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13.The introduction:Not understand
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「どこからいらしたんですか?出身とか、自分の家の場所とか、名前とか」
僕の質問にすべて「分からないです」と答える青年らしき人物に訊くと、目が覚めたらこの場だったらしい。右目が隠れてしまうほどの黒い前髪に、頭頂部は少し白髪がかっている。服装は派手過ぎないようにとのことなのか、白黒のチェックシャツに真っ黒のズボンを履いていた。
「じゃあ、他に記憶とかはありませんか?ここではない記憶とか、前世は一体何だったかみたいな」
「すみません、分からないです……ただ自分のことを俺って呼んでいたのはたしか……そうだったような気がするんです」
「ということはやっぱり記憶喪失の可能性が高いってことなのかな?」
公園で初めて目が覚めた。そしてこの世界のことについて理解していない。まるで僕と同じようにこの世界に転生してきたかのようで少し親近感が湧いたのだけれど、かといって僕と境遇が全く同じではないような気がしてならなかった。
どうしてか、僕と同じところがあって、違うところがある。そんな感じがしてならなかった。
「だと思います。あの……もしよかったらあなたたちと行動しても構いませんか?お邪魔にならない程度で良いので」
僕はミユの元へ振り向く。何だって僕だって記憶喪失だ。また一人、何も分からない人間を自分の家で匿うということになる。僕が独断で決めて良いわけがない。だけど。
「こっち向くなっての。あんたが良ければそれでいいわよ。部屋に一人増えたところで別に構わないわ」
「あ、寝泊まりは自分で探すのでお気になさらず」
「って!!宿泊できるところは見つけていたのかい。でもまあ、一人や二人同じ行動をする人が増えたところで気苦労することはないし」
僕がミユの横槍を入れる。どうしてもここで言わなければ、と胸の内で騒めいて仕方なく。仕方なくね。
「と言いつつ、もしかしたら人がたくさんいた方が楽しいとか思ってたりして……?」
くるりと僕の方へ体の方向を傾け、そして下半身目掛けて右足を蹴り上げる。が、僕はそんなことは考えるまでもなく知れたことだったので、そのまま後ろへとバックする形でミユから遠ざかる。
「なに逃げてんのよ!!」
「いや逃げないでただぶたれるやつがいるか!?」
二度は無いと念を押してミユに言ってやるとさらに逆鱗に触れたのか、また襲い掛かってきた。背丈は僕よりも50cmも低いためか、俊敏な動きで避けにくい時は何度かあったけれど、スタミナは僕の方が上だった。公園内を走り回って、具体的に言うと噴水の周りを12周ほどすると、あっという間にミユはバテていた。
「っはあはあ。ったく逃げ足だけは速いのね。せっかくさっき教えてもらった急所を突こうと思ったのに」
「それをしないでって意味だったんだけど。僕が言いたかったことがまるで伝わってないし、それどころか逆手に取ろうとするなんて思ってもみなかったよ……」
いや……この性格からしてみればやりかねなかったか。
「だけど足が速いってのは嘘だよ?僕そんな自信ないし、ただ君に体力がないってだけだと思う、うん、そだよ」
「な、なにいい‼‼そんなことあるもん……か」
いくら精神的に10歳よりも上のように見えるからと言って流石にここまで煽るのは大人げないか。走ったせいで呼吸が乱れているし、今はこんなことをしている場合じゃなかったはず……いや、している場合ではなかった。
「あのーー。すみません…………」
白黒のチェックのシャツを着た男。彼は僕らを眺めると、悲嘆にくれたような声を洩らしたのだった。
***A
そいつは俺ではなかった。全くの別人だった。特徴も特別能力が長けているわけでもない。そんな一般人と行動すると代わって俺ではなくなった。
二重人格なんて話すのが容易いことなんかじゃない。ジキル博士が薬を飲んでハイドという人格が現れるといったように説明できたらよかった。いったい何が俺にとっての薬なのか。そして、どうして二重人格ならば今の俺に意識があるのか。
その2つを理解できない限り、この煩悩は長く続くのだろう。
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