15 / 221
第一部 〜始まり〜
第十四話
しおりを挟む
お昼前までにシェリーと一緒に基礎トレーニングが終わり、昼ごはんを食べる。
そして午後からトレーニングの続きで剣の打ち合いを始めるところだったが、サーシャから声が掛かる。
「ちょっと待って!ちょっと待って!」
「「えっ?」」
アルージェとシェリーは急に止められたので剣を構えながら唖然とする。
「そんなに毎日会ってるのに、トレーニングだけして“はい、また明日“なんてダメです!たまには外に二人で遊びに行きなさぁい!これはお母さんの命令です!」
サーシャに今日は外に遊びに行くように命じられたので、午後からは二人で丘の上の広場に行くことにした。
「でもまぁ、たまにはこういうのもいいね。最近ずっとトレーニングばっかりで普通には遊んでなかったもんね」
広場に移動しながらアルージェはしみじみと言う。
「でも、アルは大丈夫・・・?あそこまたサイラス達がいるかもしれないよ・・・?」
シェリーはアルージェの身を案じていた。
「サイラス達ってずっとあそこにいるの?そんな毎日あそこに行ってたら、飽きてくると思うんだけどな。他に行く場所とかないのかな?」
「んー、サイラス達は“俺達のエデン”って呼んでて、毎日集まってるみたいだよー?みんなの広場なのにねー」
「ふーん、そっか、ずっといるなら会うのも嫌だし、別のとこいこうか?」
アルージェが提案したがすでに遅かったようだ。
後ろからサイラスが声を掛けてきた
「よお、シェリー!久しぶりだな、最近会ってなかったから村から出て行ったのかと思ったぜ。”俺達のエデン”になんか用か?」
サイラスはアルージェの事を押しのけ、シェリーに近付く。
「んー、サイラス達がいるから、別のとこに行こうかってアルと話してたところだよー」
シェリーは近付いてきたサイラスをひらりと躱して、アルージェの方に行く。
「あぁ?またお前か。クソ雑魚のくせに俺の前に出てきてんじゃねぇよ」
サイラスはシェリーが自分では無くアルージェの方に近寄ったので、少し苛立ちを見せる。
「わかったよ。シェリー、僕達は向こうで遊ぼう」
アルージェがシェリーの手を取り、別の場所に移動しようとする。
サイラスはアルージェがシェリーに近づいた時、全く抵抗しなかったことにイラつく。
そして、そのまま二人が自然と手を繋いだことに顔を赤くする。
「お前!生意気なんだよ!」
サイラスは広場から離れようと、背を向けているアルージェに後ろから殴りかかる。
アルージェは横目で拳の軌道を見てひらりと躱し、代わりに足を引っかけてサイラスを転ばす。
「シェリーの剣速よりもだいぶ遅いね。それじゃあ僕には当たらないよ」
地面に伏せたまま、アルージェの言葉に青筋を立てる。
「お前、絶対に殺す」
サイラスは立ち上がり大振りで何度も殴りかかってきたが、アルージェは何事も無いように全て躱していく。
アルージェに拳が当たらないことに、サイラスは余計に腹を立てる。
そして普段ここまで動くことがないので、段々と動きが鈍くなっていく。
動きが鈍くなったサイラスの大振りな攻撃に対して、アルージェがカウンターを決める。
サイラスは何の抵抗も出来ないまま、アルージェの全力の拳を顔に受ける。
サイラスはアルージェよりも体格ががっしりしている。
そんなサイラスがアルージェに殴られて、五メートル以上吹っ飛びそのまま気絶した。
「サイラス!」
周りの取り巻きが、慌てた様子でサイラスに駆け寄っていく。
そして、アルージェのことを睨みつける。
だが取り巻き達は誰もアルージェに挑もうとせず、ただ睨みつけるだけだった。
「全員まとめてでも良いからかかってこい。相手してやる!来ないなら二度と僕達に近付くな!シェリーは誰にも渡さない!」
アルージェは睨むことしか出来ない取り巻き達に対して叫ぶ。
アルージェはシェリーの手を取り、広場から離れたところを流れている川へ移動した。
川に向かう途中、シェリーはずっとアルージェの横顔を見てニマニマとしていた。
そして、川につく。
「ごめんねシェリー、今日はここで遊ぼうか」
「アル、あたしのこと捕まえて! あたし全力で逃げるからね!」
シェリーからまず提案された遊びは鬼ごっこだった。
シェリーが全力で逃げ始める。
「えっ、もう始まりなの!?ずるいよシェリー!」
アルージェはシェリーの事を全力で追いかける。
アルージェはシェリーを追いかけて逃げ場の無いところに追い込もうと動く。
だが、シェリーは軽いフットワークでアルージェの横を抜けたり、アルージェを飛び越えられたりして追い込むことすらできない。
追いかけている内に、何とかシェリーを川沿いに追い込む。
「もう逃さないよ!」
「うぅ、ならこれならどうだー!」
アルージェを翻弄しようとシェリーは動くが、その動きを予測してアルージェが体当たりをする。
「キャーー!」
アルージェに体当たりされたシェリーはアルージェと一緒に川に落ちて大きく水柱を立てる。
「アルが飛び込んでくるから、ビチョビチョだよー」
起き上がってビチョビチョになった服を両手を軽く広げる。
「ご、ごめん!シェリーが本気で逃げるから僕もムキになって体当たりしちゃった!」
「そっかー!いっぱい走って汗かいてたからちょうどいいねー!ほら、くらえー!」
シェリーが水を掬ってアルージェに掛ける。
「ウワップ!シェリーいきなり顔にかけるのは、ウワップ、うぅ、ならこっちだって!」
アルージェも水を掬ってシェリーに掛けようとする。
シェリーは上手に最小の量しかかからないように躱す。
それに比べてアルージェは避けることが出来ず、たくさん水を掛けられる。
アルージェはシェリーにひたすら水を掛けられる遊びを満喫した。
「ずるいよ、シェリー避けるなんて!」
「アルだってよければ良かったんだよー!」
「あんなの避けられてないよ・・・」
「私はお姉ちゃんだからねー。何でも出来るんだよー。疲れちゃったしあそこで休憩しようー?」
水遊びも程ほどにして、いきなりはしゃいだので二人とも疲れて、休憩と取ることにした。
ちょうど二人が座れそうな大きさのを見つけて腰を掛ける。
「アルはさー・・・」
「ん?なに?」
なかなか次の言葉が来ないので、アルージェはシェリーの方へ視線を向ける。
「アルは将来この村から出て行くの?」
シェリーは俯きながら話す。
「村を?出ていくつもりはないけど、どうして?」
いつも明るいシェリーが珍しく元気がないと思い答える。
「そっかー!なら、大きくなったらあたしと一緒に暮らさない?」
アルージェの答えを聞いて、シェリーは顔を上げて嬉しそうに話す。
「一緒に?別にいいよー」
アルージェは意味を深く考えずに答える。
「ホント!?」
シェリーは岩から降りてニマニマと笑う。
「な、ならさ、あたし達は“ふうふ”だね!」
「そうだね!」
アルージェは“ふうふ”という言葉の意味は分からなかったが、元気に返事をする。
「今日はもう暗くなってくるし、帰ろっか!」
「そうだね、かえろ!」
帰り道、シェリーは上機嫌にスキップしていた。
その日の夜。
アルージェは晩ご飯を食べながら、シェリーと今日何をしていたのかをフリードとサーシャに報告する。
サーシャは「あらあら!まぁまぁ!」と嬉しそうにして、フリードは「よっ、色男!」とはしゃいでいた。
その時、突然ドンドンと力強くドアが叩かれた。
「はーい、どなたー?」
サーシャがドアを開ける。
外には茶髪の茶色目をしたガタイの良い男とニタニタと笑っているサイラスが立っていた。
「家族団欒を邪魔してすまない。村長のリベルだ」
「あら、村長今日はどうしたんですかぁ?」
村長が急に家を訪ねてきたので、何事かとフリードもサーシャの横に立つ
「今日来たのは他でもない。君達の子供とサイラスの事でだ。昼間に何かあったらしくてな。サイラスから聞いた話だと、一方的にサイラスを殴りつけてこのケガを負わせたと言われた。それの事実確認にきたんだ」
村長が親指でチョイチョイとサイラスの顔のケガを指す。
「ちょっと待ってくださいね」
フリードは村長に断りをいれて、アルージェを呼ぶ。
「アルちょっと来てくれ」
フリードに呼ばれてアルージェ玄関に向かう。
「村長んとこの息子と今日の昼何かあったのか」
フリードが真剣な目でアルージェに尋ねる。
「あったよ」
アルージェは端的に結論だけ述べる。
「聞かせてもらえるか、事によっては重大な内容だ」
フリードは先ほどよりも厳しい目つきになり、アルージェを見つめる。
「わかった。今日朝のトレーニングが終わった後、母さんに修業じゃなくて遊んできなさいって言われたから、丘の上の広場に行ったんだ。広場に行く途中でサイラスがいるからやめようってなったんだけど、後ろからサイラスが僕を押しのけてシェリーに話しかけ始めたんだ。でも、シェリーが嫌がったから僕達が別のところに行こうとしたら、後ろから急にサイラスが殴りかかってきた。僕は咄嗟に避けたけど、それでもっと怒ったサイラスがしつこく殴りかかってきた。全部当たらなかったけどね。前のこともあったし、本気で一発だけサイラスを殴ったらそのまま気絶したから、二度と近づくなっていって別の場所に移動した」
「ち、ちげぇ あいつが一方的に殴ってきたんだ!」
アルージェの言葉にサイラスは村長を見ながら異議を唱える。
「ふむ、サイラスの言っていることとだいぶ違うようだが?どちらかが嘘をついているということか。残念ながらここには嘘を見抜く魔道具は無いので、どちらが嘘をついているかを見抜くのは無理だろう」
リベルが顎に手をやり考え始めた。
「ちなみにアルージェ君。前にも同じことがと言っていたが、そちらも詳しく聞いていいかい?」
違和感を覚えたリベルがアルージェに尋ねる。
「あんまり言いたくないけど・・・」
アルージェはフリードとサーシャを見てから状況を説明する
「初めて丘の上の広場に行った時、シェリーと一緒に行ったんだけど、広場につくなりサイラスがシェリーを無理矢理引っ張っていこうとしたのを僕が止めたんだ。そしたらサイラスが怒り始めて、一方的にサイラスに殴られたり蹴られたりしたことがあったんだ」
アルージェの話を聞いて、リベルがサイラスを睨む。
「知らねぇ!そんなのそいつが勝手に言ってるだけだろ!知らねぇよ!」
「ふむ。知らないと言っているが、他に見ていたものはいたか?」
「前のやつはシェリーだけしか知らないよ。今日はサイラスの友達もいっぱいいたけど」
「ふむ、分かった。今日のところは引き上げるとするか。シェリーとサイラスの友達に聞けばわかることだ」
そういうと「団欒の時間に悪かったな」と言って他の証言を聞きに向かう。
話を聞きに行くと言われて、サイラスの顔はどんどん青ざめていた。
後日、村長がまた家に来た。
「先日の件、どうやら、うちのサイラスの妄言だったようだ。疑って本当にすまなかった。どの家の子供に聞いてもアルージェ君と同じことを言っていたよ。今回は私の顔に免じて許して欲しい。本当に申し訳なかった」
近所の子供達から話を聞いた村長が直々に頭を下げに来た。
無理やり連れてきていたサイラスは体や顔にアザが出来ていた。
サイラスも村長に頭を鷲掴みにされて、無理やりに頭を下げさせられていた。
「あぁ、誰でも我が子が可愛いのが普通だからな。仕方ねぇ。俺は少しでも息子を疑ってしまったことが恥ずかしいさ」
あり得ないと思っていても強くなった途端、人が変わることもある。
冒険者ギルドにいた時、そういうやつを山ほど見てきた。
アルージェも変わったのではないか、少しでもそう思ってしまった自分が恥ずかしい。
「まぁまぁ、それにしても君の息子は馬鹿みたいに強いんだな。体格のいいサイラスを五メートルくらい吹っ飛ばしたそうじゃないか。村の防衛は安泰だな!正直サイラスにも見習ってもらいたいくらいだ。話を聞いた時、私がどれだけ恥ずかしい思いをしたか・・・」
リベルはフリードの肩を手を当てて落ち込んでいた。
近所の子供達の話を聞いてサイラスがしてきたことをすべて知った。
人の物を取るのは当たり前、気に食わなければ暴力で解決。
そして嫌がる女子へのいたずら。
近所の子供達からの評価は最底辺だった。
「まだまだ子供だからな。これからじゃねぇか?伸びしろはいくらでもあるだろうに」
「そう言ってもらえて助かるよ・・・。今日から私もサイラスを鍛えようと思ってね。村の代表として防衛戦の時は一番前に立つことが有るのに、あれじゃあ誰もついてきてくれないだろ?流石に酷すぎるからな。腑抜けた考えを叩き直すことにするよ。では、私は失礼するよ。アルージェくん、本当に申し訳なかったね」
リベルはサイラスの腕を掴み引きずるようにサイラスを無理やり引っ張っていった。
リベルとサイラスを見送った後、フリードから話しかけられる。
「アル、俺も疑って悪かった。冒険者時代にギルドで力を持った途端、人が変わる奴を山ほど見てきたんだ。アルももしかしたらって疑っちまった。申し訳ない」
フリードが頭を下げた。
「気にしないでよ。僕だって何も言わなかったから悪いしさ。昔やられたことも言っとけば良かったんだね」
「私はアルがそんなことしないって信じてましたよー!」
フンフンと胸を張るサーシャ
「ありがとね!母さん!」
アルージェはサーシャに抱き付く。
「息子を信じるなんて当たり前じゃない。さっ、早くご飯食べましょー!今日はアルの大好きなシチューなのよ!」
「やったー!」
アルージェは喜びながら家の中に入っていく。
フリードは二人が奥の部屋に入っていくのを眺めていた。
「信じるのは当たる前か・・・、そうだよな。それが家族だよな」
フリードは雲ひとつない空を見上げて呟く。
そして午後からトレーニングの続きで剣の打ち合いを始めるところだったが、サーシャから声が掛かる。
「ちょっと待って!ちょっと待って!」
「「えっ?」」
アルージェとシェリーは急に止められたので剣を構えながら唖然とする。
「そんなに毎日会ってるのに、トレーニングだけして“はい、また明日“なんてダメです!たまには外に二人で遊びに行きなさぁい!これはお母さんの命令です!」
サーシャに今日は外に遊びに行くように命じられたので、午後からは二人で丘の上の広場に行くことにした。
「でもまぁ、たまにはこういうのもいいね。最近ずっとトレーニングばっかりで普通には遊んでなかったもんね」
広場に移動しながらアルージェはしみじみと言う。
「でも、アルは大丈夫・・・?あそこまたサイラス達がいるかもしれないよ・・・?」
シェリーはアルージェの身を案じていた。
「サイラス達ってずっとあそこにいるの?そんな毎日あそこに行ってたら、飽きてくると思うんだけどな。他に行く場所とかないのかな?」
「んー、サイラス達は“俺達のエデン”って呼んでて、毎日集まってるみたいだよー?みんなの広場なのにねー」
「ふーん、そっか、ずっといるなら会うのも嫌だし、別のとこいこうか?」
アルージェが提案したがすでに遅かったようだ。
後ろからサイラスが声を掛けてきた
「よお、シェリー!久しぶりだな、最近会ってなかったから村から出て行ったのかと思ったぜ。”俺達のエデン”になんか用か?」
サイラスはアルージェの事を押しのけ、シェリーに近付く。
「んー、サイラス達がいるから、別のとこに行こうかってアルと話してたところだよー」
シェリーは近付いてきたサイラスをひらりと躱して、アルージェの方に行く。
「あぁ?またお前か。クソ雑魚のくせに俺の前に出てきてんじゃねぇよ」
サイラスはシェリーが自分では無くアルージェの方に近寄ったので、少し苛立ちを見せる。
「わかったよ。シェリー、僕達は向こうで遊ぼう」
アルージェがシェリーの手を取り、別の場所に移動しようとする。
サイラスはアルージェがシェリーに近づいた時、全く抵抗しなかったことにイラつく。
そして、そのまま二人が自然と手を繋いだことに顔を赤くする。
「お前!生意気なんだよ!」
サイラスは広場から離れようと、背を向けているアルージェに後ろから殴りかかる。
アルージェは横目で拳の軌道を見てひらりと躱し、代わりに足を引っかけてサイラスを転ばす。
「シェリーの剣速よりもだいぶ遅いね。それじゃあ僕には当たらないよ」
地面に伏せたまま、アルージェの言葉に青筋を立てる。
「お前、絶対に殺す」
サイラスは立ち上がり大振りで何度も殴りかかってきたが、アルージェは何事も無いように全て躱していく。
アルージェに拳が当たらないことに、サイラスは余計に腹を立てる。
そして普段ここまで動くことがないので、段々と動きが鈍くなっていく。
動きが鈍くなったサイラスの大振りな攻撃に対して、アルージェがカウンターを決める。
サイラスは何の抵抗も出来ないまま、アルージェの全力の拳を顔に受ける。
サイラスはアルージェよりも体格ががっしりしている。
そんなサイラスがアルージェに殴られて、五メートル以上吹っ飛びそのまま気絶した。
「サイラス!」
周りの取り巻きが、慌てた様子でサイラスに駆け寄っていく。
そして、アルージェのことを睨みつける。
だが取り巻き達は誰もアルージェに挑もうとせず、ただ睨みつけるだけだった。
「全員まとめてでも良いからかかってこい。相手してやる!来ないなら二度と僕達に近付くな!シェリーは誰にも渡さない!」
アルージェは睨むことしか出来ない取り巻き達に対して叫ぶ。
アルージェはシェリーの手を取り、広場から離れたところを流れている川へ移動した。
川に向かう途中、シェリーはずっとアルージェの横顔を見てニマニマとしていた。
そして、川につく。
「ごめんねシェリー、今日はここで遊ぼうか」
「アル、あたしのこと捕まえて! あたし全力で逃げるからね!」
シェリーからまず提案された遊びは鬼ごっこだった。
シェリーが全力で逃げ始める。
「えっ、もう始まりなの!?ずるいよシェリー!」
アルージェはシェリーの事を全力で追いかける。
アルージェはシェリーを追いかけて逃げ場の無いところに追い込もうと動く。
だが、シェリーは軽いフットワークでアルージェの横を抜けたり、アルージェを飛び越えられたりして追い込むことすらできない。
追いかけている内に、何とかシェリーを川沿いに追い込む。
「もう逃さないよ!」
「うぅ、ならこれならどうだー!」
アルージェを翻弄しようとシェリーは動くが、その動きを予測してアルージェが体当たりをする。
「キャーー!」
アルージェに体当たりされたシェリーはアルージェと一緒に川に落ちて大きく水柱を立てる。
「アルが飛び込んでくるから、ビチョビチョだよー」
起き上がってビチョビチョになった服を両手を軽く広げる。
「ご、ごめん!シェリーが本気で逃げるから僕もムキになって体当たりしちゃった!」
「そっかー!いっぱい走って汗かいてたからちょうどいいねー!ほら、くらえー!」
シェリーが水を掬ってアルージェに掛ける。
「ウワップ!シェリーいきなり顔にかけるのは、ウワップ、うぅ、ならこっちだって!」
アルージェも水を掬ってシェリーに掛けようとする。
シェリーは上手に最小の量しかかからないように躱す。
それに比べてアルージェは避けることが出来ず、たくさん水を掛けられる。
アルージェはシェリーにひたすら水を掛けられる遊びを満喫した。
「ずるいよ、シェリー避けるなんて!」
「アルだってよければ良かったんだよー!」
「あんなの避けられてないよ・・・」
「私はお姉ちゃんだからねー。何でも出来るんだよー。疲れちゃったしあそこで休憩しようー?」
水遊びも程ほどにして、いきなりはしゃいだので二人とも疲れて、休憩と取ることにした。
ちょうど二人が座れそうな大きさのを見つけて腰を掛ける。
「アルはさー・・・」
「ん?なに?」
なかなか次の言葉が来ないので、アルージェはシェリーの方へ視線を向ける。
「アルは将来この村から出て行くの?」
シェリーは俯きながら話す。
「村を?出ていくつもりはないけど、どうして?」
いつも明るいシェリーが珍しく元気がないと思い答える。
「そっかー!なら、大きくなったらあたしと一緒に暮らさない?」
アルージェの答えを聞いて、シェリーは顔を上げて嬉しそうに話す。
「一緒に?別にいいよー」
アルージェは意味を深く考えずに答える。
「ホント!?」
シェリーは岩から降りてニマニマと笑う。
「な、ならさ、あたし達は“ふうふ”だね!」
「そうだね!」
アルージェは“ふうふ”という言葉の意味は分からなかったが、元気に返事をする。
「今日はもう暗くなってくるし、帰ろっか!」
「そうだね、かえろ!」
帰り道、シェリーは上機嫌にスキップしていた。
その日の夜。
アルージェは晩ご飯を食べながら、シェリーと今日何をしていたのかをフリードとサーシャに報告する。
サーシャは「あらあら!まぁまぁ!」と嬉しそうにして、フリードは「よっ、色男!」とはしゃいでいた。
その時、突然ドンドンと力強くドアが叩かれた。
「はーい、どなたー?」
サーシャがドアを開ける。
外には茶髪の茶色目をしたガタイの良い男とニタニタと笑っているサイラスが立っていた。
「家族団欒を邪魔してすまない。村長のリベルだ」
「あら、村長今日はどうしたんですかぁ?」
村長が急に家を訪ねてきたので、何事かとフリードもサーシャの横に立つ
「今日来たのは他でもない。君達の子供とサイラスの事でだ。昼間に何かあったらしくてな。サイラスから聞いた話だと、一方的にサイラスを殴りつけてこのケガを負わせたと言われた。それの事実確認にきたんだ」
村長が親指でチョイチョイとサイラスの顔のケガを指す。
「ちょっと待ってくださいね」
フリードは村長に断りをいれて、アルージェを呼ぶ。
「アルちょっと来てくれ」
フリードに呼ばれてアルージェ玄関に向かう。
「村長んとこの息子と今日の昼何かあったのか」
フリードが真剣な目でアルージェに尋ねる。
「あったよ」
アルージェは端的に結論だけ述べる。
「聞かせてもらえるか、事によっては重大な内容だ」
フリードは先ほどよりも厳しい目つきになり、アルージェを見つめる。
「わかった。今日朝のトレーニングが終わった後、母さんに修業じゃなくて遊んできなさいって言われたから、丘の上の広場に行ったんだ。広場に行く途中でサイラスがいるからやめようってなったんだけど、後ろからサイラスが僕を押しのけてシェリーに話しかけ始めたんだ。でも、シェリーが嫌がったから僕達が別のところに行こうとしたら、後ろから急にサイラスが殴りかかってきた。僕は咄嗟に避けたけど、それでもっと怒ったサイラスがしつこく殴りかかってきた。全部当たらなかったけどね。前のこともあったし、本気で一発だけサイラスを殴ったらそのまま気絶したから、二度と近づくなっていって別の場所に移動した」
「ち、ちげぇ あいつが一方的に殴ってきたんだ!」
アルージェの言葉にサイラスは村長を見ながら異議を唱える。
「ふむ、サイラスの言っていることとだいぶ違うようだが?どちらかが嘘をついているということか。残念ながらここには嘘を見抜く魔道具は無いので、どちらが嘘をついているかを見抜くのは無理だろう」
リベルが顎に手をやり考え始めた。
「ちなみにアルージェ君。前にも同じことがと言っていたが、そちらも詳しく聞いていいかい?」
違和感を覚えたリベルがアルージェに尋ねる。
「あんまり言いたくないけど・・・」
アルージェはフリードとサーシャを見てから状況を説明する
「初めて丘の上の広場に行った時、シェリーと一緒に行ったんだけど、広場につくなりサイラスがシェリーを無理矢理引っ張っていこうとしたのを僕が止めたんだ。そしたらサイラスが怒り始めて、一方的にサイラスに殴られたり蹴られたりしたことがあったんだ」
アルージェの話を聞いて、リベルがサイラスを睨む。
「知らねぇ!そんなのそいつが勝手に言ってるだけだろ!知らねぇよ!」
「ふむ。知らないと言っているが、他に見ていたものはいたか?」
「前のやつはシェリーだけしか知らないよ。今日はサイラスの友達もいっぱいいたけど」
「ふむ、分かった。今日のところは引き上げるとするか。シェリーとサイラスの友達に聞けばわかることだ」
そういうと「団欒の時間に悪かったな」と言って他の証言を聞きに向かう。
話を聞きに行くと言われて、サイラスの顔はどんどん青ざめていた。
後日、村長がまた家に来た。
「先日の件、どうやら、うちのサイラスの妄言だったようだ。疑って本当にすまなかった。どの家の子供に聞いてもアルージェ君と同じことを言っていたよ。今回は私の顔に免じて許して欲しい。本当に申し訳なかった」
近所の子供達から話を聞いた村長が直々に頭を下げに来た。
無理やり連れてきていたサイラスは体や顔にアザが出来ていた。
サイラスも村長に頭を鷲掴みにされて、無理やりに頭を下げさせられていた。
「あぁ、誰でも我が子が可愛いのが普通だからな。仕方ねぇ。俺は少しでも息子を疑ってしまったことが恥ずかしいさ」
あり得ないと思っていても強くなった途端、人が変わることもある。
冒険者ギルドにいた時、そういうやつを山ほど見てきた。
アルージェも変わったのではないか、少しでもそう思ってしまった自分が恥ずかしい。
「まぁまぁ、それにしても君の息子は馬鹿みたいに強いんだな。体格のいいサイラスを五メートルくらい吹っ飛ばしたそうじゃないか。村の防衛は安泰だな!正直サイラスにも見習ってもらいたいくらいだ。話を聞いた時、私がどれだけ恥ずかしい思いをしたか・・・」
リベルはフリードの肩を手を当てて落ち込んでいた。
近所の子供達の話を聞いてサイラスがしてきたことをすべて知った。
人の物を取るのは当たり前、気に食わなければ暴力で解決。
そして嫌がる女子へのいたずら。
近所の子供達からの評価は最底辺だった。
「まだまだ子供だからな。これからじゃねぇか?伸びしろはいくらでもあるだろうに」
「そう言ってもらえて助かるよ・・・。今日から私もサイラスを鍛えようと思ってね。村の代表として防衛戦の時は一番前に立つことが有るのに、あれじゃあ誰もついてきてくれないだろ?流石に酷すぎるからな。腑抜けた考えを叩き直すことにするよ。では、私は失礼するよ。アルージェくん、本当に申し訳なかったね」
リベルはサイラスの腕を掴み引きずるようにサイラスを無理やり引っ張っていった。
リベルとサイラスを見送った後、フリードから話しかけられる。
「アル、俺も疑って悪かった。冒険者時代にギルドで力を持った途端、人が変わる奴を山ほど見てきたんだ。アルももしかしたらって疑っちまった。申し訳ない」
フリードが頭を下げた。
「気にしないでよ。僕だって何も言わなかったから悪いしさ。昔やられたことも言っとけば良かったんだね」
「私はアルがそんなことしないって信じてましたよー!」
フンフンと胸を張るサーシャ
「ありがとね!母さん!」
アルージェはサーシャに抱き付く。
「息子を信じるなんて当たり前じゃない。さっ、早くご飯食べましょー!今日はアルの大好きなシチューなのよ!」
「やったー!」
アルージェは喜びながら家の中に入っていく。
フリードは二人が奥の部屋に入っていくのを眺めていた。
「信じるのは当たる前か・・・、そうだよな。それが家族だよな」
フリードは雲ひとつない空を見上げて呟く。
1
お気に入りに追加
419
あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件
桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。
神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。
しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。
ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。
ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる