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第四部 〜止まった時間と動き出す歯車〜
第二百七話
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貴族位がただ欲しいだけの、腰抜けだと馬鹿にしていた。
婚約者が居るのにメイド達に上手く取り入って、チヤホヤされているだけだと軽蔑していた。
何もできないくせに口が上手くて、親父や私兵団員達から気に入られているだけだと思っていた。
何も出来ないくせに親父の爵位だけで威張ってる自分なんかとは何もかもが違う。
悔しかった。
同じくらいの歳なのに、あいつと俺はそこまで違うのかと。
「カッコいいよ、お前」
俺だって、あいつみたいになりたい。
少年はアルージェに強い憧れを抱いた。
「格好悪いな。俺・・・。」
少年は今まで自分がして来たことを思い返して、壁を殴る。
数秒後、少年の元まで鎧騎士の咆哮が聞こえた。
アルージェは鎧騎士の大剣を潰すつもりで、何度も剣を狙う。
だが、鎧騎士も狙いは分かっているのか、剣に攻撃をさせないように立ち回る。
鎧騎士が咆哮し、これまでで一番大きな斬撃を放つ。
アルージェがパスを繋いで吸収しようとするが、これ以上は限界なのだろうか。
全く吸収することが出来なかった。
「くそっ!」
アルージェは体を翻し、スレスレのところで斬撃を躱す。
躱した斬撃は梯子の方へと飛んでいき、梯子付近の壁に激突し衝撃が起こる。
「うわぁぁぁ」
誰も居るはずのない場所から声が聞こえた。
アルージェが声のした方へ視線を移すと、逃げた筈のライナが腰を抜かし、必死に後ろに後退りしていた。
「ライナ!?」
アルージェが叫ぶ。
鎧騎士がアルージェからライナに視線を移す。
「オマエダケハゼッタイニトオサナイ」
標的をアルージェからライナ変更し、鎧騎士がライナに向かって先ほどと同じ大きさの斬撃を飛ばす。
「嫌だ!嫌だぁぁぁ!」
ライナは必死に後退りしようとするが、恐怖で後ろに進むことが出来ない。
「クソっ!」
先ほどの一撃で可変式片手半剣の貯蔵出来る魔力量が限界だと分かった。
アルージェは自分の体に影響が出ないギリギリで身体強化をしていた。
だが、ライナを助ける為に自分の許容範囲限界以上に足を身体強化をしてライナの元へ駆け出す。
アルージェは鎧騎士が飛ばした斬撃をあっという間に抜き去り、ライナの前に立つ。
もう吸収はできないので、吸収せずに可変式片手半剣で斬撃を受け止めるが、相手は溢れるほどの闇の魔力をふんだんに使った一撃。
ただの剣で止めることなど出来るはずもなく。
アルージェはそのまま梯子の方まで吹き飛ばされてしまう。
ライナは斬撃が消えて死に晒されなくなった安堵感に一息をついたが、そう甘くはない。
アルージェとライナを同時に倒す好機が訪れた鎧騎士は、剣を振るい斬撃をその場に留める。
そして、この空間に充満していた闇の魔力をその斬撃に集めて込め始めた。
ライナの顔が青ざめていく。
アルージェもさっきのダメージが有るので、動きだすことが出来ない。
鎧騎士は時間を掛けて、先程よりも更に大きな斬撃を作り出す。
普通に生きていれば斬撃が飛んでくるなんて見たことも無いだろう。
ライナが飛んできた斬撃に驚いたのは理解が出来る。
だが、鎧騎士と少し戦い慣れたアルージェすらも見たことが無いほど大きな斬撃。
「どんだけ魔力有るのさ」
アルージェは壁を支えに立ち上がる。
ここまで戦ってきた中で一番大きな斬撃。
鎧騎士が出す斬撃の大きさに、口が緩む
ライナだけでも助けないといけない。
辺境伯様にお願いされたんだ。
アルージェはズキズキと痛む体に鞭を打ち、身体強化を施す。
そしてフラフラとしながらライナの前に立ちはだかる。
「俺のせいだ・・・。俺がここに来なければ、お前がこんなことになることだって・・・」
アルージェの背中側にライナがいるのでどういう顔をしているのかはわからない。
だが、話す声は震えグズグズと嗚咽が聞こえてくる。
「気にしないでいいよ。どうせ僕だってもう限界だったんだ。もうすぐ辺境伯様達が来るからライナだけでも上に逃げてよ」
「ごめん。俺のせいで・・・、俺のせいで・・・」
「もういいから動け、早く行けって!」
アルージェが叫ぶとライナはピクリと震えて立ち上がり、急いで梯子を登る。
「ライナ!」
アルージェがライナ声を掛ける。
「もしさ、二人とも生き残ったら友達になろうよ。同じ年位の友達って僕少ないんだよねぇ」
アルージェがライナに微笑みかける。
「何で・・・。何で、こんな状況なのに笑ってんだよ!」
ライナが涙を拭う。
「友達にでもなんでもなってやる!親父達呼んで絶対すぐに戻ってくるから!」
今までまともに体を鍛えたことも何一つとして頑張ったことも無いライナが自分の出来る最高の速さで必死に梯子を登って行く。
「あははは。もうアインさん達が行ってくれてるはずだから大丈夫だと思うけどね」
鎧騎士が咆哮してから叫ぶ。
「ゼッタイニ、ゼッタイニ、オマエラヲタオスゥゥゥゥゥゥゥ」
留めていた斬撃を鎧騎士がアルージェに向けて放つ。
アルージェは可変式片手半剣を強く握る。
「僕がやられてもきっと辺境伯様達がお前を倒しに来る。だけど・・・」
アルージェは屋敷で仲良くなった人達の顔を思い浮かべる。
「護らなきゃいけない」
秘密結社、マイアの顔を思い浮かべる。
「せっかくやりたいことが出来たんだ。また戦いに引き込む訳には行かない」
ルーネとエマ、ミスティ達が笑っている顔を思い浮かべる。
「僕だってお前と同じで絶対に負けられない」
飛来する斬撃を可変式片手半剣で受け止める。
「僕だって!僕だって!」
もう貯蔵できる限界まで魔法を吸収し、吸収出来なくなってしまった可変式片手半剣と斬撃にパスを繋げる。
だが、全く吸収する気配は無い。
斬撃を無理矢理受け止めているせいか可変式片手半剣にヒビが入る。
「少しでいい、少しでもいいから吸収してくれ!」
アルージェは何本も斬撃に対してパスを繋げていくが変化は無い。
可変式片手半剣のヒビが大きくなっていく。
アルージェの気持ちとは裏腹にいとも容易くパリンと砕ける音が響く。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
斬撃が可変式片手半剣を抜けて、アルージェは斬撃の衝撃を受けて壁に吹き飛ばされる。
アルージェがぶつかった壁は崩れ落ち、壁についていた梯子が倒れてしまう。
その後、砂煙を巻き起こして、砂煙が引いた時には鎧騎士だけがその場に佇んでいた。
婚約者が居るのにメイド達に上手く取り入って、チヤホヤされているだけだと軽蔑していた。
何もできないくせに口が上手くて、親父や私兵団員達から気に入られているだけだと思っていた。
何も出来ないくせに親父の爵位だけで威張ってる自分なんかとは何もかもが違う。
悔しかった。
同じくらいの歳なのに、あいつと俺はそこまで違うのかと。
「カッコいいよ、お前」
俺だって、あいつみたいになりたい。
少年はアルージェに強い憧れを抱いた。
「格好悪いな。俺・・・。」
少年は今まで自分がして来たことを思い返して、壁を殴る。
数秒後、少年の元まで鎧騎士の咆哮が聞こえた。
アルージェは鎧騎士の大剣を潰すつもりで、何度も剣を狙う。
だが、鎧騎士も狙いは分かっているのか、剣に攻撃をさせないように立ち回る。
鎧騎士が咆哮し、これまでで一番大きな斬撃を放つ。
アルージェがパスを繋いで吸収しようとするが、これ以上は限界なのだろうか。
全く吸収することが出来なかった。
「くそっ!」
アルージェは体を翻し、スレスレのところで斬撃を躱す。
躱した斬撃は梯子の方へと飛んでいき、梯子付近の壁に激突し衝撃が起こる。
「うわぁぁぁ」
誰も居るはずのない場所から声が聞こえた。
アルージェが声のした方へ視線を移すと、逃げた筈のライナが腰を抜かし、必死に後ろに後退りしていた。
「ライナ!?」
アルージェが叫ぶ。
鎧騎士がアルージェからライナに視線を移す。
「オマエダケハゼッタイニトオサナイ」
標的をアルージェからライナ変更し、鎧騎士がライナに向かって先ほどと同じ大きさの斬撃を飛ばす。
「嫌だ!嫌だぁぁぁ!」
ライナは必死に後退りしようとするが、恐怖で後ろに進むことが出来ない。
「クソっ!」
先ほどの一撃で可変式片手半剣の貯蔵出来る魔力量が限界だと分かった。
アルージェは自分の体に影響が出ないギリギリで身体強化をしていた。
だが、ライナを助ける為に自分の許容範囲限界以上に足を身体強化をしてライナの元へ駆け出す。
アルージェは鎧騎士が飛ばした斬撃をあっという間に抜き去り、ライナの前に立つ。
もう吸収はできないので、吸収せずに可変式片手半剣で斬撃を受け止めるが、相手は溢れるほどの闇の魔力をふんだんに使った一撃。
ただの剣で止めることなど出来るはずもなく。
アルージェはそのまま梯子の方まで吹き飛ばされてしまう。
ライナは斬撃が消えて死に晒されなくなった安堵感に一息をついたが、そう甘くはない。
アルージェとライナを同時に倒す好機が訪れた鎧騎士は、剣を振るい斬撃をその場に留める。
そして、この空間に充満していた闇の魔力をその斬撃に集めて込め始めた。
ライナの顔が青ざめていく。
アルージェもさっきのダメージが有るので、動きだすことが出来ない。
鎧騎士は時間を掛けて、先程よりも更に大きな斬撃を作り出す。
普通に生きていれば斬撃が飛んでくるなんて見たことも無いだろう。
ライナが飛んできた斬撃に驚いたのは理解が出来る。
だが、鎧騎士と少し戦い慣れたアルージェすらも見たことが無いほど大きな斬撃。
「どんだけ魔力有るのさ」
アルージェは壁を支えに立ち上がる。
ここまで戦ってきた中で一番大きな斬撃。
鎧騎士が出す斬撃の大きさに、口が緩む
ライナだけでも助けないといけない。
辺境伯様にお願いされたんだ。
アルージェはズキズキと痛む体に鞭を打ち、身体強化を施す。
そしてフラフラとしながらライナの前に立ちはだかる。
「俺のせいだ・・・。俺がここに来なければ、お前がこんなことになることだって・・・」
アルージェの背中側にライナがいるのでどういう顔をしているのかはわからない。
だが、話す声は震えグズグズと嗚咽が聞こえてくる。
「気にしないでいいよ。どうせ僕だってもう限界だったんだ。もうすぐ辺境伯様達が来るからライナだけでも上に逃げてよ」
「ごめん。俺のせいで・・・、俺のせいで・・・」
「もういいから動け、早く行けって!」
アルージェが叫ぶとライナはピクリと震えて立ち上がり、急いで梯子を登る。
「ライナ!」
アルージェがライナ声を掛ける。
「もしさ、二人とも生き残ったら友達になろうよ。同じ年位の友達って僕少ないんだよねぇ」
アルージェがライナに微笑みかける。
「何で・・・。何で、こんな状況なのに笑ってんだよ!」
ライナが涙を拭う。
「友達にでもなんでもなってやる!親父達呼んで絶対すぐに戻ってくるから!」
今までまともに体を鍛えたことも何一つとして頑張ったことも無いライナが自分の出来る最高の速さで必死に梯子を登って行く。
「あははは。もうアインさん達が行ってくれてるはずだから大丈夫だと思うけどね」
鎧騎士が咆哮してから叫ぶ。
「ゼッタイニ、ゼッタイニ、オマエラヲタオスゥゥゥゥゥゥゥ」
留めていた斬撃を鎧騎士がアルージェに向けて放つ。
アルージェは可変式片手半剣を強く握る。
「僕がやられてもきっと辺境伯様達がお前を倒しに来る。だけど・・・」
アルージェは屋敷で仲良くなった人達の顔を思い浮かべる。
「護らなきゃいけない」
秘密結社、マイアの顔を思い浮かべる。
「せっかくやりたいことが出来たんだ。また戦いに引き込む訳には行かない」
ルーネとエマ、ミスティ達が笑っている顔を思い浮かべる。
「僕だってお前と同じで絶対に負けられない」
飛来する斬撃を可変式片手半剣で受け止める。
「僕だって!僕だって!」
もう貯蔵できる限界まで魔法を吸収し、吸収出来なくなってしまった可変式片手半剣と斬撃にパスを繋げる。
だが、全く吸収する気配は無い。
斬撃を無理矢理受け止めているせいか可変式片手半剣にヒビが入る。
「少しでいい、少しでもいいから吸収してくれ!」
アルージェは何本も斬撃に対してパスを繋げていくが変化は無い。
可変式片手半剣のヒビが大きくなっていく。
アルージェの気持ちとは裏腹にいとも容易くパリンと砕ける音が響く。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
斬撃が可変式片手半剣を抜けて、アルージェは斬撃の衝撃を受けて壁に吹き飛ばされる。
アルージェがぶつかった壁は崩れ落ち、壁についていた梯子が倒れてしまう。
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