Weapons&Magic 〜彼はいずれ武器庫<アーセナル>と呼ばれる〜

ニートうさ@秘密結社らびっといあー

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第三部 〜新たな力〜

第百二話

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アルージェは暴食スライムグラトニースライムに本気で怒りを感じていた。
弱者が強者にただ蹂躙される世界なんて、クソ喰らえだ。

シェリーの時に感じた無力な自分を振り払うように、アイテムボックスからただの金属の塊にも見える大きい大剣を取り出す。

その剣はアルージェよりも大きく、幅も広い。

アイテムボックスからは簡単に取り出せたが、あまりの重さに取り出した後、そのまま地面に落としてしまう。

そこからアルージェは今まで身体強化をする時に試したことない程の魔力を練って、全身に身体強化を行き渡らせる。

一部分への身体強化は何度もやって慣れているが、身体強化を全身へ行き届かせるのは初めての試みだ。

アルージェを中心に風が吹き荒れ、そして目に見えて分かる程、魔力の奔流が起こる。

「明日は体動かないだろうなぁ」
呟いた後、その場からフッとアルージェが消える。

ルーネに乗り移動するよりも早い速度で、暴食スライムグラトニースライムの元へ辿り着き大剣で叩き斬る。

暴食スライムグラトニースライムが斬られたと認識して触手を飛ばすが、
すでにそこにアルージェはおらず、全く別の場所へ移動して、叩き斬る。

「お前は絶対に許さない」
何度も何度も暴食スライムグラトニースライムが反応できない速度で移動し、大剣を叩きつける

暴食スライムグラトニースライムはアルージェの猛攻になすがままされるがまま、ただ一方的に何度も切断されて、再生が追いつかずに粉々になるまで切断される。

「ハァハァ、ざまぁみろ」
アルージェはハァハァと息切れしながら、体に纏わせていた身体強化の魔法を解く。
そして持てなくなった大剣を、杖代わりにして立つ。


「おいおいおい!おいおいおいおい!」

「あいつ、やりきりやがった!」

暴食スライムグラトニースライムを単騎で!」
周りで見ていた学生達が歓声を上げる

「あはは、ありがとう・・・」
学生からの歓声に手を振って答えるが、無理を承知で全身に身体強化を施した副作用が、すぐに表れて全身に痛みが走る。

「いたたた・・・」
アルージェが痛がっていると、ルーネが近づいてきて、体を支えてくれる。

「ありがとう、ルーネ。あっ!この辺に捨てて回った武器とか回収できないかな?」
ルーネはキョトンと目を見開き、やれやれと首を振る。

「あれ?」
アルージェは武器を探そうと辺りを見渡したが違和感が生じる。

暴食スライムグラトニースライムのかけらが何処にもない?」
再起不能なまで粉々にしたが、破片が一つも落ちていないのはおかしい。

猛烈な違和感を覚えて、慌てて辺り何度も見渡す。

「何処にもない、おかしい」

地面に映る大きめの影が、いくつも動いていることに気付く。

アルージェは影ができている方へ振り向く。

「嘘でしょ・・・」
切り刻んだはずの暴食スライムグラトニースライムの破片が、空に集まり再生を初めていた。

学生達はすでにお祭りムードで、空高い位置で暴食スライムグラトニースライムが再生していることに気付いていない。

学生達はみんな楽しそうに歓声を上げている。

「その場から離れろ!!」
アルージェが叫ぶと同時に空に集まっていた暴食スライムグラトニースライムのカケラは塊になる。

そして学生達を捕食しようと、触手を伸ばし始める。

「やめろぉぉぉぉ!!」
アルージェは叫び、アイテムボックスからジャベリンを取り出し、咄嗟に身体強化を腕に使って触手に投擲する。

続けて手斧を取り出し、生徒に捕食するために巻きついている触手全てに狙いをつけて連続で投擲する。

学生達はなんとか捕食される前に、触手から切り放され地面に横たわる。

腕に施していた身体強化を解除して、次は脚に身体強化を施して生徒達の元へ向かう。
向かいながらアイテムボックスに有る薙刀を取り出し、捕食しようとする触手を全て薙ぎ払い学生達の前に立ちはだかる。

「僕の見える範囲にいる人は絶対にやらせはしない」
アルージェは空にいる暴食スライムを睨みつける。

学生達もお祭りムードから切り替えて、各々が自分の杖を持ち魔法で触手に応戦している。

アルージェは自身の無力さを痛感していた。
上空高くにいられたら、こちらは何にもできない。

新魔法体系での魔法の行使は、まだ教授から許可が降りていない。
だからみんなの前で使う訳には行かない。

「誰かあそこまで高火力の魔法を飛ばせる人いない?」
アルージェは魔法で応戦している学生達に問いかけるが、誰も返事をしない。
どうやら雲近くにいるあいつに攻撃を届かせるのは無理なようだ

今出来る範囲の身体強化を付与したところで、雲近くまでジャベリンを飛ばすのは厳しい。
全身に許容量オーバーな程に魔力を練り込んで行った身体強化で全身ボロボロ。
もう一度全力で身体強化をすればいけるだろうが、一度投擲するだけで腕が使い物にならなくなるのが目に見えていた。

「どうしたらいいんだ、考えろ、何か打開策をなんでもいいから」
アルージェは触手を学生へ届かせないように動きながら、皆が生き残れる方法を思考する。

少し離れた塔の上でアルージェと暴食スライムグラトニースライムの戦いを眺めるコルクス。

「歪な戦い方だ。おっと、魔法の許可を出して居なかったのは俺か。だが何故、色の書の能力を使わないんだアルージェ。お前はそんなところで終わる人間じゃないだろ」
コルクスは杖を前に突き出す。

星降る世界ステラ
魔力を練らず、詠唱することなく魔法名だけを告げると、空に大きな魔法陣が展開される。

暴食スライムグラトニースライムと戦っていた者、全員が空に展開された魔法陣を見る。

「すげぇ」と感嘆するもの「なんだこれ」と理解不能な現象についていけていないもの、反応は様々だが、皆が勝ったと確信していた。

そして魔法が発動する。

そこからは一方的だった。

空にはただ星が流れる。
全てが暴食スライムグラトニースライムに降り注ぐ。

暴食スライムグラトニースライムは格の違う魔法をくらい続けて、跡形なく消し飛んだ。

「な、何が起きたんだ・・・?」
アルージェは何が起こったのか理解できなかった。

少し離れた塔の上にいたコルクスは、いつの間にか姿を消していた。
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