ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

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問7 溢れ出す限界までの容量を計算せよ

問7-6

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 明日は土曜日。夜を存分に利用するべく立てた予定は、3時間をイベントに、それ以降の時間はフリーということになった。
 なので今日はまず俺の作戦を実行しようという事で意見がまとまる。

 今日のログインメンバーは8人だ。
 分類班4人、検証班4人で分かれると、早速行動開始。

 俺、ミューミュー、チョッキ、リーダーが分類班。
 みずち、孤狼丸、ぴょん吉、クルーエルさんが検証班だ。

 俺は検証班の端で姿勢良く立つクルーエルさんに目を向けた。
 この人はどういう戦い方をするんだろうか。何度かにゃんスタで見かけたことはあるが、練習に誘ってもなかなか良い返事をくれなかった。なので未だに戦闘する姿を見たことがない。
 
 クルーエルさんのアバターは寡黙なエルフの男性だ。実際の年齢や性別は不詳。
 金縁眼鏡に色白な痩躯そうく、輝くエメラルドのような長髪からぴょんと長耳が飛び出ているのは、いかにも秀才のエルフといった風貌で良い。
 年齢はともかく何故性別が分からないのかというと、この人、とにかく喋らない。
 テキストのポップアップ表示や感情アイコンだけでコミュニケーションを取る、一昔前の意思疎通手段しか頑なに使おうとしない。
 他の玻璃猫組のメンバーに聞いても、リーダーしか声を聞いたことが無いという。
 何故そうするのかも分からないし、何らかのコミュニケーションを求めても「わかった」とか「今は無理」とか最低限の返事しか返ってこない。
 集まったメンバーと相談をしている時もほとんどだんまりだし、会話が多く必要な分類班には入れられないので検証班に分けたのだが、それはすんなりと肯定してくれた。

 とにかく彼には謎が多い。だからこそ戦闘をしているところは少し見てみたい。

「じゃ、とりあえずやってみましょう。まずは俺がチョイスしておいたこれでお願いします」

 俺は検証班の4人に、それぞれデッキレシピを送った。
 2対2で分かれてもらい、ペア戦のデッキテストを兼ねた戦闘をしてもらう。
 両方ともたたき台として俺が組んだロマン少なめデッキだ。まずは基礎から。建築でも基礎が大事という。頑強な基礎は、比例して頑丈な構造物になるというものだ。

 さて、とりあえずそっちの検証は2組に任せ、分類班は俺のマイルームに招待した。

「すごいですね、ここ……」
「ほう。まるで図書館のようですね」

 俺の部屋に初めて足を踏み入れた二人が感嘆の声を上げた。
 実はちょっと引かれるんじゃないかと戦々恐々としていたが、悪くない反応でホッと胸を撫で下ろす。
 事前に何故俺の部屋で分類をするのか説明してあったので2人も心の準備が出来ていたのだろう。

「データはすべて鍵無しで置いてあるから、自由に閲覧して良いよ」
「ミューミューちゃん、これ使いなよ。あ、汚くてごめんね」
「いえいえ。ありがとうございます。お言葉に甘えて」

 チョッキがまるで自分の部屋かのように椅子を勧めていた。別に汚くは無いわ。
 ミューミューもおとなしくその椅子に腰掛け、既にパラパラとデータファイルを読んでいた。

「とりあえず担当を決めよう。俺はショットカード、ミューミューさんはスペルカード、チョッキはステータスカード、リーダーはユーティリティカードをお願いします」

 枚数の多いバレットカードは後回しだ。ガジェットとミニオンも進めたいが、まずは戦闘で良く使われるカード種から攻めた方が検証用デッキが作りやすいのでとりあえず各カードが仕舞ってある棚を指示して分類を開始した。

 俺の作戦はこうだ。
 シークレットが隠されていそうなカードを集中的に多くの方法で試す。
 別に偉そうに作戦といえるほどのモノでもない、誰にでも思いつく方法だが、これが意外と難しい。
 なぜなら、隠されていそうなカードというのがそもそも絞り込めないからだ。それが出来れば苦労しないとも言える。

 ということで、登場するのが俺がコツコツと集めてきた「オリジナルカードデータベース」だ。
 一応ちょとしたプログラムも組み入れてあるので、部屋の中に居ながら特定の条件での検索やカードランキングが出るように対応もしている。
 普通に使うなら、例えば俺が独自の見解で設定している「起動アクションの容易さ」という数値でジャンル別カードランキングを表示させ、上位のカードの中から欲しい攻撃力で更に絞り込み、「強くてとっさに撃ちやすいカード」を探すことなんかが出来る。

 ただ、今回はこのシステムを逆に使う。
 弱くて出の遅いカード。コストの割に効果が低いカード。見込まれる利用範囲が異常に狭いカード。
 それらが、おそらく探している「シークレット」に最も近いのではないかと予測している。
 どうせ調べるなら、その順に見ていったほうが良いだろう。

 作戦が決まり、カードの情報や利用方法に精通したメンバーを揃えたのが「分類班」。
 俺が普段から研究している「完全上位互換が存在するカード」を使ってテストプレイをしてもらっているのが「検証班」ということだ。
 いずれは分類班が絞り込んだカードの中からそれっぽくデッキの形にしたものを、また検証班に渡して試してもらう予定になっている。
 これを繰り返して行けば、効率的に見つけられることが出来るかもしれない。

 そしてこの作業はデッキを作る上でアイディアの宝庫になるというメリットもある。
 隠された能力ではなくとも、どこにコンボが転がっているかは分からない。上手いことそれをピックアップ出来れば、誰も使ったことがない何かを見つけられるかも知れないのだ。
 ゲーマーは誰しも「最初の一人」になる事に憧れる。
 すでに地上を制覇してしまった人類は、自ら未踏の地を作り出す事で探索欲を満たそうとでもしているのだろうか。

 俺はそんな事をだらだら考えながら、ひたすらカードの抽出作業を進めた。
 途中誰かの悪戯で俺の頭の上にハシビロコウのオブジェクトが乗っていたが、そんな事に構っている暇は無い。
 というか、また面白い組み合わせを発見してしまった。
 後で検証班の戦闘を覗きつつ、見つけた組み合わせを早速試してもらおう。

 俺はチョッキの座っている椅子を唐突に収納しながら決意した。
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