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問7 溢れ出す限界までの容量を計算せよ
問7-4
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翌日。
俺は学校から帰るなり、着替える間も惜しんでネクロにログインした。
焦る気持ちを抑えて丁寧に動作チェックをこなし、ようやく見慣れたマイルームに降り立った。
「さあさあ、どうなってるかね」
俺はソファーに座りながら見える位置に、複数のウィンドウを並べた。
昨日の突発アップデートによる情報のまとめ。
元々あったカードに変化が起きた現象の考察。
イベントの詳細と進行度に関する意見。
ずんずんと読み進め、ようやくぼんやりと全体が見えてきた。
今回のアップデートは、色々と例外的だった。
いつもなら事前に予告があり、基本的には新ダンジョンや新エリアの開放と、それに伴うカードの追加。そしてそれを記念したイベントが行われるのが常例だ。
ネクロはMMOでもあるが同時にカードゲームでもあるため、それは「拡張」と言われたりもする。世界の拡張と、拡張パックが追加されるカードゲーム的意味合いのダブルミーニングという訳だ。
さて、今回のアップデートが今までと違う所、その1。エリアやダンジョンの開放はない。
どうやら皆は俺とは違う視点であの突発イベントを見ていたらしい。
俺は「少年の中」。皆は透明な霊体のような状態で「少年の外」からという視点だ。
まあ、仔細は違えど、見ていたものは同じ。扉との対話、謎の神殿。俺も大抵のエリアやダンジョンを踏破してきたので分かるが、あの神殿に思い当たる映像的記憶は無かった。
そうなると、皆考えることは同じ。あの神殿が今回のアップデートで公開されるダンジョンで、その最奥にあの扉があるのだろうという予測だ。
しかし、それは裏切られた形になる。
平日の昼から動ける方々が世界中を駆け回ったらしいが、結局新しい場所が作られたという事は無かったそうだ。
つまり、あの神殿はまだ行けない。おそらくはイベント進行によって開放されるエリアだろうというのが今の所の主たる意見だ。
その2。それに付随して、新カードの追加がない。
新カードの獲得方法は決まっている。エネミーからの直接ドロップによる入手か、エネミーが落とす素材を一定数集めることによる合成入手だ。どちらにしろ、新しいエネミーが必要だ。
自然に新エネミーの投入が出来る新しいエリアというのは無かった。元々存在するエリアに新しいエネミーが配置される事もあるが、今回はそれも無かった。
だが、既存のカードには大きな変化があった。
俺と同じ、【光弾:小】に見つかった能力の項目が増えた状態で【悪戯妖精の灯火】へと名前を変えた事だ。
これは昨日の時点で皆で確認していたので知ってはいた。そして俺は今回のイベントで何を目指すべきかの想像もついていた。
【悪戯妖精の灯火】と同じく、現在既に存在するカードに隠された新たな能力の発見と、おそらくそれをフレンド対戦ではない実戦で使用すること。
まだほとんどのプレイヤーが、何故【光弾:小】が変化したのかを知らない。俺が隠しイベントをクリアしたという説もあるし、番組を見たプレイヤーは突発的な発見だったという説も推していた。
しかしこれを覆したのが、俺がたまたま付けたデッキ名だった。
「フライングエクスプレスfeat.ライトバレット」……わざわざ、【光弾】という名前にしているくらいだから、能力を知った上で使っているに違いない、という意見だ。
その意図せぬミスリードによって、イベントの目的そのものが思わぬ方向に動いている。
「鍵」を見つけたので【光弾:小】に新しい能力が増えたと思われたのだ。
事実は全く逆なのに、カードに追加で能力を増やすことが出来るイベントが始まったという勘違いが広まってしまっている。
そしてその勘違いに拍車をかけたのが、その3。イベントの詳細の欠落だ。
普段はイベントの大目標と、プレイヤーごとの小目標、そしてイベント期間がある。
例えば特定の種類のカードをダンジョンや試合で使用する、というのが小目標。
大目標は、特定のダンジョンやフィールドに現れるオブジェクトへのなんらかの干渉などだ。
前回のイベント「支配の目的、それは甘き誘惑」――通称「虫祭り」は俺も大目標クリアのイベント報酬を求めて結構参加した。
ゲームワールド中に無数に現れたミツバチ型エネミーの「巣」を潰して回るのが大目標だった。
2週間という期間内に様々な場所に出現、リポップする巣を破壊して回り、サーバー全体で一定数の破壊が出来れば貢献度に応じて報酬が入るというものだ。
プレイヤーごとの小目標は、虫のイラストが描かれたカードを使って目標量のダメージを与える事だった。この目標をクリアする為にその時期は【悪意ある贈り物】が流行ったりしていた。
今まではそういうオープンで明示されたものだった。しかし今回は期間が区切られていない。
突発的なイベント開始の告知はあったものの、イベント終了がいつなのかは誰にも分からなかった。
制限が無いというのは、逆にプレイヤーを焦らせた。
しかも大目標も小目標も分からず、その上報酬も明記されていないのに、突発的な開始によって「このイベントは特別だ」という印象だけは持たされたのだ。
プレイヤーは、1日近く経つ現在も絶賛混乱中だった。
運営が用意したイベントの特設ページに書かれているのは、「鍵を探せ」「現在1/8」というものだけ。
いくつもの考察や検証があったが、まだ「カードの隠された効果を探す」という答えにたどり着いてはいないようだった。
俺は番組によってネタバラシをされたと思っていたが、このイベントが開始された事で他のプレイヤーは目くらましをされているようだった。
なかなか気づきにくいよな。「鍵」が形の無いものから生み出されるなんて。
俺はそう考えながら、いつの間にか装飾品の項目に入っていた【重要アイテム:探求者の鍵】を手元に出した。
銀色に光を反射するそれを顔の高さまで持ち上げる。
俺が得た報酬は、誰よりもイベント進行に介入出来る可能性が高いこと。
BUPPA! のメンバーと一部の玻璃猫組メンバーだけしかまだこれを知らない。
利益の独占は考えていないが、せっかくなら自分達が発見したいと思ってしまうのがプレイヤーの性。
やりたい事が多すぎるのも考えものだ。
俺は学校から帰るなり、着替える間も惜しんでネクロにログインした。
焦る気持ちを抑えて丁寧に動作チェックをこなし、ようやく見慣れたマイルームに降り立った。
「さあさあ、どうなってるかね」
俺はソファーに座りながら見える位置に、複数のウィンドウを並べた。
昨日の突発アップデートによる情報のまとめ。
元々あったカードに変化が起きた現象の考察。
イベントの詳細と進行度に関する意見。
ずんずんと読み進め、ようやくぼんやりと全体が見えてきた。
今回のアップデートは、色々と例外的だった。
いつもなら事前に予告があり、基本的には新ダンジョンや新エリアの開放と、それに伴うカードの追加。そしてそれを記念したイベントが行われるのが常例だ。
ネクロはMMOでもあるが同時にカードゲームでもあるため、それは「拡張」と言われたりもする。世界の拡張と、拡張パックが追加されるカードゲーム的意味合いのダブルミーニングという訳だ。
さて、今回のアップデートが今までと違う所、その1。エリアやダンジョンの開放はない。
どうやら皆は俺とは違う視点であの突発イベントを見ていたらしい。
俺は「少年の中」。皆は透明な霊体のような状態で「少年の外」からという視点だ。
まあ、仔細は違えど、見ていたものは同じ。扉との対話、謎の神殿。俺も大抵のエリアやダンジョンを踏破してきたので分かるが、あの神殿に思い当たる映像的記憶は無かった。
そうなると、皆考えることは同じ。あの神殿が今回のアップデートで公開されるダンジョンで、その最奥にあの扉があるのだろうという予測だ。
しかし、それは裏切られた形になる。
平日の昼から動ける方々が世界中を駆け回ったらしいが、結局新しい場所が作られたという事は無かったそうだ。
つまり、あの神殿はまだ行けない。おそらくはイベント進行によって開放されるエリアだろうというのが今の所の主たる意見だ。
その2。それに付随して、新カードの追加がない。
新カードの獲得方法は決まっている。エネミーからの直接ドロップによる入手か、エネミーが落とす素材を一定数集めることによる合成入手だ。どちらにしろ、新しいエネミーが必要だ。
自然に新エネミーの投入が出来る新しいエリアというのは無かった。元々存在するエリアに新しいエネミーが配置される事もあるが、今回はそれも無かった。
だが、既存のカードには大きな変化があった。
俺と同じ、【光弾:小】に見つかった能力の項目が増えた状態で【悪戯妖精の灯火】へと名前を変えた事だ。
これは昨日の時点で皆で確認していたので知ってはいた。そして俺は今回のイベントで何を目指すべきかの想像もついていた。
【悪戯妖精の灯火】と同じく、現在既に存在するカードに隠された新たな能力の発見と、おそらくそれをフレンド対戦ではない実戦で使用すること。
まだほとんどのプレイヤーが、何故【光弾:小】が変化したのかを知らない。俺が隠しイベントをクリアしたという説もあるし、番組を見たプレイヤーは突発的な発見だったという説も推していた。
しかしこれを覆したのが、俺がたまたま付けたデッキ名だった。
「フライングエクスプレスfeat.ライトバレット」……わざわざ、【光弾】という名前にしているくらいだから、能力を知った上で使っているに違いない、という意見だ。
その意図せぬミスリードによって、イベントの目的そのものが思わぬ方向に動いている。
「鍵」を見つけたので【光弾:小】に新しい能力が増えたと思われたのだ。
事実は全く逆なのに、カードに追加で能力を増やすことが出来るイベントが始まったという勘違いが広まってしまっている。
そしてその勘違いに拍車をかけたのが、その3。イベントの詳細の欠落だ。
普段はイベントの大目標と、プレイヤーごとの小目標、そしてイベント期間がある。
例えば特定の種類のカードをダンジョンや試合で使用する、というのが小目標。
大目標は、特定のダンジョンやフィールドに現れるオブジェクトへのなんらかの干渉などだ。
前回のイベント「支配の目的、それは甘き誘惑」――通称「虫祭り」は俺も大目標クリアのイベント報酬を求めて結構参加した。
ゲームワールド中に無数に現れたミツバチ型エネミーの「巣」を潰して回るのが大目標だった。
2週間という期間内に様々な場所に出現、リポップする巣を破壊して回り、サーバー全体で一定数の破壊が出来れば貢献度に応じて報酬が入るというものだ。
プレイヤーごとの小目標は、虫のイラストが描かれたカードを使って目標量のダメージを与える事だった。この目標をクリアする為にその時期は【悪意ある贈り物】が流行ったりしていた。
今まではそういうオープンで明示されたものだった。しかし今回は期間が区切られていない。
突発的なイベント開始の告知はあったものの、イベント終了がいつなのかは誰にも分からなかった。
制限が無いというのは、逆にプレイヤーを焦らせた。
しかも大目標も小目標も分からず、その上報酬も明記されていないのに、突発的な開始によって「このイベントは特別だ」という印象だけは持たされたのだ。
プレイヤーは、1日近く経つ現在も絶賛混乱中だった。
運営が用意したイベントの特設ページに書かれているのは、「鍵を探せ」「現在1/8」というものだけ。
いくつもの考察や検証があったが、まだ「カードの隠された効果を探す」という答えにたどり着いてはいないようだった。
俺は番組によってネタバラシをされたと思っていたが、このイベントが開始された事で他のプレイヤーは目くらましをされているようだった。
なかなか気づきにくいよな。「鍵」が形の無いものから生み出されるなんて。
俺はそう考えながら、いつの間にか装飾品の項目に入っていた【重要アイテム:探求者の鍵】を手元に出した。
銀色に光を反射するそれを顔の高さまで持ち上げる。
俺が得た報酬は、誰よりもイベント進行に介入出来る可能性が高いこと。
BUPPA! のメンバーと一部の玻璃猫組メンバーだけしかまだこれを知らない。
利益の独占は考えていないが、せっかくなら自分達が発見したいと思ってしまうのがプレイヤーの性。
やりたい事が多すぎるのも考えものだ。
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