愛洲の愛

滝沼昇

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15.音曲の契り

➄ 愛洲4兄弟

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 隠し部屋への鍵となる仕掛けを探し出すべく、逸る心を鎮めながら違い棚の柱や棚板を確かめる壱蔵の手が、つい床の間の一輪挿しを倒してしまった。
 ぎいっ……
 しかし、次の瞬間、床の間の壁が違い棚の後ろの壁の中に呑み込まれる様にして左から右へと口を開けたのであった。
「壱ちゃん」
 そこへ、志免と燦蔵が追いついた。
「この奥か、兄者」
「微かだが、水音が聞こえる」
 壱蔵の指摘に、燦蔵が戸口の奥に顔を伸ばして鼻をひくつかせた。
「間違いない、水の臭いがする。この下は水路だ。緊急時の藩主の脱出口か何かだろう」
「その通りだよ、燦坊」
 すると、血腥い戦いの場には不似合いな美声を響かせ、仁介が現れた。
 
 夜目にも鮮やかな水色地に寒牡丹が描かれた京友禅を着流し、婀娜な姿に変わっていた。そしてその腰には、塗り鞘に収まる両刃刀が落とし込まれていた。
「隠し水門は開いております。この着物に染め抜かれた柳沢家家紋が、通行手形です」
 櫛巻に結い上げた仁介の髪のほつれを、壱蔵が直してやった。
 光友公にそれを確約させた仁介の手腕を、無言で褒めたのだ。
「死に装束にしちゃ、地味だぜ」
 燦蔵の皮肉に、仁介も負けじと言い返した。
「これはほんのお色直しさ」
 年子の兄弟は、笑いながら互いの刀の柄を打ち重ねた。
「お前達、行くぞ」
 地獄への入り口とばかりに開いている黒い隠し通路へと、四兄弟が飛び込んだ。

 やがて、四人を乗せた荷船が隠し水門を抜けた。
 舳先に座る仁介と、水門の影からそっと見送る保明は、闇夜の中で互いの気配を感じ、見えぬ視線を絡ませたのだった。
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