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15.The different girl:thrown cuisine
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***A
俺にはまだ意識はある。だが体が動かせないのは変わらなかった。全身の主導権は剥奪され俺という存在の行く末をされるがままに見ることしか出来なかった。俺ではない人格しか分からないままで、正体が掴めそうにもない。いったい、俺に成り代わっている奴は誰なのか。
俺は目的地に向かい、内部に入り込んだと同時に体の感覚が失った。そしてその原因がおそらくあの二人のどちらかということはもう分かっている。なぜなら場所は関係ないからだ。俺はあの公園に一度行ったことがある。そして、その時起こした騒動を抑えるため、具体的には記憶を消すために行動していたからだ。
ドクターからの命令だとはいえ、これは俺がやりたいと思った、いうなら「オモシロイ」と感じているから行動しているのだ。
ゆえに、奴の実験計画に支障が出たとしても知ったことはない。俺は必ずこの蟠りを解消してやる。
ところで、二人の内、一人は見覚えのある顔だった。10歳ほどの年に黒い髪の少女。
だが、言動、容姿を見ると似て非なるどころかすべてが丸々違った。あいつは自分の名前も家も知らない風だったが、今回遭った少女は身体面は似ていても性格が明らかに異なっている。
分からない。だが、まだやるべき時じゃない。それだけは判断できた。
***B
公園で出会った記憶喪失の青年は僕と似ているところがある、なんて思った。確かに境遇は似ている。公園で目が覚めたこと、この世界での記憶がないこと。
でも、それだけじゃない。性格、容姿というと僕と彼とでは何となく似ているところはあるけれど、もっと奥めいた何か。それが似ているような気がしたのだ。父親と息子の考え方が似る、そんなところだ。
公園で白髪混じりの青年に出会ったあと、僕らは一度ミユの家に戻ることになった。僕はもちろん、レンも帰る場所がそれ以外になかったからだ。
「はあーー。なんだか疲れた。どっと肩につけもの石でも乗せられたような感じだよ」
「帰ってきて早々、ソファに座り込んで中年みたいね。そんなに働いてないくせに」
「その言い方は無いんじゃないかなーーミユ。僕だって記憶が抜けているんだ、毎日考えさせられることばっかだよ?ほら、今日行ったマーケットもそうだし」
そう言いながら僕は玄関から持ってきたホロの段ボール箱を開ける。ソファの横に静置してあるので座りながら手を伸ばし、中を確認する。
「開けるときくらい立ちなさいよ、それと私その使い方教えてたっけ?」
ミユは箱をまさぐる僕を眺めながら言った。
「使い方って、ホログラムというか、この付けている眼鏡のこと?一応簡易型のMBTだとはいえ、しっかり動いてるし、使い方ならマーケットに行く前に教えてくれたじゃないか?」
僕のMBTは故障している、ということになっているため、その代用として身に着けているだけで平気な眼鏡型MBTを顔に装着している。
そしてその使い方は貰った当初に聞いている。
「えっと、まあそうなんだけど…………」
「まって何その不安そうな顔、僕としてもそんな危険物を取り扱っているような目をされると怖いんだけど」
すると、段ボールに手を入れたが一切感触が無いことに気付いた。有り得ないことに箱の中は空っぽだったのだ。右左、上下と掌を箱の中で小刻みに動かすが感触はない。
だがその代わり、視界の右上端っこに長方形のモジュールみたいなものが浮かんだ。数ミリほどの大きさだったので初めは段ボールを開けた時のホコリとかゴミが飛び散ったかと思い、摘まみ上げる。
感触はない、たとえ塵だとか糸くずだったしても物体の表面の凹凸があるはず。けれど何もない、ツルツルだとかざらざらだとか、その一切の感触が無い。
持っている、という現象のみが視認できている状態。だから僕は摘まみ上げたそのモジュールをそのままポイっと、その辺の床に捨てる感じで放した。
「まって!!それはそのまま持って行かないと……」
ミユはそんな僕を見て必死に止めようとしたけれど、遅い。僕はすでに指から放した後である。
「慌ててどうしたの?まさか苦手なものでもあったのかい?たとえばそうだね……虫とか」
「はああ?そんなわけないでしょうが!!あんた、段ボールに何も入ってないからって変だと思わないわけ?」
あ。そうだった。
「その顔を見ると百発百中、私の思う壺だったってわけね、ま、期待なんて微塵もしてなかったけど」
蔑むように見る少女ミユ。いやこんな黒い暗闇みたいな瞳で見くだされるとは思ってもみなかった。しかも10歳ぐらいの女の子に。
「あ……もしかしてさっきのゴミみたいなクズみたいなものって…………」
「あんたがゴミでクズでカス以下だっての!!」
こんな罵倒されるなんてと思いつつ、僕はさっきモジュールを投げた自分の背後を振り返ると。
「ごめんなさいね……でも知らなかったことだし、仕方ないよね?」
それはそれは散々な結果になった料理が床に散らばっていた。僕やミユが頼んで食べたいと思った料理、それが無残な姿と化していたのだ。
「だし巻き卵がこれじゃあただの出汁卵だね。巻かれてたのが全部転がって紙みたいに平べったくなってるし、それに、このハンバーグなんて目玉焼きが乗っかっててこれじゃあ床に出来たロコモコだね。ロコモコ床」
「ねえ、見てみてよレンさん。ほらこれなんてさソースとタレが混ざってて何の料理か分からないよ」
「はあ」と、どう答えるべきか悩んでいるレン。僕だってIQが著しく低下したからこんな支離滅裂なことを言っているわけじゃないのだ。歴然とした計画、事態の収拾を図る一つの手段を取っているのだ。
「どう思うミユ?ほらほら、散らばったのはしょうがないけどさ、見てみてよ、これなんてロールキャベツじゃなくてただのキャベツだよこれ」
『散らばったのはしょうがない』。確実な論点のズレ。まさしくロジカルブレイク。他の話題に焦点を逸らすことで僕が投げた行為を忘れさせるのだ。
「あのさ……。今までバカ兄貴が何を思ってやってるのかは私には分かったことじゃないし、分かりたくもなかったけどさ」
「ここまで何をしているのか理解できないことはそうはなかったよ。でも…………面白いじゃん……巻かれてないだし巻き卵って」
「だろ?僕だって洒落みたいなのは言えないことはないんだよ。どう見直した?兄として尊敬できる?」
なんだ。想像していたよりも荒くならずに事が収まりそうだ。さっきまでクズとかなんだとか言ってたのに。本当の兄ではないけれど兄らしい振舞いが出来たって意味なのかもしれない、そして実際にそうだったら嬉しいことこの上ないけど。
「んなわけあるかぁ‼‼何をしているか理解できないって、そんなクソみたいな洒落を言うあんたの言動が分からないってことだよ!!」
「ク……クソとはひどい言われようだよ。仕方ないじゃないか、僕だって初めてこの機能使ったんだ。こうなることが分かるはずだよ?」
「だーーから最初に聞いたんでしょうが。あんたが箱の中を探っているときにそれの使い方を知っているかどうかって」
「でも、何も言わずに見ていたのは君じゃないか」
「忠告を聞いたうえで開けたのはあんたでしょ。あーーあ。どうすんのよ、それ」
「どうするも何も食べるものがこれしかないなら、食べるしかないよね……ごめん、今度から気を付けるよ」
このまま破綻した言い訳をしていても事態は進まない。だから僕はすんなりと謝ることにした。それにこれは僕がやったことだ。そのせいで周囲に迷惑をかけるなんてあまりにも背徳感がありすぎる。
「これは僕が食べる。その代わりレンとミユの分はこれから買ってくるよ、すまない」
けれど僕の贖罪を拒むようにミユは言った。
「そんなことしなくていいわよ。分かってるならいいの。次から同じ間違いをしないって約束してくれるなら」
「な、なんて優しいんだ妹よ……」
10歳程の年頃に似つかわしい言動。謝ると躊躇なく許容してくれるとか、社会に出た僕としては久しぶりのことだよ。失敗したら終わり、そんなご時世だったし、あの頃は。
「は?キモすぎ」
「やっぱり優しくないよね、ごめんね、言っていること間違えたよ僕」
「それと君は使う言葉を選択した方がいいよ。ネガティブな言葉ばかり使っているとイメージも悪くなるし」
「あんたにイメージが悪がられるならそれはそれでいいわよ」
「別に嫌われたいから言ったわけじゃないんだけどなぁ…………」
そうして僕はソファを立ち上がり料理に手を伸ばす。転がった皿の上へと元に戻すように僕は拾い上げる。
するとそれを見かねたのか、レンは僕の手を止めさせた。
レンは驚くほどに優しげのある眼光を、眼差しを、黒い瞳の奥から引き出していた。
「その必要はないですよ。俺がもう一度、料理を運んでもらうよう手配しますから」
レンは散らかっていた床の辺りを指でさすとと瞬く間に料理が消失した。僕が拾い上げた皿も、壁まで飛び散った滴も、その残滓すら分からないほどに消されていた。何のことはない床と壁だけが、僕の眼前に再び広がっていたのだ。
「す、すみません…………」
僕は呆気にとられ、言葉を失ってしまった。だからたった一つの感謝しか僕には出来るような状態ではなかったのだ。
俺にはまだ意識はある。だが体が動かせないのは変わらなかった。全身の主導権は剥奪され俺という存在の行く末をされるがままに見ることしか出来なかった。俺ではない人格しか分からないままで、正体が掴めそうにもない。いったい、俺に成り代わっている奴は誰なのか。
俺は目的地に向かい、内部に入り込んだと同時に体の感覚が失った。そしてその原因がおそらくあの二人のどちらかということはもう分かっている。なぜなら場所は関係ないからだ。俺はあの公園に一度行ったことがある。そして、その時起こした騒動を抑えるため、具体的には記憶を消すために行動していたからだ。
ドクターからの命令だとはいえ、これは俺がやりたいと思った、いうなら「オモシロイ」と感じているから行動しているのだ。
ゆえに、奴の実験計画に支障が出たとしても知ったことはない。俺は必ずこの蟠りを解消してやる。
ところで、二人の内、一人は見覚えのある顔だった。10歳ほどの年に黒い髪の少女。
だが、言動、容姿を見ると似て非なるどころかすべてが丸々違った。あいつは自分の名前も家も知らない風だったが、今回遭った少女は身体面は似ていても性格が明らかに異なっている。
分からない。だが、まだやるべき時じゃない。それだけは判断できた。
***B
公園で出会った記憶喪失の青年は僕と似ているところがある、なんて思った。確かに境遇は似ている。公園で目が覚めたこと、この世界での記憶がないこと。
でも、それだけじゃない。性格、容姿というと僕と彼とでは何となく似ているところはあるけれど、もっと奥めいた何か。それが似ているような気がしたのだ。父親と息子の考え方が似る、そんなところだ。
公園で白髪混じりの青年に出会ったあと、僕らは一度ミユの家に戻ることになった。僕はもちろん、レンも帰る場所がそれ以外になかったからだ。
「はあーー。なんだか疲れた。どっと肩につけもの石でも乗せられたような感じだよ」
「帰ってきて早々、ソファに座り込んで中年みたいね。そんなに働いてないくせに」
「その言い方は無いんじゃないかなーーミユ。僕だって記憶が抜けているんだ、毎日考えさせられることばっかだよ?ほら、今日行ったマーケットもそうだし」
そう言いながら僕は玄関から持ってきたホロの段ボール箱を開ける。ソファの横に静置してあるので座りながら手を伸ばし、中を確認する。
「開けるときくらい立ちなさいよ、それと私その使い方教えてたっけ?」
ミユは箱をまさぐる僕を眺めながら言った。
「使い方って、ホログラムというか、この付けている眼鏡のこと?一応簡易型のMBTだとはいえ、しっかり動いてるし、使い方ならマーケットに行く前に教えてくれたじゃないか?」
僕のMBTは故障している、ということになっているため、その代用として身に着けているだけで平気な眼鏡型MBTを顔に装着している。
そしてその使い方は貰った当初に聞いている。
「えっと、まあそうなんだけど…………」
「まって何その不安そうな顔、僕としてもそんな危険物を取り扱っているような目をされると怖いんだけど」
すると、段ボールに手を入れたが一切感触が無いことに気付いた。有り得ないことに箱の中は空っぽだったのだ。右左、上下と掌を箱の中で小刻みに動かすが感触はない。
だがその代わり、視界の右上端っこに長方形のモジュールみたいなものが浮かんだ。数ミリほどの大きさだったので初めは段ボールを開けた時のホコリとかゴミが飛び散ったかと思い、摘まみ上げる。
感触はない、たとえ塵だとか糸くずだったしても物体の表面の凹凸があるはず。けれど何もない、ツルツルだとかざらざらだとか、その一切の感触が無い。
持っている、という現象のみが視認できている状態。だから僕は摘まみ上げたそのモジュールをそのままポイっと、その辺の床に捨てる感じで放した。
「まって!!それはそのまま持って行かないと……」
ミユはそんな僕を見て必死に止めようとしたけれど、遅い。僕はすでに指から放した後である。
「慌ててどうしたの?まさか苦手なものでもあったのかい?たとえばそうだね……虫とか」
「はああ?そんなわけないでしょうが!!あんた、段ボールに何も入ってないからって変だと思わないわけ?」
あ。そうだった。
「その顔を見ると百発百中、私の思う壺だったってわけね、ま、期待なんて微塵もしてなかったけど」
蔑むように見る少女ミユ。いやこんな黒い暗闇みたいな瞳で見くだされるとは思ってもみなかった。しかも10歳ぐらいの女の子に。
「あ……もしかしてさっきのゴミみたいなクズみたいなものって…………」
「あんたがゴミでクズでカス以下だっての!!」
こんな罵倒されるなんてと思いつつ、僕はさっきモジュールを投げた自分の背後を振り返ると。
「ごめんなさいね……でも知らなかったことだし、仕方ないよね?」
それはそれは散々な結果になった料理が床に散らばっていた。僕やミユが頼んで食べたいと思った料理、それが無残な姿と化していたのだ。
「だし巻き卵がこれじゃあただの出汁卵だね。巻かれてたのが全部転がって紙みたいに平べったくなってるし、それに、このハンバーグなんて目玉焼きが乗っかっててこれじゃあ床に出来たロコモコだね。ロコモコ床」
「ねえ、見てみてよレンさん。ほらこれなんてさソースとタレが混ざってて何の料理か分からないよ」
「はあ」と、どう答えるべきか悩んでいるレン。僕だってIQが著しく低下したからこんな支離滅裂なことを言っているわけじゃないのだ。歴然とした計画、事態の収拾を図る一つの手段を取っているのだ。
「どう思うミユ?ほらほら、散らばったのはしょうがないけどさ、見てみてよ、これなんてロールキャベツじゃなくてただのキャベツだよこれ」
『散らばったのはしょうがない』。確実な論点のズレ。まさしくロジカルブレイク。他の話題に焦点を逸らすことで僕が投げた行為を忘れさせるのだ。
「あのさ……。今までバカ兄貴が何を思ってやってるのかは私には分かったことじゃないし、分かりたくもなかったけどさ」
「ここまで何をしているのか理解できないことはそうはなかったよ。でも…………面白いじゃん……巻かれてないだし巻き卵って」
「だろ?僕だって洒落みたいなのは言えないことはないんだよ。どう見直した?兄として尊敬できる?」
なんだ。想像していたよりも荒くならずに事が収まりそうだ。さっきまでクズとかなんだとか言ってたのに。本当の兄ではないけれど兄らしい振舞いが出来たって意味なのかもしれない、そして実際にそうだったら嬉しいことこの上ないけど。
「んなわけあるかぁ‼‼何をしているか理解できないって、そんなクソみたいな洒落を言うあんたの言動が分からないってことだよ!!」
「ク……クソとはひどい言われようだよ。仕方ないじゃないか、僕だって初めてこの機能使ったんだ。こうなることが分かるはずだよ?」
「だーーから最初に聞いたんでしょうが。あんたが箱の中を探っているときにそれの使い方を知っているかどうかって」
「でも、何も言わずに見ていたのは君じゃないか」
「忠告を聞いたうえで開けたのはあんたでしょ。あーーあ。どうすんのよ、それ」
「どうするも何も食べるものがこれしかないなら、食べるしかないよね……ごめん、今度から気を付けるよ」
このまま破綻した言い訳をしていても事態は進まない。だから僕はすんなりと謝ることにした。それにこれは僕がやったことだ。そのせいで周囲に迷惑をかけるなんてあまりにも背徳感がありすぎる。
「これは僕が食べる。その代わりレンとミユの分はこれから買ってくるよ、すまない」
けれど僕の贖罪を拒むようにミユは言った。
「そんなことしなくていいわよ。分かってるならいいの。次から同じ間違いをしないって約束してくれるなら」
「な、なんて優しいんだ妹よ……」
10歳程の年頃に似つかわしい言動。謝ると躊躇なく許容してくれるとか、社会に出た僕としては久しぶりのことだよ。失敗したら終わり、そんなご時世だったし、あの頃は。
「は?キモすぎ」
「やっぱり優しくないよね、ごめんね、言っていること間違えたよ僕」
「それと君は使う言葉を選択した方がいいよ。ネガティブな言葉ばかり使っているとイメージも悪くなるし」
「あんたにイメージが悪がられるならそれはそれでいいわよ」
「別に嫌われたいから言ったわけじゃないんだけどなぁ…………」
そうして僕はソファを立ち上がり料理に手を伸ばす。転がった皿の上へと元に戻すように僕は拾い上げる。
するとそれを見かねたのか、レンは僕の手を止めさせた。
レンは驚くほどに優しげのある眼光を、眼差しを、黒い瞳の奥から引き出していた。
「その必要はないですよ。俺がもう一度、料理を運んでもらうよう手配しますから」
レンは散らかっていた床の辺りを指でさすとと瞬く間に料理が消失した。僕が拾い上げた皿も、壁まで飛び散った滴も、その残滓すら分からないほどに消されていた。何のことはない床と壁だけが、僕の眼前に再び広がっていたのだ。
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僕は呆気にとられ、言葉を失ってしまった。だからたった一つの感謝しか僕には出来るような状態ではなかったのだ。
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