ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

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問7 溢れ出す限界までの容量を計算せよ

答7-4

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「どういう組み合わせ?」

 俺はほうけたようにつぶやいた。
 はや6戦目のダブルス戦。新しいデッキは少しずつ馴染み、調整の結果かなり良いモノに仕上がってきたところで、俺達に立ちふさがったペアはどちらも知った名前だった。

 「レミングス」&「クルーエル」ペア

「クルーエルさんって、あの、最近練習に付き合っていただいている方ですよね?」
「あー……もう一人は、この間の放送で俺が初スペルキャンセル当てた人なんだよね……」
「え、そこの2人繋がっていたんですか?」
「分からない……。クルーエルさんのことは未だに謎過ぎて」
「確かに」

 2人がどういう関係かは知らないが、レミングスがシングル以外のランク戦をやっていても別に不思議ではない。しかし、まあ困った。

 クルーエルさんは、俺達の戦い方を知っている。検証班の面々には、こうしたいからこういうカードを試してほしい、と伝えながら模擬戦をやってもらっているからだ。
 なんとかセーフと言える部分は、彼と俺たちが直接戦っていないところか。
 デッキのパーツだけ見ても、全体像までは分かっていない可能性もある。
 今練習を共にしている玻璃猫組メンバーは、前田さん以外はダブルス戦をやっていないのかと思っていたが、もう1人居たとは。

「クルーエルさんの戦い方、知ってる?」
「いえ……。そう言えば、あの人とは全く戦ったことがありません」
「そっか……。じゃあいつもと同じで行くしか無いかな。このデッキの対応力ならそうそう遅れは取らないと思うし」
「分かりました。じゃあいつも通りで」

 ミューミューはそう言い終わるかどうかというタイミングで動き出そうとしたので、俺は慌てて引き止める。
 デッキが不明ならばとりあえず戦ってみる、という脳筋的な考えが最近の彼女には根付いてしまっている。2人だから俺がフォローしてくれると思ってくれているのか、少し無茶することが増えてきた。
 元々冷静な戦いを良しとしていたのに、何故だ。
 ふとにっこりと笑うみずちの顔が頭に浮かんだ。

 良くも悪くも意外と影響を受けやすいのかも知れない。

 俺は自分の事は棚に上げ、みずちを心の中でバッシングした。

「ちょい待って。相方のレミングスっていう人、強いから気をつけないとヤバい。シングル戦の時はこっちの不意を突く戦い方だったけど、そもそも近接戦闘が俺より上手い。正面からぶつかって即近づかれると作戦が崩壊するかも」
「ということは、やっぱり誘い込みは危険ということですか?」

 このデッキの基本ムーブは、片方が囮となって戦闘を仕掛け、そっちが主砲だと勘違いしている相手に対してもう1人が大きい攻撃を当てるパターンだ。囮役は初手の引きによって変えているので、今回はミューミューがやるべきなのだが……。

「違う。まずは俺が出たいんだ。ここ、拡声ポイントあるし、レミングスと少し話したいから呼んでみる」
「呼び出して近づかれたら余計危ないじゃないですか」
「その通りなんだけど、意外と対話してくれそうなんだよね、あの人」
「へぇ……仲良くなったんですか? 呼び捨てですし」

 すぅ、とミューミューの目が細まる。

「まあちょっとだけ。終わった後に感想戦やったんだよね。今の所感想戦呼ばれたのもあの人だけだし」
「……2人でじっくり見たんですか? お互いが戦っているところを、健闘を讃え合いながら、新たな発見を祝って?」

 何か言い方に棘がある気がする。

「あ、いや、それが全然違って。むしろその新たな発見について談合を持ちかけられたというか、強請ゆすられたというか」
「ゆす……えっ!?」
「黙っててやるから金くれってすっげーストレートに。いや、びっくりしたんだけど、それは断ってもう少し話してたら何か気に入られたみたいで、抱きつかれて終わったんだよ。それ以来だね」
「なるほど……つまり、悪ですね?」

 おや、雰囲気がおかしい。

「いや、別にそういう訳では……」
「悪ですよ。強請りなんて、まともな人間のすることじゃありません」

 きっぱりと言い切る。空気がひりつくような気配に俺も緊張してきた。

「実害はなかったしそんな別に……。とりあえずこの前はそのまま逃げられた感じだったからちょっと話したいのと、ついでにこっちのペースに引き込めれば、っていう作戦というか願望なんだけど」
「なるほど、なるほど。分かりました。じゃあ私は、いつでも殺れるよう待機します」

 やれる、の字が物騒な方で言っているような気がするがスルーした。
 このコ、こんなに正義感強かったかな? 俺のために怒ってくれているのだろうか。
 確かにアレはマナー違反だったとは思うが、結果論で言えば彼女は無償で黙ってくれていたのだし、正直バタバタしていてすっかり忘れていたくらいだ。

 それに、ペアを組んでいるクルーエルさんが身内のようなものだから、そこまで敵視するほどのことでは無いんだけどなぁ。

「じゃあ、何かあったらフォローよろしく。八百長したい訳じゃないから、対話はあくまで俺がレミングスさんに聞きたいことがあるってだけのわがままなんだけどさ。試合の外で聞けっていうならそうするけど、また逃げられないとも限らないし」
「いえ、良いですよ。付き合います。戦闘開始の合図はいつものでよろしくお願いします。見える場所に居るので」
「待機だけじゃなくて、クルーエルさんが出てこない時はそっちの探索も頼める?」
「もちろんです」

 ミューミューが弾けるような笑顔を向けてきた。
 俺はそれに違和感を覚える。
 戦闘中は基本的にあまり表情を動かさないことが多いのに、何故今、こんなところでこの笑顔なのだ。

 それはまるで、意識して表出させた「明るい笑顔」という手札を見せられたみたいだった。

 突っ込むべきか。スルーするべきか。
 俺はリアクションを取るまでの数秒で色々な答えを検討した結果「じゃあ、よろしく」という糞ほどに無難な返事で戦闘のスタートを切った。

 フィールドは「笑顔の廃棄場」と洒落た名前のついた廃遊園地だ。
 崩落したジェットコースター、傾いた観覧車、折れた塔。それらを横目に、俺は中央にある「舞台」へと足を向ける。

 その背後から立ち上がる妙な圧には気づかぬまま。
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