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第5章~戦争~
真意
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レグヌム王から出た言葉にフラティスは固まる。いや、フラティスだけではない、エバンも真意られないという表情でレグヌム王を見る。
「・・・それは重々承知しております。」
一瞬、感情的になりかけたがフラティスは極めて慎重に言葉を選ぶ。
「ふむ。その様子からして自覚はあるようだな。」
レグヌム王はじっとフラティスを見据えて言う。
「わしは確かに同盟を組むと文書にて返した。それに偽りはない。しかし、話を聞けばレグヌムが主力となる様子ではないか。」
――レグヌム王の言い分は最もだ。協力するとは言えども、それはあくまで限度というものがある。青の王国より軍力があるレグヌムにおんぶにだっこという形をレグヌム王は見透かし、恐れているのだ。
「そもそも、我らにとって負担に対する恩恵が少なすぎる。それにお前たちの言うことには、レギナの件もあって全身の信頼を置くことは正直できぬ。」
「・・・。」
フラティスが痛いことろを突かれたという表情で目を泳がす。それを歴戦の猛者が見逃すことはなかった。
「我が国民を今、危険にさらしてまでお前たちを助ける道理がない。違うか?」
エバンはレグヌム王の迫力をひしひしと感じていた。普段の温厚な姿の裏にはレグヌムの民を第一に考え、非常な判断をする覚悟を持つ為政者の姿があったのだ。
「――これを。」
フラティスは懐から書類を取り出し、レグヌム王に向けて差し出す。それを大臣を経由してレグヌム王は受け取る。
「ほう、これが交渉材料というわけか。」
書類に記されていたのは、エリカンテ王国にある鉱山の採掘権に関しての書類であった。
「エリカンテには質の良い金山や銀山が豊富にございます。今回の件でご助力を頂けるのであれば、その採掘権を10年間レグヌムの方にお渡ししましょう。」
レグヌム王は一通り書類に目を通し、フラティスの言っていることが正しく記載されているか確認した。そして、大臣にその権利書を渡すと、フラティスに問いかける。
「この条件であれば、我が国にとっても悪い話ではない。しかし、お前たちの国にとっては大打撃になるぞ。」
「それは重々に承知しております。」
エリカンテは海に面している国だ。そのせいで海産物には恵まれる一方、農業に適している土地とは言えない。経済も貿易を中心に回している国にとって、輸出の要である鉱山資源を手放すというのは経済面からしてかなりの負担と言える。
「――お前たちは元々エリカンテの者であろう。今では白の王国とやらに反抗しているようだが、そこと手を組みレグヌムに仇をなすことは考えておらぬのか?」
レグヌム王は最大の疑問をぶつけた。フラティスは一呼吸置き、目を少し長めに閉じた。そして言葉を紡ぐ。
「私には王族としてエリカンテに生を受けた子供たちが笑い、憂うことなく、未来に希望の持てる国をつくる義務があるのです。」
「私たちは、エリカンテの今を守るために戦うのではなく、エリカンテの未来のために戦うのです。」
=====================================
フラティスは迷うことなくレグヌム王の目を見て言った。そこには彼の、彼に希望を託したエリカンテの民の魂が確かに存在した。
「そうか。」
レグヌム王は短く答えた。そして何故かエバンに顔を向ける。
「・・・?」
「――未来か。」
エバンはレグヌム王の考えていることがつかめずにいた。レグヌム王はそんなエバンを見て小さく笑う。
「分かった。その条件で引き受けよう。」
「――っありがとうございます。」
上ずった声で礼を言い、今までで一番深々とフラティスは頭を下げる。
「エバン、スドルフたちを交えてフラティス殿と話を詰める。準備を頼む。」
「はっ。」
――それから白の王国との戦いに向けて互いの役割を話しあった。スドルフはエバンを見ると心底嬉しそうに肩をたたき喜んだ。不安だったフラティスたちに対するレグヌムの兵士たちの反応も意外と悪くなかった。
これはフラティスの人柄によるものが大きいのかもしれない。かくにも、レグヌム王国と青の王国は正式に同盟を組み、前に進んだのだった。
=====================================
それから数日後、エバンたちは再び青の王国に戻った。懸念していたことが解決できた気の緩みからか、その晩はフラティスもエバンも珍しく早く就寝した。
翌朝、エバンは目を覚まし外に出ると日課としていた運動を行う。いつもなら軽く汗を流して終わるはずのものも今日はきつく感じた。このところは、まともに体を動かすことができずにいたので、少しばかりなまっているようだ。
部屋に帰ろうとしたエバンにレギナがひょっこり現れ、声を掛ける。
「エバン、お疲れ様です。今よろしいですか。」
「レギナ様、このような姿で申し訳ありません。何か御用でしょうか?」
汗だくになっている自分に気にせずレギナは近寄る。
「今日は何か用事はありますか?」
「いえ、特にありませんが。」
レギナの言葉に不思議そうにエバンは返す。それを聞いてレギナは微笑む。
「もしお疲れでなければ護衛をお願いしたいのですが、頼めますか?」
「勿論構いませんよ。」
レギナはその立場から勝手に城の外には行けない。ステッドたちに頼むにせよ、エバンの許可なしに勝手に行動して大目玉を食らうことになりかねないし、かと言って断るのも心苦しいだろう。
そういったわけでエバンが返ってくるのを心待ちにしていたのだろう。それを察してエバンは快諾したのだった。
「・・・それは重々承知しております。」
一瞬、感情的になりかけたがフラティスは極めて慎重に言葉を選ぶ。
「ふむ。その様子からして自覚はあるようだな。」
レグヌム王はじっとフラティスを見据えて言う。
「わしは確かに同盟を組むと文書にて返した。それに偽りはない。しかし、話を聞けばレグヌムが主力となる様子ではないか。」
――レグヌム王の言い分は最もだ。協力するとは言えども、それはあくまで限度というものがある。青の王国より軍力があるレグヌムにおんぶにだっこという形をレグヌム王は見透かし、恐れているのだ。
「そもそも、我らにとって負担に対する恩恵が少なすぎる。それにお前たちの言うことには、レギナの件もあって全身の信頼を置くことは正直できぬ。」
「・・・。」
フラティスが痛いことろを突かれたという表情で目を泳がす。それを歴戦の猛者が見逃すことはなかった。
「我が国民を今、危険にさらしてまでお前たちを助ける道理がない。違うか?」
エバンはレグヌム王の迫力をひしひしと感じていた。普段の温厚な姿の裏にはレグヌムの民を第一に考え、非常な判断をする覚悟を持つ為政者の姿があったのだ。
「――これを。」
フラティスは懐から書類を取り出し、レグヌム王に向けて差し出す。それを大臣を経由してレグヌム王は受け取る。
「ほう、これが交渉材料というわけか。」
書類に記されていたのは、エリカンテ王国にある鉱山の採掘権に関しての書類であった。
「エリカンテには質の良い金山や銀山が豊富にございます。今回の件でご助力を頂けるのであれば、その採掘権を10年間レグヌムの方にお渡ししましょう。」
レグヌム王は一通り書類に目を通し、フラティスの言っていることが正しく記載されているか確認した。そして、大臣にその権利書を渡すと、フラティスに問いかける。
「この条件であれば、我が国にとっても悪い話ではない。しかし、お前たちの国にとっては大打撃になるぞ。」
「それは重々に承知しております。」
エリカンテは海に面している国だ。そのせいで海産物には恵まれる一方、農業に適している土地とは言えない。経済も貿易を中心に回している国にとって、輸出の要である鉱山資源を手放すというのは経済面からしてかなりの負担と言える。
「――お前たちは元々エリカンテの者であろう。今では白の王国とやらに反抗しているようだが、そこと手を組みレグヌムに仇をなすことは考えておらぬのか?」
レグヌム王は最大の疑問をぶつけた。フラティスは一呼吸置き、目を少し長めに閉じた。そして言葉を紡ぐ。
「私には王族としてエリカンテに生を受けた子供たちが笑い、憂うことなく、未来に希望の持てる国をつくる義務があるのです。」
「私たちは、エリカンテの今を守るために戦うのではなく、エリカンテの未来のために戦うのです。」
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フラティスは迷うことなくレグヌム王の目を見て言った。そこには彼の、彼に希望を託したエリカンテの民の魂が確かに存在した。
「そうか。」
レグヌム王は短く答えた。そして何故かエバンに顔を向ける。
「・・・?」
「――未来か。」
エバンはレグヌム王の考えていることがつかめずにいた。レグヌム王はそんなエバンを見て小さく笑う。
「分かった。その条件で引き受けよう。」
「――っありがとうございます。」
上ずった声で礼を言い、今までで一番深々とフラティスは頭を下げる。
「エバン、スドルフたちを交えてフラティス殿と話を詰める。準備を頼む。」
「はっ。」
――それから白の王国との戦いに向けて互いの役割を話しあった。スドルフはエバンを見ると心底嬉しそうに肩をたたき喜んだ。不安だったフラティスたちに対するレグヌムの兵士たちの反応も意外と悪くなかった。
これはフラティスの人柄によるものが大きいのかもしれない。かくにも、レグヌム王国と青の王国は正式に同盟を組み、前に進んだのだった。
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それから数日後、エバンたちは再び青の王国に戻った。懸念していたことが解決できた気の緩みからか、その晩はフラティスもエバンも珍しく早く就寝した。
翌朝、エバンは目を覚まし外に出ると日課としていた運動を行う。いつもなら軽く汗を流して終わるはずのものも今日はきつく感じた。このところは、まともに体を動かすことができずにいたので、少しばかりなまっているようだ。
部屋に帰ろうとしたエバンにレギナがひょっこり現れ、声を掛ける。
「エバン、お疲れ様です。今よろしいですか。」
「レギナ様、このような姿で申し訳ありません。何か御用でしょうか?」
汗だくになっている自分に気にせずレギナは近寄る。
「今日は何か用事はありますか?」
「いえ、特にありませんが。」
レギナの言葉に不思議そうにエバンは返す。それを聞いてレギナは微笑む。
「もしお疲れでなければ護衛をお願いしたいのですが、頼めますか?」
「勿論構いませんよ。」
レギナはその立場から勝手に城の外には行けない。ステッドたちに頼むにせよ、エバンの許可なしに勝手に行動して大目玉を食らうことになりかねないし、かと言って断るのも心苦しいだろう。
そういったわけでエバンが返ってくるのを心待ちにしていたのだろう。それを察してエバンは快諾したのだった。
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