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第二部 〜未知との遭遇〜
第二十七話
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最後のゴブリンに剣突き立てて、アルージェは膝をつく。
「くそぅ、こっちの都合も知らないで出てき過ぎだよ!」
昼は戦闘と移動。
夜は真っ暗な中いつ襲われるかも分からない恐怖から物音に敏感になってしまい満足に寝ることもできない。
この状況はアルージェの判断力を確実に蝕んでいた。
「さっき父さんが言ってた街道への目印が見えたから、あと少しで街道につくはずだ」
疲労困憊の中で毎日着実に歩を進めていた。
そしてようやくここまで辿り着けた。
「少し離れたところで休憩してから、街道に出よう」
アルージェは辺りを見渡し、道から少し逸れたところに開けた場所があるのを発見する。
そこで休憩をすることにした。
「一人旅ってこんなに辛いんだなぁ。もっと楽だと思ってたよ」
アイテムボックスから水筒を取り出し、ごきゅごきゅと喉を鳴らしながら水を飲む。
そして少し寝転がって伸びをする。
「よし!あと少し頑張るか!」
アルージェは立ち上がり道に戻ろうとするが、背後からブワッと前に押し出されるほどの強風が吹く。
「今のは?」
風が吹くことは自体はおかしいことではないが、自分の体が前に押し出される程の風がこの辺りで吹くのかという疑問を感じた。
ロイから森で生き抜くためにと教わった内容では、何か不穏な気配を感じたら迷わず逃げたほうが良いと言われていた。
だが、ここに辿り着くまでの道中でアルージェの正常な判断力は失われていた。
ただ気になるという理由で風の発生源を探すために森の奥に進んでいく。
体がひりつき、空気が重くなっているような気がした。
気を抜けば死ぬ。
さっきまで疲労と眠さで少しボーッしていたが、意識がはっきりしていく。
奥に進めば進む程にシェリーを失ったあの時が脳裏に浮かぶ。
「あの時と同じだ!」
アルージェは腰に携えている剣を構えて早足になる。
進めば進むほどあの時の記憶がフラッシュバックする。
血の匂いが更に濃くなったところで何かと何かが威嚇し、戦っている音が聞こえた。
「こっちか!」
アルージェは音のする方へ駆ける。
アルージェが到着した時には戦闘音は聞こえてこなくなっていた。
どうやら戦闘は一区切りついているようだ。
アルージェは草むらから顔を出す。
そして、目の当たりにした光景にハッと息をのむ。
そこには白く美しい毛並みの狼が弱って倒れ込んでいた。
醜い魔物ゴブリン死体に囲まれているのに、その狼の一挙手一投足全てに美しさを感じた。
体がゴブリン達の血で汚れているがそれすらも芸術に感じる程だ。
弱っていてもなお、他人に屈することはない、そんな気概も感じられる。
誇り高い狼なのだろう。
アルージェはその姿に見とれてしまった。
「綺麗だ」
気付けばそんな言葉が口から勝手に出ていた。
その言葉に狼の耳がピクッと動き、狼がバッとアルージェの方へ視線を向ける。
そして弱々しく起き上がり、臨戦態勢を取る。
その気高さにも美しさを感じてアルージェは剣を構えたりするでもなく、ただ眺めてしまっていた。
狼はアルージェに戦闘の意思がないのが分かったのか、臨戦態勢を解く。
その姿を眺めていたが、明らかに後ろ足を庇うように体を移動させていた。
「ケガをしているのか!」
アルージェは狼が怪我をしていることに気付き、走って近こうとすると狼が牙を見せて威嚇する。
威嚇に驚き、少し離れた場所で止まってしまう。
「うわっ!ごめん。違うんだ、君のケガが気になって・・・」
アルージェは狼を刺激しないようにソッとアイテムボックスから薬を出して狼に見せる。
薬を見せるとそれが何か分かっているのか、狼は威嚇をやめてその場に倒れ込んでしまった。
アルージェは狼の元へ走って近づき、狼の傷口に取り出した低級ポーションをかける。
だが、低級なので大して回復は出来ていなさそうだった。
「こんなことならもう少しいいものを買っておけばよかったよ。ごめんな、今はこれで我慢してくれな」
ポーションを全てかけると、狼が一点を見つめてまた威嚇を始める。
アルージェも狼が見ている方から気配を感じていた。
どうやら仲間の帰りが遅いからなのか、血の匂いに釣られてきたのかはわからないが、ゴブリン達が集まっていることに気付いた。
どれほど集まっているのかはわからないが、とにかく数が多かった。
「くそ、数が多すぎる」
今までは少数のゴブリン達を気付かれていないところから遠距離攻撃で数を減らし、こちらに気付いた数匹を近接で仕留めるやり方でしか戦ってきていない。
全員に初めから認識されていて遠距離武器を構えることも出来ない程の距離から、戦闘が開始されるのは非常に厳しい状況だ。
「どうすれば助かるんだ」
アルージェはチラリと後ろで弱っている狼を気にかける。
今なら後ろの狼を見捨てて、全力で逃げればゴブリン達から逃げることは簡単だろう。
だが、アルージェは狼を見捨てるという選択肢を取ることはありえない。
姿形は全然違うが、狼があの時助けられなかったシェリーと被るのだ。
「ゴブリンは全部僕が引き受けるから、君だけでも逃げるんだ。かけたのは低級ポーションだけども、逃げられるくらいには回復してるはずだから」
狼に向かってアルージェは言うが、狼はただアルージェを見つめてその場から決して動こうとしなかった。
「早く行ってくれないと僕たち共倒れになっちゃうよ!」
狼の方を視線を向けようとしたが、ゴブリン達が騒がしくなり一斉に襲い掛かってくる。
「まだ冒険者にもなってないのに、こんなところで死んでたまるもんか!」
襲い掛かってきたゴブリン達はかなり連携が取れており、各々の隙を埋めるように波状攻撃を仕掛けてくる。
「くそぅ、こっちの都合も知らないで出てき過ぎだよ!」
昼は戦闘と移動。
夜は真っ暗な中いつ襲われるかも分からない恐怖から物音に敏感になってしまい満足に寝ることもできない。
この状況はアルージェの判断力を確実に蝕んでいた。
「さっき父さんが言ってた街道への目印が見えたから、あと少しで街道につくはずだ」
疲労困憊の中で毎日着実に歩を進めていた。
そしてようやくここまで辿り着けた。
「少し離れたところで休憩してから、街道に出よう」
アルージェは辺りを見渡し、道から少し逸れたところに開けた場所があるのを発見する。
そこで休憩をすることにした。
「一人旅ってこんなに辛いんだなぁ。もっと楽だと思ってたよ」
アイテムボックスから水筒を取り出し、ごきゅごきゅと喉を鳴らしながら水を飲む。
そして少し寝転がって伸びをする。
「よし!あと少し頑張るか!」
アルージェは立ち上がり道に戻ろうとするが、背後からブワッと前に押し出されるほどの強風が吹く。
「今のは?」
風が吹くことは自体はおかしいことではないが、自分の体が前に押し出される程の風がこの辺りで吹くのかという疑問を感じた。
ロイから森で生き抜くためにと教わった内容では、何か不穏な気配を感じたら迷わず逃げたほうが良いと言われていた。
だが、ここに辿り着くまでの道中でアルージェの正常な判断力は失われていた。
ただ気になるという理由で風の発生源を探すために森の奥に進んでいく。
体がひりつき、空気が重くなっているような気がした。
気を抜けば死ぬ。
さっきまで疲労と眠さで少しボーッしていたが、意識がはっきりしていく。
奥に進めば進む程にシェリーを失ったあの時が脳裏に浮かぶ。
「あの時と同じだ!」
アルージェは腰に携えている剣を構えて早足になる。
進めば進むほどあの時の記憶がフラッシュバックする。
血の匂いが更に濃くなったところで何かと何かが威嚇し、戦っている音が聞こえた。
「こっちか!」
アルージェは音のする方へ駆ける。
アルージェが到着した時には戦闘音は聞こえてこなくなっていた。
どうやら戦闘は一区切りついているようだ。
アルージェは草むらから顔を出す。
そして、目の当たりにした光景にハッと息をのむ。
そこには白く美しい毛並みの狼が弱って倒れ込んでいた。
醜い魔物ゴブリン死体に囲まれているのに、その狼の一挙手一投足全てに美しさを感じた。
体がゴブリン達の血で汚れているがそれすらも芸術に感じる程だ。
弱っていてもなお、他人に屈することはない、そんな気概も感じられる。
誇り高い狼なのだろう。
アルージェはその姿に見とれてしまった。
「綺麗だ」
気付けばそんな言葉が口から勝手に出ていた。
その言葉に狼の耳がピクッと動き、狼がバッとアルージェの方へ視線を向ける。
そして弱々しく起き上がり、臨戦態勢を取る。
その気高さにも美しさを感じてアルージェは剣を構えたりするでもなく、ただ眺めてしまっていた。
狼はアルージェに戦闘の意思がないのが分かったのか、臨戦態勢を解く。
その姿を眺めていたが、明らかに後ろ足を庇うように体を移動させていた。
「ケガをしているのか!」
アルージェは狼が怪我をしていることに気付き、走って近こうとすると狼が牙を見せて威嚇する。
威嚇に驚き、少し離れた場所で止まってしまう。
「うわっ!ごめん。違うんだ、君のケガが気になって・・・」
アルージェは狼を刺激しないようにソッとアイテムボックスから薬を出して狼に見せる。
薬を見せるとそれが何か分かっているのか、狼は威嚇をやめてその場に倒れ込んでしまった。
アルージェは狼の元へ走って近づき、狼の傷口に取り出した低級ポーションをかける。
だが、低級なので大して回復は出来ていなさそうだった。
「こんなことならもう少しいいものを買っておけばよかったよ。ごめんな、今はこれで我慢してくれな」
ポーションを全てかけると、狼が一点を見つめてまた威嚇を始める。
アルージェも狼が見ている方から気配を感じていた。
どうやら仲間の帰りが遅いからなのか、血の匂いに釣られてきたのかはわからないが、ゴブリン達が集まっていることに気付いた。
どれほど集まっているのかはわからないが、とにかく数が多かった。
「くそ、数が多すぎる」
今までは少数のゴブリン達を気付かれていないところから遠距離攻撃で数を減らし、こちらに気付いた数匹を近接で仕留めるやり方でしか戦ってきていない。
全員に初めから認識されていて遠距離武器を構えることも出来ない程の距離から、戦闘が開始されるのは非常に厳しい状況だ。
「どうすれば助かるんだ」
アルージェはチラリと後ろで弱っている狼を気にかける。
今なら後ろの狼を見捨てて、全力で逃げればゴブリン達から逃げることは簡単だろう。
だが、アルージェは狼を見捨てるという選択肢を取ることはありえない。
姿形は全然違うが、狼があの時助けられなかったシェリーと被るのだ。
「ゴブリンは全部僕が引き受けるから、君だけでも逃げるんだ。かけたのは低級ポーションだけども、逃げられるくらいには回復してるはずだから」
狼に向かってアルージェは言うが、狼はただアルージェを見つめてその場から決して動こうとしなかった。
「早く行ってくれないと僕たち共倒れになっちゃうよ!」
狼の方を視線を向けようとしたが、ゴブリン達が騒がしくなり一斉に襲い掛かってくる。
「まだ冒険者にもなってないのに、こんなところで死んでたまるもんか!」
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