
絵画の中の住人はこの光景が現実である事を知らしめるように、こちらを向くとにっこりと微笑んだ。

「いらっしゃい、そちらが貴方の娘?」

父様がそっと背中を押す。
数歩進んで、カーテシーをしながら、わたくしは王妃様にご挨拶をした。

「お初お目にかかります王妃様。わたくしリチャード・シュラットが娘、ビアンカ・シュラットと申します。お目にかかれて光栄です」

わたくしが緊張しながら挨拶をすると、王妃様の目が大きく開く。

「利発な子とは聞いていたけれど思っていた以上ね。それにとっても美しい子!天使が現れたのかと思ったわ。リチャード、貴方今までこんなに素敵なお嬢さんを独り占めしていたのね?」

非難するような目を向け、王妃様が父様に言う。
父様は、

「この通り素晴らしい娘なので見せたら誰かに攫われてしまいます故に。王妃様でも渡しませんよ?」

と、ちょっと前までは娘が人前に出せる状態じゃ無かった事を綺麗に伏せつつ、満更でも無さそうな表情を浮かべ飄々と言った。王妃様と父様は魔法学園時代の同級生だと事前に聞いてはいたけれど、こんなに気安く口をきく間柄だったとは…。

「ビアンカ、貴方のお父様に今まで意地悪をされて会えなかったから…。これからは王宮に沢山遊びにいらして?」
「はい、王妃様」

緊張しながらそう応える。ほ…本当は遊びに来たくない…とは口が裂けても言えない。
椅子を勧められて腰を掛けると、優美な仕草の侍女達が静々とわたくしと父様のお茶の準備を整えて行った。紅茶に口を付けると流石王室御用達…香り高い茶葉の風味に思わず感嘆の息が漏れる。
ティーパックを3度使って出涸らしまで飲んでいた前世の事を思い出し、ちょっぴり悲しくなったのは内緒だ。
父様と王妃様が歓談するのに耳を傾けながら、時折相槌を打つ。
興味を持たれる事を避けたかったので、控え目に、自分からは無難な話題しか振らない。
婚約の話が万が一出たら『わたくしには勿体なさ過ぎて…』とか言ってお茶を濁すつもりだ。
このままやり過ごして王妃様の印象にも残らず、フィリップ王子にも会わず帰れたらミッション終了だ…!

「母上」

そう思っていたわたくしの耳に、涼やかな声が舞い込んだ。
嫌な予感に背筋がミシリ、と嫌な音を立てて固まる。
動揺でソーサーにカップを置くときカチャリ、と僅かに音を立ててしまった。

「あら、フィリップ。偶然ね?」
「こちらが噂のシュラット侯爵が隠していたお姫様?」

絶対、偶然じゃない。作為を感じる。
その証拠にチラリと目を向けた父は毒でも飲んだような苦い顔をしている。
しかし身分が上の者に臣たるわたくしがスルーを決め込む訳にはいかない。
椅子から立ち上がり、声の主をなるべく見ないようにしてカーテシーをする。

「リチャード・シュラットの娘、ビアンカ・シュラットと申します。殿下…お初お目にかかります」

そう礼をして顔を上げたわたくしの目に飛び込んで来たのは。

金の髪に、金の瞳。温和そうに笑う凄みのある美少年…。



フィリップ王子――…。



ああ、メインヒーローに出会ってしまった…。
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