ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

文字の大きさ
上 下
64 / 92
問5 面の表裏を同時に照らせ

答5-6

しおりを挟む
 打ち上がったリーダーを見上げた視界の端から黒い影が飛び出し、空中で横からリーダーをかっさらっていった。
 目で追うと、その影の輪郭がはっきりと見えた。

 茶色い毛並みに、ふさふさのしっぽ。
 帰ってきた孤狼丸だった。

「あー! 犬ッコロ! なーにするんですか!」

 ぴょん吉が叫んだ。両手を振り上げて怒りをアピールしているが、体が小さめなので子供の駄々っ子に見えるというのは黙っておこう。

「ピンク頭こそリーダーになにしてるんだよ!」

 孤狼丸はリーダーを抱えたまま反論しつつ、しなやかに着地した。
 俺たちが彼らの元に駆け寄ると、お姫様だっこで抱えられていたリーダーが恥ずかしげに降ろされるところだった。

「ありがとう、孤狼丸くん。危うくピンキーちゃんの空中コンボがスタートするところだったよ」
「僕からキツく言って置きます」
「いや、それはいいんだ。私が欲をかいてしまったのを諌めてくれただけだから」

 リーダーが慌てたように弁明する。どこからかハンカチを持ち出して汗を拭いている仕草をしてるところなんて芸が細かい。汗かいてないだろ、ゲームなんだから。

「ですです。リーダー、珍しく暴走モードになりかけていたんで、私が叩いて直しただけです。褒められこそすれ、犬ッコロごときに怒られる謂れはないですよ」

 ぴょん吉は不満そうに孤狼丸をにらめつけた。それに答えるように孤狼丸もぴょん吉を見下すような視線を投げる。
 お互い、言い方も呼び方も棘がある。犬猿の仲か?

「だいたい、規約違反の犬ッコロがなんでまだココにいるんですか? 四天王の座も剥奪ですよね?」
「いや、それがですね、ピンキーちゃん――」
「リーダー。僕から言わせて下さい」

 孤狼丸はすたすたと歩き俺の横に立つと、くるりとぴょん吉の方に向き直した。

「僕は今日から四天王の座を捨て! こちらの! シトラス師匠に弟子入りをしたのです!」

 ばばん、と後ろでみずちがうるさくない程度の爆発を起こした。いらん演出すんな。

「えっ? シトラスさんに?」
「そのとおりっ! つまり! 僕は今日から玻璃猫様と師匠が率いる『BUPPA!』の正式メンバーとなったのだ! ひかえおろうっ!」

 偉そうにふふん、と笑った孤狼丸の頭を、俺は条件反射のようにひっぱたく。

「いてっ! いや痛くはないけど。……何するんですか師匠!?」
「おっと、ごめん。でも自分の力じゃない事で偉そうにするなよな。ダサいぞ」

 ハッ、と孤狼丸は自らの過ちに気づいたようだ。

「師匠、すいませんでした! 気をつけます!」

 しまった。まだ正式に弟子でも無いと言ったはずなのに、無駄に師匠風を吹かせてしまった。

「えー……。素直な犬ッコロって何か気持ち悪いですねぇ」
「なんとでも言え。これからは師匠や玻璃猫様と合同練習が出来るんだ。もうお前に負ける事もないだろうな」
「ふーん? 良かったですね。まあ、私達現役の四天王も一緒に戦えるそうですから、対等ですけどね」

 えっ、と今度は孤狼丸が驚く。俺は今決まったばっかりだけど、と補足した。

「なんでそんな約束しちゃうんですかぁ……」

 また泣きそうな顔になる。この短い時間で分かったが、孤狼丸はえらく打たれ弱い。

「対戦サンプルは多いに越したことはないからな。まぁ、孤狼丸……ちゃん? は俺達と一緒にデッキの調整もするから、一概に同じ立場では無いだろ」
「だそうだ! ざまあみろピンク頭!」

 すぐ元気になるなぁ。

「ふーんだ。私は火香ちゃんと調整するもんねー。ねー?」
「ねー!」

 二人で手をつないでキャッキャしてる。確かに、戦闘スタイル的には俺よりも直感的なみずちの方が近そうだ。
 ……意外と良いペアかも知れない。

「師匠、僕たちも負けずにキャッキャしましょう!」
「何張り合ってんだよ……」

 ぐだぐだとした時間がしばし流れる。
 リーダーと俺はもう少し話そうという事になり、三馬鹿は野に放って二人で静かな場所に移動した。








 俺が水辺を所望したため、フィールド内にある海辺の小高い岬に来た。
 ここには何も用意されていなかったのか、手近なコンソールを操作して小さなテーブルと座り心地の良い椅子を出してもらった。これでじっくり話せる。

「ここ、すごいですね。海の向こうに島も見える。どれだけ広いんですか?」

 さざなみが耳をやさしく撫で、リアルほどは潮臭くない海の香りがほんのりと風に乗って届く。

「さあ? 沢山のメンバーの手によって資金が集まり次第拡張し続けてますから、はっきりとは。広い、ということだけ分かってれば十分なので」
「意外といい加減ですね」
「良いんですよ、これくらいで」

 ピシっとした黒いスーツ姿のリーダーが、優雅に足を組んだ。
 これと言った特徴は無いが品の良い黒髪の青年と言った出で立ちで、さっきの激情を宿した瞳の面影は今は全くなかった。

「さて、ようやく二人きりになりましたね」
「あー……やっぱり何か俺に?」
「ええ。戦闘中にでも話そうかと思ってましたが、まあ落ち着いて話せる方が良いに決まってますから」

 俺の問いかけに対する返答のようで、何も答えていない内容で返された。
 でも、さっきのおっさんと違い、彼には俺の警報が鳴らない。
 リーダーは既に整っていた姿勢を更に整え、静かに俺を見据えた。

「さて、本題です、シトラス様。あなたは玻璃猫様の?」

 その問いかけは深い感情がこもっているようには聞こえない只の言葉だったが、ずしりと腹に響くようなプレッシャーがあった。
 もう一度目を見ると、真っ黒なそこからは何も伺えない。

 ウソだろ。そんな事今まで一度も無かった。

 黒いスーツ、黒髪、黒い瞳。深淵のようなその出で立ちがどんどんどす黒く染まっていく。
 まるで影だ。ずぶずぶと侵食されていく闇に、たしかにそこに居る彼の姿が見えなくなったように感じる。

 怖い。

 初めて俺は他人に、ただのゲーム内で出会っただけのアバターでしかない存在に恐怖した。

「――シトラス様?」

 俺はハッと現実に戻される。
 彼は、もう元の姿だった。少し心配そうに俺を見る瞳からは裏の無い感情が漏れ出ている。
 なんだったんだ、今のは。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

無職で何が悪い!

アタラクシア
ファンタジー
今いるこの世界の隣に『ネリオミア』という世界がある。魔法が一般的に使え、魔物と呼ばれる人間に仇をなす生物がそこら辺を歩いているような世界。これはそんな世界でのお話――。 消えた父親を追って世界を旅している少女「ヘキオン」は、いつものように魔物の素材を売ってお金を貯めていた。 ある日普通ならいないはずのウルフロードにヘキオンは襲われてしまう。そこに現れたのは木の棒を持った謎の男。熟練の冒険者でも倒すのに一苦労するほど強いウルフロードを一撃で倒したその男の名は「カエデ」という。 ひょんなことから一緒に冒険することになったヘキオンとカエデは、様々な所を冒険することになる。そしてヘキオンの父親への真相も徐々に明らかになってゆく――。 毎日8時半更新中!

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。  そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。  逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。  猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...