ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

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問5 面の表裏を同時に照らせ

答5-4

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「やーーっ!!」
「でぇっ!?」

 ツインテ少女は、駆け寄ってくるなりいきなり光る拳のエフェクトをまとわせながら殴りかかってきた。
 俺はとっさに半身を引いて、胴体に向かって来た彼女の右ストレートをいなす。
 そして左腰にピリッとした痛み。衝撃で横にぶっ飛ばされる。
 右ストレートは囮。本命の左足による回し蹴りが叩き込まれたのだと理解するころには、俺は太い木に当たって弾かれ、地に伏せていた。

「これは――」

 いてて、と起き上がった俺に、ツインテ少女は少し離れた場所からふわふわのスカートをはためかせながら仁王立ちで指を突きつけて来た。

「――私の分!」

 何の話だ。

「おー。りょーちんから開幕一撃目をクリーンに当てるなんて、やるねぇ」

 みずちが能天気にパチパチと拍手している。
 うーん、カチンと来たぞ?

 俺は無言で立ち上がると、スッとツインテ少女に向かって人差し指を向ける。
 お互いに指を向け合う謎の状況は一瞬。不審げな顔をするツインテ少女へ向けた手を少し引き、ひゅっと刺すように動かした。
 アクションに呼応して【刀身の苦無】が射出される。
 ぎょっとして目を見開く彼女に向かって【脚火】で加速。苦無をかろうじて避けた小さな体にお返しとばかりに蹴りを叩きこもうとするが、ギラついた目をしたみずちが横から俺に攻撃を仕掛ける予備動作が見えた。
 とっさに攻撃をキャンセルしてジャンプ。すぐ足元を火弾が通過した。

「邪魔すんなよみずっち!」

 【空画整理】で出した足場に手をかけ、ぐいと体を上げながら俺は抗議した。

「いきなり女子に手を上げるような子に育てた覚えはありませんことよ!」

 ザマスなボイスでみずちが言い放つ。ついでに容赦なく火を飛ばしてくるのはお約束だ。

「攻撃を仕掛けて来たのはそっちだろ!?」
「ぴょん吉はいいの!」

 何がだよ、と反論する前に、くだんのぴょん吉がおそらく【空中跳躍】を使って跳ねてきた。

「シトラスさん、覚悟ー!」

 両腕を真横に大きく広げた。まずい、そのアクションは――

 パン、とぴょん吉が左右の腕を勢いよく体の正面で重ねる。
 ショットカード【厳正なる審判】だ。左右からまばゆく輝く純白の壁が俺を押しつぶさんと肉薄し、ごいん、と音を立ててぎりぎりで止まった。
 壁と壁の隙間には、つっかえ棒のように挟まった俺のガジェット【スタンバトン】だ。

 ふぅ。持っててよかったSTBエスティービー

 みしり、とバトンが折れる予兆。
 慌てて隙間から飛び出した俺の視線の先に、下からぽーんと上がって来た2つの球体が目に入る。

「OH……」

 【ジャグリングボム】が赤く発光し、自らの体を炸裂させた。

 爆風と共に打ち上がる俺の体。仮想の空を見上げ、俺は今日という日を思い返していた。
 思えば、朝からスパムメールの山にわちゃわちゃ攻略。午後もなんやかんや誰かと争い続け、ようやく落ち着いたと思ったら変なおっさんに絡まれる。更には男アバターの女の子に粘着され、ミューミューには睨まれ、そして今は害が無さそうなツインテ少女にまで攻撃目標にされてしまった。

 なるほどねぇ、なるほどなるほど。

 俺もね、一応こう見えても頭脳派を自負してますから、我慢は出来ると思ってたんですよ。
 強い男に求められる3つの要素。余裕、迫力、機転。
 機転は利かせてきたし、余裕も出てきた。後は迫力をつけなきゃなぁってところだったけど。
 だめだ。今は余裕が無い。
 流石にこうドタバタが続くと、限界ってものがある。
 
 俺は空中で姿勢を整えると、2人を見下ろす。彼女たちは未だ臨戦体勢だ。

 よーし、いい度胸だ。やってやろうじゃん。
 俺はプッツンモードに頭を切り替える。
 たまにはいいよね。たまには。

 まだフィールドは対戦バトルモードに設定されていない。
 ライフゲージも無ければ、ドロータイムも無い。
 ただお互い殴り合いを楽しむだけの不毛な時間だ。

 

 誰も得しない無意味な争いは、その後1時間にも及んだ。







「で、誰なのこの娘」

 俺は木の幹にひっかかったスタックした足を抜こうともがく。

「この娘はねー、昨日友達になったぴょん吉。玻璃猫組だとは知らなかったけど」

 体のあちこちを焦がしたみずちが、地面に大の字で寝転んだまま答えた。

「よろしくです、シトラスさんー」

 気をつけの姿勢でうつぶせに倒れたぴょん吉がもごもごと挨拶をしている。
 何その状態。

「よろしくするタイミングおかしくない?」
「えへへへへ。若気の至りってことで」
 
 至り過ぎではなかろうか。まあ挨拶もせずに反撃した手前、他人の事は言えないが。

 くるん、と体を上に向けたぴょん吉は、手を使ってヒョイと起き上がった。
 俺もぽこんと足が引っこ抜けた勢いでそのまま地上に降り立つ。
 二人でよいしょとみずちを引き上げて、ようやく一息ついた。

 そこに遠巻きに俺たちの争いを眺めていたリーダーが近づいて来た。

「いやー、やっと終わりましたか。うちの『桃色の悪魔ピンキーデーモン』が失礼しました」
「いえいえ……なんて?」

 ピンキー……? もしかして、この娘の事か?

「ぴょん吉、気持ちは分かるが、彼らはお客様だ。そしてこれからは主と近しい存在として扱う方針になるだろう。謝りなさい」
「急に殴ってごめんなさい! シトラスさん、これからはよろしくです」

 二房のピンクのしっぽが頭を下げた拍子に揺れる。

「いや、なんだかんだ楽しかったよ。強いね、ぴょん吉さんも」
「そうですか? お二人の暴走にはとてもとても……」

 そうは言うが、なかなか彼女も面白い立ち回りをしていた。
 ぴょんぴょんと跳ね回る機動は、カードのバックアップがあるとは言え不規則で捉えづらく、俺の「フライングエクスプレス」の動きに近い。

「私もびっくりしちゃった。ぴょん吉も二つ名あるんだねぇ」
「そっちかよ」

 みずちが妙なところに興味を示した。俺も気になるけどさ。
 なんだよ「ピンキーデーモン」って。見た目に似合わず物騒な名前だ。

「私のは二つ名じゃなくて、どっちかというと役職名ですよ? 玻璃猫組四天王の一角『桃色の悪魔』です」
「……は? 役職名? それが?」

 かっこいー、とみずちはアホな返事をしている。お前さんも燃える鬼神ですから変わりませんよ。

「ですです。さっき説教部屋に連れて行かれてた『特攻隊長』も四天王ですよ。最弱と言われてますけど」

 すげぇな玻璃猫組。四天王と来ましたか。
 「孤狼丸を倒すとはなかなかシトラスもやりおる」「だが奴は四天王の中でも最弱」って言われんの? 最高かよ。

「じゃあ、彼女並には強いんだ。案外層が厚いね、玻璃猫組って」
「玻璃猫様にあこがれて、ストイックに研鑽するプレイヤーが沢山所属しているんです。割とガチグループですよ?」

 ふんす、とぴょん吉は胸を張った。

「まあかくいう私も四天王の中での強さは16番目くらいですけど」
「えっ?」「はっ?」

 意味が分からない。

「あぁ、すいません。うちのグループ、四天王は今37人くらいいるので」

 リーダーがニコニコしながら答えてくれた。

「……四天王の意味、知ってる?」

 元気よく「もちろん!」と答えたぴょん吉の続く言葉に俺は絶句した。

「天王の4倍強い!」
「そのとおり!」

 リーダーが拍手している。顔には「まだ信じてら」というあくどい表情が浮かんでいた。

 心のメモ帳:玻璃猫組は強くてアホな集団である。リーダーは腹黒。
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