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お嬢様と私・後(マクシミリアン視点)
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お嬢様はとても頭がいい。
言われた事は一度できちんと理解し、その上で自分の考えを組み込んだ意見を提示して来る。
泉に落ちる前のお嬢様はなんだったんだ?と思ってしまうくらいに年相応を遥かに凌駕し賢い。
以前のお嬢様は確実に年相応の半分くらいの知能だった。
能ある鷹は爪を隠す的なヤツだったのだろうか…。
…………。
否、間近で見ていた私には分かる。あれは、馬鹿な子だった。
あの泉にはなんらかの浄化作用があるのかもしれないな。
今度調査をしてみよう。
お嬢様の事はお慕いしているが、昔のお嬢様に対しては今でも忸怩たる思いがある。
…苦々しい事だが昔のお嬢様を慕う気持ちが欠片も無かった訳ではない…との自覚はある。
だがそれは過去の事として心のどこかに閉まっておくべきだ。
今のお嬢様が、私の最愛の人だ。
そして最愛の人を膝に乗せて過ごすことが出来る私は、とても幸せだ。
本日は魔法の授業。毎週水月の日に行われている。
水月の日は『たまたま』旦那様は仕事が忙しく、坊ちゃまも『たまたま』騎士団へ剣術を習いに行く日なので不在だ。
なので『たまたま』私がお嬢様を独占できるのだ。
「どうして今日もお膝の上なの!」
私の膝の上に座らせたビアンカお嬢様がバタバタと足を動かす。
年相応の仕草に、思わず頬が緩む。
目の前でぴょこぴょこと動く可愛い旋毛に思わず唇を寄せると、「ぴゃっ!」とお嬢様の口からおおよそ侯爵令嬢らしからぬ声が出る。
その声にほくそ笑みながら、お嬢様の様子を観察すると耳が真っ赤になっている。
今度はお嬢様の肩口に顔を埋め、そのまま抱き込む。彼女の子供体温の温かい体が、更に熱くなった。
お嬢様はまだ未発達の私の体でも腕にすっぽり収まる大きさだ。
腕の中の小さくて暖かなものに、愛おしさがこみ上げた。
「この方が、私が授業をやりやすいので。お嬢様の手元が見やすいでしょう?…わがままを言ってしまい、申し訳ないです」
耳元でわざと息を吹き込むように言うと、お嬢様の体がびくりと震えた。
「お…推しがセクハラすりゅ…!いえすろりーた!のーたっち!あーでもマクシミリアンもしょただから、セーフ?セーフなの??」
真っ赤になりながらお嬢様が呟く。
お嬢様はたまに不思議な言葉を口にする。
お勉強を真面目にするようになり知識が深まったのだろう。
魔法には属性と言うものがある。
火・水・土・風、それに闇・光を加えた6属性だが…闇と光の魔法の使い手は滅多に現れない。
魔法の授業の初日に、お嬢様がどの属性の魔法を使えるかや魔力量の測定等を行った。
測定の結果、お嬢様は魔力量こそは平均的だけれど、使える属性は、火・水・土と3属性だった。
常人ならば使える属性は1~2個に留まるのだが、3属性持ちとは素晴らしい。流石私のお嬢様。
『畑作りが捗りそうな属性ばかりで嬉しい!』
とニコニコしながら喜ぶお嬢様はとても可愛らしいが、その言葉に私は思わず頬が引き攣った。
『いっそ平民の好きな人でも見つけて南国に駆け落ちしたいなぁ…』
あの日聞こえた彼女の言葉。
『お姫様になりたい』のような子供の頃の淡い夢、戯言のようなものだと思っていたが…。
…あの言葉は存外に本気らしい、とお嬢様と過ごすうちに分かった。
ある日。
図書室でお嬢様が読んでいたのは、
『温暖な環境下で育ちやすい野菜』
『魔法で出来る!漁業のススメ』
と言うラインナップだった。
……侯爵令嬢のお嬢様…しかも6歳児が読む本ではとても無い。
ある日。
庭園の片隅に小さな畑が増えていたので庭師のジムに『これは?』と訊ねると、
『小さなお姫様が作った畑ですよ。今は内緒だけれどマックスにはそのうち話す、とおっしゃっていました』
とニコニコしながら言った。
ちなみにジムは私の事をマックスと愛称で呼んでいる。
これは…お嬢様が作った畑なのか…いつの間に…。
作る前に相談して下さればお手伝いしたのに…と少し肩を落とした。
もっと信用して頂けるように頑張らねば。
ある日。
メイドのジョアンナに、
『お嬢様が台所設備の使い方を真剣に訊いてくるのよね。だから今度こっそりお嬢様に料理を教える事になって…』
と満面の笑みで言われた。
最近このメイドはお嬢様に懐いている…懐きすぎているくらいに。
『お嬢様との2人きりの秘密のレッスンだなんて楽しみだわぁ』
旦那様に告げ口すればこの秘密のレッスンとやらは取り止めになるだろう。
しかしそれをするとお嬢様が悲しむ…つまり私に告げ口なんて事は出来ない。
分かっていてこの女は挑発しているのだ。なんて性悪な。
ジョアンナと口喧嘩となりお嬢様に目撃されたのは一生の恥だ。
ある日。
お嬢様がもじもじと可愛く足をすり合わせながら何かを聞きたそうだったので先を促してみると…。
『釣りが出来る所…この辺りに無いのかしら?』
お嬢様は白い頬を桃色に染め、恥ずかしそうにそう言った。
――お嬢様は、南国に平民と駆け落ちする夢を果たした後は
畑を作り、漁をして生活するつもりらしい。
お嬢様、お嬢様はどんな方と南国へ逃げたいのですか?
そんな思いを込めて魔法の教科書を読んでいたお嬢様を強く抱くと不満そうな声が上がった。
言われた事は一度できちんと理解し、その上で自分の考えを組み込んだ意見を提示して来る。
泉に落ちる前のお嬢様はなんだったんだ?と思ってしまうくらいに年相応を遥かに凌駕し賢い。
以前のお嬢様は確実に年相応の半分くらいの知能だった。
能ある鷹は爪を隠す的なヤツだったのだろうか…。
…………。
否、間近で見ていた私には分かる。あれは、馬鹿な子だった。
あの泉にはなんらかの浄化作用があるのかもしれないな。
今度調査をしてみよう。
お嬢様の事はお慕いしているが、昔のお嬢様に対しては今でも忸怩たる思いがある。
…苦々しい事だが昔のお嬢様を慕う気持ちが欠片も無かった訳ではない…との自覚はある。
だがそれは過去の事として心のどこかに閉まっておくべきだ。
今のお嬢様が、私の最愛の人だ。
そして最愛の人を膝に乗せて過ごすことが出来る私は、とても幸せだ。
本日は魔法の授業。毎週水月の日に行われている。
水月の日は『たまたま』旦那様は仕事が忙しく、坊ちゃまも『たまたま』騎士団へ剣術を習いに行く日なので不在だ。
なので『たまたま』私がお嬢様を独占できるのだ。
「どうして今日もお膝の上なの!」
私の膝の上に座らせたビアンカお嬢様がバタバタと足を動かす。
年相応の仕草に、思わず頬が緩む。
目の前でぴょこぴょこと動く可愛い旋毛に思わず唇を寄せると、「ぴゃっ!」とお嬢様の口からおおよそ侯爵令嬢らしからぬ声が出る。
その声にほくそ笑みながら、お嬢様の様子を観察すると耳が真っ赤になっている。
今度はお嬢様の肩口に顔を埋め、そのまま抱き込む。彼女の子供体温の温かい体が、更に熱くなった。
お嬢様はまだ未発達の私の体でも腕にすっぽり収まる大きさだ。
腕の中の小さくて暖かなものに、愛おしさがこみ上げた。
「この方が、私が授業をやりやすいので。お嬢様の手元が見やすいでしょう?…わがままを言ってしまい、申し訳ないです」
耳元でわざと息を吹き込むように言うと、お嬢様の体がびくりと震えた。
「お…推しがセクハラすりゅ…!いえすろりーた!のーたっち!あーでもマクシミリアンもしょただから、セーフ?セーフなの??」
真っ赤になりながらお嬢様が呟く。
お嬢様はたまに不思議な言葉を口にする。
お勉強を真面目にするようになり知識が深まったのだろう。
魔法には属性と言うものがある。
火・水・土・風、それに闇・光を加えた6属性だが…闇と光の魔法の使い手は滅多に現れない。
魔法の授業の初日に、お嬢様がどの属性の魔法を使えるかや魔力量の測定等を行った。
測定の結果、お嬢様は魔力量こそは平均的だけれど、使える属性は、火・水・土と3属性だった。
常人ならば使える属性は1~2個に留まるのだが、3属性持ちとは素晴らしい。流石私のお嬢様。
『畑作りが捗りそうな属性ばかりで嬉しい!』
とニコニコしながら喜ぶお嬢様はとても可愛らしいが、その言葉に私は思わず頬が引き攣った。
『いっそ平民の好きな人でも見つけて南国に駆け落ちしたいなぁ…』
あの日聞こえた彼女の言葉。
『お姫様になりたい』のような子供の頃の淡い夢、戯言のようなものだと思っていたが…。
…あの言葉は存外に本気らしい、とお嬢様と過ごすうちに分かった。
ある日。
図書室でお嬢様が読んでいたのは、
『温暖な環境下で育ちやすい野菜』
『魔法で出来る!漁業のススメ』
と言うラインナップだった。
……侯爵令嬢のお嬢様…しかも6歳児が読む本ではとても無い。
ある日。
庭園の片隅に小さな畑が増えていたので庭師のジムに『これは?』と訊ねると、
『小さなお姫様が作った畑ですよ。今は内緒だけれどマックスにはそのうち話す、とおっしゃっていました』
とニコニコしながら言った。
ちなみにジムは私の事をマックスと愛称で呼んでいる。
これは…お嬢様が作った畑なのか…いつの間に…。
作る前に相談して下さればお手伝いしたのに…と少し肩を落とした。
もっと信用して頂けるように頑張らねば。
ある日。
メイドのジョアンナに、
『お嬢様が台所設備の使い方を真剣に訊いてくるのよね。だから今度こっそりお嬢様に料理を教える事になって…』
と満面の笑みで言われた。
最近このメイドはお嬢様に懐いている…懐きすぎているくらいに。
『お嬢様との2人きりの秘密のレッスンだなんて楽しみだわぁ』
旦那様に告げ口すればこの秘密のレッスンとやらは取り止めになるだろう。
しかしそれをするとお嬢様が悲しむ…つまり私に告げ口なんて事は出来ない。
分かっていてこの女は挑発しているのだ。なんて性悪な。
ジョアンナと口喧嘩となりお嬢様に目撃されたのは一生の恥だ。
ある日。
お嬢様がもじもじと可愛く足をすり合わせながら何かを聞きたそうだったので先を促してみると…。
『釣りが出来る所…この辺りに無いのかしら?』
お嬢様は白い頬を桃色に染め、恥ずかしそうにそう言った。
――お嬢様は、南国に平民と駆け落ちする夢を果たした後は
畑を作り、漁をして生活するつもりらしい。
お嬢様、お嬢様はどんな方と南国へ逃げたいのですか?
そんな思いを込めて魔法の教科書を読んでいたお嬢様を強く抱くと不満そうな声が上がった。
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